前回のあらすじ。
前皇帝ラデス(セルアの
そして慌てた小隊長が入ってきた。
「へ、陛下、避難を! 大規模な敵襲です!」
窓の外が暗くなる。
大きな重低音、激しい揺れ、歪む壁と天井、舞い上がる土煙。
俺を見て何か言いかけた前皇帝ラデスの姿が消える。秘書官の転移魔導だ。
代わりに天井から飛び出す人の胴体よりも太いモノ。嘴だ!
崩れた天井、そこからのぞく姿。
鷹? 鷲? とにかく見た目は猛禽類。
けどサイズがおかしい。
広げた翼は数メートルもあるバカデカい鷹、そいつと目が合った瞬間に小隊長を連れて大通りへと転移する。
そこで俺達二人が目にした光景。
空を埋め尽くすように飛び回る大小の鷹達。
デカい鷹が建物へ取りついては、嘴で建物を破壊。
半壊したところへ小型――とは言え人間より大きいが――鷹が目にも止まらぬ速さで急降下してきて兵士を掴むと、飛び去っていく。
なんだこいつら?
兵士をどこかへ連れてくことが目的か!
兵士達も小銃で反撃を試みるが、建物の中からだと射角も満足に取れず、身体を晒した途端に小型の鷹が降ってくるので苦戦している。
これはまずい。
振り返ると小隊長にも急降下で小型の鷹が迫っていた。俺は咄嗟に雷撃を喰らわせる。
やつは黒焦げになり、地面へと突き刺さる。##
「小隊長! 物陰に隠れて!」
「感謝する!」
小隊長に隠れるよう伝えた俺は携行食を齧りながら反撃に出る。
デカ鷹の背中へ転移、脊椎辺りに雷撃魔導を放つ。羽毛が燃え、肉が焦げる匂い。
心臓を止めるだけで充分だが、ちょっと威力強すぎたか。
次へ転移。
雷撃の威力を絞る。デカ鷹は電池が切れたオモチャのように動かなくなる。
よし。
さ、次だ。
「使える者は雷撃魔導を使え! 魔導を使う者を守れ! 上空を警戒しろ!」
小隊長のよく通る声がこだまする。
そうだ。
いくら爆裂する弾を撃ち出す小銃でもあの図体には有効じゃない。
加えて小型の鷹は速すぎてまともに当てられない。
「頭を狙え!」
「動きが速い!」
「この野郎!」
そもそも小銃は接近戦には向いてない。CQB訓練なんかやってないだろうし。
通常の軍みたいに剣や槍の方が向いている。最新鋭の武装ゆえの皮肉な状況。
───まさか敵はそう判断した?
考えるのは後だ。次だ次。
おっと俺を目掛けて小型の鷹が急接近してきたが、感知魔導でお見通し。二メートルまで近づいたら転移で逃げて、気体魔導でそいつの肺から酸素を抜く。
代償を最低限に抑える使い方で効果は抜群。地面へと落ちていく小型の鷹どもを横目で見つつ、次のターゲットへと転移する。
ふと大きな影が差す。
見上げるとお馴染みの白い巨体、ドラゴンだ。
おお、セルアは霊峰で出会ったドラゴンみたいに自身の赤い
それに貫かれた鷹どもは力が抜けたように墜落していく。
へぇ。レーザーをマスターしたか。見ただけで同じこと出来るんだな。
上空の鷹どもはセルアドラゴンに任せて、俺は他の兵士と連係して建物に取りつこうと低空飛行しているデカい鷹、を次々と屠る。
途中空腹感が出て慌てて携行食を齧る。数が多いからな、必要最低限の威力に絞らないと。
転移でデカい鷹にとりつき、小型のやつは酸欠死させる。それをひたすら繰り返し、体感で三十分は経っただろうか。
通りや建物の上に鷹どもの死骸が空からばら撒いたかのように、無秩序に散らばる頃になると、残りわずかのやつらは何処ともなく去っていった。
地上へと戻りぐにゃりと倒れているセルアのもとへ行く。ドラゴン変化魔導の代償でセルアは泥酔したサラリーマンみたいになっていた。
「セルア、お疲れ。レーザーすごかったぞ」
「……れーざー?」
「角から出してたやつだよ」
「あれか……気がついたら出せるようになった」
「あとは任せてゆっくり休めよ」
「……ああ」
侍女メブが駆けつけてきた。彼女の服もあちこち破れていて、戦いの激しさを物語っている。
メブはセルアを抱き上げると足早に去っていく。
一刻(一時間)後、被害状況がまとまった。
行方不明の兵士は百名以上にのぼり、負傷者はその倍以上。見たところ過半数の兵士が戦闘不能となった計算だ。
しかも食糧庫や装甲バボ達もやられてしまった。
うーん。詰んだな。
「撤退命令が下された。日が暮れる前にはここを引き払う。転移魔導を使える魔導士は可能な限りの人数を上陸地点へ飛ばせ」
師団長の号令一下で陣地はさらに慌ただしくなった。
撤退準備の最中、鷹どもの死骸に異変が起きた。死骸が、そうまるでザクロみたいに弾けて、くるりと裏返った。
赤黒い筋組織の中に白いものが大量に混ざっている。
またあれか! 白い粘液!
