前回のあらすじ。セルアの決意。
「迷わず私の首を刎ねろ。命令だ」
そんなことを言うセルアに俺は断言する。
「そうはならないようにするさ」
冗談じゃないぞ。セルアに手をかけるなんて絶対やりたくない。
俺は考える。
あの白い液体、乗っ取り型だよな。
だとすると一番に脳を支配しようとするはずだ。それなら電流で神経組織や脳をスキャンしてみるか。
神経伝達って微弱な生体電流と化学物質が担当していて、それを利用した治療法もあった。俺の母親はそういうところに通ってたからな。
「セルア、ちょっとここに座ってくれ」
すぐに侍女がセルアの足元に敷布を置く。そこへ腰を下ろしたセルアの頭にそっと手をのせる。
「雷撃魔導でセルアの体内を調べる。もし痛みとか感じたらすぐに教えてくれ」
「わかった。頼む」
俺は集中する。極限まで微弱にした電流をセルアの神経組織に向けて走らせた。
電流の威力を絞ること、狙った部位へ誘導すること、二つのことを同時にやるのは中々きつい。
まず脳は無事だ。そこから末梢神経へ向けて探っていく。
「どうだ? 何かおかしな感覚はないか?」
「むしろ心地良い。湯浴みしているようだ」
セルアは気持ち良さそうに瞼を閉じた。マッサージしているようなものだからな。
スキャンは十五分ほどで終わり、セルアの体内に異常がないことが確認できた。
「ふぅ」
すぐに干し芋を齧っておく。体感として結構な距離を転移したぐらいの消耗だ。
魔導と代償の関連性は今も完全には解明されていない。
俺が支払う代償は体内の糖質だが、集中して精密な操作を、しかも並行して行うとなるとそれなりに空腹感を覚える。
「セルア、大丈夫だ」
「……そうか」
セルアは安心したように息を吐き、少しだけ微笑む。
「次はあんただ。こっち来て座ってくれ」
侍女に声をかける。彼女は意外と素直に応じたので、セルアにやったことを繰り返す。よし。この子も異常無し。
「OKだ。異常無いよ」
「ヒロア、陸戦隊の兵士達に今の処置を使うことはできないのか?」
それは俺も思いついた。
「小隊長達に掛け合うよ」
俺は彼らに人間の神経組織図を描いて、この方法が何故有効なのかを力説した。
帝国軍の風土なのか、陸戦隊の将官は頭が柔らかいと見えて俺の提案を実行する運びとなった。
雷撃魔導を使う将官が五十名ほど集まり、俺は再度説明する。
「威力を絞りきれてないと筋肉が痙攣して麻痺する恐れがある。それは戦いで使ってるあんたらが一番わかっているだろ?」
全員苦笑いを浮かべる。
「だからギリギリまで弱くしてくれ。異物が脳や神経に巣食っていたらわかるはずだ」
そして俺達は手分けして兵士達のスキャンをひたすら続けた。
完全に日が暮れる頃には部隊全員へ対応策が通達された。要は感染対策みたいなもので、川の水は煮沸してから飲めとか持参した食べ物以外は口にするなとか。
あの白い粘液がどういう径路で兵士達の体内に入り込んだのかは不明だが、まずは口に入れるものに注意するのが基本だろう。
また異変を起こした兵士にすぐ対応できるよう、夜間の見張りを通常より増やされた。
そして深夜、スキャン中の兵士が合計二十一名が暴れ出し、すぐに取り押さえられる。
奴らが乗っ取った兵士はスキャンするとすぐわかった。脳から末梢神経へ電流が全く流れないのだ。
あの白い液体の知能が高くなかったことが幸いした。狡猾なやつだったら静かに潜伏して、一人ずつ毒牙にかけてただろう。想像するだけでゾッとする。
全員のスキャンが終わったのは明け方。夜通しスキャンし続けた俺はもうクタクタだが、将官達はピシッとしている。さすがは本職の兵士だな。鍛え方が違う。
早朝に死亡した兵士の解剖が行われると聞いていたので、眠気を我慢して見学に加わる。
血液は一滴残らず白い液体に変わり、それに合わせて筋肉が白っぽくなっている。涙や唾液を分泌する腺が全て肥大化していた。
そして頸動脈などの太い血管から溢れた白い液体はウネウネと蠢き、それを見て立ち会った人間は例外なく顔色が悪くなる。
すぐに小隊長は兵士の遺体を全て焼却するよう命じた。
その後、全員が集められ、陸戦隊トップの師団長から作戦行動が伝えられる。
「偵察に出た飛行隊によると、ここより徒歩二日の距離に千人規模の集落があることがわかった。睡眠が必要な者は六時間与える。その後、五つの小隊による偵察を出す。残りはこの陣地周辺の周辺警戒をせよ」
俺とセルアは当然偵察部隊に組み込まれている。まず俺は天幕に戻り、気絶するように眠りに落ちた。