アズサ・タイムリープ   作:takuto1341

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アズサ・タイムリープ

「ハァッ、ハァッ…」

 

路地裏に屈み、考える。

 

一体、何回繰り返せば先に進めるだろうか。

 

進んだと思ったらその先に道はなく、戻ってまた道を探す繰り返し。

 

そのループの先で、私はここにいる。

 

最初のループは補習授業部のみんなと最後のテストを控えた夜だった。

 

アリウスの部隊がトリニティを襲撃し、裏切っていた私のいる補習授業部にも刺客を差し向けられた。

 

裏切ったことは自覚していたし、対策のバリケードも作っていた。だが、想定が甘かった。

 

参加していなくとも作戦の指揮はリーダー(錠前サオリ)。こちらの防衛や策を見破られ、補習授業部のみんなは散り散りになり、夜が明けた頃にはすべてが終わっていた。

 

桐藤ナギサは死に、補習授業部は解散。私は必死で繋ぎ止めようとしたが叶わず、それならばもう一度やり直したいと強く願うと、何かが私に入り、気づいたときには最初に教室に集まった時、自分の席の前に立っているところまで戻されていた。

 

そこからは思考と反省の繰り返しだった。

前回の反省を活かし早めに行動を取り、バリケードの配置を変えることで補習授業部への襲撃を対処。だが、黒幕である聖園ミカ率いるアリウスの兵を抑えきれず敗北。そうやって繰り返し、救護騎士団とシスターフッドに協力を仰ぎ襲撃を防ぐことができたのは5回目のループだった。

 

その後、正義実現委員会の事情聴取でカタコンベのことを話し、アリウスへ向かおうとしたがたどり着けずアリウススクワッドの襲撃を止めることは出来ず、その後も試行錯誤し―――

 

現在、ループ55回目。

 

私はサオリに25回負けている。

 

4対1で勝てないのは分かりきっていた。だからまず最初は分断するための拠点での行動パターンを絞った。ここまではうまく行ったが、問題はここからだった。

 

錠前サオリ(リーダー)に勝てない。

 

身体技能、戦闘センス、罠を見破る嗅覚。その全てで負けている。どれだけ罠をはろうと不意打ちをしようと躱され、察知され、押し負ける。純粋に実力が足りていなかった。

 

「どうしたら…」

 

アリウススクワッドの拠点近くの路地裏で考える。どうしたらリーダーを倒せるか。これまで何回も襲撃の前に考えたが、答えは未だに出なかった。

 

「何か…別の方向からのアプローチは…」

 

ふと、懐に大切にしまっていた人形が目に入る。

 

トリニティで初めて友達になった補習授業部の皆、その中でも特に仲良くなった阿慈谷ヒフミから貰った人形であり、アリウスでは決して手に入らないような趣向品。これを見たときリーダーは動きを止めていた。

 

「これを使えば…倒せるかもしれない」

 

アイデアは止まらない。サオリは私が裏切った理由を新しい居場所を守るためだと思っている。それならこの人形を爆弾にすれば―――

 

――錠前サオリ(リーダー)を殺せる――

 

「…フフッ」

 

ふと、自分の口から漏れ出た声に気づく。いま自分は…何をした?

 

近くにあった水溜りが目に入る。そこに映った私は――

 

嗤っていた。

 

「…っっ!!!」

 

自分の奥底から自己嫌悪と怒りがこみ上げる。命の恩人を殺す手段を見つけて嗤っている?しかも初めてできた大切な友人から貰ったものを爆弾にして?ふざけるな!

 

必死に声を押し殺す。唇を噛み切って血が溢れても絶対に漏らさない。ここで気取られたらここまでの準備が無駄になるから。

 

「…でも、それでも…」

 

ここで立ち止まるわけには行かない。これしか道がないのなら、この先があるのなら進まなきゃいけないから。

 

そして、拠点での戦闘が始まる。分断は手筈通り。そこから、新たな位置に罠を張り、不意打ちをする――が、全て阻まれ打倒され、少し重くなった人形が懐からこぼれ落ちる。

 

「…なんだ、これは?」

 

サオリが人形を拾う。

 

その瞬間、隠していた起爆ボタンを押した。

 

人形の中に仕込んでいたヘイロー破壊爆弾が起爆し、爆風に吹き飛ばされてアズサは意識を失った。

 

「……っちゃん、起…て、サ……ちゃん」

 

(アツコ)の声でアズサは意識が戻った。アリウススクワッドが拠点としていた建物は爆発の影響で崩れており、吹き飛ばされたアズサも少なくない傷を負い、しばらく動けそうになかった。そして、爆心地にいた錠前サオリは――

 

死んでいた。人形をとった右手から右上半身は爆発で吹き飛び原形は無く、残った部分も焼け焦げており、ボロボロのコートの切れ端と帽子の残骸だけがその遺体が錠前サオリであると証明していた。

 

「サッちゃん、起きて、ねぇ、起きてよ、サッちゃん」

 

「姫、もう、リーダーは…」

 

残されたアリウススクワッドのメンバーはサオリの遺体のもとに集い、揺り起こそうとする姫を落ち着かせようとしていた。

 

「う…」

 

体を起こそうとして激痛が走る。そして、身じろぎした際に寄りかかっていた壁が崩れ、アリウススクワッドの3人が一斉にこちらを向いた。

 

「…どうする、姫?今なら簡単に敵を討てそうだけど」

 

ミサキが武器を構える。

 

「…いや、いいよ、敵討ちをしたところでサッちゃんは帰ってこないし」

 

(アツコ)が近づいてくる。アズサは動けなかった。

 

「…守りたかったんだよね?新しい居場所を」

 

アツコが語りかける。

 

錠前サオリ(サッちゃん)を殺してまで」

 