「うわ!」
「下がれ!」
「火炎魔導使いを呼べっ!」
「油を持ってこい!」
現場はさらに大混乱だ。肉が焦げる匂いの中、負傷者を優先的に転移が始まる。
転移魔導も跳べる距離や人数に個人差がある為、リレー方式となった。
俺は代償との兼ね合いから比較的短い距離を担当することになった。携行食を絶えず齧ってな。
他の転移魔導使いに聞いたら、体毛だったり、身体水分や脂肪分とのこと。最後のやつ、ダイエットになるなと思ったら、大柄でスリムな女性兵士だった。元はムチムチで巨乳だったらしい。
「おかげで服は色んな寸法を揃えなければならないがな」
太ったり痩せたりが忙しいそうだ。
こうして陸戦隊や増援の兵士は沖に停泊している軍艦へと戻り、短時間で撤退は終わった。
だが俺達はあの白い粘液に感染している疑いがある。
なので雷撃魔導を使う兵士が総動員で全員を甲板でスキャンしていく。異常なしと判断された者から艦内へと入る。
その作業も終わり、残すところ後わずか。
潮風が気持ちいい。
俺はセルアが寝ている簡易ベッドに腰掛ける。
「さ、俺の受け持ちでセルアが最後だ」
未だ脱力状態で満足に身体が動かせないセルア。
威力を極限まで絞り、セルアの体内を
よし。
異常なし。
「……」
「無理せず安静にしとこう。俺は大丈夫だから」
何か言おうと口を開きかけたセルアを制し、手を握る。
セルアはゆっくり頷いた。ドラゴンに変化した上、
あ、いかん。俺は慌ててセルアの豊かな胸部から目を逸らす。
しおらしく寝ているセルアを見ていたせいか、妙にムラムラしてきた。
まずいな。十五歳の肉体よ鎮まれ! 今はそんな場合じゃないぞ。
「大変だったね」
目を逸らした方向に医療生化学院長ラデスが立っていたので、慌てて立ち上がる。
「お疲れのところ悪いが、ヒロア君に見てもらいたいものがあってね。艦艇の格納庫に運ばせてある。来てくれるかね?」
「は、はい」
ラデスと俺は女秘書官の転移で艦内へ。
「あ、お、これは?」
そこには仰向けに寝ている二体の巨大な人、じゃなく、えっと何だ?
鎧を着た男女に見えるそれは、まるで均整の取れたプロポーションの埴輪だ。
ロボットだろうか?
「これらは霊峰で発掘されたものでね。我々は巨人の恋人と呼んでいる」
「はぁ、いえ! はい」
目が引き寄せられて思わず生返事してしまった。
全長十メートルは超えてる巨人に近づき、まず頭の方を観察する。
顔はなんていうか彫刻みたいで、生物っぽさをまるで感じさせない。
触ってみるとシリコンみたいな手触り。生物なら、例えば毛穴があったり、シミやホクロがあったりするが、これは作り物感に溢れて“綺麗”すぎるんだ。
鎧らしきものを叩いてみたりしたが材質は想像もつかない。にぶい光沢を放つ金属のようにもプラスチックのようにも見える。
男の方は右肩から先が欠損していて、切断面を見ると、ロースハムの切り口みたいだった。白っぽい骨のようなものを半透明の何かが包んでいる。
が、機械のようなものは見当たらない。
果たしてこれは生き物なのだろうか?
それともロボなのか?