次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第七十話 サラリーマンは気楽な稼業じゃねぇ!

前回のあらすじ。

厄災生物達の一斉攻撃にあい、転移で軍艦へと撤退したら、そこで男女ペアの巨人を見せられた。

 

「なんだと思うかね?」

 

ラデスの質問に俺は正直に答えた。

 

「わかりません。生物のようにもロボット、つまり人工的なものにも見えます」

「ふーむ。君の世界の知識をもってしても判断つかないかね」

「別に学者じゃないただの市民ですから」

 

そう答えるとラデスは口の端を上げて手を叩く。

 

「はっはっは。君のいたところでは随分と学識のある市民が多いんだね」

「さっき説明しましたけど義務教育というものがありますし、その気になればあらゆる情報が手に入りるので独学である程度は学べますから」

「なんとも羨ましい環境だ」

 

すっと真顔になったラデスが語り始めた。

 

「『皇帝の目と手は全土に及ぶ』、聞いたことあるかな?」

「はい」

「あの仕組みは何も帝国民の監視や宗教の芽を摘むだけを目的としていないんだ」

「はあ」

「どんな些細な情報も彼らは逃さず集めるが、それは気象、地学、そして生物学や民間伝承にまで多岐に及んでいるんだよ」

「……」

「そうやって集まってきた情報を精査して記録していくのだ。そうすれば豪雨による水害を予測したり、疫病が流行る兆候も早期に発見できる」

「すごいですね」

「ただね、その知見を持ってしても霊峰から発掘される遺物は我々にとって全く不明なものが多い。あの空を飛ぶ兵器も暗闇の中を手探りで探るように研究してやっと『空を飛ぶ乗り物』だと判明したのさ。三十年はかかった。そして扱い方に至るにはそこから十年の月日を要した」

「そんなに……」

「違う文明世界の記憶を持つ君に、我らの関心が膨れ上がる理由はわかるだろう?」

「……まあそれは」

 

俺はピンときたので、ラデスに話すことにした。

 

「これはあくまでも空想物語好きな俺が思ったことです。的外れという可能性も充分あります」

「構わんよ。あらゆる可能性を無視はできない」

「ひとつ目。これは人型の人工物、使い道は大きさからして兵器でしょう」

「ほう」

「男の方の傷口を見る限り、生物のようですが、生体部品、つまり生き物の身体を使ったとも考えられます」

「ふむ。クローン技術ともリンクするかね」

「はい。金属などを使って生産して、そしてそれを整備していく手間暇やコスト、自己修復する生物の一部を使うコスト、それを比較して安価な方を選ぶと思います」

「なるほど。コストかね」

「運用性もです。あの空飛ぶ兵器もおそらく整備が大変なはずです」

「わかるかね。事故で墜落した機体もあるのだが、さっぱり手付かずでね。使われている金属が何なのかもわかっていない。ハルミヤ鋼に似ているが、似ているだけで別物だ」

 

渋面でぼやくラデス。わかるよ。例えばアルミだったとしたら、ここじゃまだ作れないだろうし。

 

「ふたつ目。これはこういう生物だという可能性。もしかするとはるか昔、この惑星(ほし)はこの巨人が支配する世界だった可能性もあります」

「ほう」

「俺の記憶にある世界でも太古には、かなり大きな爬虫類が惑星(ほし)の支配者でした。種類が違いますが、ドラゴンみたいな」

「そうなのかね」

「ええ。でも彼らは滅びました。化石として出土していますが、滅びた原因は諸説ありますが決定的なものはまだわかっていません」

「ふうむ」

 

ラデスは顎に手をやり考え始めたようだ。

 

「科学技術や学問がそこそこ発展してもわからないことが多い、むしろわかると更にわからないことが増えると言いますか」

「それだよ。その通りだ」

 

ラデスが同意する。

 

「君は帝国民になる気はあるかね?」

「ええと、その気はありません」

「セルアを娶りたいのだろう?」

「それは……」

 

いや、それは無理だ、俺の心情的に。

 

「お、お言葉ですがまず平民の俺には過ぎた話です」

「皇族に準じる身分を用意するけどね」

「それだけじゃなくて! 彼女は娘みたいにしか思えなくなってきて……」

「なんと。仲睦まじいとの報告は多数あるが?」

 

ぐぬぬ。特務部隊の奴らめ!