言葉が

 

「友達からもらったものを爆弾にしてまで」

 

アズサの心を

 

「他のすべてを犠牲にしてでも自分の居場所を守りたかったんだね?」

 

ズタズタに切り裂いていく。

 

「じゃあね、人殺し。あなたは頑張って光の道を歩いてね。ヒヨリ、ミサキ、帰ろっか。」

 

そう言ってアリウススクワッドは去っていった。

 

動けるようになっても、アズサはトリニティへは帰れなかった。血に濡れた手で、どんな顔で補習授業部に、先生に会えばいいかわからなかった。

 

そして、ブラックマーケットで日銭を稼ぎつつその日暮らしを続けていたある日。

 

世界が(ベアトリーチェ)に染められた。

 

Episode End

 

Bad End

 

【Beatrice End】

 

 

「…え?」

 

気づいたときには、自分の席の前(開始地点)に立っていた。

 

「…ぁ…うぁ…」

 

何も変えられなかったという現実を突きつけられる。

 

髪を鷲掴みにする

 

人を、恩人を殺したのに。

 

アツコの言葉が頭を回り続ける

 

「えっと…大丈夫、ですか?白洲…さん?」

 

様子がおかしいと感じたヒフミが近づいてくる

 

もう、限界だった。

 

「あ"あ"あ"ぁ"あ"あ"あ"ァ"ア" !」

 

ガン!

 

机に頭を打ち付ける。額から血が吹き出るが構わない。何度も。何度も。

 

「えっちょ、ちょっと!何してるんですか!?」

 

ガン!ガン!!バキャァ!!!

 

机が先に限界を迎える。もっと、もっとこの人殺しを壊さないと。

 

机に掛けていた私の銃が目につく。

 

銃を手に取り、銃口を口に含――

 

「一体何をしようとしているんですか!」

 

浦和ハナコに腕を掴まれ止められる。

 

「…離してよ」

 

「離しません。目の前でそんなことをされて黙ってるわけないでしょう」

 

「離してよ!汚れちゃう!」

 

「よ、汚れるって流石に酷く――」

 

「ハナコの手が汚れちゃう!お願いだから…こんな人殺しにもう優しくしないで…」

 

「…え?人殺し?それになぜ私の名前を…」

 

アズサはもう抗う力もなく項垂れていた。

 

そして――

 

「えっと…補習授業部の顧問ってことでシャーレから派遣されてきたんですが…これはどういう状況かな?」

 

先生が教室に入り、今回のループが始まる。

 

―――――――――

 

保健室にてアズサの怪我の治療を行い、事情を聞いてみる。

 

「どうしてあんなことをしていたんだい?」

 

アズサに尋ねるが、アズサは俯いたまま答えない。

 

「…ホームルームには出れそう?」

 

無言で少しだけ頷く。

 

「一緒に行こうか?それとも一人で来る?」

 

「…1人ですぐ行くから大丈夫。先に行って」

 

アズサは俯いたまま答えた。

 

「…そっか、困ったことがあったらいつでも頼ってね。」

 

アズサが頷いたのを確認し、先生は教室に戻った。

 

教室に戻ると、他の3人は席につき、待機していた。

 

「先生、白洲さん…アズサちゃんは大丈夫そうですか?」

 

ヒフミが尋ねる。

 

「うん、怪我も頭の怪我だったとはいえ軽症だしすぐに来るって言っていたよ」

 

そう言っていると教室のドアが開き、アズサが自分の席に座った。

 

「全員揃ったね。それじゃあホームルームを始めようか」

 

先生がそう言ってホームルームが始まった。

 

「それじゃあ皆、初対面だろうし自己紹介から始めようか」

 

そう言って先生から自己紹介が始まり、ヒフミ、コハル、ハナコと続き、アズサも名前だけだが自己紹介を行い、今後の予定を説明したあと、ホームルームは終了した。

 

そして、その日の夜、トリニティ郊外の廃墟にて、アズサはサオリに定期の報告を行っていた。

 

「…そうか、その調子で頼む」

 

報告を聞き終えたサオリはそう言って踵を返す。

 

「…リーダー」

 

「…どうした?アズサ」

 

アズサに呼ばれ、サオリは足を止める。

 

「…ごめん、なんでもない」

 

「…そうか、何かあれば言うといい。できる限りの対処をしよう」

 

そう言ってサオリは去り、トリニティへ帰る途中

 

「どこに行ってたんですか?アズサさん?」

 

物陰からハナコが現れ、アズサを呼び止めた。

 

「…もう気づいてるんでしょ?」

 

アズサは寮へと再び歩き出す。

 

「フフフ♪なんのことでしょうか?」

 

ハナコも背中を追うように歩き出す。

 

「隠さなくていいよ、ハナコなら私がアリウスと繋がっていること、この前の爆破事件に関わっていることぐらい気づくから」

 

「…………」

 

ハナコの表情が消える。

 

「アズサさん、あなたは一体何を…いえ、違いますね。()()()()()()()()()()()()()()()

 

アズサは思わず振り返る。

 

「…すごいね、そこまでわかるなんて」

 

「確証はありませんでしたが…本当なんですね」

 

二人は再び歩き出す。

 

「…それで、アズサさんはこれからどうするんですか?」

 

「…」

 

アズサは悩む。自分で思いつけることはやりきった自信はある。それならばどういったアプローチを取ればいいのか…

 

「…どうしたらいいんだろうね、もう思いつくことは全てやったから、もう何をすればいいかわからないな」

 

「…アズサさん。今までやってきた作戦や行動を教えてくれますか?覚えてる限りでいいですから」

 

「…え?…でも、それは――」

 

「今更巻き込みたくないとか言うつもりじゃないですよね?それに――」

 

