───!
目が覚めた。
顔を上げて周りを見渡す。
誰もいない、倒れ伏しているセルア以外は。ミィタはどこだろうか?
「セルア! うぐっ」
起きあがろうとして、手足が痺れてまともに動かせない上に、ひどい痛みがあることに気がつく。
やられた。
あの青い服の男は転移魔導で現れ、俺に電撃魔導を放ったわけだ。
複数の魔導を使う、つまり国が抱えるレベルの魔導士だ。
そして青い服……ヒガキを始末した東の王国、そこの特殊部隊に違いない。あの国の人間は神と交わした約定とやらで、どんな時も青い服を身につけると聞く。
ヒガキを始末すること、それとのバーターで帝国側が出した条件なんだろうよ。
痛みを堪え、何とか立ち上がりセルアのもとへ。
「セルア。おい」
脈はあるし呼吸はしている。気絶しているだけか。
電撃魔導を受けた後遺症の筋肉痛、それを我慢しながらセルアを抱き起こそうとして、彼女の首筋に異物があるのに気がついた。何だろう?
透き通った――まるでガラス片みたいな――モノが、かさぶたのように張り付いている。
「……ん」
「セルア、気がついたか!」
「ヒロアか……」
焦点の定まらない瞳が俺の方へ向けられる。
「痛みとかないか?」
「多少はある」
「何をされたか覚えてる?」
「……全身に激痛が走ったのが最後の記憶だ」
セルアも電撃魔導を使われたか。
「ヒロア、お前こそ酷い顔だが」
「顔?」
「顔色も良くないが……、疲れ果てた官吏のような顔つきになっているぞ」
自分ではわからないが、年齢不相応に鋭い洞察力を持つセルアの言うことだ、その通りなんだろう。
疲れ果てた官吏のような顔か……。そうだな。生前の自分や家族のことを思い出した直後だ、おっさんの顔にもなるだろうよ。
苦笑いしつつ、俺はセルアの首に触れる。
「ここ、違和感はないか?」
「うん?」
セルアも指でそのモノを触る。
「これは?」
「透明なカケラが張り付いている」
「透明……ふっ、そうか。知っている。魔導を封じる器具だ」
貴族の邸宅や公共機関の建物には魔導を打ち消す為の魔導器具が設置されている。どの国も公開していないし、国によって違いはある。
「帝国はここまで小型化しているのか……」
「皇帝に謁見する際には、これを身体に密着させるのだ」
彼女はドラゴンへと変化する魔導を封じられたことになる。俺も自分の首筋に手を当ててみるが、何もない。
「てっきり殺されたと思ったよ」
「私の命は取らず、魔導だけを封じる処置。おそらく何らかの事情が変わったと考えてよい」
「……単純に考えて、もう一度セルアを帝国の戦力とするってこと?」
「それはわからない。連れ去らなかった理由が今ひとつ不明だ」
セルアの魔導を封じる処置だけをしてここへ放置する───意図はなんだろうか。
「動けるか?」
「……あ、ああ。くっ」
セルアも俺と同様、手足の麻痺と痛みがひどいようだ。魔導の訓練で受けたことあるが、電撃を受けると後が辛いことになる、今の俺達のように。
「ミィタの姿がないことも気になるが……」
「何者かは知らぬが、ドラゴンを相手取るのは得策でなかろう」
「そうだね。そいつを追いかけて行ったのかな?」
「ヒロア、見ろ」
セルアの目線を追うと、遠くに歩いてくる集団が見えた。十人ぐらいか? 俺達を見つけると、駆け寄ってきた。
いかにも探検隊、研究者とその護衛といった男達だ。
「電撃魔導を受けたお二方とお見受けします!」
先頭を走る屈強な体格の男が声をかけてくる。
そして俺を見るといきなり膝をついて礼をした。
「カテレル・コストロの依代、ヒロア様!」
俺をそう呼ぶということは……。
こいつら、あれか。全体で一つの意思を持つ集合型生物、つまりエイリアン。
「ああ、そうだよ」
「ミィタと仰るドラゴンから、あなた方の治療をするよう命じられました。カテレル・コストロから干渉を禁じられましたが、治療はそれに該当しないでしょう」
そう言えばこいつら、ドラゴンも崇めてたな。そうでなくても、この霊峰に立ち入る人間でドラゴンの命令を断る奴はいない。
やがて追いついてきた男達も膝をついて頭を下げ、
「あ、うん」
俺の中にフウジィはいないんだが、それは感知できないのか? 今はこっちから言わない方が良さそうだ。
「電撃を受けたと聞いております」
「そうだ。二人とも、な」
「では失礼して」
さらに若い男が俺達の脈をとったりしていく。
「意識は正常」
「外傷はありませんな」
あ、そうだった。こいつら全員で喋るんだった。
「そうみたいだな。痺れと痛みがひどいんだ」
「ならばこれをお飲みください」
「神経組織と筋肉の回復剤です」
別の男が取り出した水筒、その中身を口にする。苦い。
「しばらくは安静になさってください」
「あなた方の世話を致します」
「あの建物へ」
俺とセルアは抱きかかえられ、男達に遺跡の中へ運ばれることになった。