東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 アリスは窓から夜空を見上げていた。

 月の綺麗な夜だった。

 夜空に浮かぶ月。

 けれどもその月はどこか歪で、完全に不完全に見えて、それでいて異様だった――。



0 Unrequited feelings  序  
 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄~ 序 【SIDE:A】 


 

【SIDE∶A】

 

 ―――満月が、夜空に浮かんでいた。

 

 まるい月なのに……それでいてどこか歪で、異様なまでに、

 

 まるいまるい歪な月。

 

 窓の外、夜の闇に浮かぶその月の異様さには、気がついてはいたし、気にはなっていた。

 

 だから、

 

「おいで―――」

 

 私が声を掛けると、赤いリボンをつけた金髪の少女の形をした人形がふわふわと私の後を追って飛んでくる。

 

 私が作った、私が生み出した、私の人形。

 

 私は―――、人形使い。魔法使い。

 

 部屋には人形がいっぱい。人形、人形人形人形人形。

 

 そんな私を見て、みんな気味悪がってすぐに居なくなる。

 別に、ひとりでいることは気楽だし、さみしくもない。

 

 私の領域に土足で踏み込んでくる人間なんて、いるわけがない。

 

 ―――ひとりを除いては。

 

 などと胸の内でひとりごちながら部屋をあとにして、夜空の下に歩み出る。ふわり、夜風が頬をくすぐる。

 

 うん、たまには夜の散歩もいいわね―――。

 

 

 

 

 

「どうせ、あの二色巫女あたりがほんのりと解決するだろうし。

 

 私の出番は、まあ、無いかな。うん。

 

 ……あの月に何か細工をするような相手だし、私が出て行ったところで何か事態が変わるわけでもなさそうだし」

 

 うんうんと頷く。―――違和感を感じながらも、上海人形にそう語りつつ私はその月を眺めていた。

 

 

 ()()は……どうするんだろう?

 

 

 私の薬指に光る、指輪。

 ふと脳裏をよぎるのは、白と黒の魔法使い。

 

 いつも自分勝手で傲慢で不遜で人の話を聞かなくて弾幕莫迦で私のことなんか何も考えちゃくれなくてえーとえーとそれからそれから―――、

 

 ねえ、上海人形?

 

 アイツは私の何がわかってるっていうのかしら。

 

 ……いや、考えるだけ、想うだけ無駄ね。

 

 ため息、自嘲、そして諦念。

 

 やれやれと頭を振った―――その時だった。

 

 

  じゃっ!!

 

 

 空間を裂く一条の光。

 

 

「っなに??!」

 

 

 その光条(ひかり)は私目掛けて伸び、

 

 ―――しかし、その射線からほんの身体半分だけ横にずらしただけで―――、

 

 危なげなくそれ避ける。

 

 

「これは……()()()()()()()()()?! 」

 

 

 自らに向けられた魔力の気配に、()()使()()()()()()()を思い浮かべる。

 

 

 ―――何時だって自信満々で、どんな逆境だって自身の()()で吹き飛ばして進んで行く()()()

 

 顔を上げると、果たして其処にはあの満月を背に、箒に腰掛けた白と黒の魔法使い。

 

 霧雨魔理沙の姿があった。

 

 

 その姿はどこか幻想的でもあり―――、

 

 一瞬、頬が緩んだのを、自分自身実感するが、

 

 

 すぐに両手で頬をパンパン、と叩くと真面目な表情で魔理沙をきっ、と睨みつけた。

 

 

「何すんのよ!!」

 

 

「………よう、アリス。

 

 ああ、なんだ、その、撃つと……動く!」

 

 

 ―――アリス、私の名を軽い調子で呼ぶ。

 

 ホントに馴れ馴れしい。

 

 私にはアリス·マーガトロイドという立派なフルネームがあるのに。

 

 しかしそんな魔理沙の表情は、私の位置からだと逆光で窺い知れない。

 

 

 誰もが気味悪がる私を()()()()()()()()()、霧雨魔理沙。

 

 

 

「―――お前じゃないのか?」

 

 

 文法がいくつかすっ飛ばされているため、何だかよく分からない魔理沙の物言い。 まあ、いつもの事だが。

 

