次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第三十二話 幼児と話す時にはしゃがんで目線を合わす

 ───霊峰。

 大陸で最も栄えている千年帝国の北方に位置する山岳地帯。標高が数百メートルはありそうな山の中腹に全員で転移した。

 

「結構寒いな……」

「ふふっ。黒瀬君、もっとくっついて。ほら」

「ゆ、優子! ちょっと」

「霧丘君、私達も。ほら」

「や、やめろ。河野」

 

 黒瀬と優子、河野さんと霧丘君、彼ら若者が微笑ましい光景を見せてくれている。

 

『あなたの魔導、精確よねぇ』

 

 フウジィが感心したように俺の頭の中で呟く。

 そらそうよ。魔導が発現してから、俺は毎日育ての親のイズミにしごかれまくったんだぞ。

 

 辛く苦しい思い出しかない日々だが、一生忘れられないだろうさ。

 

『ヒロア、転移で大切なのは座標の固定。まずは行きたい場所の、そうね惑星(ほし)の上なら緯度と経度をできるだけ絞っていくのよ』

 

 転移魔導を使おうとする時、Google Earthっぽい三次元図形が現れる。どこか遠い場所にあるデータにアクセスする感じだ。イズミはこれを“神の視点”と呼んでた。

 地面の上を這う虫まではっきりと見えるようになり、その地点へ意識を固定することで転移が可能になる。

 

 これができるようになるまで二年はかかった。頭に図形が浮かぶまで一年、フォーカスできるようになるのに一年だ。精神を集中する訓練をひたすら続けて、次は何かしながら、さらには戦闘をやりつつできるように。

 

『人間って不便よね』

 

 ああそうだ。お前らに比べりゃ不自由は多いさ。

 

「ヒロア、考え事か?」

 

 セルアがくっついてきた。影響されたな。

 

「何でもないよ。まずあそこにとりあえず行くとしよう」

 

 俺が指差した方向には、コンクリートにしか見えない外壁の四角い建物がある。ここには遥か昔に滅びた大帝国の遺跡が残っていて、発掘される遺物は未知の技術が使われているものばかり。

 

「上の方には雪があるんだ……」

 

 霧丘君が頂上を見上げながら呟く。

 

「それよりすごい眺めじゃないか」

 

 黒瀬はずっと遠くまで見渡せることにご満悦だ。

 

 建物の中へ入る。最初の印象としては工場か倉庫。

 天井まで軽く十メートルはありそうだし、とにかく広い。

 窓がないので真っ暗だったが、入ってすぐのところに見覚えのあるタッチパネル。ミィタというドラゴンが拘束されていた施設と同じものだ。

 それに軽く触れると、天井、壁、床が薄らと光を放つ。凹凸が一切ない壁。

 

「へえぇ」

 

 霧丘君は驚いたようにキョロキョロしている。

 

「電気を使ってない発光システムですね」

「河野さん、そういうのわかるんだ」

「はい。私の身体と似たようなものなので。有機テクノロジーですね」

「なるほど?」

 

 根っからの文系人間である俺はそこで話を切る。黒瀬の方を見ると、彼も首を横に振った。

 

「俺も文系だからわからないよ」

「ぼ、僕も」

 

 霧丘君も続く。

 

「これは何なのかしら」

 

 優子が触れているのはそこかしこに置かれた立方体の箱。触ってみると金属製ではなく、不思議な弾力がある。形からすると冷蔵庫みたいだが、扉もないしさっぱりわからない。

 

「ヒロア、ニホン語で会話されると疎外感を感じるぞ」

 

 背後からセルアが静かに抱きついてくる。……河野さん達と合流してから、どこか遠慮が消えた気がする。

 

「少しは我慢しろ。河野さんと霧丘君はこっちの言葉わからないから」

「……わかった」

 

 うっ。目を伏せるセルアが捨てられた子犬に見えた。俺もそろそろ限界が近いかもな。

 

「そろそろ日暮れだから寝床作りと夕飯の準備でもしよう」

 

「ヒロアさん、後でこの箱を調べてもいいですか?」

「いいよ。河野さんにしかできないだろうし」

 

 全員、背嚢を下ろし、中から毛布などを取り出してまずは寝床の準備をする。夜はかなり冷えそうだ。

 

「ここって声が反響しないね」

「さすが霧丘君、鋭いですね」

「いや、こんなの普通だろ」

 

 そうだ。室内空間で声を出したら、声は反響する。まるで防音の部屋にいるかのように会話できている違和感に霧丘君は真っ先に気づいた。

 

「色々とハイテクだな、古代帝国」

「そうですよ」

 

 不意に後ろから聞きなれない声がしたので振り向くと、そこには見知らぬ女が立っていた。二十代前半ぐらいに見えるが、髪から眉毛から肌、瞳まで白い女だ。

 

「そこに同胞の気配を纏う帝国の人間がいますが、理由を聞きましょうか」

 

 白い女はすっとセルアを指さして冷たく言い放った。間違いなくドラゴンだな、彼女。

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