次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

65 / 74
第六十三話 お預けって辛いのよ

 偵察部隊が帰還したもんだから、俄かに陣営は慌ただしくなった。

 

「セルア殿下の具合は?」

「グデっとなってるだけで意識はいつも通りだよ」

 

 小隊長がヨジロと一緒に謝礼のために来た。ヨジロは少し疲れた顔をしていた。

 

「ヨジロ、大丈夫か?」

「ん? ああ。何ともないぞ」

「そうか」

 

 そんなことはあるまいにと思いつつ、俺は天幕内のセルアに声をかける。

 

「セルア、小隊長さんが御礼に来られたぞ」

「入るのを許可する」

 

 小隊長とヨジロがセルアの天幕に入るのを見届けた俺は士官達が詰める天幕へと向かった。今回の敵の解剖見学だ。

 

「ヒロアか」

「よろしく頼んます」

 

 もう顔馴染みになった生物学担当の技官に挨拶して解剖するところを見せてもらう。

 

 台の上には頭がパックリ割れて花のようになった少女の死骸。

 

「あ、こいつらの親玉は蔓植物の化け物で、コブから何かを出そうとしてたよ。こいつらにも似たような器官があると思う。それには注意して」

 

 俺は解剖用ナイフを入れようとしている技官に声をかけた。

 

「わかった」

 

 まず胸の辺りを切開。うーんグロい。肌の下には筋肉組織っぽい繊維が詰まっていた。それが黄土色の骨に絡みついている。

 中央に濃い緑の袋状の臓腑。それから伸びる管が首と繋がっている。

 

「マスクした方がいいかも」

「私も同感だ」

 

 全員マスクを装着。

 

「小鳥を」

 

 別の技官が鳥籠に入れらた小鳥を近づける。そして赤と黒が混ざった元は顔だった部位にナイフを下から入れていく。

 切れ目から抹茶色の細かい粉が漏れ出た。さらさらとこぼれ落ちる粉がわずかに宙へと舞う。

 

 すると籠の中の小鳥が動かなくなった。死んだのか、それとも気絶したのか。

 

「やっぱりか」

「ヒロアは現場にいたな」

「そうだよ。目の前にいた俺とヨジロにこれを吹きかけるつもりだったと思う。そうする前に首を刎ねたけど」

「子どもの姿で油断を誘うか」

「だと思う」

 

 腹の方にはまるでクワガタ虫の角みたいなの(実際には大顎なんだけど)が収納されていた。内側には鋭利な棘な並んでいて、これに挟まれたらまず動けないのが容易に想像できた。

 

「色々な生き物を解剖したが、こんなのは初めてだ。あの白い子ども、あれもそうだったが」

 

 技官は困惑した顔で呟く。俺も同感。俺たちの知る生物とは根本的に作りが違う。

 

「見ろ」

 

 技官が鳥籠を指差す。小鳥の羽毛は抜け落ち、表面は緑色のカビっぽいものに覆われている。一歩間違えていたら、俺とヨジロもこうなっていた。

 

「バクテリアか……。えっと極々小さい生物のこと、帝国じゃどう呼んでいる?」

「微小生物のことか」

 

 さすが帝国だな。その辺りも発見済みか。

 

「そう、それ。あの集落付近はその微小生物に汚染されてると思うから焼き払った方がいいかも」

「報告しておこう」

 

 この後、小隊長の指示で火炎魔導を使う兵士が集落跡を燃やしていった。同時に偵察隊の衣服を洗濯、水浴びを徹底。俺もだ。

 着替えてセルアの天幕に戻ると、ちょうど侍女がセルアに吸飲みを使って水を飲ませているところだった。

 

「小隊長の通達は聞いた?」

「はい。セルア様のお召し物の洗濯、そして身を清めるようにと」

 

 問いかけに答えたのは侍女。

 

「ならいい。セルア、いつ頃動けそう?」

「この感覚だとあと二刻ほどだな」

「やっぱ前回より長めかぁ」

 

 セルアの魔導、その代償として根こそぎ気力を持っていかれる。気力ねぇ。精神活動に関わっている特定のビタミン、ミネラル、アミノ酸あたりかな? 俺は専門家じゃないのでわからない。

 

「じゃ俺は飯にするよ」

 

 俺は自分の天幕へ戻り昼食の準備を始めた。さりげなく他の兵士達を観察してみると、上陸前に比べて明らかに士気が下がって見える。これこそが敵の狙いなんだろうなと嫌な気分になった。 

 

 セルアの天幕から侍女が水汲みに出ると、兵士達は一斉に彼女をそれはもう目に焼き付けるように見つめていた。

 

 あ、うん。可愛らしい顔つきだし、そこそこグラマラスだしな。気持ちはわかるぞ。野次とか飛ばさない。皇女付きの侍女だからな。流石にその辺は全員とも弁えてる。

 

 慰問団とか来ないのかね。その辺はどうにも聞き辛くて誰にも確認してなかった。

 ベトナム戦争をテーマにした有名な映画だとバニーガールの慰問とかあったよなぁ。

 

 割と近代的な装備の帝国以外の国では次のような構成がスタンダードな軍隊だ。

 まず貴族主体の騎士。主力となる兵士達。徴兵で集められた平民や傭兵だ。

 戦闘職を支える救護部隊、調理部隊、兵站部隊。

 最後に商人と娼婦の一団がついていく。戦場だから割高料金で荒稼ぎだ。リスクも大きいけど。

 

 俺もイズミのところへ里帰りするまでは傭兵団にいたから、娼婦にはかなりお世話になった。

 戦の前って妙に性欲が高まるんだよなぁ。命の危険を悟った本能、DNAが子孫を残そうとする衝動らしいけどね。

 

 そう言えばご無沙汰だよな。迷宮都市ディーザで人間のふりした邪神フゥジィを抱いて以来か。

 溜まってるよ。

 ドラゴンに変化する時のセルア。

 素っ裸の後ろ姿、あれを見ちゃったのがスイッチだな。

 くぅぅ。

 身体は十五歳のやりたい盛り。頭の中身はおっさんだからガッついてるわけじゃないけど、どうにも肉体に引っ張られてる。

 うーむ。困った。

 

 悶々としたまま夜を迎え、寝ていたところ俺のいる天幕を訪ねてきた人物がいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。