ハナコはアズサの顔を見つつ伝える。

 

「そんな路頭に迷ってどうすればいいかわからないって顔をしている人を見捨てるほど、私は人との交流を見限っていません」

 

「…そんなに酷い顔してた?」

 

「ええ、とても。とりあえず寮に戻りましょうか。」

 

そして二人は寮に戻り、翌日。1回目の特別学力試験が始まり――

 

結果、

ヒフミ:72点

アズサ:97点

コハル:11点

ハナコ:100点

 

コハルだけが合格点に届かないという結果になった。

 

「す、凄いですね…!ハナコさんは満点ですし、アズサちゃんもほとんど完璧じゃないですか…!」

 

「ちょ、ちょっと!これじゃ私だけが頭が悪いみたいじゃない!こ、今回はたまたま調子が悪かっただけなんだから!」

 

「これは…私が教えることはあんまりなさそうかな?」

 

事情を知らない三人はそれぞれの反応を示す。

 

「ヒフミ、コハル…先生」

 

三人の目を見て語りかける。

 

「合宿所についたら…みんなに話したいことがある」

 

アズサは、3人を成り行きではなく、自分から巻き込む覚悟を決めた。

 

合宿所に着き、荷物をそれぞれの部屋に片付けたあと、補習授業部と先生は教室に集まっていた。

 

「それで、何を話したいんだい?」

 

「…まず、ヒフミ、先生。…私はこの合宿の本当の目的を知っている。…私は、アリウスのスパイだ。」

 

「…」

 

「…え?アズサちゃんが…スパイ?…というかなんで極秘任務の内容を知って…!?」

 

「…?アリウスって?」

 

「…ハナコ、コハルにアリウスのことを教えといて」

 

「フフフ、わかりました♪それじゃあコハルちゃん、こっちに来ましょうか♪」

 

「え、エッチなことは駄目!禁止!」

 

「大丈夫ですよ〜♪今回は真面目な話なので♪」

 

そう言ってハナコとコハルは少し離れたところでアリウスについての説明を始めた。

 

「…じゃあ、アズサがこの前の爆破事件の首謀者ということでいいのかい?」

 

「いや、百合園セイアを爆破した実行犯は確かに私だが、首謀者は別にいる。…首謀者は、聖園ミカだ」

 

突然の告発に二人は固まってしまう。復帰が早かったのは先生だった。

 

「…アズサが言っていることが本当だとして、それを裏付ける証拠はある?」

 

「私自身が証拠みたいなものだけど、物証とかはない。でも、本人に聞けばわかると思う。そして、ここからが本題だ。ミカは、テスト3回目の前日に桐藤ナギサを襲撃する。私はそれを止めたい。」

 

「ミカさんがセイア様襲撃の黒幕で…ナギサ様も狙ってるって…もう何がなんだか…」

 

「…まるでこれから起こることを知っているような口ぶりだけど、それは未来が見えるというセイアに聞いたのかい?」

 

「いや、違う。確かにセイアの部屋に入ったときにその先の未来を聞いたが、起こることを知っているのは実際に体験したからだ。…私は、これからエデン条約までをずっとループしている。」

 

「ループ!?…でも、繰り返しているなら極秘任務を知っているのもたしかに納得がいきます」

 

「出任せでしょ!ハナコから聞いたわよ、アリウスが何をしたか!私は信じないわ!」

 

「あらあら♪でもコハルちゃん、信憑性は高いと思いますよ♪私の名を知っていましたし、何より、彼女に今ここで所在をバラすメリットがありません」

 

離れたところで話していたハナコとコハルが戻り、コハルがまくしたてるが、ハナコが窘める。

 

「それで、アズサ。ここで明かしたということはなにか目的があるんだよね?…君は何をしたいんだい?」

 

先生がアズサの真意を見極めるように見つめる。

 

「私は、誰も傷つかずエデン条約の未来へと進みたい。そのためにナギサ襲撃を阻止し、アリウスの首魁、マダムを倒す。」

 

それは、昨日の夜ハナコと寮に帰り、状況を話して作り上げた作戦だった。

 

「まだ止められる。まだ誰も死んでいないから。だから、今のうちにマダムを倒し、アリウスを開放する」

 

「え?でもセイア様はあの爆破事件で行方不明になったって…」

 

「ああ、だが、あのときに使ったのは殺害用のヘイロー破壊爆弾じゃなく、カモフラージュ用の爆弾だ。故にセイアは生きていて、今は救護騎士団団長の蒼森ミネに匿われている。だから、ミカもまだ止まれる。…だから、みんなに力を貸してほしい」

 

そう言ってアズサは頭を下げた。

 

「私は力を貸しますよ」

 

最初に声を上げたのはハナコだった。

 

「タイムリープのこともおそらく事実ですし、この補習授業部が力を合わせれば目的も達成できます。それに…私、困ってる友達を見過ごせないぐらいには友達思いみたいです♪」

 

「わ、私も協力します!私なんかじゃできることは少ないかもしれませんが、それでも、皆が助かるならできるだけ頑張ります!」

 

「私も協力するよ。生徒を見守るのが、そして危なくなったときに助けるのが先生の仕事だからね」

 

ヒフミ、先生も続いて協力を申し出た。

 

「うぅ…ここで私だけが反対したら私が悪者みたいじゃない!やるわよ!協力するわ!でも先輩たちとかティーパーティーの人たちに何かあったら絶対許さないからね!」

 

「みんな…ありがとう」

 

コハルも唸りながらも参加し、アズサは補習授業部のメンバーに向けて感謝を告げ、これからの作戦をハナコと協力しつつ話し始めた。

 

「それで、私達は何をすればいいんだい?」

 

代表して先生が尋ねる。

 

