次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第五十六話 久しぶりのコント

 

 真ん中に少女、両脇に少年。中学生ぐらいの年齢に見える。嫌な予感しかしない。

 どう見てもあの三人が親玉ポジションだろうよ。

 見ると兵士達は次々と樹上から降ってくる白い奴ら――白猿と命名――と乱戦中だ。

 

「セルア、あいつらをやる。そこから援護頼む」

「わかった」 

 

 セルアと同時に俺も小銃を構え、ニヤついてる三人に狙いをつける。あいつら無防備にに突っ立っているんだ。何か仕掛けがあるはず。

 それを確かめるためにも俺は小銃を連射する。

 するとあっけなく命中し、炸裂弾によって彼らの頭は爆散した。三人とも下顎から上がなくなったが、白猿と同じで血が流れない。

 体液がない、生物の(ことわり)から外れているようだ。

 

「ゲァァ!」

 

 一頭の白猿が俺めがけて落ちてきたが、俺の頭に触れる直前に吹き飛んだ。

 セルアの援護射撃だ。 

 

「ナイス!」

 

 セルアにサムズアップしたが、キョトンとしてた。すまん、こっちじゃわからないジェスチャーだったな。

 

 そんなことしている間に、彼らの体には変化が起きていた。鎖骨の下あたり、そこの皮膚が奇妙にねじれたかと思うと目玉が生えてきた。CGみたいに。

 そしてじっと俺の方を見る。

 

「こっち見るな」  

 

 俺はさらに連射で彼らの上半身、下半身を吹き飛ばした。肉片となって散らばる。肉片と言っても中身まで白く、血が流れないので生き物って感じはしない。

 

「何がしたかったんだ……」 

 

 考えるのは後にして兵士達の助太刀に向かう。 俺とセルア、そして侍女の三人は最後の一頭になるまで仕留めた。足元に転がる奴らの死骸。白猿とは名付けたものの、見た目は人間の子ども。ただ髪も眉毛も瞳も唇も全て真っ白。

 失礼ながらドラゴンの分身体を連想させる。ミィタ、ごめんな。

 

 その死骸を集めて土に埋め、一部は検分するので、俺も興味があるから加わった。

 検分役の兵士がナイフで手際良く解体していく。

 

 白猿の体組織は異様だった。骨らしきものはあるが筋肉の代わりにヘチマみたいな繊維状のものが絡みついている。血管は見当たらない。

 

「今夜はここで野営する」

 

 分隊長の号令で兵達は一斉に天幕を設営したり、食事の準備を始める。 

 俺も受け取ったセルア専用の天幕を侍女と一緒に張った後、自分用の小型のを設営する。

 

「ヒロア……」

 

 セルアは俺の隣に来ると頭を肩に預けてきた。  

 

「人目があるとこじゃまずいって」

 

 顔を上げると侍女が食事の準備をしつつ、無機質な視線を俺に向けている。怖い。

 

「これぐらいいいだろう」

「あの侍女に殺されるわ」

「それはない」  

「そりゃあいつはセルアの命令は聞くんだろうけど……待てよ。『お姫様とバカ従者ごっこ』を命じたらあいつはやるかな?」

 

『ささ、殿下〜、こちらへ〜』

 

 無表情のまま、みなみ太郎の口調で喋る侍女を想像したら噴き出しそうになった。 

 

「やるだろう。ヒロア、あの茶番はそんなに面白いか?」

 

 立ちはだかる文化の壁。セルアには日本のお笑いが通じない。

 

「……これだからお笑いを理解しない皇族は。みなみ太郎のコント動画は色んな動画サイトにアップされて世界中でウケてるってのに」

「……思い出したぞ。クロセやユウコも笑っていたな」

「そうだよ。セルアには笑いのセンスが足りてないのさ」

「なくても支障はないと思うが」

「皇族としての教養だって」

「そのようなのは聞いたことないが」

「よし決めた。セルアを笑い転げさせてやる」

「おや! 仲睦まじいことで」

 

