次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第六十七話 付き合ってる子の親族って居心地悪いよね

 散発的に降り注ぐ矢。

 

「盾を持つ者は小銃手を守れ!」

 

 怒号。

 

「虫は引き続き雷撃魔導で対処しろ!」

 

 悲鳴。

 

「おいっ! やめろ! こいつ!」

 

 鉄錆の匂い。

 物言わぬ兵士が転がっている大通り。

 

「千年!」

「……」

「言えないんだな!」

「……」

 

 兵士が無言の兵士を小銃で撃つ。

 

 大混乱。

 修羅場。

 

 ───やつらの襲撃は陽が昇った頃から始まった。

 軍隊というのは朝が早い。

 まだ暗いうちから外へ小隊ごとに集合し、今日の予定を打ち合わせする。

 その時間を狙われた。

 

 低く唸るような音が近づいてきたかと思うと、兵がひとり、またひとりと倒れていく。

 

「スズメバチ?」

「ヒロア、知ってるのか?」

 

 俺の口をついて出た言葉にセルアとヨジロが反応。倒れた兵士は意識がないようだ。

 

「俺の知ってるのはデカい蜂なんだが……」 

 

 羽音が近い!

 咄嗟にセルアを庇い地面へと伏せる。

 速すぎてはっきり見えなかったが、似たようなものに違いない。

 

「建物にいる者は窓を塞げ! 入り口は死守だ」

 

 避難場所の確保を指示する小隊長。

 俺は大声で叫ぶ。

 

「雷撃の威力を絞れ!」

 

 そこらで小さな雷光が弾け、地面へと落ちるモノが見える。

 メブが払うようにナイフを振って一匹を両断した。

 落ちたモノを見る。

 大きさも形もスズメバチっぽい。口から突き出すように針があり、体は迷彩色だった。

 

 俺は索敵魔導を広く展開、反応と同時に小さな雷撃をお見舞いする。

 また火炎魔導を使う兵士が二メートル四方の炎の壁を使って防ぐ。

 

 それを見ていた他の兵士も反撃を始めた。こういう事態に対処できる魔導を使ってそれぞれ反撃する。

 くそっ。数が多いな。

 

 その時だ。

 

 風切音はしなかった。

 頭に矢が刺さった魔導士が仰向けに倒れ伏す。

 その場にいた者は等しく降り注ぐ矢。

 

「敵襲!」

 

 残っていた兵士達は一斉に物陰を目指すが、虫にそれを邪魔される。

 

 小隊長が次々に指示を出す。

 

「盾を用意しろ! 虫は魔導士に任せろ」

「走れー! 走れば当たらない」

 

 いかんな、腹が減ってきた。

 

「誰か携行食持ってる?!」

 

 背中に当たって足元に落ちるもの。拾い上げると携行食だった。振り向くと無愛想侍女メブが俺にぶつけたらしい。

 文句は後だ。

 すぐに口に放り込む。羊羹に似たカロリーバーみたいなやつ。

 残りをポケットに入れ叫ぶ。

 

 対人戦のルーチンは決まっている。

 

「索敵魔導が使えるやつ、来てくれ!」

 

 一人の年若い女性兵士が盾を持って走ってきた。

 

「自分が!」

「範囲は?」

「馬車半刻分(約二十キロメートル)」

「よし有能!」 

 

 俺の索敵魔導、ざっと五十メートルの範囲しかないもんな。無能だ。

 一緒に一番高い建物の屋上へ転移する。

 

「弓手の位置特定を頼む。俺がそこへ飛ぶ」

「はっ」

 

 盾に弾かれる矢。俺と彼女にも狙いをつけてきた。

 音もなく飛んでくる矢。

 それもえげつない速度。

 

「いた! 十二刻方向、距離は……え? 二千歩……」

「するとあの大木の右あたりか」

 

 俺は正面を指差す。

 

「はっ。あんな遠くから……」

「相手は人間じゃないぞ」

「そうでした!」

「他は?」

「あそこから百歩間隔で左へ五箇所ほど」

「じゃ小隊長に知らせてくれ。俺は正面のやつから順番に叩く」

「はっ」

 

 目の前が森の中へと変わる。敵の後ろあたりに見当つけて転移したんだ。

 