「まず、私達が3回目のテストまでに用意しなければいけないことがいくつかある」

 

そう言ってアズサは黒板にリストを書き出した。

 

・3回目のテストの達成

 

・聖園ミカの説得

 

・桐藤ナギサの誘拐

 

・シスターフッド、救護騎士団、正義実現委員会の説得

 

・合宿所とナギサの隠れ場所の防衛

 

・錠前サオリの説得

 

・アリウスまでの道の探索とマダムの討伐

 

「必要なのはこの7つだ」

 

「け、結構多いですね」

 

「ああ、だが相互に関わっているものもあるから、全部達成しないといけない」

 

「なんでテストは3回目なの?2回目で終わらせちゃえば他のことに専念できるんじゃない?」

 

「とある事情で詳しくは話せないが2回目のテストはほぼ達成はできない。なので、3回目で確実に全員合格させる必要がある。だからコハル、ハナコと先生と一緒に自分の学年のテスト勉強を頑張ってくれ」

 

「なんで私だけ名指しなのよ!…まあ、前回のテストで合格してないのは私だけだし…しかも上の学年のテスト受けてるのもバレてるし…わかったわよ!やってやるわよ!」

 

「シスターフッドと救護騎士団の説得は任せてください♪正義実現委員会の方はコハルちゃん、任せてもいいですか?」

 

「いいわよ、先輩たちには私から話しておくわ!ところで、これはナギサ様の防衛の説得でいいのよね?」

 

「それもあるけど、その後のアリウスへの進行のためにも協力が必要だ。アリウスはカタコンベの先にあるんだが、ルートが一定時間ごとに変化する上にパターンがいくつあるのかもわからない。だから図書館に保管されているカタコンベの見取り図と、私以上にルートを知っているはずのサオリを説得して虱潰しに物量でルートを開拓しないといけない」

 

「ミカの説得はわかるけど、ナギサを誘拐するのは本当に必要なのかな?」

 

「今のナギサは疑心暗鬼に陥りすぎて普通に協力を依頼しても裏を疑いすぎて殆ど動けない。だからお灸を吸える目的もある。そして、アリウスに向かうときの大義名分としても使えるから必要だ」

 

「アリウスに攫われたってことにすれば正義実現委員会が突入する理由になるってことだね」

 

「シスターフッドの説得と同時に図書館での見取り図の捜索も私の方でやっておく予定です♪後は問題なのが防衛ですね」

「ああ、今までは誘拐組と防衛組で別れてはいたが最終的には全員集まって防衛していた。だが、今回は私と先生でサオリを説得しに行く。だからシスターフッドが来るまでの防衛がさらに厳しいものになる」

 

「…防衛なんですが、この寮の方の防衛は私に任せてもらえませんか?」

 

「ヒフミ、それって…」

 

「はい、先生。友達の力を借りようと思います」

 

そして作戦の共有は終わり、2回目のテストの後、先生は寮の近くでミカと会っていた。

 

「あ!先生!また会ったね♪」

 

「…ミカ」

 

「…?どうしたの?先生」

 

「…アズサから、全部聞いたよ」

 

「…そっか。それで?先生はどうするの?私を捕らえる?」

 

「捕らえる気はないよ。ただ、1つ聞かせてほしい。何でこんなことを?」

 

「…アズサちゃんから聞いてるってことはセイアちゃんのことも聞いてるんでしょ?…もう止まれないんだよ。最初は、ゲヘナなんかと仲良くするのが嫌でちょっと嫌がらせするだけのつもりだった。でも、こんなことになっちゃったから。もう、止まれないんだよ」

 

「…なら、まだ大丈夫。ミカはまだ止まれるよ。先生として断言するよ、百合園セイアは生きている。場所は開かせないけど、命に別状はない。まだ、ミカは誰も殺していない」

 

「…え?セイアちゃんがまだ生きてる?で、でも、あのとき確かに爆発してたはずだよ!」

 

「あのとき使われたのは本来使う予定のものとは別の爆弾だった。だからセイアは怪我を負ったけど命に別状はないよ」

 

「…そっか。セイアちゃんが生きていてまだ誰も死んでない、か。たしかにこれじゃ止まれない理由がなくなっちゃったな」

 

そう言ってミカは困ったように笑った。

 

「ミカ、1つ聞いていい?ミカはなんでそんなにゲヘナが嫌いなの?」

 

「なんで、かぁ…あんまり考えたこともなかったな、小さい頃からずっと『ゲヘナは悪いやつだ』『悪い子はゲヘナに連れて行かれる』って言い聞かせられてたから…いつの間にか私も嫌いになっちゃってた」

 

「そっか…よかった」

 

「よかったって…私を捕まえる理由ができたから?」

 

「いいや、違うよ。ミカがゲヘナのことを本当に嫌いならもう何もできなかったかもしれない、でも、知らないまま嫌いになってるなら、実際にあったら好きになれるところがあるかもしれないでしょ?」

 

ミカは一瞬キョトンとしたあと、吹き出すように笑った。

 

「フフッ、そっか、実際に会ってみないとわからない、か…でも、実際に会ったらもっと嫌いになっちゃうかもしれないよ?」

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。君たちの未来には無限の可能性があるんだから、やらずに諦めてほしくないんだ」

 

「無限の可能性…私にもあるのかな」

 

「勿論あるさ、ミカにも、アリウスにも、ゲヘナにも。未来はいくらでも広がっているよ」

 

「アハハ…そこまで言われちゃったら、もう協力するしかないね。先生、私は何をすればいいの?」

 

「ありがとう、ミカ。ミカには襲撃の日にアリウスの生徒をここに誘導してほしい」

 

「ここは…ナギちゃんの隠れ場所の1つだね、うん、わかった」

 

