次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第五十一話 やれることやるだけ

「ヒロア様、ご無事ですか」

「おう」

 

 早速、エックスがやってきた。屈強な男とすらりとした女の二人組で、洗濯屋を営んでいる。

 イズミは彼らをじっと見つめている。ああ、イズミにとっては初対面か。

 

「帝国はなんと言ってましたか?」

「え、あー、うーん。特に何も。まあ、そのうち何か言ってくるだろうけど」

「あなたたち、面白いですね」

「ヒロア様、こちらは?」

「紹介しよう。俺の育ての親のイズミだ」

「……“殲滅の魔女”様ですね」

「それで、あなたたちは何者なの?」

 

 イズミが剣呑な態度でエックスに詰め寄る。

 

「イズミ、落ち着けって。こいつはエックス。俺が名前をつけたけど、三千年ほど前にこの星にやってきた異星人だ」

「ふうん」

「ちょっとした関わりがあってな。霊峰で襲われた俺とセルアを助けてくれたんだぞ」

「そうなの」

 

 警戒しつつ、イズミは俺の方を向く。

 

「エックスは味方だ。お前が心配するような奴じゃない」

「ふうん」

「セルア、皆にお茶を頼む」

「わかりました」

「帝国の皇女にやらせるなんて、ヒロアキ君も大物になったのねぇ」

「言うなよ。それなりにこの宿を二人で回してたんだ」

 

 俺はイズミとエックスに座るよう促した。セルアが全員にカップを配る。南部の輸入品だ。

 それから俺はエックスにこれまでのことを説明する。

 

「あの敵性生物たちが……」

「やっぱり知ってたか?」

「帝国軍にいる私の一部が西大陸へ派遣された時、遭遇しました」

「やられたのか?」

「それはもうひどく。私が遭遇したのは高温の炎を吐き出すタイプの飛行型で、急降下してきたそれに部隊ごと消し炭にされました」

「それは災難だったな。どんなやつだった?」

「大型の鳥でした。ほとんど音を立てずに接近してきたのです」

 

 いきなりやってきて焼き尽くす鳥型の化け物。怖い。

 

「ん? 今さらだけどさ、エックスって魔導を使えるのか?」

「いいえ。魔導士の遺体を複製しても、私自身は魔導を使えません」

 

 エックスは死体をコピーする。そして男女に子どもを産ませて増えていく。自分自身とセックスする感覚はちょっと想像できない。

 

「そうか。お前にとっても厄介な相手か」

「私の中には武芸に秀でた者たちもいますので、それらは充分対抗できると思います」

「そうなるか」

 

 イズミが話に入ってくる。

 

「ヒロアキ君、それで君はどうしたいの?」

「それは決めている。帝国に協力する形で西大陸の奴らを殲滅する」

「へえー。ヒーロー志向だったの?」

 

 心底面白がっている風にイズミが笑う。

 

「茶化すなよ。放っておいたら、やつらに飲み込まれるぞ、ここも」

「そうですね。話を聞く限り、恒星系ごと吸収していくような存在でしょうから」

 

 エックスもやる気のようだ。

 

「不便だから名前つけるか。うーん……安直だけど『カオス』とか?」

「どんな意味なのですか?」

 

 セルアにはわからないだろうから説明する。

 

「向こうの言葉で『混沌』って意味」

「映画や漫画からの命名じゃないんだな」

「そりゃ、該当しそうな化け物や怪獣に心当たりはあるけど、いつもいつもそうじゃないぞ」

 

 イズミも聞いてきた。

 

「ねえ、この子の『エックス』は何由来なの?」

「イズミは知らないだろうな。カルト的人気を誇るB級ホラー映画のタイトルからだ。そいつは南極の氷から発掘されてな。目覚めた途端に南極基地にいた隊員や犬を次々と殺しては姿形や記憶をコピーする。やがて疑心暗鬼になった隊員たちはそいつの正体を暴くためにある方法を試すんだが、その時の緊張感がすごくてな。方法はと言うと、むぐっ」

 

 イズミの手に口を塞がれる。

 

「ストップ! ヒロアキ君はその手の話になると早口になって長いんだから」

「くふっ」

 

 それを見たセルアが噴き出す。俺は強引にイズミの手をどかした。

 

「ふう。あのな、こっちで記憶が戻ってから映画とかそういう娯楽に飢えてるんだから、せめて語らせてくれよ」

 

 俺は映画や漫画、小説が大好物だ。が、この星にはその手の娯楽がほとんどない。まったくないわけではないが、せいぜい英雄物語を題材にした芝居くらい。現代日本のオタク的な娯楽は皆無だ。

 

「ヒロアキ君は絵が上手いんだから、漫画でも描けばいいじゃないの」

「そうだな。あの姉妹のために描いた紙芝居は、大した腕前だった」

「ザラザラの紙にクレヨンじゃなあ……。せめて筆っぽいものが欲しいよ」

 

 するとエックスが口を開く。

 

「ちなみにヒロア様は今も魔導を使えない状態ですか?」

「いや、イズミに治してもらって復活したよ」

「そうでしたか」

「ただ、代償も戻ってきたから、派手なのは使えないけどな。……ん?」

 

 感知魔導を発動させると同時に、宿屋へ近づく複数の気配を感じた。

 

「敵意はなさそうよ」

 

 俺の感知魔導よりも多くの情報を読み取れるイズミが、窓の外へ目をやる。

 

「……あいつかな」

 

 俺の予想通り、神経質男が部下を引き連れてやってきた。

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