「嘘は言っていません」
覆面女の言葉に頷いた神経質男は、俺を睨みつけながら告げた。
「嘘はお勧めしない。この女は嘘を見抜くからな」
へいへい。
覆面からのぞく目が俺をじっと見据えている。テレパスみたいな魔導か。
俺も睨み返す。睫毛が長いね。覆面の下は美形かなとアホなこと考えてしまった。
俺は神経質男の質問に淡々と答えていく。知られて困ることは特にないから、選択的に真実だけ言う必要もないし、そもそも俺はそんなに頭良くないから咄嗟にそんな芸当はできない。
「飛行原理は違うと思うが、ディーザで見かけた戦闘機と同じようなのもたくさん飛んでた世界だ」
「数はどれぐらいだ?」
「さぁな。俺はマニアじゃないから知らんが、全世界の国を合わせたら数千機はあるだろうよ」
「……そんなにか!」
神経質男、大層驚いたようだ。
「しかもお前らみたいに古代の遺物に手を加えたわけじゃなくて、自力で発明して発展させたものだぞ」
「文明は進んでいたのだな」
「そうだな。ま、俺はそれを享受するだけの民間人なわけだが」
「マルハスで一緒だった男女四名はどこへ消えた。傭兵二名と若い男女のことだ」
なんてこった。てっきり襲ってこないから監視から逃れていたと思っていたが、単に手を出してこなかっただけか。
俺は皇帝の“目”を甘く考えていたぜ。
「この辺の話はあんたら帝国も知っておいた方がいいだろうから教えておくよ」
俺は隣の大陸――帝国は西大陸と呼んでいる――にいる化け物が、次元を超えて俺が生きていた
彼らは奴らの手によってここへ転移させられたこと、ドラゴンの力を借りて送り返したことを語ってみせた。
「魔導がない文明だと聞いたが?」
神経質男の目つきが鋭くなる。
「ないさ。俺だって彼らに会うまでは知らなかったさ。俺らが暮らす世間の裏側には、彼らのような力を持つ存在がいたってことだ」
神経質男はちらと覆面女に視線を向ける。女が頷くのを確認し、俺へと向き直る。
「あんたら帝国もアレに手を焼いてるってとこじゃないか」
「お前が知る必要はない」
「そうかよ。一応な、マルハスで倒した海蜘蛛がその次元を越えて送り込む奴だったらしいんだが」
「……」
「西大陸には同格のやつがまだまだいると思う。アレをなんとかしないと、そのうちこの
「どういうことだ?」
「奴ら、人間を捕食するし自分達の同族に作り変えることもするからな。そうやって
「帝国の目的はこの大陸の覇権を握るってとこだろうけど、アレは大陸どころか、この
「詳しく話せ」
「あー何か筆記できる道具を貸してくれ」
差し出された質の良くない紙に俺は宇宙の構造を簡単に描いた。
「俺はこの
俺は同心円の丸のひとつから隣の丸へ線を引く。
「あの戦闘機とは比べ物にならない速度で行ったとしても数ヶ月はかかる距離だろうさ。一番近くの
神経質男は黙り込む。
「光がどれぐらい速いかはわかるだろう?
その光の速さで飛んだとしても果てまで辿り着くには無限に近い時間がかかるスケールなんだよ、世界ってのは」
神経質男と覆面女、少しばかり動揺しているのが伝わってくる。無理はない。想像すらしたことないスケールの話をいきなり言われたわけだ。
しかも嘘じゃないって保証付きで。
「すごく余計なこと言うが……イズミなんかに構ってないで、アレを最優先に何とかしないとまずいのは分かるだろう?」
「ふん」
「俺にとっても他人事じゃないからな。アレに喰われるのなんてごめんだ」
「今日はここまでだ」
神経質男は立ち上がり覆面女と退室した。入れ替わりに入ってきた兵士によって俺は地下牢へと戻される。
俺は粗末な寝台へ横になりぼんやりと考える。俺の処遇はどうなるんだろう。
あっさりと処刑か?
うーん、何となくだがそれはやらない気がする。そんなことになったらイズミが帝国を滅ぼしに来るだろうし。
俺を人質にイズミに交渉でもするだろうか?
いやいやそんな安っぽいことを帝国がするとは考えにくい。
まぁいいか。どうせ一度は死んだ身の上。どうなろうとなるようになれ、だ。
───セルアにはもう会えないだろうな。