次から次へと! 少年魔導士の受難は続く   作:はるゆめ

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第七十一話 転職と引っ越し

 前回のあらすじ。

 前皇帝ラデスに脅され(ガロウ達の安全とバーター)、俺は帝国医療生化学院特殊遺物運用班の名誉顧問やらに就任した。  

 

 一緒に戦った帝国軍兵士たちに別れを告げ、俺とセルアは帝都にほど近い医療生化学院へと連れてこられた。

 

 高層マンション並みの建物が俺たちの前に一際異質な存在感を持って聳え立っている。

 

「この建物は昔の皇帝宮でな」

 

 セルアが説明してくれた。だからこその威圧感か。壁は石かコンクリートかわからないがツルツルの白い外壁だ。

 

 俺たちの後ろに控えている二人。セルア付きの慇懃無礼な侍女メブ、そしてどういうカラクリなのか獣化兵部隊からエックスが護衛として配置された。

 

 覆面をした女兵士(エックス)に小声で話しかける。

 

「おい、どんな人事だよ」

「志願したんです」

 

 覆面からのぞく目は真っ直ぐに俺を見て迷いなく答えた。

 

「はぁ、そうか」

 

 小声で話す俺たちを怪訝な顔したセルアが口を開く。

 

「ヒロア、その者は知り合いか?」

「こいつはな、エックス、の“一族”だよ」

「……そうか」

 

 セルアもメブの前なので合わせてくれた。帝国にエックスのことは秘密にしてあるからだ。

 

「それにしてもデカいな」

 

 エントランスに立ち、上を見上げる俺に声をかける人物が現れた。

 

「セルア様とヒロア様ですね」

「あ、うん。そうだ」

「お迎えにあがりました。特殊遺物運用班の班長、デエマです」

 

 デエマと名乗ったのはこの大陸では珍しい銀髪の女だった。好奇心を隠せない様子で、ジロジロと俺を見てくる。

 

「さ、中へ。ご案内します」

「よろしく」

 

 高さが数メートルある入り口へとデエマに続いて俺たちは中へと入った。

 

 一歩踏み入れると、ありとあらゆるものが所狭しに並べられたホールで、俺は圧倒される。

 

 博物館の引っ越しで展示物をそこら中に放り投げている感じだ。

 

 奇妙な形をした金属の箱らしきもの、巨大な球根のようなもの、自動販売機サイズの石板、鉢植えの植物、何でもありだ。

 

「申し訳ありません。ご覧のように散らかっております。研究員や実験体はいくらでも補充されるのですが、雑用をこなす人員はなかなか来なくて……」

 

 さらっと“実験体”と口走ったデエマ。予想していたが人体実験が普通に行われているんだろう。

 

「こちらでございます」

 

 しぼらく歩いた後、通されたのは広大な空間。体育館の倍以上あらそうだ。

 

「ここは?」

「名誉顧問ヒロア様の執務室兼私室です」

「へぇ」

 

 がらんとした空間だ。

 奥の方に生活スペースだろうか、ソファやベッドが置かれて、その向こうには仕切り見える。

 

「ここでセルア様と共同で暮らしていただきます」

 

 さらっとデエマが告げる。

 

「随分と合理的なんだな」

「申し訳ありません、上からの指示でございます」

 

 俺の皮肉に対して、デエマは頭を下げた。ラデスは俺とセルアに早く子作りさせたいらしい。意図が見え見えだぞ。

 

「ま、拒否権ないわけだし」

 

 セルアと二人で奥の生活スペースへと歩み寄る。小さく見えたが、雑居ビルのワンフロアほどの広さはある。

 

 俺はバックパックひとつに生活必需品を全て詰め込んでる。それをベッドに降ろして引っ越し完了だ。

 

 仕切りについているドアをそれぞれ開けたら、キッチン、風呂やトイレがあった。

 

「セルアの荷物は……」

「明日にでも皇宮から届くだろう」

 

 皇女さまだからな。たくさんの家具やら衣装やらが運ばれてくると見て間違いない。

「間もなく班員が参ります」

 

 デエマが言うが早いか、ドアを開けて二人の男がやって来た。

 

 珍しくやたら太った中年の男と細身の若い男の組み合わせ。

 

「マベです」

「クドです。よろしくお願いします!」

 

 デブの方がマベ、若い方がクド。マベは素っ気なく余所見しながら、対照的にクドは九十度の礼をした。なるほど。

 

「マベとやら、名誉顧問に対して随分と不遜な態度だな」

 

 冷え冷えとした口調の声を、デブ班員マベへ放つ女。

 セルアだ。皇女モードになっている。

 

「あっ、いえっ、その、ヒロア様! よろしくお願いいたします!」

 

 セルアが睨んだ途端に大慌てで挨拶するマベ。俺はわかるぞ、マベ。

 突然、どこの馬の骨ともわからん若造が名誉顧問なんて肩書きつけてやって来たんだ。

 さぞ面白くないだろう。うんうん。

 俺は気にしないで挨拶を返していくとする。

 

「ヒロアだ。院長のラデス様から任命されたのでよろしく。ここにあるわけのわからない遺物の解析を手伝うので、色々と協力頼むよ」

 

 この場合、役割を演じておくのがセオリーなので俺は尊大に振る舞うことにした。

 それの方が向こうもやりやすいはずだ。

 

「早速ですがヒロア様、見ていただきたいものがございます」

 

 デエマが言った瞬間だった。

 

 

 

 な。

 

 目の前の光景が灰色の空間へと変わった。

 

 あ?

 さっきまでいたところと広さはそう変わらない。

 高いところに天窓もある。

 気配を感じて振り向くと、そこにひとりの少女が立っていた。

 

 セルアより幼く見える少女の髪は紫色が混ざった銀色。

 皇族の特徴だ。

 

「来てくれた」

「誰?」

「シアータ。第四十五皇女」

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