 

「……一体何の話よ!?」

 

 

 ちらり、と視線を彼女の背後に浮かぶ()()()()()()()()()に向ける。

 

 まあ、大方、魔理沙も()()()の原因を突き止めようと動き始めた、というところだろう。

 

 その行きがけに、とりあえず私の所に立ち寄った、といった感じじゃないかな、と思う。

 

 思慮深そうに見えてその実あんまり何も考えていないところは、あの紅白巫女によく似てきた。

 

 

 ちょっと、ムカつく。

 

 

 それでいて何か事があると真っ先に私のところに来て、いきなり撃ってくるなんてあんまりだ。

 

 

 なのに、()()()()()まで渡しておきながら―――、

 

 

 むかむかむかむか。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 今度は語尾に疑問符がついていない。

 

「―――まあ、なんだ、その、とりあえず、ってやつだぜ」

 

 

 とりあえず射撃されたこっちはたまったもんじゃあない。

 

 

「悪い。じゃ、またな」

 

 

と言って、くるりと私に背を向ける魔理沙。

 

 

 ―――ちょっと―――、

 

 

「待ちなさいよ!!」

 

 

 私が思わず叫ぶと、ぴくっ、と魔理沙の肩が揺れた。

 

 

「……一体何なのよ。何の前触れもなくやってきたと思えばいきなりレーザー撃って人違いでした?

 

 とりあえず? 

 

 ふざけるのもいい加減にしなさいよ!」

 

 

 人形達が、私の周囲に集まる。と、同時に、私と人形達に魔力が集束していく。

 

 

「魔理沙……覚悟は出来てるんでしょうね」

 

 

 集束する魔力を、魔理沙に叩きつける。

 

 無視なんかさせない。私を見て。私を見なさい。こっちを―――向きなさいよ。

 

 私の心の声が聞こえたのか。

 

 肩越しに魔理沙が振り向く。

 

 

「覚悟ねぇ……。

 

 それはこっちの台詞だぜ?」

 

 

 そう言い放つ魔理沙の瞳は月の光を受け、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「――ああ、アリス。お前の本気がたまには見てみたいものだぜ?」

 

 

 にっ、と笑う魔理沙。その周囲に魔方陣が展開していく。

 

 ふん、と鼻を鳴らすと私は懐から数枚のスペルカードを取り出した。

 

 

「私の本気を見たかったら、それ相応の対価を支払う事ね……」

 

 

「私は何時だって本気だぜ? お前と違ってな」

 

 

 売り言葉に買い言葉だ。本当はもっと伝えたい言葉があるのに。

 

 口をついて出るのは―――。

 

 

「弱いから、常にいっぱいぎりぎりまで出さないと誤魔化しがきかないんでしょう?」

 

 

 魔理沙への、強い言葉。

 私の言葉を受け、押し黙る魔理沙。

 

 もう、『弾幕ごっこ』は避けられない。ならば、覚悟を決めるだけ。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

 二人の間を、一瞬とも永遠ともとれる刻(とき)が流れる。

 

 先に動いたのは、

 

 魔理沙だった。

 

 

「……魔符 『スターダストレヴァリエ』!!」

 

 

 煌めくスペルカード。

 

 

 夜空に星が弾けた。

 

 

 星々が、幾重にも折り重なり流れる。

 

 

 一見不規則なその魔力の弾道も緻密に計算しつくされた数式のように、もはや逃げ場は無いように見える。が、完璧でありながらもその『弾幕』には必ず避け得る隙が存在する。

 隙があるという事は、不完全ということではない。

 とどのつまり、『弾幕』とはそういうものなのだ。

 

 私は集中すると、その弾幕の隙を探す。

 

 

 ―――そこ!!

 

 

 一歩、また一歩。

 

 決して大きくは動かず、最低限の動きだけで、自分を狙って飛来してくる魔力弾だけに意識を集中し、避ける。

 

 弾幕が、刹那、途切れた。

 

 

「今! お願い!」

 

 

 スペルカード展開―――。

 

 人形たちよ!