そして、ミカとの密談が終わり、ついに、アリウスの襲撃が始まる。

 

テストを前日に控え、皆寝静まった夜。補習授業部の寮に近づく集団、アリウスの部隊が迫っていた。

 

「…ここだな、バリケードを突破し、対象を無力化したあと実行班の応援に回る。作戦開始」

 

宣言とともにアリウスの部隊が侵攻を開始し――

バリケードに隠されていた爆弾が起爆した。

 

「くっ、やはり襲撃はバレていた!各員、バリケードを解除しつつぜんし…ぐぁっ!」

 

指示を出していたリーダーがバリケードの裏から撃たれ、部隊はさらに混沌に陥る。

 

「うへ〜、ほんとに来ちゃったよー。おじさんもう眠いよぉ〜」

 

「ん、ファウストの命令だから仕方ない。それに、白昼堂々やるより敵が少ないから効率的」

 

「なんであっち側の意見してるのよシロコ先輩!」

 

『裏口からも来ています!こちらにもバリケードと罠を設置していますが、応戦をお願いします!』

 

「たくさん来てますね〜私も頑張っちゃいますよ〜♪」

 

その頃、ナギサが潜んでいるセーフハウスでは

 

「大変です!ナギサ様!補習授業部の寮をアリウスの部隊らしきものが襲撃しています!」

 

「アリウスの部隊が!?やはりあの中にアリウスのスパイがいた…?ならなぜ寮に襲撃を…?それより、先生や補習授業部の安否はどうなっていますか!?」

 

「補習授業部の安否は不明!ですが、寮の中で戦っている謎の覆面の集団を見たという情報が入っています!」

 

「覆面の集団…?まさかっ!覆面水着強盗団が!?」

 

「ナギサ様…?っ!ぐぁっ!」

 

そのとき、後ろからの襲撃により伝令役の生徒が倒され、ハナコと『5』と書かれた紙袋を被った生徒が現れた。

 

「あはは…すみません、ナギサ様」

 

ナギサは震えながら紙袋の生徒を指差す。

 

「ま、まさか…その声…本当にヒフミさんがファウスト…?」

 

「友達のためなんです、少し拘束させてもらいますね。ハナコさん、お願いします」

 

「それではナギサさん、失礼しますね♪」

 

「そ、そんな…」

 

ナギサは近づいてくるハナコと後ろで佇むファウストを見ながら意識を失った。

 

そして、ミカはアリウスの兵を率いて先生に示されたナギサのセーフハウスの一つに来ていた。

 

「今日はここにいるはずだよ」

 

「なるほど、それでは総員戦闘準備。侵入する。」

 

そう言ってアリウスの部隊はセーフハウスに侵入した。が、セーフハウスはもぬけの空で、ミカが後ろ手で鍵を閉める音が響いた。

 

「…何のつもりだ?聖園ミカ」

 

「ごめんね。もう私にはナギちゃんを殺す理由がなくなっちゃったんだ。本来はシスターフッドと正義実現委員会に任せるって話だったんだけど…さすがにそれも酷いなーと思ったからさ。私一人で相手するよ」

 

外から扉を叩く音を無視し、ミカは武器を構える。

 

「ここから先は通さないよ」

 

「…総員、武器を構えろ。この思い上がったお嬢様を叩きのめしてターゲットを仕留めに行くぞ」

 

そして、セーフハウスでの戦闘が始まった。

 

「リーダー、話がある」

 

「…今更何を話すつもりだ?アズサ」

 

襲撃のため人が出払ったアリウスの拠点で、サオリとアズサ、そして先生は向かい合っていた。

 

「…そこにいるのが先生と呼ばれている奴か、捕虜として連れてきたのか?」

 

「…違う」

 

「じゃあ何だ?その先生とやらの力があれば私を倒せると?」

 

「違う、先生の指揮があってもリーダーにそんなに簡単に勝てると思ってない」

 

「じゃあ一体何をしに来た!白洲アズサ!」

 

「…私は先生の力を借りてマダムを倒す。そのために力を貸してほしい」

 

「…マダムを倒す?倒したところでどうなる?倒したあとのアリウスが平和になる保証でもあるのか?」

 

「…ない」

 

「マダムを倒したところでアリウスは平和になるかはわからない!それどころか統治者がいなくなってもっと酷くなる可能性だってある!それでもマダムを倒すために協力しろと!?」

 

アズサは俯き

 

「でも、それでも…」

 

「だったら――」

 

顔を上げて正面からサオリを見つめた

 

「それでも!今のまま進むより遥かにマシだ!」

 

「………」

 

「マダムの目的は姫を吸収することだ!だからそのために一番の障害のリーダーを消耗させて、防御を固めてから儀式をしようとしている!確かにリーダーは強いよ、アリウスの中では間違いなく一番強いし、他の学園でも勝てる人はそんなにいない。でも限界はある!今のまま進んだら、そう遠くないうちにどうしようもなくなる!だからリーダー、頼む、私の手を取って!私を救ってくれた恩返しをさせてくれ…!」

 

「………」

 

「…いいんじゃない?サッちゃん」

 

サオリは無言で銃を構えようとした。が、その時、後ろから声をかけられた。

 

「っ!?アツコ!何故出てきた!?」

 

アツコは仮面を外し、語り始める。

 

「話は聞いてたよ、…アズサが言っていることは事実だよ。マダム…ベアトリーチェが狙っているのは私の血、私を使って儀式をするのがベアトリーチェの目的だよ」

 

「アツコ…」

 

「…アズサ、あそこまで言い切れるってことはなにか根拠が、そしてベアトリーチェを倒す準備ができてるってことだよね?」

 

「ああ、マダムを倒すために準備はできるだけしてきた。アリウスまでの道のりもあとはリーダーが協力してくれれば完璧だ」

 

