ホグワーツ解決クラブ!   作:@sorano1214

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それぞれの出会い

・フウア

 

店は朝からホグワーツ生とその連れで大盛況だった。

 

「フウアー!あっちの棚の羊皮紙、補充お願い!」

 

「はーいっ!」

 

「すみませーん!呪文で消える羽根ペンのインクってどこですか?」

 

「はいっ!突き当たり右の棚、下から2段目です!」

 

「ごめんフウア!レジ代わってー!」

 

「はーい、今行くー!」

 

──ホグワーツの新学期が始まる2週間ほど前、ダイアゴン横丁はいつも以上の賑わいを見せる。

今日は特に人が多いみたいで、昼を過ぎても店内はまるで缶詰。空気がぬるくて、動くたびに魔法具の箱がカラカラ鳴った。

 

私はというと、すぐ品切れになる商品を補充するために、倉庫と売り場を何度も行き来していた。

 

「……とはいえ、さすがに多すぎでしょ!!」

 

倉庫の奥で、私は思わず声に出して愚痴をこぼす。

お客さんの相手をするのは好きだけど、ここまで来るとさすがに疲れる。

朝からずっと動きっぱなしだし──少しくらい座っても、誰も怒らないよね?

 

「ふぅ……」

 

埃っぽい床に腰を下ろし、天井を見上げる。昨日多めに仕入れたはずの品も、あっという間に減っていた。そりゃ疲れるはずだ。

 

「フウアー!何サボってんの!?早く運んで!」

 

ダラけすぎたのか、様子を見にきたお母さんに、がっつり怒られた。

 

「だってさー!疲れたんだもん!今日買い出しに行けないじゃん〜!せっかく手紙来てたのに!」

 

「それは悪かったと思ってるわよ。お兄ちゃんが配達から戻ったら店番代わってもらうから、それまでは頼むわよ。」

 

「はぁーい……」

 

まぁ、これも“マクミラン魔法雑貨用品店”に生まれた者の宿命か。

仕方ない。私はしぶしぶ立ち上がり、再び売り場へと戻った。

 

それにしても、お客さんって本当に不思議。

来るときは一気に来るくせに、いざお兄ちゃんが戻る頃には、さっきの混雑が嘘のように静まり返っていた。

 

「なにその顔。げっそりしすぎ。お客さんそんな来てないのに」

 

「アンタが帰ってくるまではすごかったの!あ〜もうちょっと早く戻ってきてよね!」

 

私はレジカウンターにぐったりと寄りかかる。

すると、隣でコトン、と何かが置かれる音がした。ふわりと柑橘系の爽やかな香りが漂ってくる。

 

「お疲れ様、フウア。レモネード入れたわよ」

 

お母さんが笑いながら差し出したグラスを受け取って、一気に喉へ流し込む。

 

「ありがと〜……ぷはーーっ、生き返る〜〜〜……しみる〜〜……」

 

「……大袈裟すぎだろ、お前」

 

と、お兄ちゃんが呆れた顔で言う。

 

──うるさいな。あんたは地獄のピークを知らないだけでしょ。

覚えてろ、今度とびきりの呪いかけるからな──と、心の中で固く誓ったそのとき。

 

チリン、と扉のベルが鳴った。

 

すぐに背筋を伸ばし、笑顔を作って接客モードへ切り替える。

 

「いらっしゃいませー! 何かお探しですか?」

 

入ってきたのは、優しそうな雰囲気の男女と、私と同じくらいの年の女の子の3人組。

すぐに、ホグワーツの新入生とその両親だと察した私は、にこやかに声をかける。

 

「ちょうどホグワーツ入学セール中です! 羊皮紙や羽根ペンのセット、お買い得ですよ!」

 

すると、父親らしき男性が目を細めて私を見てこう言った。

 

「おお、そうかい。それはいいことを聞いたよ。──お嬢さんが……フウアちゃんかな?」

 