 

 

「蒼符 『博愛の仏蘭西人形』!!」

 

 

 数体の仏蘭西人形が魔力を纏い空を駆け、魔理沙に向かって突撃した。

 

 だが、魔理沙は驚くべきスピードで仏蘭西人形の攻撃を避けると、右手に持ったスペルカードを天に掲げた。

 

 

「恋符 『ノンディレクショナルレーザー』!」

 

 

 ノンディレクショナル。狙いもつけず全くの出鱈目に四方八方に魔力光を解き放つ。

 しかし全くの出鱈目のはずのそのレーザーは、私の仏蘭西人形達をことごとく撃ち落していた。

 

 力なく地面に落ちる仏蘭西人形達。

 

 

 ―――ごめんね、あとで直してあげるからね…!

 

 

 私は心の中で仏蘭西人形に謝ると、次のスペルカードを取り出した。

 

 

「……ちっ! 

 

闇符 『霧の倫敦人ぎょ…」

 

 

 しかし。

 

 私がそのスペルを発動させるよりも速く、魔理沙は私の懐まで飛び込んでいた。

 

 

 にっ。

 

 

 目が合う。

 

 満面の笑顔。

 

 そこにはいつもの無邪気な魔理沙の表情があった。

 

 

「悪ぃ、先に発動させてもらうぜ。

 

 

 魔符 『マスタースパーク』!」

 

 

 瞬間、魔理沙の手の中にあったミニ八卦炉が暴れるように輝いた。

 

 

 それは―――、そう、極光。

 至高の光。

 

 溢れんばかりの光の渦が、

 

 魔理沙の正面に位置した魔方陣から、

 

 解き放たれた。

 

 

 ―――やられる!

 

 

 迫り来る光の奔流に、私は撃墜の覚悟を決めた。

 

 絶体絶命の危機に、私の体内時間が加速した。

 

 周囲の動きが、

 

 時が、

 

 全てが、

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 ……ああ、紅魔館のメイドの能力もこんな感じなのかしら。

 

 

 ―――何でもいいわ!

 

 

 スペルカードを新たに展開。

 

 魔力を練り上げ、

 

 発動の言葉を放つ。

 

 

「呪詛 『魔彩光の上海人形』」

 

 

 ―――!

 

 

 光が、光と光が、弾けた。

 

 

 

 

 光の奔流が収まると、魔力を解き放ちきった上海人形が力なく落ちてゆくのが見えた。

 

 ……上海人形のおかげで直撃だけはどうにか免れたみたいね……。

 ごめんね、上海人形……。

 

 

 あちこち痛む身体。

 

 しかし、私は顔を上げる。

 

 彼女は、魔理沙はあれぐらいでは墜ちないはず……だ。

 

 視線の先、もうもうと立ち込める土煙。その規模がが衝撃の大きさを物語っていた。

 

 やがてその土煙も収まり、その向こうから、

 

 

「……ったく、一張羅がぼろぼろだぜ」

 

 

 やけに明るい魔理沙の声。

 

 黒白のいつものスカートを、ばさりとはためかせる。

 

 私との弾幕ごっこを心底楽しんでる様子だった。

 

 

 ……ったく、なにが「私はいつも本気だぜ」よ。まだまだ余裕あるじゃない……!

 

 ぎり……

 

 歯軋りをする。

 

 いつだってそうだった。

 頑張って頑張って頑張っても。

 魔理沙は何の気なしにひょいとこなしてしまう。

 いつだってそうだった。

 

 そんな魔理沙だから、

 そんな魔理沙が、

 そんな魔理沙に、

 

 

 私は―――、

 

 

  ひゅっ

 

 

 頬を魔力弾が掠めて行過ぎる。

 

 

「余所見は禁物だぜ?」

 

 

 いたずらっぽく笑い魔理沙は月を見上げる。

 

 

「ああ、お前とこうやって弾幕ごっこをしているのは非常に楽しいんだけど……用事があったのを思いだしたぜ。

 

 あの月を、どうにかしないといけなかったんだ。

 

 つい、うっかり忘れてたぜ」

 

 

「ついうっかり、ねぇ?」

 

 

「ああ、アリスとの弾幕ごっこは楽しいからな。―――好きたぜ?」

 

 

「んなっ?!」

 

 

 な、な、な、何を、何を、魔理沙はっっっつ!!?

