前回のあらすじ。帝国特務部隊カシヨ(神経質男)に帝国医療生化学院への召喚状を渡される。
カシヨが俺の天幕に来てから三日。
俺とセルアは偵察隊と一緒に二つ目の集落を調査中だ。
最初の集落とは比べ規模はずっと大きくて「町」と呼んでも差し支えないほど。
偵察隊の規模も増員され百人を越す大所帯となったので、それぞれ建物の中を確認しながら進む。
いずれの室内も調度品も満遍なく埃をかぶっていて長らく人が住んでないことを窺わせていた。
ヨジロと俺は街の大通りに立ち、周囲をぐるりと見渡す。
「どこに隠れてやがる」
少し焦った様子でヨジロは小銃を構えたまま毒づく。
「索敵魔導には反応はないけど」
「ヒロアのそれ、種類はなんだ」
「俺のは感情感知型だ」
実のところ索敵魔導には種類があって感知する対象がそれぞれ違う。熱源だったり空気の流れだったり。
「だからさ災厄生物に感情がなかったり、そもそも俺らを襲うことが本能的な行動だとしたら感知が難しいんだ」
「そうか。ヒロアは元々傭兵だったな」
「そう。化け物退治とか初めてだし」
「マルハスで大手柄をあげたと聞いてるけど?」
「あれかー。俺は雷撃魔導を喰らわせただけ。止めは故郷から来た男だよ」
正直黒瀬抜きでは、あの海蜘蛛を始末できなかっただろう。
「そうかい」
「彼の剣には向こうの神が力を与えていてさ、それが災厄生物にとっては致命的だってさ」
「なるほどねぇ。神か……」
「宗教の話は禁忌だろ? この話はここまでな」
帝国は皇帝以外の存在に対する信仰や宗教を禁じている。
ヨジロは笑いながら口を開く。
「なぁに。象徴するものを身につけたり、祈りを捧げたりしなけりゃ問題ないさ」
「そんなものなのか。俺はてっきり“神”という言葉を口にした途端、特務部隊に粛正されるもんだと思ったぞ」
「ヒロアは帝国を何だと思ってるんだよ」
しばらく俺もヨジロは笑い続けた。そして真面目な顔つきになったヨジロが遠くを見ながら話し始める。
「今頃は運ばれた奴らの死骸を
そうか。もう移送されてるか。
「転移魔導使うやつ多いよな、帝国」
戦争だと転移魔導士が大活躍だ。その数を揃えた帝国、そりゃ強いわけだ。
「魔導士の数は他国よりはずっと多いぞ」
「ここに来てよーくわかった」
「孤児は国が保護して全員魔導覚醒儀式を受けさせられる」
「帝国はあれをそう呼ぶんだな」
忘れたくても忘れらない臨死体験がフラッシュバックする。
「そうだ。皇族、貴族の師弟も。特にこっちは例外なし」
「はぁなるほど。そりゃ多いわけだ」
命を落とすのも珍しくない魔導覚醒のための試練。
まともな親はそんなもの受けさせない。たとえ子が魔導士という高収入を約束された職につけたとしても、だ。
「帝国が大陸の支配者なのも納得だ」
「ヒロアも複数の魔導を使いこなせて、凄いじゃないか」
「これはまぁ育ての親の教育かな」
「あぁ……」
ヨジロが神妙な顔になる。
「やはり“殲滅の魔女”は憎き敵か?」
「そんなことはない。“殲滅の魔女”討伐部隊に従軍するのは皇族と貴族だけだから、俺達には関係ないんだぜ」
「そうか」
「俺らにしてみれば、そうだな、嵐や地震みたいな災害と同じだ」
「それは言えてる。童話に出てくる悪魔の王とか邪神と同列だろうけど、イズミから仕掛けることはないからその分安心だろう?」
「そうでもないぞ。心配性なやつはいつか腹に据えかねた“殲滅の魔女”が帝国を滅ぼしにくるって怯えてるし」
「は? そうなんだ。あいつはのんびり開拓村のそばで子守りをしたりして平和に過ごしてるんだけどなぁ」
「ほお! そうなのか」
「普段はそんなもんだよ。その辺は普通の女だ。だから帝国もほっときゃいいのにと俺は思う」
「ま、手打ちをしたってことで帝国が滅ぼされることはないか」
「そこも誤解が多い。イズミが過去に国を丸ごと滅ぼしたのは本当だが、確かこの西大陸と同じで、人じゃないものに支配されてたからだ」
「本当か?」
「聞いたことあるんだよ。何でも古代遺跡をつついて変なものを起こした国があってさ。国民は全滅。人が住める土地じゃなくなってたそうだ」
「恐ろしいな……」
「中央大陸はそれこそ何十万年もの昔から何度も文明が興っては滅びるってのを繰り返してるらしい」
「そうなのか?」
「イズミに言わせると千年帝国も新興国家だとよ」
「それ、なぜ分かるんだ」
「あーあいつの魔導でな、年代測定とかできるんだ」
本当はルウカって宇宙からやって来た子のテクノロジーだけどな。
「長い歴史の中には、やばい奴もいただろうさ」
「すると……」
ヨジロが兵士の顔に戻る。
「そうだ。災厄生物もその類いだから、綺麗に片付けないと」
「だな」
そうだ。これは生存権を賭けた戦いなんだ。
俺とヨジロは軽口を叩きながらのんびりと後方に控えていたが、先頭は町の端に到達した。
「ここを拠点とする。移動を伝えろ」
「はっ」
小隊長の命令が発せられ、一人の兵士が姿を消す。
「あの大きめの建物がいいだろう。お前たちは警戒に当たれ。残りは建物内で準備しろ」
「はっ」
数時間後。
最初の拠点とした陣営から陸戦隊が移動して来た。
さらに追加部隊が来たようで、そいつらは頭に布を巻いて顔を隠している異様な風体の奴らも混じってた。
何だありゃ。
そして無人の町は帝国軍の一大拠点となった。各小隊ごとに一軒の建物が割り振られ、俺とセルアは二階建ての家をあてがわれた。
ベッドで寝られるのはありがたい。
やがて日も暮れあたりは暗闇に包まれる。随所に照明器具が置かれ、町が生き返ったような感覚を覚える。
いなくなった住民達のことを考えると全く油断はできないが。
「セルア、ちょいと出かけてくる」
「どうした? 何かあるのか?」
「まぁな。町の周囲を見ておきたいんだ」
そうして俺は町外れの森と転移して、そこで待つ人物に挨拶する。
「帝国軍にもいたとはな、エックス」
霊峰では世話になった集合型生物エックス、そのうちの一人が帝国軍兵士として立っていた。
「ヒロア様、ご無事で何よりです」