次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第四十話 記憶の夢

「お父さん、お帰り」

「ん? ただいま。どうした?」

 

 日曜日。恒例となっている早朝ディキャンプから帰宅すると、娘二人がそろって俺を出迎えていた。こんなのは初めてだ。

 

「はい、これ」

「お?」

 

 長女の千香砂(ちかさ)が、やや乱暴に手渡してきたのは、プレゼントらしき包み。

 

「なんだこれ?」

「父の日!」

 

 そう言い放つと、千香砂(ちかさ)は足早に自室へと去っていった。次女の文路(ふみじ)はニヤニヤしている。

 

「お姉ちゃんと一緒に選んで買ったんだよ。開けてみて」

「お、おう」

 

 父の日にプレゼントなんて初めてのことだ。俺は丁寧に包装紙を剥がしていく。

 

「おおっ、ネクタイか」

「センスいいでしょ?」

「お前、自分で言うか」

 

 朱に近い赤を基調とした幾何学模様のネクタイ。俺の好みにぴったりだ。

 

「もうすぐ私の誕生日。期待してもいいよね〜?」

 

 文路(ふみじ)が俺の顔を覗き込むように笑う。

 

「おう、任せとけ。……それにしても千香砂(ちかさ)、無愛想すぎないか?」

「お姉ちゃん、照れてるんだよ」

「そうか……ありがとうな。大切にするよ」

「ひひひ、お父さんの照れ顔ゲット〜」

 

「大学生になってアルバイト始めたでしょ? 働くことがどういうものか、少しわかってきたから、だって」

 

 妻の美紗子がそう言いながらリビングに入ってくる。それを聞いて、娘たちがもう子どもではないことを実感し、俺はなんだか嬉しくなった。

 

「ああ、そういうことか」

 

 千香砂(ちかさ)は家庭教師、文路(ふみじ)はスーパーでバイトをしている。

 

「父のありがたみがわかる年頃になったってわけか」

「そうだよ〜。お父さん、ありがとうね」

「軽いな、おい」

 

 ───あったな、こんなこと。

 

「初めまして、山﨑悠人です」

「おおー、君が噂の“悠人くん”か」

 

 千香砂(ちかさ)が彼氏を家に連れてきた、あの日。

 

「院で量子物理学やってるんだよね?」

「あ、はい」

「じゃあ、量子通信と量子テレポーテーション装置を、俺が生きてるうちに実用化してくれ!」

「え?」

「頼む、この目で見たいんだ」

「詳しいですね……」

「そりゃー、SF読んでりゃ付きものだからな」

「お父さん、悠人くんにオタクな話題を振るのやめて」

「な、なんだとぅ」

「そうですよ、あなた。さっ、上がって」

「こんにちは〜。妹の文路(ふみじ)でーす」

 

 ───ははっ。今となっては懐かしいな。次々と思い出が映画のように再現されていく。その流れに身を委ねながら、俺はぼんやりとしていた。

 

 セルアと出会う少し前。

 十五歳になった日に、育ての親・イズミに「君の記憶を戻してあげる」と告げられ、自分がかつて日本でサラリーマンをしていたこと、そしてすでに死んでいることを思い出した。

 

 自分自身や家族の記憶はおぼろげで、「女は強いから、まあなんとかやっていくだろう」と、安直に考えていた。記憶に実感がなかったからだ。

 

 だが、こうして思い出してしまった以上、そうもいかない。

 妻の美紗子は気が強そうに見えて、実は根っこが泣き虫だ。いつかは俺との死別を乗り越えるだろうが、夫を亡くした人を何人か知っている。その多くが、一年くらいは深い悲しみに暮れていた。

 

 娘たちもそうだ。特に長女の千香砂(ちかさ)は、俺によく懐いていた。それを思うだけでも胸が締めつけられる。

 

 それにセルア。娘たちのことを思い出した今、彼女に対する背徳感がより一層強まる。

 考えてもみろ。セルアは女子高生くらいの年齢だ。日本だったら完全に事案だぞ、事案! お巡りさんにしょっぴかれるって!

 

 ───この思い出劇場、いったいいつまで続くんだろうか。

 

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