「え、あ……? はい、そうですけど……?」

 

思っていたのと違う反応にちょっと戸惑っていると、店の奥から声がした。

 

「まぁ!ローズライトさんじゃない!お久しぶり〜!」

 

お母さんが顔を出し、嬉しそうにその男性と話し始めた。

 

どうやら、二人は昔からの知り合いらしい。

話を聞くに、商人組合のつながりで付き合いがあるようだった。

 

「この暑さで、植物たちにはちょっと厳しくてね。今は温室で育ててるんだけど、温度調整が大変で……」

 

「まあまあ、それは大変ですね。魔法薬店の店長さんも、薬草の値上がりに困ってましたわ」

 

「なるべく値段は変えたくないんですが……育てられる数が減ると、どうしてもね」

 

「だったら、魔法薬店の店長に相談してみては? 植物が暑さに耐えられるポーションを作ってもらえたら、お互いに助かるでしょう?」

 

「おお! それは名案ですな、マクミランさん。いや〜、あなたの顔の広さにはいつも助けられますよ」

 

──ふと、女の子の方に目をやる。

 

黒い髪に、赤い目。そして……左目には、小さな黄色いバラが咲いていた。

“咲いていた”というより、“生えている”という表現のほうがしっくりくる。

 

オシャレ……って感じじゃない。私のまわりにこういう子はいなかったし、多分あれは──呪い、だ。

 

そう思ったのは、彼女の様子が物語っていたから。

彼女はお母さんの背に隠れるようにして、うつむき加減で立っていた。

その態度には、周囲の視線を避けたいという思いが滲んでいる。

 

──きっと、呪いを見られるのが嫌なんだろうな。

 

マルを見て、小さい頃のことを思い出した。

 

男兄弟の中で育った私は、周りと比べるとちょっと“女の子らしくない”タイプだった。クディッチに夢中だったし、呪文のかけ合いごっこが何より楽しかった。でも、そんな私と気が合う同い年の女の子は、ほとんどいなかった。

 

自然と私は“浮いた存在”になって、だんだん「私が変なんだ」と思うようになった。だから、ある時から女の子らしくしようと頑張ってみた。自分のことはなるべく話さない。少し大人しくして、にこにこしていれば――友達ができた。

 

でも、その時にできた友達とは、どこか心の距離があって。みんなと一緒にいるのに、なぜか寂しくて、自信が持てなくて。つい下を向いてばかりいた。結局、その関係は自然に消えてしまったけど――今でも、あの気持ちはよく覚えてる。

 

だから、今、目の前の女の子を見た時。

「同じだ。」と、そう思った。

 

その子は、お母さんの背中に少し隠れるように立っていて、左目に黄色いバラのようなものが咲いていた。呪いだろうか――と直感で思った。

 

その目を、誰にも見られたくない。そんな雰囲気が、その子の仕草からにじみ出ていた。

 

そして気がつけば、私は自然とその子に声をかけていた。

 

「ねぇ、君。今日はホグワーツの学用品を買いに来たの? 新入生?」

 

「えっ、あっ、あの、う、うん……」

 

いきなり話しかけられて驚いたのか、その子――女の子は戸惑いながらも、答えてくれた。

 

「いきなり話しかけちゃってごめんね、びっくりしたよね。私、フウア! あなたは?」

 

「マル……です。そう、なの。ホグワーツに入学するから、お母さんとお父さんと……買い物に来たの……」

 

少し恥ずかしそうに、でも一生懸命返してくれるマル。頬を赤らめながら、私の目を見てくれたのが嬉しかった。

 

一言で言えば――マルは可愛い。

 

物静かで、ちょっと不器用。でも、勇気を出して私と話そうとしてくれるその姿が、なんだか放っておけない気持ちにさせる。

 

「そっかそっか!よろしくね、マル!あ、呼び捨てで大丈夫だった?」

 

