次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

54 / 74
第五十二話 我、敵と遭遇せり

 どこまでも広がる青黒い大海原。潮の香り。雲一つない青空。

 

「ヒロア様、こちらでしたか」

 

 甲板でまったりしていた俺に女が声をかけてきた。セルアの侍女である。俺より頭ひとつ背が高い。

 

「おぅ」

「セルア様が来てほしいと」

「わかった」

 

 女の後について船室へと向かいながら、侍女が着ている服の大きな襟を眺める。

 どう見てもセーラー服だよなぁ。色は黒。帝国の服飾史なんて知らないが、これも収斂進化ってやつか?

 しかし本来水兵であるこの軍艦(ふね)の乗組員はシンプルな軍服を着ている。

 そんなこと考えつつ歩いていたら、セルアの船室まで来た。

 

「どうぞ」

 

 侍女が扉を開けてくれ、船室に入ると同時にベッドの上で青い顔をして横になっているセルアが目に入った。

 

「調子はどうだ。少しはマシになったか?」

「……ま、まぁまぁだ」

 

 セルアは船酔いでここに篭りきりである。

 

「酔い止めの薬とかないの?」

「服用されましたが、効果が今ひとつのようです」

 

 侍女に問うといつものように全く感情の見えない声色で返された。この侍女、表情から仕草に至るまで感情を見せることはない。

 

「ヒロア、そばにいてくれ」

「わかったよ」

 

 俺はベッドに腰かける。セルアの背中をさする。手当てに効果があるのを期待して。

 

 俺とセルアはなぜ帝国の軍艦にいるのかって? まず話は一ヶ月ほど前に遡る。

 

 イズミによる俺の救出劇(?)の後、セルア、俺、そして帰ろうとしないイズミの三人で過ごしていたところ、領主であるカリドヤ侯爵が帝国の使者と一緒に宿へやってきた。

 使者の一団には転移を使う魔道士がいて、俺たち三人はそのまま帝都へ。軍の統合本部というところへ招かれた。そこで軍のお偉方から以下のことをまわりくどい言い回しで伝えられる。

 要約すると、

 

『帝国はセルアの敵前逃亡、並びに特務部隊殺害の件を不問とする』

『帝国海軍陸戦隊へ転籍とする』

(セルアは陸軍所属だったらしい)

『特別な外部協力者として外国人の傭兵を一名同伴することを許可する』

(外国人の傭兵、これは俺のことだ)

『任務は一つ。西大陸に生息する異形生物の駆除』

 

 ということだ。

 

 イズミの討伐に失敗し、あまつさえ俺と逃避行に身を投じたセルアの処分を下さない。

 かなり危険な西大陸へ派兵することで償えってことかな。俺の同行を認めるのは、おそらくイズミへの忖度だろう。

 

 俺は別に拷問受けてたとか酷い目にあってたわけでもないのに、イズミが出張ってきた。彼女とやり合うのはデメリットしかないと判断したか。賢明だと思うぜ。

 

 それを聞いたイズミはまず俺に耳打ちする。

 

「これで公認カップルだね」

「そのニヤケ顔をやめろ」

 

 イズミを遠ざけると、すぐに姿を消し、十分ほどしたら戻ってきた。

 

「どこに行ってたんだよ」

「皇帝にね、ヒロアキ君に何かしたら首を貰うよって」

「脅したのか……」

「軽くね。君に何かあったらただじゃ済まさないつもり」

「物騒だな。心配せんでもそんなことしないだろ」

「さぁね?」

 

 それを聞いて俺は一気に不安になってきた。

 

「なに大丈夫だ。帝国もそこまで浅慮ではない。カリドヤでのことも正確に伝わっているだろう」

「それもそうか」

 

 確かに帝国の情報収集力はすごいからな。マルハスの軍港で俺や黒瀬があの海蜘蛛を始末したのも調べ上げてたわけだし。

 

 家に帰るイズミに別れを告げ、俺とセルアはマルハスに移動した。そこに駐留している帝国海軍陸戦隊と一緒にほぼ毎日、戦闘訓練をこなした。

 

