次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第五話 ちょっとした悪戯

「俺たち、水戸黄門みたいだよなぁ」

 

 地平線まで続く街道、見渡す限りの畑、遠くに聳える山々、雲ひとつない青空、それを見渡して言ったんだけど、

 

「え? どこがだ?」

「くすくす」

「?」

 

 黒瀬、優子、セルアの反応はこれだ。特に黒瀬、その『頭大丈夫?』みたいな顔やめろ。

 

「だってさ、セルアがご隠居様だろう? 俺と黒瀬が助さん格さん、優子はお色気要員てわけだ」

 

「……そのセンス、平成じゃ流行ってるのか?」

「くすくすくすくす」

「ヒロア、“ミトコウモン”とは何だ」

 

 うむ。滑った。優子、笑いすぎだぞ。

 セルアに水戸黄門の説明をするとすんなり理解が得られた。皇族や貴族がお忍びで領土内を視察するのは日常茶飯事だそうだ。テレビやネットが無いから、顔も知られてないだろうし、やりやすいってわけか。

──セルアの顔を知る人間と遭遇しないように気をつけねば。

 

 伯爵邸を出発した今日。

 結局俺たちはダラド伯爵邸で一週間も滞在する羽目になった。伯爵がセルアを強く引き留めたのだ。

 

「すまぬ」

 

「セルアが謝ることじゃないよ。お祖父(じい)さんの気持ちもわかるし」

 

 滅多に会えない二人だからと俺たちも強くは出られず、風呂のある生活を堪能することにしたんだ。しばらくは風呂なし野営生活になる。宿を使うにしても、皇族や貴族が決して使わない安宿、つまり風呂がないところをチョイスするしかない。

 

「次の休憩が済んだら跳ぶよ」

「頼む、ヒロア」

 

 日本列島が二つすっぽり入る広さの帝国。徒歩で行くとなると年単位の旅になる。俺たちは転移魔導を使ってショートカットしまくる予定だ。代償があるからほいほいとは使えないが。

 転移といえば優子の能力も頼りになる。侯爵邸で滞在中、俺達は互いに出来ることを確認しあった。

 

「裕子の転移って距離や回数、運べる人数の制限はある?」

「知らない場所には行けないこと以外は特にないかな。けど……」

 

 制限無しか。それはそれで凄い。

 

「けど?」

「こっちに来てからね、満足な食事が出来てないから力が落ちてるわ」

「食事……」

 

 吸血鬼である優子。俺がイメージしていたのとは全然違う存在だった。血を吸われた人間は吸血鬼にならないし、そもそもかなりの少食らしい。

 

「そう。前は黒瀬君にもらってたんだけど、今はこの状態だから」

 

 黒瀬は一度命を落とした後に復活してあやふやな存在になった。だから黒瀬から吸血はしていないそうだ。

 

「こっちの人の血は、何かが違うのね、本調子ではないの」

「そうか……」

 

 地球人とこの惑星(ほし)の人間、外見は同じでも全てが同じとは限らない、か。

 

「何回も使う前提だとしたら……自分ひとりで短距離、そうね五百メートルぐらいまでなら問題ないわ」

 

 いや、それだけでも充分過ぎるだろう。頼りにさせてもらう。

 

「さて。血糖値を上げておくか」

 

 俺は背嚢から羊羹モドキを取り出す

 

「いただきますっと。お、美味い」

 

 侯爵邸の料理長によるものだ。さすがは侯爵家の料理長。俺が望むハイカロリー保存食の概念をすぐに理解して、これをこしらえてくれた。感謝しかない。

 

「ヒロア、魔導って魔法みたいに便利だと最初は思ってたけど、かなり使いどころを選ぶんだな」

「それな。『ご利用は計画的に』だ」

 

 魔導は自分の体の一部を代償とする。人によって様々だ。俺の場合、代償は体内の糖質。派手に使うとグリコーゲンもごそっと持っていかれて、気を失う。だから事前に血糖値を上げておくのさ。

 

 俺はルウカに代償を調べてもらったからマシな方で、何が代償かわからず使ってる魔導士も多い。簡単には調べられないからだ。なので場合によっては突然死もありうる。

 

 実際、高威力の魔導を使って死んだ魔導士を解剖したら肝臓がなくなってた……なんて話も聞く。肝細胞は再生能力が高いから、おそらく調子に乗ってたんだと思う。

 

「あそこ大きな岩が見えるだろう? あれに隠れて転移する。目標はあそこに見える山の頂上」

 

 俺が指差したのは、遠くに見える山脈の一番高い山。適当な目測で直線距離数十キロてとこか。周囲の索敵は優子に任せる。

 

