「口や鼻から白い液体を吐いているやつは拘束するか無力化しろおっ!」
叫びながら俺は混乱している陣地内を走っていく。
もうそこかしこで兵士が揉み合っているが、仲間が襲ってきているからだろう、地面に組み伏せたり、羽交いじめにしたりするがやっとだ。
兵士たちの信頼関係は強い。寝食を共にし、命のやり取りをする戦場で命を預け合う。少々気に入らない相手でもだ。
俺は傭兵団にいたからそれを知っている。
だからおかしくなった仲間に対してどうしても躊躇してしまう。分隊長に命令を飛ばしてもらうのが最善だろう。
兵士達が右往左往している中に見慣れた顔を見つけた。ヨジロだ。
「ヨジロ! 無事か?」
「ヒロアか! 俺の隊は無事だが……」
「伝達は聞いたか?」
「ああ」
どうにも歯切れが悪い。
「なら手を貸せ! おかしくなったやつは拘束するか無力化だ」
走りながら襲っている兵士の足を引っかけて転ばせて頭を蹴り飛ばす。
「容赦ないな」
ヨジロは蒼ざめた顔で咎めるのように言うが、俺は構わず進む。ゾンビ映画あるあるだ。
「のんびりしていたら奴らのお仲間が増えるだけだぞ!」
「どこへ行く?」
「あの分隊長専用の天幕だ」
他のものより大きな天幕が見えてきた。奴らが殺到して取り囲んでいるのを見て、ヨジロは足がすくんだように立ち止まった。
俺は干し芋を取り出してかじる。
「手当たり次第やるぞ。ヨジロは他を手伝ってくれ」
「あ、ああ」
俺は勢いつけて助走し、ロックバンドのヴォーカルが観客の中へダイブするみたいに人垣へ飛び込んだ。
手足に奴らが触れたら、すぐに陣地の外へ転移。そしてすぐに戻り、三、四人ほど道連れに転移して外へと転がす。それを三回ほど繰り返した後、分隊長の天幕へ入っていく。
「分隊長! 聞いてくれ!」
「ヒロアか! 何だ」
見ると分隊長付きの兵士達が異常な兵士数人を拘束していた。流石に腕が立つ。
「今騒ぎを起こしているコイツらは」
これは俺にしかできない。拘束されている兵士の首を勢いつけてナイフで斬り落とす。
「なっ、何をするっ!」
驚く分隊長と兵士達。普通なら鮮血が噴き出すのだが、代わりに白い液が飛び散る。そして頭を失っても暴れ続けている兵士を見て目をむく。
地面に流れ落ちた液体は不自然な動きを見せ、意志を持つかのように俺たちの足めがけて這ってきた。
素早く動ける粘菌かアメーバか?
俺は分隊長の机の上にあったランタンを掴むとオイルタンクの葢を外し、白い液体へとかける。明らかに嫌がる素振りを見せるそいつにランタンを落とす。オイルの青い炎がゆっくりと燃え広がる。
白い液体は苦しそうに大きくうねっているのを確認すると、俺は分隊長に告げる。
「見た? こいつは生き物だ。兵士の体に入って乗っ取った挙句、意のままに操っている」
「……あ、ああ」
「こんなのに取りつかれた兵士を元に戻せると思うか? それより被害を防ぐ方が先だ。拘束している間にどんどんやられるぞ」
「……わかった」
「後で何か言われたら、俺ひとりの責任ってことにすればいい! 分隊長、命令を頼む」
もうどうにでもなれ、だ。俺は踵を返し天幕を飛び出す。分隊長付きの兵士も少し遅れて着いてくる。
「異変を起こした者は手足を斬って無力化しろおっ!」
よく通る大声で兵士は走っていく。
それでいい。俺は手当たり次第に兵士を襲っている奴らを斬り飛ばしていく。