「うん…大丈夫。ありがとう。あの、えぇと………」

 

「私のことも呼び捨てでフウアでいいよ!呼び捨て以外でも好きな呼び方で大丈夫だから!」

 

「……!ありがとう。フウアちゃん。」

 

・マル

 

やっぱり……私には、まだ早かったのかもしれない。

 

勇気を出して、「学用品の買い物に行きたい」と両親に伝えた。

それなのに、今、私は――ダイアゴン横丁に来たことを後悔していた。

 

こんなに人が多いなんて、思ってなかった。

 

行き交う魔法使いたちの視線が、どうしても気になってしまう。

そんなはずないと分かってるのに、みんなが私を見ている気がする。

――いや、正確には、私の《左目に咲いたバラ》を。

 

それは、小さな頃の出来事だった。

妹と一緒に、おもちゃの杖で魔法の練習をしていた時のこと。

 

「オーキデウス!」

花を出す呪文。将来はお父さんとお母さんのお店を手伝うんだって、2人で張り切っていた。

でも、その日――妹の呪文が、誤って私の顔に命中した。

 

その瞬間、私の左目に、黄色いバラが咲いた。

呪文は解除できず、バラはそのまま残ってしまった。

 

妹は泣いて、何度も謝ってくれた。

あの時の、涙でぐしゃぐしゃになった顔――今でも鮮明に覚えている。

 

その後からだ。

お父さんとお母さんは、厳しくなった。

2人きりで外に出ることを、もう許してくれなくなった。

 

今なら分かる。

あれは、心配してくれていたからだって。

 

でも、当時の私は違った。

「私たちのことを迷惑に思ってるんだ」――そんな風に、受け取ってしまった。

 

きっと、妹も同じだったんだと思う。

遊びに行きたい気持ちがずっと溜まってて、ある日、こっそり私に言った。

 

「マル……川に行こうよ。久しぶりに、2人だけで遊ぼ?」

 

私は、すぐに頷いた。

久しぶりの外。楽しくて、嬉しくて、2人で思いっきりはしゃいだ。

 

つい、川の奥の方まで行ってしまった。

それが――良くなかった。

 

妹は、

あの日から、帰ってこなかった。

 

妹が川に流されている時、私は何もできなかった。腰が抜けて、わなわなと震えているだけで私を探しに来た両親が駆けつけた時にはもう手遅れだった。

 

その日から両親は私にうんと甘くなった。

何度も私のせいじゃない、厳しくしすぎた自分たちが悪い。もっと子供のことを見て考えていればああはならなかった。と言っていたけれど、そう思うことはできなかった。

 

私が止めなかったせいで。私がお姉ちゃんだったのに。あの時何も出来なかったからだ。

ちゃんと自分の意思が持てるようになりたい。自分の言葉を伝えられるようになりたい。自分を変えたい。

強く、強くそう思った。

だけど、そう簡単には変えられなくて、でも、いつまで経っても過去に引きずられていたら、妹に顔向けできない。だから、ホグワーツ入学をきっかけにちゃんと向き合って変わろうと思った。

 

それで言ってみたのに、この有様。

やっぱり、私ってダメだな。

 

「ねぇ、君。今日はホグワーツの学用品を買いに来たの? 新入生?」

 

この子だって私に話しかけてくれているのに、上手く答えることすらできない。

自分に自信がなくて、内気だから、友達は全然出来なかった。

それでも、両親は私を愛してくれて大切に育ててくれているのだからそれでいい……そうやって両親の優しさに漬け込んで、自分に甘いままだ。

 

今変われないのならいつ変わるのだろう。

両親は、お店の人と話していて私に気づいてない。自分から動くなら今だ。

きっと、今しかない。両親が私が困ってることに気づいたら、きっと間に割って助けてしまうから。

 

「えっ、あっ、あの、う、うん……」

 

