次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第六十四話 帝国からの召喚

 俺の天幕に現れたのはあの神経質男と覆面女――霊峰の麓で宿を営んでいた俺とセルアを拘束し尋問した――の二人、帝国特務部隊だった。

 

 男の方は相変わらずピリピリした雰囲気を、ホタマラ羅さは眉間に刻まれた皺とへの字にした口で表現している。

 

「なんだ? こんな遠くまで。ま、まさか俺を始末しに来たのか?」

 

 おれは大袈裟にリアクションしたが……。

 

「それに何の利がある?」

 

 眉ひとつ動かさず、答えた神経質男。

 

「ジョークだ。笑えよ」

「……」

 

 当然神経質男は全く表情を変えない。ほんと帝国の人間はお笑いのセンスがないな。

 その朴念仁は書類を俺に差し出す。

 

「すぐの話ではないが、お前に対する召喚状とその詳細だ」

「召喚?」

「お前に対して大きな関心を寄せている機関がある。主だって動いているのは医療生化学院だな」

「医療生化学院?」

「生きとし生けるものを全て研究し、医療に応用するところだ」

「なるほど。何故そこが俺に関心を?」

「災厄生物絡みだな」 

「災厄生物?」

「今我々が相手をしている奴らのことだ。命名された」

「なるほど」

 

 あの不協和音みたいな音波攻撃が俺には効かないこと、それと白猿の匂いを感じたこと、それらは既に報告済みってわけだ。

 

「ま、いいけど。別に生きたまま解剖しようってわけでもないんだろう?」

「心配するな。お前がイズミの身内だということは平民以外には全て通達してある」

「そりゃ面倒がなくていいね」

「もうひとつ伝えておく。“殲滅の魔女は抹殺対象から外された」

「へぇ。とうとう諦めたか」

「そういうことだ」

「話を聞く限り、イズミは人の手でどうにかできる存在じゃないからな。賢明な選択だと思うよ」

 

 さっぱり何も読めない無表情の神経質男。もののついでだ。

 

「あんた、何て呼べばいい?」

「カシヨだ」

「わかった。カシヨさんよ、ここに指定された日に、俺はどうすればいい?」

「迎えを寄越す」

「了解だ」

「それまで命を落とさないことだ」

「それは、まぁ、うん。死にたくないからな」

「災厄生物を甘く見るな」

「別に舐めてかかってないぞ」

「それならいい」

「実のところ帝国軍は大したもんだと思う。けど災厄生物側も何をしてくるか予想できないからな。ひとつだけはっきり言えるけど」

 

 初めてカシヨの目に感情らしきものが見えた。好奇心か?

 

「それは何だ」

「へぇ、聞いてくれるのか。あいつらのやり方ってさ、俺達を排除ってより取り込もうとしてないか?」

「……」

「戦況は報告されてるだろう?」

「目は通している」

「素人の俺の意見だから責任は持てないけどさ、ここの大陸に住む人間は全てあいつらの血肉になった。俺達は次の餌だよ」

「どうしてそう思う」

「前に話したよな? 俺の故郷から来た若者達のこと。彼らの話がヒントになったんだ」

 

 黒瀬と優子、霧丘君、河野さんがここへ転移させられたのは、彼らが邪神と呼ぶ――厄災生物――の仕業だ。

 

 セルアの祖父さんであるダラド伯爵邸に寄った時、風呂で黒瀬から聞いた話だ。人間に取り憑くか化けるかして潜伏し、徐々に仲間を増やしていくやり方。

 

「厄災生物の目的は惑星(ほし)を呑み込み、さらには宇宙へとその手を広げること。気の長い話だが、やつは邪神とも呼ばれている。俺達とは生きている時間が違うだろうしな」

「……」

「それと帝国の路線変更も気づきになったかな」

「路線変更?」

「まずセルアを取り込んで戦力とした。そして俺を懐柔、イズミもそうしようとしてるんじゃないか」

「……」

 