 少し苦労したのはハンドシグナルを覚えること。マルハスで襲撃してきた海蜘蛛は不協和音のような鳴き声で周辺の人間を無力化した。強力な音波兵器というわけだ。

 それへの対策として全員に耳栓が配られ、会話はハンドシグナルで行うことが徹底された。

 帝国軍のハンドシグナル、映画の中で米軍が使っているものとそっくりだ。文明や世界が違えども身振り手振りというのは似てくるんだろう。

 

 そしてセルアと俺には“アサルトライフル“が支給される、俺が勝手に命名しただけだが。

 形が似ているだけで作動原理や機構は全く別物で、銃身からほぼ無音で発射された弾丸は対象に命中したら破裂する。エグいね。

 慣れるために射撃練習をしていたらセルアと俺が所属する小隊の面々がやってきた。

 

「ほぅ。なかなか手慣れているな。使うのは初めてだろうに」

 

 小隊長が感心したように話しかけてきた。

 

「あー向こうにも似た形の武器があって、それのオモチャならよく撃ってたんだ」

 

 仮の軍属である俺はフランクに話すことが許されている。

 

「ほぅ。異世界にも同じものが?」

 

 小隊長の目がカブトムシを見つけた男の子みたいに輝く。俺の素性については話してある。隠しておくと色々と面倒だし、戦場で命を預け合うメンバーに隠し事をしたくないから。

 

「あったよ。多種多様にね。あっちも戦争ばっかやってたから」

「ははっ。どこも同じというわけか」

 

 いい歳したおっさんの俺は映画の影響でエアガンが欲しくなり、ミリタリーオタクの友人に相談してエアガンを何丁も買い集めた。それをニマニマしながら見つめる俺を妻と娘たちは生温かい目で見ていたものだ。

 

 俺は三発連続でざっと百メートル先の標的に命中させる。

 

「腕前もなかなかじゃないか」

「いや俺の腕じゃないよ。これ何かのアシスト機能がついてるだろ?」

 

 小隊長は笑っているが答えない。目が怖いわ。

 しかもこの弾、風や重力の影響を受けずに真っ直ぐ飛ぶというかなりのハイテク。

 エアガンはさんざん撃ったけど所詮はオモチャ。せいぜい四十メートルぐらいしか飛ばない。そんな素人の俺が当てられるほど射撃は甘いもんじゃない。

 

「帝国の魔導技術の結晶だ」

「いや帝国すげぇわ」

 

 ⁠魔導がある以上、剣や槍といった武器はとっくに廃れている。魔道士をまず殺すのがセオリーだ。

 しかし魔道士といったってそれとわかる特別な格好はしていない。そう、他の兵士と同じ。

 だから帝国は魔道士をピンポイントに狙うのではなく、面で制圧、つまり敵を片っ端から殺す戦術を採用したに違いない。このアサルトライフルはそれを体現したものだ。

 

 またセルアには侍女が一人付けられ、彼女は戦闘も余裕でこなす魔導士でもあった。彼女が訓練用の標的を発火させたり、燃えさかる油を瞬時に鎮火させたのを見た限り、分子の運動を操るんだろう。いやはやなかなかの凄腕だ。

 

 ただこの娘、無口で無愛想。可愛らしい顔をしているのに笑顔ひとつ見せないし、話しかけても俺には塩対応だ。もしかして人造人間、或いはアンドロイドの類いなのかと疑うほど。

 

 訓練課程が終了し、西大陸へと向かう日が来た。俺が“イージス艦に似てる”と評した軍艦に乗り込む。ほぼ凹凸のない艦橋があるだけのデザイン。機関室や武装は見せてもらえないが、俺の立場を思えば当然の対応だ。

 五隻の軍艦はマルハスを出港し西大陸へと向かう。

 

 個室を与えられ、隣がセルアの船室。最初こそ俺にベタベタしようとしていたが、港を出て二日目、船酔いでヘロヘロとなるセルア。彼女を労りつつ比較的のんびり過ごしている───それが今ってわけ。

 

 俺たちの乗る軍艦より先に偵察船と呼ばれる小型艦艇がいるらしい。何かあると信号弾で知らせるそうだ。

 

 慌ただしい足音とともにセルアの船室の扉が開かれた。兵士が叫ぶ。

 

「“敵発見”の信号弾だ!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。