 足音と気配を殺し、息も潜めて進むとそいつらはいた。

 何だありゃ。

 最初はケンタウロスかと思った。

 でも違った。

 人間の腰に別の人間の下半身を無理やり繋げた四本足の異形。

 そいつが弓を構え、横一列に並び次々と矢を放っていた。

 二十体はいる。

 人間のパーツを繋ぎ合わせたその姿は嫌悪感を呼び起こす。

 

 俺は小銃で狙いをつけたが、すぐにやめた。連射しても一度に全部を仕留めるのは無理だ。

 頭を狙ったとしてもそれが致命傷となるかも怪しい。

 

 俺はそっと携行食を齧る。

 威力は……そうだな、高圧線ぐらいでいくか。

 くらえ!

 弾ける音と白い閃光。肉の焦げる匂いで満たされ、やつらは立ったまま黒焦げになっている。もう動かない。

 

 次だ。

 同じようにケンタウロスもどきがいたが、何体かはさっきまで俺がいた付近へ弓を向けている。

 まずった、威力を上げすぎたか。あの閃光と音じゃきづかれるよな。俺の馬鹿!

 

 今度は電圧を上げ電流は絞って放つ。

 痙攣して動けない奴らの首をナイフで刺していく。

 うえ。こいつら瞳が二つあるぞ。キモい。

 

 よし次。

 飛んだ先では既に二人の兵士が奴らと小銃で交戦していた。

 それを見た俺は伏せて奴らの背後は回り、一体ずつ頭を狙って狙撃していく。

 生き物ってのは二方向には対応できないんだ。

 

 殲滅した後に駆け寄る。

 

「ヒロアか!助かった」

「後二箇所は誰か行った?」

「まだだ」

 

 そこへ一人の兵士が転移してきた。

 

「敵の増援を感知。ここから三刻方向、八千歩」

「小銃じゃきついな」

 

 兵士が苦々しげに呟く。

 

「けど俺達でやるしかない。狙うのは頭のみだ」

「動きはヨタヨタしてるから機動戦に持ち込もう」

「矢に当たるなよ」

「モーションはそんなに早くない。避けられるさ」

 

 打ち合わせして転移する。

 

 四箇所目のやつらは街の方へ向け、一心不乱に矢を射かけていた。

 ハンドシグナルで会話して四方に散る。

 

 狙いを定めたところへ樹上から何かが降ってきた。

 

「こいつ!」

 

 あの全身が白い子ども、白猿だ。

 

「くそっこいつら!」

 

 ナイフで応戦するも数が多い。

 

「撤退だ!」

 

 声をかけ街へ戻るとそこでも混乱が起きていた。

 目の前で兵士同士が争っている。

 虚な目つきの兵士が口から涎を流しながら兵士にのしかかっている。

 

 俺は様子のおかしい兵士の首へナイフを突き立て、そのまま蹴飛ばす。

 

「何があった?」

「や、矢にやられたやつが起き上がって襲ってきたんだ!」

 

 そうか。そうだよな。あいつらの手段は常に同化だ。

 それじゃ……。

 建物の中からも争う音が聞こえる。

 あの虫もそこら中に飛んでいるのを避けながら、俺は走る。

 

 耳元を矢が掠めた。

 三箇所を潰したので散発的になったが、ほれでも油断はできない。

 

 建物へ入るとそこでも兵士が取っ組み合いをしていた。

 チッ!

 パッと見、どっちもおかしなところはない。

 うん?

 わかったぞ。

 俺は迷いなく片方の兵士の首、その後ろにナイフを突き立てる。

 

「感謝する!」

「何があった」

「わからない。突然襲ってきたんだ」

 

 俺は足元に倒れている兵士の身体をまさぐると、あのワックスに似た匂いが強くなる。

 やっぱりか。くそったれ。

 兵士の肩に小さな穴が開いて赤く腫れていた。あの虫に刺された傷だろう。

 あの白猿と同じように襲ってきて何かを体内に注入しやがるんだ。

 

 一人の兵士が入ってくるといきなり俺達へ小銃を向けてきた。俺は床へ転がり、そいつの足首を切断する。

 バランスを崩して倒れた奴へさっき助けた兵士がトドメを刺した。

 

「建物の中で小銃を使うのは正気じゃないということだ」

「行動で見分けるしかないのか」

 

 このワックスに似た匂いは俺にしかわからない。

 

