次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第四十九話 神殺しの魔女

 崖から落ち、身体が張り裂けそうな痛みを感じたところで目が覚めた。どうやら夢で崖から落ちたのは、寝台から落ちたせいらしい。

 

「痛ててて」

 

 そういや俺って高校を卒業するぐらいまで寝相が悪かったよなと思い出しつつ起き上がる。

 

 遠くで響く地響き。

 俺がいる堅牢な地下牢にさえ振動が伝わる。

 な、なんだ?

 上でデカい重機でも動いているのか?

 

 すると突然、地下牢の屋根が“消失”した。音もなく前触れもなく消えたんだ。

 

 暗い地下牢に差し込む陽光に俺は目を薄める。地下牢の天井が消え失せた地上階から、笑顔で覗き込んでいるのは……イズミだ。何故か紫のビキニを着ている。痴女かよ。

 

「ヒロアキ君」

「イズミ?」

「無事で良かった」

 

 同時に俺の身体が宙に浮くと、イズミの腕に抱かれる。お姫様抱っこされる俺。

 

「来るとは思わなかった」

「首飾りからの通信が途絶えたのでね、心配になっちゃった」

「あーあれかぁ」

 

 俺に取り憑いていた邪神フゥジィが去り際、俺の魔導を使えなくしていったんだった。だからあの首飾りも動力を失ったってわけか。

 

「随分と過保護なこって」

「そりゃあ心配するわよ」

 

 そう言いながら頬にキスされた。

 

「やめろ! もう子どもじゃないぞ」

「ふふ。小さい頃はねだっていたくせに」

「いいから降ろしてくれ。自分で立てるから」

「魔導が使えないでしょ?」

「そうだけど」

「じゃ、私から離れないでね」

 

 周りを見渡すと侯爵邸の壁には、綺麗に切断された大きな穴。イズミが少し乱暴に入ってきた跡だ。

 

「あ〜あ。せっかく帝国の矛先がイズミに向かないように話を振ったのに。これじゃまた恨みを買うぞ」

「何のこと? 何をしたって帝国は私に指一本触れられないわよ」

 

 酷薄な笑みを浮かべるイズミ。ビキニを着てきた理由もわかった。

『無防備な格好をしていても、お前らは敵ですらない』とアピールしているんだろう。

 小学校のクラスメイトだったイズミの面影はもうない。

 

「……セルアは無事なのか?」

「セルアちゃんはさっきあの宿屋、君たちの愛の巣だったっけ? そこに転移させておいたわよ。早く会いたい?」

「恋バナに飢えた女子大生みたいな顔するな」

「あら? 良い感じになってたのに?」

 

 屋敷の外へ歩いて出ると、数十人の兵士が倒れていた。

 

「殺したのか」

「気絶しているだけよ」

「へぇ」

「赤子の手をひねる演出。いつでも殺せるよってこと」

 

 見ると神経質男と覆面女が俺達から距離を取ってこっちを見ている。

 

「なんかすまんな」

 

 こんなの反則だよなと思うと詫びたくなってきた。善人面するわけじゃないけど、こいつらだって仕事で来ているんだ。

 

「……」

 

 神経質男は無言で俺を睨んでいる。

 

「上に伝えて欲しいんだけど、身内びいき抜きにしてもこの惑星(ほし)でイズミをどうにかできる者はいないと思う」

 

 あいつがさ、地球で暴れたとして核攻撃ですら涼しい顔で防ぐ気がする。

 

「それと西大陸のアレをどうにかするなら、イズミに協力を取り付けてもいい。馴れ合いじゃなくて、この惑星(ほし)の安全の為だ」

「何のこと?」

 

 イズミが聞いてくるが、手で『引っ込んでろ』と制す。

 

「皇帝がどう判断するかわからんが」

「一つだけ教えておく」

 

 神経質男が口を開き、覆面女はハッとしたような仕草をする。

 

「マルハスだけではない。複数の沿岸都市が襲撃された」

 

 その言葉に、俺は思わず息をのんだ。

 

「えっ?!」

 

 驚いた。奴ら、本格的にこの大陸へと仕掛けてきてるのか。

 

「事態に猶予がないのは承知の上だ」

「それ俺に言っていいのか?」

「構わん。お前が言ったこと、上申しておく。この命にかけてもな」

「イズミは災害みたいなもんだ。あんたらの責任は問われないよ」

「そう願いたいものだな」

「俺もさ、この帝国でちょっとした縁を結んでしまった人達がいるんだよ」

 

 村長夫妻、セルアの爺さん。ガロウ、ベレタ、ルサ。それにエックスもだな。

 

「他人事じゃないというのは本当さ。覆面の姉さんに確かめてもらってもいい」

 

 彼は確認すらしない。

 

「そこは疑っていない。で、お前はどこへ行く?」

「宿屋にいるよ。逃げも隠れもしない」

 

 神経質男の目を見て堂々と伝える。向こうも頷いた。

 

「セルア様は……」

「暗殺から制御に方針を変えたのは、セルアも戦力にしたいからだろう?」

「その通りだ。議会が陛下を説得した」

 

 ほほー。そうだったんだ。

 

「皇帝が石頭じゃないことを祈ってるさ」

 

 一瞬で陰険男と覆面女の姿が消えた。どちらかが転移魔導を使うんだな。

 

 投げやりモードになっていた俺だったが、やることができた途端に前向きな気持ちになる。中身は中年だが、肉体はミドルティーン。我ながらチョロいとは思うけど。

 

「さ、ヒロアキ君の転移で戻ろう?」

「あ、俺さ魔導使えないんだ」

「どうして?」

 

 いきなりイズミにハグされる。実際の年齢は知らないが、見た目や肉体は二十代前半の成人女性のそれだ。今の俺には刺激が強すぎる。

 

「な、何を」

 

 イズミは俺を抱きしめたまま目を瞑る。すぐに胸の奥で魔導ゲートの発露を感じた。

 

「さっきからあいつの仕掛けた術式を解析していたけど、もう無効よ」

 

 やっぱすげぇなイズミ。

 

「もしかしてフゥジィと対等にやれたりする?」

「もちろんよ。私、もっと若い頃は“神殺しの魔女”と呼ばれていたのよ」

「神殺し……」

 

 清酒の銘柄を連想したが、あっちは鬼殺しか。

 

「イズミ、規格外にも程があるだろう」

「そうね。でもね、地球にはたくさんの核兵器があったでしょう?」

「あ、ああ」

「それと同じなの」

「?」

 

 待て。さっぱりわからないぞ。

 

「わからなくてもいいかな。セルアちゃんを待たせてもいけないから、感動のご対面といきましょう」

「その言い方やめろ」

 

 宿屋へ一気に跳んだ。そして着いた途端、俺は強烈な目眩に襲われ、その場に昏倒してしまった。……そう低血糖だ。

 

 侯爵邸から宿屋まで約三十キロ。

 俺はしばらくフゥジィによって代償無しの魔導を使い続け、その後三ヶ月ほど魔導を使えなかった。

 だから忘れていた。

 俺の魔導の代償が体内の糖質だと言うことを。

 慣れとは怖いものだ。

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