次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第六話 農村でお泊まり

 俺たちは村へと続く獣道を歩く。

 

「ざっと三十軒以上あるじゃないか。人口は百人以上だね」

「ふむ。畑も充分整備されている。山岳師団の補給拠点だろうな」

 

 セルアに説明を求めると、山岳戦を専門とする軍があるそうだ。

 

 畑で働く人が見える。彼らのうち一人が俺たちに向かって駆けてきた。アスリート並みに速い。最後に獣対策の柵を軽々と跳び越えると、俺たちの前に立った。歳の頃なら二十ぐらいに見える青年だ。村人一号と名付けよう。彼は緊張した面持ちで俺たちの言葉を待っている。

 

「村長を呼びたまえ」

 

 俺が高圧的な態度で声をかけると、セルアがタイミングを合わせてフードをめくる。肩まで伸びた髪の色は白に混ざる紅。皇帝の血を引く皇族だけの特徴だ。

 

 村人一号はセルアの髪を見て顔色を変えた。

 

「ほ、は、はいっ。お待ちを」

 

 全速力で駆けていく村人一号。

 

「皇族の威光って凄まじいな」

 

 黒瀬が感心したように言う。

 

「マジですごいぞ。もし失礼があったらこの集落は地図から消えるからな」

 

 俺は傭兵時代にいろんな国へ行ったが、どこでもこの手の話をよく聞いた。俺がいた王国はその辺ゆるゆるだったけど、帝国の支配下にある属国では、貴族と平民の間には絶望的なほどの隔たりがある。それが帝国流だ。ましてやここは帝国本土。

 

「年に一度は、さして落ち度もない村を見せしめで潰す皇族もいる。悪趣味この上ないがな」

 

 セルアがため息をつくように村人一号が走り去った方角を見た。幸いというか彼女は身分差をあまり気にしない。皇族としては変わり者どころか異端者レベルじゃないだろうか。体内に自爆魔導器具を埋め込まれ、戦に出撃していた境遇も関係あるかもしれない。

 

 村人一号と壮年のおっさんが走ってくるのが見えた。俺たちの前に来るなり二人とも平伏する。

 

「ようこそ我が村へ! 高貴な方々を歓迎いたします」

 

 気の毒なぐらい恐縮している村長へ俺は居丈高に告げる。

 

「そう畏る必要はない。通達もせず、突然訪れたのはこちらだ」

「精一杯もてなしをいたします」

「それも不要だ。名は?」

「はっ。村長のユタでございます」

 

 上背のあるがっしりした体格、髪と瞳は帝国人によくある茶色で、顎鬚をたくわえている。

 

「そうか。この村に宿か空き家はあるか?」

 

 小芝居を続けるのは肩が凝るから、プライベートな空間を確保したい。

 

「宿はございません。空き家ならひとつだけ」

「ならそれを使わせてもらう。準備をしろ。これは駄賃だ」

 

 そう言って俺は村長に金貨一枚を手渡す。村の臨時収入としては破格だ。騙してごめんって心の中で詫びる。

 

「ははっ。早速」

 

 あたふたと村長は走っていき、村人一号は頭を何度も下げながら畑へ戻る。

 

「何の罪もない村人を騙してることに罪悪感があるんだが……」

「ふふっ。金貨を見た村長の顔を見たか。私の余興に付き合ってもらう報酬としてはかなりのものだぞ」

 

 半農半猟タイプの典型的な山村だから、現金収入はありがたいんだろうけどさ。

 

「あら」

 

 いつの間にか優子の服の裾を幼稚園児ぐらいの小さな男の子が摘んでいた。

 

「お姉ちゃん、どこから来たの?」

「遠くから来たのよ」

 

 しゃがんで目線を合わせる優子。良かったな坊主。性質(たち)の悪い皇族とその付き人なら大変なことになっていたぞ。

 俺たちが男の子と一緒に村長が走っていった方へ歩いていくと、村人が慌ただしく出入りしている家があった。あれが空き家だろう。高床式で屋根が高い。合掌造りにも似た作りだ。

 

 ユタ村長がやってきた。

 

「これっタヤク! 離れなさい!」

 

 村長がいきなり男の子を叱りつけるのを、優子は笑顔で返す。

 

「構いません。わが(あるじ)様は心の根の優しい方です。度を越した無礼でない限り、お咎めはありませんよ」

 

 優子はセルアをそう言って紹介したけど、当のこいつは茶目っ気でこの村に心労かけてる張本人なんだけどな。

 

「寛大なお心遣いに感謝いたします。あと半刻(三十分)ほどで準備が整います。それまで我が家にてお寛ぎください」

「ではそうさせてもらおう。接待は最低限で頼む」

 

 俺はまたも偉そうに言った後、セルアを促した。

 村長の家は一番大きい。門構えも立派な作りで、倉も三つほど。

 

「こちらへどうぞ」

 

 離れのような小屋へ通される。茶室っぽいな。

 村長の妻と娘らしき若い女の子が平伏して待っていた。

 

「村長の妻エヤ、こちらは娘のミィタです」

 