「そっか、じゃあサッちゃん。アズサと一緒に倒してきてよ。サッちゃんが私を、アリウススクワッドを大切にしてくれてるのは知ってる。でも、私はサッちゃんが思ってくれる気持ちと同じくらいサッちゃんに傷ついてほしくない。だからサッちゃん、全部壊してきて」

 

「…いいんだな?アツコ」

 

「うん。それに、先生、って言ったっけ?あとのことはどうにかしてくれるんでしょ?」

 

「もちろん。アリウスがどういった道に進みたいか、どう進むのかはわからないけど、どんな道筋になろうと私が責任を持って見守り、助けるよ」

 

「そう言ってくれるなら大丈夫かな。…じゃあ、よろしくね」

 

そう言ってアツコは再び仮面を被り、ヒヨリとミサキと共に正義実現委員会の用意した避難場所へと向かった。

 

そして、アズサ達はアリウスを誘導したセーフハウスへと集合し、そこには正義実現委員会とシスターフッドが集合していた。

 

「先生!大変!ミカ様が一人でアリウスとセーフハウスに入って戦ってるの!」

 

「一人で!?すぐに助けないと!」

 

「扉の鍵を閉められちゃって、それにその扉の近くで戦ってるみたいで壊すわけにも行かなくて…」

 

その時、鳴り響いていた銃撃の音が止み、扉が開いた。

 

「いたた…流石に一人で相手をするのはキツかったな…あ!先生!?ちょっといま傷だらけだからあんまり見ないで!」

 

扉からは全身傷だらけのミカが現れ、後ろには倒れたアリウスの部隊が見えた。

 

「もう!何やってるのよ!えいっ!」

 

コハルが憤りながら手榴弾をミカに投げつける。

 

「きゃっ!…え?痛くない…?」

 

コハルの投げた手榴弾は正しく効果を発揮し、敵に痛みを、そして…味方に癒やしを与える。手榴弾の爆発に当たったミカは完治とは行かないまでも傷がある程度修復された。

 

「私は頭がそんなに良くないから難しいことはあんまりわかんないけど…ミカ様が悪いことをしたってのはわかるけど…!でも!全部ミカ様が背負う必要はないってことだけはわかる!」

 

「コハルちゃん…」

 

「コハルの言うとおりだね。たしかにミカは悪いことをした。それは事実だけど、その責任を全部背負ったり、自分一人で解決しようとしないでいいんだよ」

 

「先生も…ありがとう」

 

「…聖園ミカ」

 

「あ、サオリ…そっち側にいるってことは、戦いに行くんだね」

 

「ああ、アツコに言われたからな…この先がどうなるかはわからないが、それでも変えてみせる」

 

「そっか…私も、あなた達のこれからに、未来に幸せがあるよう祈るね」

 

「ありがとう、ミカ。最善を尽くそう」

 

「ありゃ、おじさん達が1番最後か。みんな早いね〜」

 

「あ!アビドスの皆さんありがとうございます!大丈夫でしたか?」

 

セーフハウスの前に寮での戦闘を終えたアビドスの面々とヒフミとハナコ、そして意識を失っているナギサが集合した。

 

「あれ?なんでナギちゃん気絶してるの?」

 

「あはは…ちょっと刺激が強かったみたいで…」

 

「うっ、ここは…!?ミカさん!?その怪我は一体誰にやられたんですか!?」

 

「あ、起きた。大丈夫だよナギちゃん、この傷は私がやったことのケジメだし、コハルちゃんに治してもらったから。…アリウスを先導した黒幕は、セイアちゃんを襲ってナギちゃんも襲撃させようとしたのは私だよ」

 

「ミカさんが!?…じ、冗談ですよね?ミカさんがそんなことをする理由が…」

 

「私はゲヘナなんかと仲良くしてほしくなかった。だからアリウスの人たちに協力してもらってセイアちゃんを襲ってもらったんだ。…ゴメンね、ナギちゃん」

 

「ミカさん…私も、もっと話し合えば違う結果があったんですかね…ごめんなさい、ミカさん。自分の考えを先行してこんな結末になるまで悪化させてしまうなんて…」

 

「まだやり直せるよ。セイアは生きてる。今は救護騎士団のミネに匿われてるだけだよ」

 

「セイアさんが!?…本当に胸のつかえが下りた気分です…」

 

「ミネ団長のところにいるの!?…私もいるのに話してよかったの?」

 

「仲直りもできたみたいだしもう大丈夫そうだからね。これからはちゃんとお互いに話して決められるよね?」

 

「…うん、大丈夫。ありがとう、先生」

 

「…私も周りを疑いすぎていたみたいですね…ヒフミさん、アズサさん、ハナコさん、コハルさん、ありもしない疑いをかけてしまい申し訳ありませんでした」

 

「あーそれは…」

 

「あはは…(懐から紙袋を取り出す)」

 

「ん。(アビドスの面々が覆面を被る)」

 

「…え?」

 

「実は…覆面水着強盗団になってたのは事実なんです。いつの間にかリーダーにされてたのはビックリしちゃいましたけど」

 

「それとアズサちゃんがアリウスのスパイなのも事実だよ。私が介入して転入させたんだ☆」

 

「…え?じ、じゃあハナコさんとコハルさんも…?」

 

「ハナコは周りに煽てられたり顔色を伺われる関係が嫌だっただけだよ。…コハルは…その…」

 

「「「…」」」

 

補習授業部の面々と先生はコハルから無言で目をそらした。

 

「な!何よその反応!?…う〜、そ、そうよ!わ、私はただ見栄を張って1学年上のテスト受けてただけよ!悪かったわね!紛らわしいことして!」

 

「も、もうなにがなんだか…」

 