 兵士の一人が声をかけてきた。名はヨジロ。帝国軍の兵士としては珍しく陽気で社交的。

 帝国軍は無口な奴がほとんどで、セルアが皇女ってのもあるんだろうけど話しかけてくるのは指揮官クラスとこいつぐらいなものだ。

 

「セルア様、失礼します」

 

 ヨジロはセルアに礼をとり俺の隣に座りこむ。

 

「ヒロア、随分と派手にやったな」

「遊撃だから当然だよ。敵も手応えがなかったけどな」

「さすが歴戦の傭兵ってとこか」

「それは違うよ、ヨジロ。この小銃のおかげだよ」

 

 これは本音。そう言うとヨジロは誇らしげに小銃を掲げる。

 

「最新式だからな。俺たち陸戦隊に最優先で支給されたわけよ」

「……この先もこれが通用する敵ばかりだと良いが」

「なぁに。その時はお前の魔導とセルア様の出番だ。頼りにしてるぜ」

 ヨジロはそう言うと笑いながら俺の背中を叩く。

 

「“殲滅な魔女”の息子だもんな」

「あ、ああ。でもイズミみたいな広範囲攻撃とか使えないぞ」

「それでもだよ」

「気軽に言ってくれるぜ」

 

 この西大陸には地球へ化け物を送り込んでいる奴がいる。それができる海蜘蛛クラスのヤツは複数いると考えた方が自然だ。

 完全に記憶が戻ってきた俺としては妻や娘達が住む世界を守りたいんだ。

 

「見ろよあれ」

 

 ヨジロの指さす方を見るとバボが一頭、森の奥へと進んでいた。その背中には五名の兵士。軍用バボのサイズは小型のマイクロバスほどもある。威力偵察ってとこか。

 

「帝国は何度かここに兵を送ったって聞いたけど……」

「よく知ってるな、あ、セルア様から?」

「うん」

「あまり言いふらすなよ、ヒロア」

「言わねぇよ。こんなネタ誰に話すってんだ」

「ははっ。それもそうか……生還者は皆無。かろうじて引き上げた船舶に残されていた戦闘記録が唯一の手がかりだったそうだ」

「……」

「ここまでの敗北は歴史上にもない。だからあらゆる方策を取ったわけよ」

「そうか。俺にとってもこの作戦は他人事じゃないから気張ってみるさ」

「お? 嫌々だと思ってたぞ、俺」

「ヨジロ……俺をそんな風に見てたのかよ」

「だってちょっと前までは帝国に命を狙われてたわけだし」

 

 そう言うヨジロは一瞬だけセルアに視線を飛ばす。

 

「状況変わったんだから気にしてないさ。特務部隊を返り討ちにしたのもお咎めなしになったんだし」

「お前すごいよな。噂にしか聞いてないが、俺は太刀打ちできる気がしない」

「暗殺と戦争はまた別だろう? 俺はその手のことに特化した魔導が使えるってだけさ」

 

 イズミに傭兵団に預けられ、次第に世の中が見えてきた頃。自分の魔導は暗殺向きだと自覚したものだ。実際暗殺の仕事を請け負ったこともある。

 

「俺たちの足りないとこ、よろしく頼むぜ。ははっ」

 

 そう言ってヨジロは立ち上がり、天幕の方へと戻って行った。

 

「あれも監視役だな」

「え?」

「なんだヒロア、気づいてなかったのか」

「はぁぁぁ〜。さすがは殿下〜。マジ有能でございます〜」

 

 おどけて頭を下げる。

 

「何だその口調は」

「笑わないな……。それはそれとしてヨジロのことそう思ったことはないよ」

「ヒロアはもう少し人を疑え」

「セルアってマジやり手ババアだなー」

「やり手ババァ?」

 

 いきなり腹をつねられた。

 

「その言葉は知らないが、私のことをバカにしたのだけはわかるぞ」

「殿下〜お許しを〜痛うございまする〜」

 

 ふと気がつくと、侍女をはじめ何人かの兵士が呆れたような顔で俺たちを見ているのに気がついた。あぁうん。気にしないでくれ。見ないでくれよ!

 

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