霊峰の麓にある都市カリドヤ。そこの領主であるカリドヤ侯爵の屋敷へ俺は連行されていく。
「地下牢へ」
神経質そうな顔をした特務部隊の男が顎をしゃくって部下に命じる。
乱暴に引っ張られカビ臭い地下へと降りていき、鉄格子の中へ後ろ手に縛られたまま乱暴に放り込まれた。
何があったかって? 順を追って話そう。
霊峰で青い服の男に襲われた直後の俺とセルアを助けてくれた調査隊エックスが、明日には下山してくるとのことで、その準備をしていた矢先のことだった。
カリドヤ侯爵からの使いが来たのは。彼は帝国特務部隊の来訪を告げにきたのだ。
そして手渡された官報を読んで、俺とセルアは大いに驚いた。そこに書かれていた記事は──。
『沿岸都市マルハスに未知の巨大な怪生物が襲来! 帝国最新鋭艦を破壊しようとするも、帝国海軍が果敢に迎撃。そこへ居合わせた第二十三皇女セルア・ハリトー・ダラドが魔導で撃退。帝国の安寧は守られた』
まさに「な、なんだってー!!」と叫びたくなるような内容だった。
「セルア、これって……」
「ふむ」
事実は全く違う。河野さんて子が巨大化してあの海蜘蛛を押さえ、黒瀬と俺が始末したのだ。セルアは丘の上にいただけだった。
そもそも帝国はあそこにセルアがいるのを掴んでいたのか?
「ふふん。私を何かの作戦、おそらくはあの大陸への尖兵として送り込むための筋書きだろう」
あれから三ヶ月以上経つ。
帝国は徹底的に現場を調査したのだろう。そして河野さんが巨大化した姿を、セルアが変化したドラゴンだということにしたのだ。
あの場にいた人間全員の口裏を合わせ、それが済んでからのこの発表というわけか。
「情報操作はお手のものか」
マルハスは都市というより軍事基地だ。住んでいる人間の大半は軍人だから、緘口令を敷くのは簡単だろう。
「ヒロアとの生活もここまでか」
セルアがひどく寂しそうな顔になる。
「……そうなるな」
俺は帝国の人間じゃない。
「ヒロアのことは私が口をきく。悪いようにはしない」
不意にセルアが抱きついてきた。小さく肩が震えている。その細い肩を、俺は優しく包み込んだ。
「お前に救われてからは、ゆ、夢のような日々だった」
「……」
黙ってセルアの頭を撫でる。
これからセルアは、以前そうであったように軍属の皇女となるのだ。
まいったな。気の利いたことなんて思い浮かばないぞ。ああ、そうさ。俺はそんな男だよ。
すぐに特務部隊が転移魔導で現れ、カリドヤ侯爵の屋敷へと連行された俺たち。
すぐにセルアとは引き離され、俺は地下牢へ。
翌朝、神経質そうな特務部隊の男に尋問されることになった。
どうせ裏取りはしているだろうから、下手に誤魔化さず正直に全て話す。
「名はヒロアで間違いないか」
「そうだ」
「東の王国の民だな」
「まぁそうだな」
神経質男は俺の目を射抜くように見つめながらゆっくりと口を開く。
「お前は殲滅の魔女の身内だな」
「ああ、そうだよ。彼女に育てられた」
俺のこと、全て調べ上げてると見える。
「……殲滅の魔女は母親ではないそうだな」
「育ての親さ。俺の親は決して辿り着けないところに住んでる」
神経質男の眉が上がる。
「どういうことだ」
「意味が通じるかわからないが、こことは違う世界だってこと」
「違う世界?」
「嘘は言っていません」
この部屋には神経質男と俺だけだと思っていたが、覆面をした女が降って湧いたように現れ、男に告げた。
なんだこいつ。