 カシヨは黙って俺の話を聞き続ける。

 

「見方を変えればその方が安上がりどころか、大きな得になる」

 

 俺の言ってることが当たりだとすると、帝国は相当な実利主義だ。

 

「あぁ心配はいらないぞ。俺もイズミも帝国に対して思うところはない」

 

 カシヨは覆面女の方を向き、女が頷くのを確認する。

 

「その女がいるところで嘘ついても無駄だろう?」

「そのようだな」

「刺客は任務だから特に恨みはないよ、お互い様だ。それとイズミはイタズラしてくる子どもを追い払ってた感覚だぞ、あいつ」

 

 思い出すのはいつも微笑を浮かべ俺を見つめるイズミ。少しムカつく。

 

「少なくとも俺がこっちで生を受けてから、イズミは帝国軍を一人も殺してないはずだけど?」

「……確かにここ十数年は死者の報告はない」

 

 前にイズミから聞いたことがある。無力化して追い返してるだけだって。

 

「だから懐柔なんてことせずに、ストレートに協力を求めたらいいと思うぜ。イズミだってあんなヤツはお断りだからさ。当のイズミは『帝国なら勝てる』って言ってたけど」

「それは本当か」

 

 俺は覆面女の方を見る。

 

「嘘がわかる魔導を使うやつの前で嘘ついてどうすんだよ。本当だよ」

 

 そして少しだけ驚きの感情が見えているカシヨへ俺は向き直る。

 

「仮説だから聞き流してもらっても構わない。そのうちはっきりするんじゃないか?」

 

 話ながら俺も頭がスッキリした。あの海蜘蛛はあっさりと引いた。

 白猿はあの粘液で兵士達を支配しようとした。

 化け物少女達も花粉っぽいのをかけてこようとしてきて、あの粘液と同じようなものではないか。

 

 積極的に俺達を殺そうとしていない。その気になれば簡単にやれそうなのにも関わらず、だ。

 

「お前の説はあながち的外れとも思えないな。気に留めておこう」

 

「俺としても厄災生物を駆除したいのは本音だぞ。ヤツは俺の妻や娘達が暮らす地球にも手を出しているからな」

「そこは疑ってない」

 

 カシヨは立ち上がるとそう言い残して姿を消した。あの覆面女、転移魔導も使えるのか。

 

「ヒロア」

 

 おっとセルアがやって来た。

 

「どうした?」

「話し声が聞こえたのでな」

「あー。あの特務部隊が来てたんだよ。カリドヤに来てたやつ」

「何故?」

「これ見て」

 

 俺から受け取った書類に目を落としたセルアは少しだけ考え込む。

 

「医療生化学院か……」

「セルアは詳しいの?」

「皇族の魔導発現を行う場所だ」

「あー」

 

 セルアがバボが荒れ狂う檻の中へ放り込まれたってのは、そこでの話だったのか。

 

「何も危険はないと思うが……。霊峰に帝国が立ち入りできなくなった出来事に、医療生化学院の上層部が関わっていたという噂がある」

「え? それってろくでもない奴らじゃん」

 

 うわ。行きたくなくなってきたぞ。

 

「私も同伴したいが、これにはヒロアのみと書いてあるな」

「皇族特権みたいなのはない?」

「そんなものはないぞ」

「うーん。やばい予感」

「ふふ。イズミを敵に回す度胸もないと思うぞ」

「そう考えたら……安心か?」

 

 俺の隣に腰掛け、頭を肩に預けてくるセルア。

 

「安心しろ。帝国は愚か者の集まりではない。国体をここまで維持してきたのだ」

「それもそうか」

 

 植物怪獣を倒したセルアにご褒美だ。セルアの髪に指を通し撫でおろしたりして弄ぶ。

 目を細めるセルア。

 あ、俺の中で何かが。

 バカ野郎。

 我慢しろ!

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