次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第六十二話 怪獣vsドラゴン

 前回のあらすじ。植物怪獣が現れた!

 

「下がれ下がれーっ」

 

 小隊長が号令を発して、兵士達は突如現れた植物怪獣(そうとしか形容できない)から走って距離をとった。全力疾走だ。

 俺はセルアの元へ。

 

「はぁはぁ、あ、あれが親玉だろうな」

「ヒロア、私が行く」

 

 セルアはそう言い残し、怪物へ向かって走り出した。

 実のところ、俺とセルアは陸戦隊の指揮系統から外れていて、独自の判断で動ける。

 皇女に命令できる立場の軍人がいないからだ。

 

「俺達は下がったほうが良さそうだ」

「だな」

 

 声をかけてきたヨジロと一緒にさらに後退する。これから始まるのは怪獣決戦なのは間違いないからだ。

 

 実のところ、俺はセルアがドラゴンに変化する姿を見るのは初めて。あの地下施設では後ろ向かされたし。

 遠近感が狂ったようにセルアの身体が大きくなり、彼女の着ていたものは細切れとなって吹き飛んだ。

 続いてセルアの裸体は白と薄紫のグラデーションが綺麗な体毛に覆われる。それと同時に頭からは赤い角が長く伸びていく。

 数秒ほどで立派なドラゴンが出現する。

 

「初めて見たがすごい存在感だな」

 

 ヨジロが見惚れている。

 

「だろう? 神々しいとすら思うよ」

 

 俺も同意しておく。ドラゴンを崇める信仰がすぐに誕生しても不思議じゃない。皇帝が警戒するわけだ。

 

 改めて植物怪獣を観察してみるとコブだらけの蔦が複雑に絡まり合って無理やり人の形をとっているデザインだ。

 動きはない。

 そんな植物怪獣の全長は二十メートルほどで、セルアドラゴンとほぼ同じ。彼女は慎重に植物怪獣の周囲を飛ぶ。

 

 蔦のコブがまるで開花するような動きを見せた。直感でわかる。あれは攻撃だ。

 

 セルアドラゴンの角が光ったかと思うと、植物怪獣は一瞬で蒼白い炎に包まれ、熱波が二百メートル以上離れた俺達にも届く。

 

「やっぱすげぇ」

 

 語彙が小学生並みだが仕方ない。あんなの見せられちゃそうなるよ。ヨジロをはじめ、他の兵士達も呆然とその様子を見つめている有様だ。

 

 植物怪獣は炭化を通り越して灰となった。凄まじい攻撃だ。俺は身震いする。あの時、一歩間違えたら俺もあんな風に灰になってたんだ。

 灰と化した植物怪獣が動かないのを見届けると、セルアドラゴンは地上へと降り、その姿を消す。あそこには一矢纏わぬ姿のセルアが倒れていることだろう。

 

 侍女が布を抱えてアスリート真っ青のスピードで駆けていった。あの侍女、人間なんだろうか。

 

 俺は小隊長に頼み込む。

 

「すまないけど、あの状態のセルアはしばらく動けない。俺達は離脱しても?」

「構わない。皇女殿下には後で礼を述べる機会を」

「任せて」

 

 俺もセルアのもとへ走っていくと、既に侍女が布で巻いて抱えていたところだった。

 

「陣幕まで戻る」

 

 そう告げて俺達三人は転移した。セルアの天幕を警護していた兵士は突然現れた俺達に少しだけ驚いた様子だ。

 侍女はセルアを抱えたまま天幕の中へ入り、俺は干し芋を齧る。

 兵士に話しかけてみる。

 

「こっちは異状なし?」

「おぅ。お前らだけ戻ってきてどうした? それにセルア様は……」

「セルアは心配ないよ。後で知らされると思うけど、手厚い歓迎を受けちゃってね」

「……そうか。他は無事か?」

「うん、負傷者無し。少ししたら帰ってくると思う」

「そいつぁ良かった」

「人を見かけたら化け物と思え、そんなとこだよ、ここって」

「事前に聞いた内容に間違いないんだな」

「元々は人が住んでいたんだろうけどね。食われるか奴らの仲間にされたか」

 

 こんな環境で生き延びる人間がゼロってわけではないと思う。でもそれは希望的観測だ。

 

「入っていいか?」

「どうぞ」

 

 中に声をかけ俺は天幕へと入る。セルアは魔導の代償――身体の気力がごっそり持って行かれる――で、寝床に力なく伏していた。

 

「セルア、助かったよ。ありがとう」

 

 どうにか動こうとする彼女を制し、傍へ座る。

 

「セルアの判断は正解だと思う。兵士の手持ち武器じゃどうにもできないよ、あんなの」

「私もそう判断したのでな」

 

 セルアの判断、そしてドラゴン変化が俺達を救ったのだ。あの蔦のコブ、絶対やばいモノを出そうとしていたはず。

 

「小隊長が礼をしたい旨を伝えてくれってさ」

「わかった。いつでも構わない」

「そう伝えておくよ。ゆっくり休んで」

 

 セルアの手をゆっくり握って感謝を伝えると、俺は立ち上がり天幕の外へ出る。

 

「セルア様は大事ないか?」

「大丈夫。いつもの魔導の代償さ」

 

 心配そうな兵士に答えた俺は、彼が肩に担いでいる小銃を見ながら雑談に興じる。

 

「大型の化け物が出たら面倒だなぁ」

「飛行兵器の支援攻撃か艦船からの高速飛翔体を使うことになるだろう」

「それってすぐに間に合うもの?」

「……無理だな。あとは魔導を使える兵士頼みになる。ヒロア、お前もそうだ」

「代償のこと考えたら不用意には使えないし」

 

 プラスチック爆弾とかロケットランチャーみたいなものが欲しい。

 帝国の小銃や飛行兵器、軍艦、これらは間違いなく遺跡由来のもの。頼りにはなるが、その遺跡由来というのが皮肉にもバリエーション不足を招いている。

 

「この作戦て長くなりそう」

「……そうか。ヒロア、お前達は交代要員が来るわけじゃないか」

「そうだよ」

 

 最初こそあいつらの知能が高くなくて助かったと思った。けどもしかしたら小手調べなのかもしれない。

 ついでに嫌なこと思い出した。

 絶え間なく夜襲を仕掛けて籠城している兵士を精神的に追い詰める戦術。

 至る所にブービートラップを設置してこれまた兵士から安息を奪う戦術。

 

 ───まさか、な。

 ま、俺みたいな素人があれこれ考えても仕方ない。その辺は軍のお偉いさんに任せよう。

 

 しばらくして偵察部隊が帰ってきた。

 

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