「正気の者は全員大通りに集まれ!」

 

 凄まじい音量で指示が聞こえた。

 俺達も建物の外へ駆け出し大通りへと向かう。

 まだ虫が飛んでくるので、あたりを警戒しつつ、大勢の兵士が集まってきた。

 

「雷撃魔導を放て! 虫を近づけるな。いいか! 合言葉は『千年』と『帝国』だ! これはここにいる全員に聞こえるよう話している! 合言葉を言えない者はすぐに殺せ!」

 

 小隊長の指示に従い、即席の五人組を作ってあたりを警戒する。

 そうか。

 今の指示を理解していない、イコール敵ということだ。兵士達は一斉に散開して処理に向かう。

 

「ヒロア!」

 

 兵士が行き交う中、セルアが俺を見つけて駆けてきた。

 

「セルアも無事だな」

「ああ。メブのおかげだ」

 

 彼女は俺と目も合わせず、無表情で周囲を警戒している。こいつにセルアを任せときゃ安心だな。転移も使えるし。

 

「郊外の森にさらに敵の増援!」

 

 一人の兵士が小隊長へ報告する。

 

「わかった」

 

 小隊長は腰から何か取り出すと空へ向けた。発射される信号弾。

 

「何を見ている! 早くここにいる敵を殲滅しろ!」

 

 怒鳴る小隊長に我に帰った俺を含む兵士達は街へと散っていく。

 それからは消耗戦だ。主に精神的な。

 

 俺はいい。問題は兵士達だ。

 さっきまで一緒に過ごしてきた仲間が襲ってくる悪夢。特に親しいやつが相手だと辛いものがある。

 俺はそういうしがらみがないので率先して正気を失った兵士を無我夢中で屠っていった。

 

 殺した兵士の数が両手両足の指を足しても足りなくなる頃、頭上を飛んでいく影。

 帝国軍の虎の子、飛行兵器が編隊を組んでいる。

 

 それらが遠くの森の上空へ差し掛かった時、森にとてつもない爆発が起きた。

 思わず耳を塞ぐほどの大音響、ここまで地響きが伝わる規模の爆発。

 

 そして燃え上がる森。あれでは生き残った敵はいないだろう。

 それから俺達は二刻(二時間)ほど敵となった兵士の掃討に追われ、その一方では死体を一箇所に集めて燃やしていった。

 

 俺はもうヘトヘトでダウン。体力的に兵士には遠く及ばない。元自衛隊の友人がいたが、彼も体力オバケだったもんなぁ。

 

「よっ! へばったか」

 

 ヨジロがあの索敵魔導を使う女兵士と一緒にやって来た。

 

「ああ、すまん。俺は役立たずだ」

「そんなことないさ。こいつに聞いたぞ。弓手を潰したんだろう?」

「全部じゃないけどな」

「戦場で謙遜は美徳じゃないぞ」

「……わかった」

 

 そんなやり取りをした後、しばらくして事態は終息した。

 俺は小隊長の元へ呼ばれ、口頭で報告。

 あのケンタウロスもどきについては絵も描いて説明した。

 

「人を合成したような四つ足の生き物か……」

 

 小隊長が考え込む。

 ここの住民の成れの果てかもしれない。

 

 すると一人の兵士が小隊長に『おいでです』と伝えた。

 

「よし。ヒロア、ついてこい」

 

 え? 誰が来たの? と訝しむ間もなく小隊長に続く。軍のお偉いさんかね。

 外へ出ると兵士が数人、セルアとメブも一緒だ。そして背が高くて若い男がニコニコして俺に視線を向ける。

 全員が一斉に跪いた。

 え? 偉い人?

 俺も慌てて膝をつこうとすると、その男ははっきりと言った。

 

「ここは戦場だ。これ以降は無礼講で。さて君がヒロアだね」

 

 快活だけど威厳のある声。やんごとなきお方だな。

 

「ヒロアです。セルア様の付き人をしています」

「ほっほっほ。孫娘が世話になったね」

 

 え?

 

「僕はね先代の皇帝さ。今は医療生化学院の長をしている。ラデスと気軽に呼んでくれたまえ」

 

 どう見ても二十代前半にしか見えないその男は笑顔のまま自己紹介した。

 自分からここに来たのか!

 しかも前皇帝?!

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