 村長の奥さんは小柄で、タレ目なのが人の良さそうな印象を与える。権力者の妻としてそれでいいのかな。娘のミィタは母親似のタレ目がチャーミング。笑顔が似合いすぎる。

 

「畏る必要はない。楽にしてくれ」

 

 だんだん罪悪感が強くなる。俺は善良な人を騙すのはどうにも苦手だ。

 

(あるじ)様はお疲れでな、我らだけで過ごすので接待は不要。宿の準備が整ったら知らせてくれ」

 

 人払いした後、俺はへたり込む。疲れた。

 

「それにしても優子の演技すごいな。ほんまもんの貴人に見えたぞ」

「褒めてくれてありがとう」

 

 優子の笑顔は綺麗だと俺は思う。

 

「ふむ。私から見ても同感だ。貴族令嬢を思わせる気品だ」

 

 セルアも感心していた。ずっと黙ってた黒瀬が口を開く。

 

「優子はほんまもんの姫様だったことがあるから」

「そうなんだ。時代劇のお姫様が似合いそうだと思ったんだよ」

 

 俺の優子に対する第一印象。

 

「そうか。世が世ならユウコも私と同じ立場だったのだな」

 

 セルアには吸血鬼のことを説明済みだ。優子が何百年と生きていることも。

 

「黒瀬くんたら、もう」

「痛っ」

 

 優子が黒瀬の太ももつねっている。

 

「ヒロアさん、黒瀬君はことあるごとに私を年寄り扱いするの」

 

 そう言う優子は、見た目通りの年齢相応に見える。可愛いとこあるね。

 

「ははっ。俺には君らがラブラブカップルにしか見えないけどな」

 

 ふいと目を逸らす黒瀬を愛おしげに見つめる優子に俺はほっこりしていると、振り向いた黒瀬が口角を上げて言う。

 

「ヒロア、お前の演技も優子並みだったな」

「あーそれはな、生前の経験だ。俺、リーマン、勤め人だったんでな」

 

 色々と自分に関する記憶はぼやけているのに、何故だか会社勤めのことはよく覚えている。

 

「人をさ、ナチュラルに見下すタイプの経営者や役員を手本にしたんだ。見事なもんだろう?」

「そうか、ヒロアは宮使えをしていたか」

 

 セルアは俺を慈しむような目で見て、体を寄せてくる。どんな想像してるのかわからないが、そこまで悲惨でもないぞ? それとくっつくな。当たってるだろ。

 

「宮仕えでもな、社畜だ社畜」

「社畜って?」

 

 黒瀬と俺、昭和と平成。ギャップは大きい。

 

「黒瀬の時代で言うと……猛烈サラリーマン?」

「あーそれか」

「いやもっと酷い意味だけどな」

 

 すると足音が近づいてきたので、全員姿勢を正す。戸を開けて入ってきたのは村長だった。

 

「準備が整いましてございます」

「そうか。では」

 

 セルアを囲むように俺たちは、村人達がずらっと並んで頭を下げている中を歩いていく。落ち着かない。

 

「村長、再度言う。あまり畏るな。(あるじ)様の希望でもある」

「はっ、し、しかし」

「案ずるな。この村では旅人として扱えば良い」

 

 案内された家は、外から見るよりずっと中が広い。高い天井のせいか。板張りで、大きな囲炉裏が鎮座している。和風なんだよな。

 

「は、はい。後で夕食(ゆうげ)をお届けに参ります」

「わかっているとは思うが、それも程々にな。(あるじ)様は贅沢を好まぬ」

「ははっ」

 

 村長が出て行った後で、打ち合わせだ。

 

「これで私らは、帝国で一番多く見かける『国境付近を視察する低位の皇族』だと思われただろう」

「そんなに多いのか」

「ああ。私の妹が良い例だ。皇位継承はほぼない立場、戦や政治役立てられない魔導を使う者、これらは自然と暇を持て余すようになる」

 

 世知辛いなぁ。

 

「そこで人手に困っている役人どもが体よく国境周辺への視察へ送り込む。費用はもちろん皇族持ちだ」

 

 参勤交代の帝国版みたいなものかぁ。拘束されるし財を溜め込むのも阻止出来る。

 

「お前達三人だけ連れている私など、いよいよ末端の皇族だと印象付けられたはずだ」

「ちなみに皇女や皇子って何人ぐらいるんだ?」

「私も全ては知らぬ。ただ五十は下らぬだろう」

 

 お、おい……皇帝の精力は絶倫どころじゃない、底なしだわ。

 

「お食事でございます」

 

 村長夫妻と娘さんがテキパキと配膳していく。すごく手慣れてるなぁ。並び終えると、村長は一礼して

 

「では用事があれば、お申し付けください」

 

 と出て行った。それを確認したら俺はすぐに小瓶を幾つか取り出す。それの中身を料理にふりかけていると、黒瀬が訊いてきた。

 

「それ、調味料か?」

「いつもの毒味だよ……セルア、催眠系の薬が仕込まれてるぜ」

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