 

「あることがきっかけで妻や娘のことをはっきりと思い出したんです。それ以来、彼女を娘みたいにしか思えなくて」

「そうかね。ただ君の視点や着想は是非この手に欲しいんだがね。“殲滅の魔女”の怒りを買わない落とし所を探っていくとしよう」

「……」

 

俺が帝国民となることをイズミはどう思うか。全くわからないな。 

本音を言ってダメ出しをしておこう。

 

「セルアを助けた行きがかり上、霊峰まで連れていくことになって、ある程度好意を抱いたのは事実です。彼女の境遇に同情するものがありますし。ただ伴侶としてどうかと問われたら……」

 

簡単な話、セルアを抱けるかってことだ。答えはNO。それは無理だ。

 

「君は嘘を言わないね」

「えっ? あ、はあ。だって」

「だって?」

「そこの女性、嘘を見抜ける魔導使いでは?」

 

俺はラデスの後ろに控えている女秘書官を見やる。彼女は身じろぎひとつせず、無表情のままだ。

 

「なんと? そう思っていたのかね」

「違うんですか?」

「はっはっは。違うよ」

 

ラデスは心底おかしそうに笑った。

 

「え? だって特務部隊のカシヨはいつも……」

 

特務部隊のカシヨと名乗った神経質そうなあいつは、取り調べの時から一貫して嘘発見器代わりの女と一緒にいた。

 

「皇帝をやっていたら嘘なんてすぐにわかるのさ」

「あ……」

 

そうだ。目の前の若く見える男は、千年帝国という大国を治めるトップをやっていたんだ。

 

「人が嘘をつくと必ずわかる。そういう風に育てられ、皇帝となった」

「す、すみません」

「謝ることはないさ。君があまりにも自然体で話すから、私も楽ではあったんだよ。何かと嘘をつこうとする者が私の周囲には絶えなかったのでね」

「……」

「それに私へ取り入ろうとも思っていない」

「え? まぁそうですが」

 

何だよそれって思ったが、立場ある人間はそう思うのが普通のことか。

 

「ふふふ。皇女を手篭めにして、私に取り入れば帝国での地位は安泰なのだが」

「あいにくとその手の野心は毛の先ほども持ち合わせていません。そもそも自分で努力して掴んだならともかく、ズルして手に入れた不相応な立場に何の価値もないですし」

 

悪銭身につかず。宝くじに当選してそれを元手に何かを成し得たなんて話も聞いたことがない。

 

「若者が老人のようなことを口にする。君は、ふふっ、面白いね。しかし君を手元に置きたいというのを諦める気もない」

 

急に纏う雰囲気が変わるラデス。あ、これ権力者が無茶振りする時のアレだ。

 

「異端の者ばかりを集めた部署があってね、そうだな、君にはそこの顧問となってもらいたい」

「え?」 

 

俺は断ったよな? 

 

「独立独歩の部署でね、完全な成果主義。予算の制限もない」

「えっと、それは……」

「ディーザで宿を営む男」

「はあ?」

 

帝国東部にある迷宮都市ディーザ。そこで貴族が後ろ盾の宿を営むガロウ。そして娘のベレタとルサ。

彼女らの子守りをしていた日々が鮮明に甦る。

 

「その宿の実質的な持ち主はとある貴族だが、最近その利権を横取りしようと目論む皇族がいてね」

「えっ?」

「皇族には逆らえない貴族はその宿を簡単に手放すだろう。さて」

「……」

 

俺は黙って聞く。

 

「その宿を手に入れたがっている皇族は幼女趣味の持ち主だ。後はわかるね?」

 

なんてこった。

ラデス、ガロウ達のことを盾に脅してきてる!

 

「私ならその幼女趣味の皇族をどうとでもできるんだよ」

「くっ。わ、わかりました! その任、ありがたく拝命します!」

「そうかい。良かった。その宿も安泰だよ」

 

まさかここでも宮仕えになるとは想像もしなかった。しかも中間管理職。最悪だ。

 

「君の肩書き、宿舎も準備してある。そうそうセルアもその部署へ配属だ」

「……はい」

「おめでとう。君も()えある千年帝国の臣民だ。明日からよろしく頼む」

「え? でも」

「今回の作戦は失敗だ。我々には準備が足りなかった。水際での迎撃は抜かりなくするがね。それに……」

 

ラデスは横たわる巨人は視線を送る。

 

「まだまだわかってないことが多すぎる。あの厄災生物にしたってそうさ。彼らはいつからいるのか。どこから来たのか」

「確かにそうですね」

「医療生科学院で良き成果を出せると期待してるよ。職場では顔を合わせることもないが、時々会いに行くさ」

「は、はい」

「楽しみだなぁ」

 

その瞬間、ラデスと女秘書官の姿は消える。

悪い大人っていかにもな悪人顔なんてしていない。柔和でにこやかに近づいてきてくる。

ちっ。やっぱ帝国の前皇帝だ。無理やりに俺を手元に置きやがった。

――ガロウ達が助かるなら悪い気はしないがな。

 

甲板へと上がると小隊長が慌てて走ってきた。

 

「ヒ、ヒロア! お前、医療生化学院の顧問だと通達が来たぞ!」

 

小隊長から受け取った紙には次のことが書かれていた。

 

『医療生化学院特殊遺物運用班 名誉顧問に命ず』

 

「お前、帝国民じゃなかったよな?」

「そっすよ」

「じゃこれは何だ?」

「前皇帝陛下にさっき拝命しました」

「そうか……」

 

それきり小隊長は黙ってしまった。

 

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