びっくりした。声がひっくり返って上ずってしまっている。なんて酷い話し方なんだろう。恥ずかしいな。穴があったら入りたいな。きっと引かれるだろうな。だって、私の顔、変だし。話し方も変なだったら、もう_________

 

呆れられると身構えたら、

 

「いきなり話しかけちゃってごめんね、びっくりしたよね。私、フウア! あなたは?」

 

その子は___フウアちゃんは、何ともなかったかのように私に手を差し出して、微笑みかけてくれた。

 

「いきなり話しかけちゃってごめんね、びっくりしたよね。私、フウア! あなたは?」

 

手汗を滲ませながら、フウアちゃんとゆっくりと握手を交わした。フウアちゃんの手は、歳の割にガッシリとしていて暖かった。きっと、沢山道具の手入れをしたりお店のお手伝いをしてこういう手になったんだろうな。

 

「マル……です。そう、なの。ホグワーツに入学するから、お母さんとお父さんと……買い物に来たの……」

 

「そっかそっか!よろしくね、マル!あ、呼び捨てで大丈夫だった?」

 

「うん…大丈夫。ありがとう。あの、えぇと………」

 

「私のことも呼び捨てでフウアでいいよ!呼び捨て以外でも好きな呼び方で大丈夫だから!」

 

「……!ありがとう。フウアちゃん。」

 

正直泣きそうだった。でも、いきなり泣いちゃうと困らせちゃうから、頑張って我慢した。勇気をだして、話をしてよかったな。フウアちゃん、とってもいい子だな。

優しいな。フウアちゃんの暖かさに胸がいっぱいになった。こんなに嬉しくて満たされた気持ちになれたのは妹が死んでから初めてのことだった。

 

「…それで、今日は何を買いに来たの?」

 

「基本的に…小物は家にあるので事足りると思うんだけど、せっかく入学するんだから入学祝いに一新しよう、って2人が…。」

 

「へぇー!それは腕が鳴るなぁ!ちょっとこっちに来てくれる?紹介したい"オススメ"があるんだ〜!」

 

「わっ、うん!」

 

フウアちゃんは私の腕を引っ張ってとあるコーナーの一角に案内した。

手に持てるくらいの革のケースが並べられている。新商品!女子学生に大人気!と、大々的に宣伝されている。

女の子に人気なら、こんな以下にもシンプルな革製品じゃなくて、もっと可愛らしい見た目のものじゃ……?と疑問に思っていると、それに答えるかのようにフウアちゃんが営業を始めた。

 

「マル、今これを見てえ、こんなのが女の子たちの間で流行ってるの?って思ったでしょ!」

 

思っていることをピシャリと言い当てられて、思わず目を見開いてしまう。

 

「フウアちゃん、どうしてわかったの?」

 

「たっくさんのお客さんと話してきたからねー!だいたい何を思ってるかわかるもんなんだよ!」

 

さすが商人の娘…すっごく話が上手だ。

フウアちゃんは淀見なくペラペラと商品の解説をしている。

 

「これはね、羽根ペンが傷つかないように保管しておくケースなんだ!羽根ペンの羽のところって柔らかくてすぐに曲がりがちでしょ?そんな悩みを解決するのがこのケース!羽根ペン専用の大きさで作られているからコンパクトでかさばらないし、丈夫さはそのままで軽くなるように工夫して作られているから持ち運びも楽!」

 

「そして!何よりすごいのはこのケース、見た目を自分好みにカスタマイズできます!色は20種類!模様は50種類!組み合わせた呪文をかけるとその通りにケースの見た目が変化するように変身術がかけてあります!マルならー…植物をイメージした優しい緑と花柄の模様にするとピッタリかも!」

 

沢山喋っているはずなのに内容がスラスラと頭に入ってくる。ちゃんと要点は抑えて相手が欲しくなるように話している。すごい。これを私と同い年の子がやってるんだ……。

 

「すごいよフウアちゃん……。とっても欲しくなってきた!」

 

