「お父さん、お帰り」
「ん? ただいま。どうした?」
日曜日。恒例となっている早朝ディキャンプから帰宅すると、娘二人がそろって俺を出迎えていた。こんなのは初めてだ。
「はい、これ」
「お?」
長女の
「なんだこれ?」
「父の日!」
そう言い放つと、
「お姉ちゃんと一緒に選んで買ったんだよ。開けてみて」
「お、おう」
父の日にプレゼントなんて初めてのことだ。俺は丁寧に包装紙を剥がしていく。
「おおっ、ネクタイか」
「センスいいでしょ?」
「お前、自分で言うか」
朱に近い赤を基調とした幾何学模様のネクタイ。俺の好みにぴったりだ。
「もうすぐ私の誕生日。期待してもいいよね〜?」
「おう、任せとけ。……それにしても
「お姉ちゃん、照れてるんだよ」
「そうか……ありがとうな。大切にするよ」
「ひひひ、お父さんの照れ顔ゲット〜」
「大学生になってアルバイト始めたでしょ? 働くことがどういうものか、少しわかってきたから、だって」
妻の美紗子がそう言いながらリビングに入ってくる。それを聞いて、娘たちがもう子どもではないことを実感し、俺はなんだか嬉しくなった。
「ああ、そういうことか」
「父のありがたみがわかる年頃になったってわけか」
「そうだよ〜。お父さん、ありがとうね」
「軽いな、おい」
───あったな、こんなこと。
「初めまして、山﨑悠人です」
「おおー、君が噂の“悠人くん”か」
「院で量子物理学やってるんだよね?」
「あ、はい」
「じゃあ、量子通信と量子テレポーテーション装置を、俺が生きてるうちに実用化してくれ!」
「え?」
「頼む、この目で見たいんだ」
「詳しいですね……」
「そりゃー、SF読んでりゃ付きものだからな」
「お父さん、悠人くんにオタクな話題を振るのやめて」
「な、なんだとぅ」
「そうですよ、あなた。さっ、上がって」
「こんにちは〜。妹の
───ははっ。今となっては懐かしいな。次々と思い出が映画のように再現されていく。その流れに身を委ねながら、俺はぼんやりとしていた。
セルアと出会う少し前。
十五歳になった日に、育ての親・イズミに「君の記憶を戻してあげる」と告げられ、自分がかつて日本でサラリーマンをしていたこと、そしてすでに死んでいることを思い出した。
自分自身や家族の記憶はおぼろげで、「女は強いから、まあなんとかやっていくだろう」と、安直に考えていた。記憶に実感がなかったからだ。
だが、こうして思い出してしまった以上、そうもいかない。
妻の美紗子は気が強そうに見えて、実は根っこが泣き虫だ。いつかは俺との死別を乗り越えるだろうが、夫を亡くした人を何人か知っている。その多くが、一年くらいは深い悲しみに暮れていた。
娘たちもそうだ。特に長女の
それにセルア。娘たちのことを思い出した今、彼女に対する背徳感がより一層強まる。
考えてもみろ。セルアは女子高生くらいの年齢だ。日本だったら完全に事案だぞ、事案! お巡りさんにしょっぴかれるって!
───この思い出劇場、いったいいつまで続くんだろうか。