不思議な生き物であるドラゴンも神経組織が全身にある。他の生き物と同じように神経が集中している部位イコール弱点だ。ドラゴンの場合、鼻先と後ろ脚の付け根付近。
狙ったのは脚の付け根付近。
魔導にデバフかけられているせいで、威力が今ひとつだが、俺の放ったナイフは確実に狙った位置へ突き刺さる。
金属が捻れるような悲鳴をあげ、体勢を崩すドラゴン、その巨体に黒瀬が光る剣を振り下ろす。するとどうだ。ドラゴンの全身からドス黒い煙が噴き出した。
「ブハッ! ゴホッ」
思わず吸い込んでしまった俺は咽せてしまい、すぐに口を拭う。その手に付着したのは黒い粉。じっと見つめる……砂鉄?
これにそっくりなものを見たばかりなんだけどな。
あれだ。
帝国の軍港を襲った海蜘蛛。そいつは死んだ後に、ちょうどこんな粉の山に変わった。同じものか。
『同じものよぉ。鉄粉ね』
死ぬと鉄に変わるのか。どんな理屈かさっぱり不明だ……っと。俺は優子のもとへ駆け寄る。
「優子、無事か?」
「ちょっとした打ち身ね。大丈夫よ」
優子は平然としていた。ドラゴンの尻尾で吹っ飛ばされたのに? タフだな。
俺はドラゴンの下腹部に突き立ったナイフを引っこ抜く。ピクリともしない。
「ヒロア、危険はないのか?」
セルアが心配そうな顔をして俺の隣に来る。
「気絶しているみたいだ。意識が戻っても大丈夫な気がする」
ドラゴンの身体には傷ひとつないし、出血もしていない。黒瀬の光る剣が斬ったのは、ドラゴンの身体じゃなく、取り憑いていたナニカ、あの海蜘蛛の同類じゃないか?
手についた黒い粉を眺めつつ、黒瀬に問う。
「黒瀬、お前の光る剣ってさ、物理的に切断するものじゃないんだろう?」
「そうだ。神気が込められてるから、俺の妹、彼女と相容れないモノ由来のものを滅するんだ」
神の力ってわけか。
「ドラゴンは何かに取り憑かれて正気を失ってたってわけか。だから俺たちのことを知らなかった、と」
「あのっ! ここに小さなドラゴンさんがいます!」
河野さんの声に振り向く。
この建物の中に点在する謎の立方体、そのうちのひとつが二つに分かれ、中から小さなドラゴンが出てきている。
近寄ってみると、目は開いているがひどく弱っているようで動かない。助けを求めるような瞳で俺たちを見上げている。
「黒瀬、頼めるか?」
「わかった」
黒瀬はすぐに虚空から光る剣を取り出し、小さなドラゴンにそっと当てる。さっきと同じように黒い煙が噴き出した。ドラゴンは無傷。
表情はわかりにくいが、どこか安堵したような雰囲気になった。
「あの大陸に巣食うやつら、帝国だけじゃなく、霊峰にまで手を伸ばしているのか……」
これ、人間同士で争ってる場合じゃないよな?