「ちょ!ちょっとナギちゃん気絶しないで!話が進まない!」

 

「…そろそろいいか?私はここで雑談するために来たんじゃないんだ」

 

「そうですね。そろそろ本題に入りましょうか」

 

会話が一段落したところでハナコがここからの作戦を説明する。

 

「これからアリウスの首魁、マダムと呼ばれている存在を打ち倒す為アリウスに向かいます。そのためには迷宮のように複雑に変化するカタコンベを越える必要があり、そのためにサオリさんの知識と図書館のカタコンベの古い地図、そして正義実現委員会とシスターフッドの物量が必要でした」

 

「…そのために私を連れ出したんですね…わかりました。正義実現委員会の皆さん、ハナコさんの指示に従い協力してください」

 

「疑心暗鬼のままなら拘束して囮として連れていくつもりでしたが必要なさそうですね。ナギサさんにも私とともに全体の指揮をお願いします。現場の指揮は先生、お願いしますね」

 

「うん、こっちは任せて」

 

「拘束したアリウスの人たちはこっちで見張っとくよ〜みんな頑張ってね〜」

 

「それでは皆さん、作戦を開始してください」

 

そして、アリウスへの侵攻が始まった。ハナコの指揮とサオリの知識、そしてトリニティの面々の物量によってアリウスへの道のりは開拓され、ベアトリーチェのもとへと道は繋がった。

 

「なんのつもりですか錠前サオリ…!大人の庇護などなくても生きていられるとでも言うつもりですか!」

 

「アツコに言われたのでな…すべて壊してきて、と。それにアズサにも気付かされた。まだ、すべてを虚しいものと決めつけるには早いと。諦める理由にはならないと…!」

 

「愚かな…!子供はおとなしく大人に…私に搾取されておけばいいのです!」

 

「それは違うよ。子供には未来が、希望がある。お前に搾取されるための存在じゃない。…ベアトリーチェ、私はお前を許さない」

 

「チッ…まあいいでしょう、ここであなた達を倒せばなんの憂いもなく儀式をすすめるだけです。全員亡きものにしてあげましょう!」

 

そして、ベアトリーチェとアズサとサオリ、そして先生の戦闘が始まった。

 

「おのれ…!この私が…!おのれえぇぇぇぇ!」

 

戦闘は苛烈を極めたが、先生の指揮をうけたアズサとサオリにより打倒され、ベアトリーチェはマエストロに連れられて消えた。かくして、アリウスはベアトリーチェの支配から開放された。

 

その後、アリウスはシスターフッド主導のもと正義実現委員会、救護騎士団と協力して支援や配給が行われ、関係は徐々に修復の兆しを見せていた。これからトリニティの一部となるのか独立した団体となるのかはわからないが、悪い結果にはならないだろう。

 

ミカはアリウスを使ってセイアを襲撃した罪に問われたが、責任をとってアリウスの部隊に対処したこと、ナギサとセイアによる恩赦によって多少の謹慎処分で済むこととなった。

 

その後、ミカとアズサは療養中のセイアと面会することになった。

 

「セイアちゃん、ごめんね。こんなことになっちゃって…こんな怪我をさせちゃって…」

 

「ミカか…私もすまなかった。私もナギサも…ティーパーティーなのだから、もっと話して、意見を共有するべきだったんだ。本当にすまない。…そしてアズサ、見事に未来を変えたね」

 

「変えられた…のか!?未来を…!」

 

「ああ、今まで見ていたあの未来はもう見えない。あの可能性は失われたよ」

 

「そうか…ありがとう」

 

そして、セイアとミカの仲も修復され、遂にエデン条約の調印式が始まった。シスターフッドの提供した教会にトリニティから正義実現委員会とティーパーティーのナギサが、そしてゲヘナから風紀委員会委員長のヒナ、そしてアリウスから提供された飛行船に乗って万魔殿の面々が集まった。

 

「キヒヒ…無様だな空崎ヒナ…!我らが優雅に空から来ているなか無様に陸路とは…!」

 

「そんなこと思い込んでるのはあなただけだと思いますよ。それにしても、アリウスはゲヘナに恨みを持っていると聞いていましたが…何も起きませんでしたね」

 

「うん!すっごい高いとこ飛んでたね!楽しかった!」

 

「イブキが楽しかったのなら何よりです。それでは行きましょうか」

 

飛行船が到着し、トリニティからは代表としてナギサが、ゲヘナからは万魔殿会長のマコトと風紀委員長のヒナが、調停役として先生、そしてアリウスを代表してサオリとアツコが登壇した。

 

「それでは、調印式を始めます」

 

調印式では、これからの方針や同盟の枠組みなどが話し合われ、先生やアリウスの調停のもと、全面的な合意とは行かなかったがこれから合同の軍事演習などを行い仲を深めていくことが約束された。

 

そして、エデン条約は無事終わり、ゲヘナとトリニティ、そしてアリウスの面々は怪我もなく自分たちの居場所へと帰っていった。これからどうなるかはわからないが、お互いに話し合い、平和に向かっていくことができる、そう思わせてくれた祭典だった。

 

―――――――――

 

エデン条約の調印式が終わり、しばらく経ったある日、セイアは夢(未来)を見た。

 

「ああ、そうか…そうなるのか…」

 

夢から覚め、目を開き呟き、

 

「どれだけ足掻いても、結末は変わらないんだな」

 

そう呟いて目を閉じ

 

―――二度と、目を開くことはなかった。

 

―――――――――

 

シャーレが爆破された。

 

「…え?」

 

そのニュースがクロノスチャンネルで速報として流れたのは、エデン条約が終わってしばらく経ったなんてことない1日の昼間だった。

 