「えへへへへ〜そうでしょ?そうでしょ!お試しで呪文をかけて実際にどう変化するのか見れるから、やってみてよ!模様と色のカタログはここにあるから、見ながら対応する呪文をかければいいよ!」

 

フウアちゃんに言われるがまま私はケースに呪文をかけた。模様も、フウアちゃんに勧められた優しい緑と花柄の組み合わせにした。

 

先程まで地味だった革のケースは見事に色鮮やかで可愛らしい見た目へと変化していた。

 

「すごい!すごいすごい!」

 

「でしょでしょ〜!しかも!今なら新入生限定でケースにつけられるキーホルダーを1個オマケしてまーーす!」

 

「ほんとに!?絶対買うよ!これ!」

 

「毎度ありーーー!」

 

し、しまった…!あまりにも話が上手で、まんまと営業トークに乗ってしまった!

2人で話していると、話が終わったらしい両親とフウアちゃんのお母さんが私たちの所へとやってきた。

 

「おや、マル。随分フウアちゃんと仲良くなったみたいだね。」

 

「あら、せっかく仲良くなったんだし、二人で学用品を買いに行ったらどうしかしら?」

 

フウアちゃんのお母さんの提案にふうあちゃんは目をキラキラと輝かさせて二つ返事で快諾した。

 

「お母さん!それ名案!絶対それがいいよ!!!マルもどう?私たち、両親がお店持ってる同士気が合うと思うんだよね!」

 

さっきまで人混みを怖がっていた私が知り合ったばかり子と2人きり…またあの人混みの中にお父さんとお母さんが居ないまま行くのは不安だったけれど、それでも私の答えは決まっていた。

 

「うん。私、もっとフウアちゃんと仲良くなりたいな。」

 

確かに、私の中でなにかが変わり始めていたのを感じた瞬間だった。

 

・シノ、ソロア

 

ソロアは静かに自宅の門を振り返った。家族は誰も見送ってくれないが、そこに未練はなかった。

 

「行きましょう、ミス・ソロア」

 

マクゴナガル教授の声に促され、彼女の後に続く。

 

通りにはまだ人の姿があった。近所の人々が行き交う中、ソロアは小声で尋ねる。

 

「先生、ここで魔法を使うのでしょうか?」

 

マクゴナガルはすぐに首を横に振った。

「いいえ。マグル——魔法を持たない人々に魔法を見せることは禁じられています。決して公の場で魔法を使ってはなりません。」

 

「……そうなんですね。」

 

「では、まず人目につかない場所へ移動しましょう」

 

そう言って、マクゴナガルは裏路地へと歩を進める。ソロアも後に続いた。

 

人通りの少ない狭い路地に入ると、教授が立ち止まり、杖を取り出す。

 

「ここなら問題ありません。しっかり腕を掴みなさい」

 

ソロアは言われた通りにマクゴナガルの腕を掴んだ。

 

次の瞬間、世界が圧縮されるような感覚に襲われる。肺から空気が押し出され、視界がぐるりと回転した。

 

**ドンッ**

 

足が硬い石畳に着地すると、ソロアは思わず膝を折りそうになった。腹を押さえながら息を整える。

 

「……少し気持ち悪いです」

 

「慣れるまでは仕方がありません。すぐに落ち着きますよ」

 

厳格ながらも落ち着いたマクゴナガルの声に、ソロアはゆっくりと呼吸を整えた。

彼女たちは暗い裏路地にいた。古びたレンガの壁がそびえ、かすかなガス灯の光が揺らめいている。

その先で、一人の少女がスマートフォンを片手に立ち尽くしていた。

 

「……漏れ鍋……漏れ鍋……どこ……?」

 

画面をスライドさせながら、周囲を見回している。

マクゴナガルが静かに歩み寄り、口を開く。

 

「そのような小さな箱では、漏れ鍋は見つかりませんよ」

 

「えっ?」

 