「誰もいないわね」

「助かるよ、優子。じゃ俺と手を繋いでくれ」

 

 目の前の景色が一瞬で切り替わる。山の頂上に近い深い森の中だ。周りを見渡す。当然だが道はない。

 

「ちょい歩きにくいけど、下るだけだから楽だぞ」

「そうだな」

 

 黒瀬が何もない空間から木刀を取り出し、手のひらでなぞっていくと、薄らと光りを帯びた。

 

「おおっ! ビームサーベル!」

 

「そっちじゃなくて、レーザーブレード。デアソードと名付けた」

 

 歩くのに邪魔な木の枝へ黒瀬は軽く振っていく。すると音もなく切断され、枝は次々と落ちていく。切れ味がすごい。

 

「黒瀬……それすごいけど、木刀に名前を付けるのはさすがにイタいかな」

「イタい?」

「中二病だって……そうか、昭和じゃまだ無い言葉だな」

 

 見た目が同年代だからつい錯覚するが、黒瀬達が生きていた昭和後半に俺が生まれた。

 厨二病の解説ついでに、ビームサーベルを使うロボアニメは平成になっても現役コンテンツだと教える。

 

「監督は続編作らないって言ってたけど、何十年も続くのか……」

「ちなみに宇宙戦艦も銀の巨人もお面つけたライダーもな。外国でも人気あったりするぞ」

「想像も出来ないな……」

「映像を個人で鑑賞したり、簡単に保存できる時代になったからさ。黒瀬がいた昭和後半だと……家庭用ビデオデッキはもうあっただろう?」

「ビデオデッキが家にあるからって、友人の家に見に行ったことがあるよ」

「そのビデオデッキが映画ソフトやエロビデオの充実によって爆発的に普及したんだ。その後パソコンやらDVDとか記録媒体が個人の持ち物になっていく。その後はスマートフォン。子供が生まれて、親が子ども時代に観ていたものを見せるなんて当たり前になるわけよ」

 

 俺はセルアの方を振り向く。

 

「帝国にも似たような映像記録器具ってあるんじゃないか?」

「あったとしても軍の独占だろう。私も全てを知っているわけではないが」

「だろうなぁ」

「軍は常に古代遺跡の発掘調査をして、ヒロアの世界にあったような技術を手に入れようとしているのだ」

「あーだから、何としても霊峰に出入りしたいわけか」

「そうだ。ドラゴンが守護する遺跡だ。途方もないものだろうというのは容易に想像がつく」

「今の皇帝は何して嫌われたんだろうね」

「それは秘匿されている。本人しか知らぬはずだ」

「皇女殿下、殿下はまだしも私達もドラゴンに嫌われたりしませんか?」

 

 後ろを歩く優子がセルアに問う。

 

「心配はいらない。そもそもドラゴンは非常に友好的な性質だ」

「安心しました」

「しかもセルアはドラゴンになれるし。むしろ歓迎されるんじゃないか」

 

「母とお祖父(じい)様はそう言ってた。確定ではないがな」

 

 セルアのドラゴンモードを思い出す。ふさふさの白い毛に覆われ、頭からは紅くて長い角が後ろ向きに生えてて、俺はなんて美しい生き物だろうって思ったんだ。

 

 皇帝の血をひく皇族が魔導を使う代償、それは気力だけ。セルアもドラゴンになった後、半日はグデーってなってたけど、その後あっさり復活してたもんなぁ。

 

「皇女殿下は皇帝のことを、その、どう思ってらっしゃるので?」

 

 黒瀬は相変わらずセルアに対して礼儀正しい。

 

「クローセ、そこまで畏まらなくてもよい。ま、ろくに顔も合わせぬし、父親だからどうということはない」

 

 当然か。娘の体内に自爆装置つけるようなやつをどうして親と思えるものか。むしろ言い方を抑えてるぞ、セルアは。さすがだな。

 

「この先に人の気配がたくさん」

 

 優子がそう言うと、先頭を歩く黒瀬が前方へ走っていく。

 

「集落がある。どうする?」

 

 戻ってきた黒瀬の問いに俺は即答する。

 

「そりゃ迂回だろう。旅人なんてここじゃ無理がある」

 

 生活に余裕がないと旅なんてできない。

 すると俺の肩に手が置かれた。セルアだ。イタズラを企むガキみたいな顔だぞ、皇女さま。

 

「そうでもないぞ、ヒロア。“ミトコウモン”をやろう。国境視察の木端皇族を演じてみようかの」

 

 おいおい。悪代官なんてそうそういるもんじゃないって。

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