その時シャーレでは七神リン連邦生徒会長代理の不信任案が決議され、防衛科の不知火カヤ室長に代表の権限が譲渡されたことで、それに伴う人事の再編もあって先生はシャーレに軟禁状態となっていた。

 

幸いにも先生は一命を取り留めたが、意識不明の状態となり、今も予断を許さない状態は続いている。

 

捜査はヴァルキューレ警察学校主導のもと、事件と事故の両面で調べられ、最初は度々先生と対立し、カヤ室長の采配で防衛力を提供していたカイザーコーポレーションが怪しまれたが、関与していた証拠は上がらず疑いは晴れ、捜査は暗礁に乗り上げていた。

 

――――――――――

 

カイザーコーポレーションがクーデターを起こした。

 

カイザーコーポレーションは連邦生徒会に対し突如、クーデターを起こし、一時的に連邦生徒会、そしてシャーレの権限を剥奪した。

 

クーデター自体はSRTやヴァルキューレ警察学校により鎮圧されたが、アビドス砂漠にあるカイザーコーポレーションの基地から謎の大型の飛行物体が出現、各地への攻撃、侵攻を開始した。

 

それぞれの学園は対応に追われ、トリニティ、ゲヘナも共同で対処にあたったが、謎の飛行物体は古代からの遺物と見られ、生徒の神秘を持ってしても太刀打ちできず、各学園は瞬く間に劣勢に持ち込まれた。

 

そこからの情報は錯綜していた。ミレニアムの生徒がカイザーコーポレーションに対抗するため別の遺物を呼び起こしたとか、ゲヘナの風紀委員長が対抗手段として遺産となっている兵器を探しに行ったなどの情報が流れていたが、真偽は定かではない。

 

――――――――――

 

アビドス方面の上空に謎の円環(色彩)が発生した。

 

こうやって目の当たりにした今ならわかる。ベアトリーチェが欲し、幾度も世界を飲み込み、そして今、私の中に巣食い、やり直しをさせてくれている、もう無視できないほどに大きくなっているこれが世界を滅ぼす力なのだと。

 

段々と大きくなり、世界を飲み込んでいく円環を見つつ、先生との会話を思い出す。

 

「先生…話がある」

 

エデン条約が終わり、しばらく経ったある日、私は先生を呼び、二人で話をしていた。

 

「どうしたの?アズサ」

 

「もし…もしこの世界も間違っていたら、またループが発生してやり直しになったら、私は何を目指せばいい?」

 

今思えば、私はなんとなく察していたのかもしれない。この誰もが目的を達成できた世界が、私の願いがすべて叶った世界が未来を紡ぐにはなにかが足りていないと。

 

「うーん…そうだね…アズサから見て、この世界は今までと比べてどう感じた?」

 

そして、私の顔を見て、おそらく先生もそんな心中を察したのだろう。優しい顔で問いかけてきた。

 

「…この世界は、補習授業部のみんなが、トリニティの人たちが、アリウススクワッドが、私が助けたい人たちみんなの目的が達成された世界だと思う。私は、これ以上の世界を求めることはできない。だから、もしこの世界にも先がなかったら何を目指せばいいのかがわからないんだ」

 

「そっか…じゃあアズサ、今まで世界を渡ってきて、たった一つだけ絶対に守りたいことを選ぶとしたら何かある?」

 

「一つだけ…か…」

 

「うん。多分、今のアズサは今までの世界ではできなかった可能性をこうやって見て、叶えられなかった全てを持っちゃったから怖くなってるんだと思う。だから、その中でも特に一番大切にしたいものを聞いてみたいんだ」

 

「一番大切にしたいもの…」

 

アズサは考える。今までのループで叶えられなかったこと、自ら捨ててしまったもの、今回のループで救えたもの。それらをまとめて、一番大切なことをアズサは選びだした。

 

「…補習授業部の、アリウスの、トリニティの人たち、エデン条約に関わった人達が誰も死なずにエデン条約の先へと進む。それが私の一番大切なことだ。一度自分で壊してしまったからこそ、それだけは絶対に守りたい。そのためならエデン条約の顛末がどうなろうと、どれだけ傷つこうと構わない」

 

「そっか。それなら、その未来をみんなで考えてみようか」

 

「…みんなで?」

 

「うん。補習授業部の、アリウスの、トリニティの、ゲヘナの、アズサのループで関わった人を集めてみんなで考えてみよう。今までのループでは頼れなかった人がいたかもしれない。でも、この世界は間違いなくアズサが救ったんだ。みんなが味方だよ。だから、みんなを頼ってみよう」

 

そして、先生と私は補習授業部の、アリウスの、関わったみんなを頼り、相談した。タイムリープのことを伝えていなかった人たちにも伝え、今までのループで失敗したこと、何かが起こった場所をめぐりながら皆で考えを巡らせた。

 

そして、出来上がった可能性を見て、みんな口を揃えて「こんな未来は嫌だな」と笑っていた。

 

すべてを飲み込み始めている色彩を見ながら考える。私に残された時間は少ない。私の中の色彩ももう無視できないほどに大きくなっている。あとループできるのも片手で数えられるぐらいの回数だけだろう。

 

「でも、それでも…」

 

自分に言い聞かせるように呟く。まだ、可能性が残っている。みんなで作ったこの可能性を私は信じて進む。すべてが救えないのなら、大切な一つだけでも救える妥協案を。誰も目的を達成できないし、関わったみんなが傷つく。でも、誰も死なない。そんな可能性を。

 

そして、世界を色彩が包み、全てが飲み込まれ、私の意識もだんだんと消えて―――

 

次のループが始まる。

 

Episode End

 

Good End

 

【Phrenapates End Other Side】

 

And Next Episode

 

Episode Eden

 

⬛⬛⬛⬛⬛ End

 

【Blue Archive】

 





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