少女——シノは驚いたように顔を上げた。

 

「あなたが探しているのは、ダイアゴン横丁へ通じるパブですね?」

 

「……!はい!そう、なんですけど!」

 

「それも当然です。漏れ鍋は、魔法界の者しか認識できないようになっていますから。」

 

シノはスマホを見つめ、ため息をつく。

「……確かに、見つからないはずですね。」

 

ソロアはそっと前に出て、控えめに尋ねた。

「あなたも……魔法使い、ですか?」

 

シノは少し考えてから頷く。

「たぶん。私、シノ・ブラック!あなたは?」

 

「ソロア・クラーク。よろしく……ね?」

 

シノとソロアはぎこちないながらもお互い握手を交わした。その時、マクゴナガルの目が少しだけ綻んだ。

 

「昨日まで知らなかったんですけどー…。お母さんがいきなり魔女だって言い出して。 」

 

「お母さん?」

 

「うん。手紙押し付けられて、勢いで行くって言いくるめられちゃって……」

 

シノは腕を組み、少し困ったように続ける。

「場所は教えてもらえたんですけど、よくわからなくて。気づいたら迷ってました。」

 

マクゴナガルがシノをじっと見つめ、厳格ながらもどこか感慨深げに口を開く。

 

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「シノ・ブラックです」

 

その瞬間、マクゴナガルの表情が微かに変わる。

 

「……あなたの母親を知っています」

 

シノは目を瞬かせる。

「えっ、本当ですか?」

 

「ええ。……大方、適当なことを言われてほっぽり出されたのでしょう?」

 

シノは少し苦笑しながら、頷いた。

「そうですね。お母さん、詳しいことは教えてくれなくて……。『行けばわかるわよ』って感じで。」

 

「まったく……」マクゴナガルは小さくため息をつき、しかしそれ以上は何も言わなかった。

 

「さて、立ち話もなんです。まずは中へ入りましょう」

 

そう言って、マクゴナガルはシノとソロアを促し、古びた扉を押し開いた。

 

「漏れ鍋」

 

中は薄暗く、ところどころ煤けたレンガの壁が無骨な印象を与える。店の奥では、魔法使いたちが静かに会話を交わしていた。

 

「……すごいですね」

 

シノは辺りを見回しながら、興味深そうに呟く。

マクゴナガルは慣れた様子でカウンターへ向かい、店主と短く言葉を交わした。

 

「ここからダイアゴン横丁へ向かいます。ついてきなさい」

 

そう言って、彼女は奥の扉へと向かった。

シノとソロアは顔を見合わせ、少し緊張しながらも後を追う。

マクゴナガルに案内され、2人は漏れ鍋の奥へと進んだ。

扉を抜けると、そこは狭い裏庭だった。石畳が敷かれ、古びた木箱や樽が無造作に置かれている。その先には、一見すると何の変哲もないレンガの壁がそびえていた。

 

シノが首をかしげる。

「え? ここって行き止まりじゃないですか?」

 

「ふふ、見ていてください」

 

マクゴナガルは微かに微笑むと、杖を取り出し、壁の一部を軽く叩いた。

 

コン、コン、コン……

 

すると——

 

ゴゴゴゴ……

 

レンガの壁が音を立てて波打つように揺れ始めた。まるで生きているかのようにブロックがうねり、ゆっくりと中央が開いていく。

 

その奥に広がっていたのは、色とりどりの看板がひしめき合う賑やかな通り——ダイアゴン横丁だった。

 

「……すごい……」

 

ソロアが小さく息をのむ。

 

「ほんとだ、これならスマホの地図じゃ見つからないはずだわ〜……。」

 

シノも驚いたように呟く。

 

マクゴナガルは満足そうに頷いた。

「さあ、行きましょう。まずはグリンゴッツでお金を下ろしましょうか。」

 

二人は胸の高鳴りを感じながら、魔法界への第一歩を踏み出した。

 

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