 

 私の動揺を余所に、魔理沙は笑う。

 

 

「ふふ……」

 

 

 スペルカードを目の前に展開し、ミニ八卦炉を掲げる魔理沙。

 

 

「次で最後だぜ」

 

 

 ……集中しろアリス、今は、この弾幕ごっこに集中するのよ。

 

 私もとっておきのスペルカードを一枚取り出す。

 

 

「これで終わらせるわ」

 

 

 互いのスペルカードから魔力が溢れ魔方陣を描き出し、その魔方陣が激しいまでの輝きを放つ。

 

 魔力が周囲に充ち溢れ―――、

 

 

 夜の闇に、ふたつのスペルカードが同時に炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 夜空に月がぽっかりと浮かんでいる。

 

 地面に寝転がった体勢のまま、私は月を眺めていた。

 

 身体中が痛い。人形達もボロボロだ。

 

 悔しくて悔しくて泣きそうだった。

 

 負けた。勝てなかった。やられた。

 

 悔しさと悲しさと寂しさと、感情がごちゃ混ぜになる。

 

 そんな私の心のうちなんて魔理沙は全くわかってない。

 

 

「おーい、生きてるか~」

 

 

 ひょこっ、と覗き込んでくる。

 どこか暢気な魔理沙の声。

 

 私はぷい、と視線を逸らす。

 

 ふん。だ。

 

 

「お前……相変わらず本気を出さないな~。

 

 けっこう本気、だったのに。傷つくぜ?」

 

 うるさいわよ。

 それでも負けは負けじゃない。

 

 

「……ところでさ、アリス」

 

 

 ふん。知らない。

 

 

「あの月、お前じゃないんだよな」

 

 

 ぷぃっ。そりゃそうでしょ。なんで私が。 

 

 

「ヒマなら、一緒に行かないか?」

 

 

 ぷ………え?

 

 

「ま、こんな夜だけど、ちょっと変わった月見もいいもんだぜ?」

 

「……だ、……誰が……て、つ、月見?」

 

 

 どきどき。

 

 

「いや、まあ、ヒマじゃなけりゃいいんだぜ?そうしたら誰か他を誘うけど……」

 

 ……莫迦じゃないの。

 

 本当に魔理沙は自分勝手で傲慢で不遜で莫迦。

 全く。

 仕方ないわね。

 

「……誰が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 がばっ、と立ち上がると、私はぷい、と背中を向ける。

 

 魔理沙の顔が見れない。

 

 きっと、にやにやと笑っているに違いない。

 

 ―――きっとそうだ。いつだって魔理沙はそうだ。

 

 ふん、だ。

 

 

「だから……仕方ないから、私が一緒に行ってあげるわよ」

 

 

 私の提案に、魔理沙は数瞬も待たずに返答する。

 

 

「ん、じゃあ、それで決まり。すぐに出かけるぜ!」

 

 

言うが早いか魔理沙は箒に跨って飛び上がっていた。

 

 

「あ、ちょっと待ってよ!!」

 

 

 慌てて、傷ついた人形達を拾い上げ抱きしめると、私も飛び上がった。

 

 

 ……あーあ、結局は魔理沙のペース、か。

 

 

 月に向かい飛行する魔理沙の姿を見て、私は思った。

 

 

 ――本当に自分勝手で傲慢で不遜で弾幕莫迦で――、

 

 

 だけど、

 だから、

 そんな魔理沙だから、

 

 

 私は魔理沙を――、

 

 

 

「あー?何か言ったか?アリス?」

 

 

 どき。

 

 

「な、何も言ってないわよバカ!ちゃんと前向いて飛びなさい!!」

 

 

 ……本当にバカなんだから……!

 

 

 気づかれないよう薬指の指輪に唇をつけると、私は魔理沙の後を追った。

 

 

 ――まるで指輪のように真円を描く、完全でいてどこか歪な月の異変を突き止めるために――。

 

 

 

 

Unrequited feelings 〜異聞永夜抄~ 1 に続く。

 






【追記】
改題しました。
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