東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 13

 

 ―――魔理沙の読みはこうだ。

 

 十六夜咲夜の火力ではマスタースパークの威力を捌き切る事は難しい。しかし、避けたその先に主が居るとすればどうだ。咲夜は己の火力不足を自覚していて尚、自分の主を護らない訳が無い。一方、レミリア・スカーレットは八意永琳との弾幕ごっこに夢中でこちらに意識は無く、反応が遅れるだろう。そこを、ふたりがマスタースパークの射線上に入るその瞬間を、狙い撃ちする。

 

 完璧なプランだぜ、と自画自賛する魔理沙。言うは簡単だが、その瞬間を狙うのは難しいどころの話ではない。

 

 しかし、魔理沙はやってのけたのだ。

 

 防御されてはいるものの、咲夜はマスタースパークを正面から受け止めている。咲夜単体であればこのまま押し切れる自信はあった。だが、それだけではダメだ。その向こうにいるレミリア・スカーレットごと撃ち落とさなければ意味が無い。

 

 箒に跨ったまま、マスタースパークを放出しているミニ八卦炉を左手のみに持ち返える。

 

(ここまでは想定内―――)

 

 空いた右手を天にかざす。その手にはもう一枚、ストックしていたスペルカードが握られていた。

 

(さらに倍プッシュ、もってけダブルスパークだぜ!)

 

 くるりと指先でスペルカードを回転させると、そのままスペルカードは高速回転を始める。回転に合わせて魔力光が星屑のように弾け回った。それはやがて円環となると、いつしか魔理沙の右手の中には小さな星が産まれていた。

 

「コイツで終いだ」

 

 それまでとは打って変わってひどく冷静な魔理沙の声。集中、魔力の集束。

 

「恋心―――」

 

 その時だった。

 

 魔理沙の背筋を冷たいものが駆け抜ける!

 スペルカードの宣言の途中でハッと息を呑む。

 

 ほぼ反射で上体を僅かに左に反らす。

 

 ―――それは全くの勘でしか無かった。

 

 何故そうしたかは魔理沙にも分かっていない。だが、そうしなければいけない気がした。

 

 考える間もなく、魔理沙のスペルカードの発動に割り込む形で別のスペルカードがカウンター気味に発動した。

 

「紅符 『不夜城レッド』 !」

 

 遥か向こうに居る筈の、レミリア・スカーレットの声がハッキリと魔理沙の耳に届いた。

 朗々と、厳かに、それでいて力強く。

 

 瞬間、

 

 紅い光が疾走った。

 

  ぞぶっ!!

 

 魔理沙の右手にあったスペルカードが真っ二つに割れる。

 

(―――なっ!?)

 

 スペルブレイク。魔理沙のダブルスパークは発動前に破棄された。

 思考が追いつかない。魔理沙は困惑していた。

 

(―――何が起きた? 私のスペルカードは? レミリア? いや、それよりも―――、

 

 ()()()()()()()()()()()()()だと?)

 

 きらきらと光の粒子となり、マスタースパークは霧散し始める。

 

 その様子を目の当たりにして、ようやく魔理沙は事態を把握した。

 

 レミリア・スカーレットの右腕から伸びた紅い光の十字架が、刃となりてマスタースパークを斬り裂き、次に発動待ちになっていたダブルスパークのスペルカードをも刺し貫いていたのだった。

 

「莫迦な!?」

 

 驚愕の声を上げる魔理沙。

 視線のその先、十六夜咲夜の向こう。天をも斬り裂き、幼きバンパイアロードは深淵の様に嗤った。

 

「―――馬鹿め。お前のその表情、その絶望、()()()()()()()()()

 

 ずどん!

 

 霧散していたマスタースパークが行き場を失くしたエネルギーの嵐へと変遷し、弾けた!

 

「うわああっ!!?」

 

 悲鳴を上げ遥か後方へと吹き飛ぶ魔理沙。

 

 その姿をチラリと見ると、魔理沙には興味を失ったのか視線を正面へと戻すレミリア・スカーレット。

 

「さあ、その顔をもっと苦痛に歪めよ!」

 

「―――がはっ!?」

 

 その悲鳴は、魔理沙のものではない。

 

 レミリア・スカーレットから正面に伸びる紅の光刃。それが刺し貫いているのは―――、

 

 八意永琳だった。

 

 

 

 レミリア・スカーレットは全く気に食わなかった。

 我が従者をボロボロにした黒白の魔法使い、まあこれは良い。力の差を見せつけてやったし、これでこの間の敗北はチャラだ。それにいつもヘラヘラと本心を見せない笑い顔を凍りつかせたのだ。これほど愉快なことは無い。しばらくはこれをネタに弄ってやろう。

 しかし、だ。

 目の前の不届者はどうだ。この者の月を弄った罪は深い。だから私自らが直々に此処まで出張ってきたのだ。夜が明ける前に終わらせてやる、そう考えていた。

 どれ程のものかと思えば、確かに月を弄るだけの力は持ち合わせているようだ。

 

 だが。

 

 気に食わん。

 

 コイツは―――、

 

()()()()()()()()?」

 

 レミリア・スカーレットの問いかけに、八意永琳は口の端を笑みの形に歪めた。

 

「何を言っているのかしら? レミリア・スカーレット」

 

 八意永琳は己を刺し貫く紅い光に手を掛ける。すると、

 

 ぱきぃん!

 

 紅の十字架があっさりと砕け散った。

 

()()? ()()? 穢れた地上の吸血姫如きが、おこがましいわね―――」

 

 乱れた前髪を掻き上げると、八意永琳は両腕を緩やかに広げた。

 

「良いわ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 その背後に悋気が立ち昇る。

 

(気配が、変わった?)

 

 レミリア・スカーレットは違和感を覚えた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その違和感の答えは、すぐに知ることとなる。

 

 八意永琳の腹部に開いた大きな傷が、みるみるうちに塞がっていく。

 

 回復魔法ではない。

 

再生者(リジェネレーター)!?」

 

 レミリア・スカーレットの驚きの声に、八意永琳はフン、と鼻を鳴らした。

 

「再生体質? そんなチンケな能力と一緒にしないでもらえる?」

 

 かちり。

 

「幻世―――」

 

 懐中時計の針の音。

 瀟洒なメイドの宣言が残酷に響く。

 

「 『ザ・ワールド』 !」

 

 八意永琳の帽子が宙に舞う。

 須臾、

 無数のナイフが八意永琳を刺し貫いていた。

 

 しかし。

 

「―――無駄よ。全て無駄」

 

 八意永琳は静かに言い放つ。

 確かに咲夜のナイフは八意永琳を刺し貫いていた。 

 弾幕ごっことはいえ、ここまでやられてはただ済むはずがない。しかし。

 

「そんな……!」

 

 咲夜が呆然と呟く。

 まるで微風に吹かれたかのような表情で、八意永琳は平然とその場に浮いている。効いているはず、なのに、全くのノーダメージに見えた。

 

()()―――!」

 

 レミリア・スカーレットは忌々しげに吐き捨てる。

 

()()()! ()()!」

 

 八意永琳はすうっと目を細めて静かに微笑うと、レミリア・スカーレットを見つめた。

 

「貴女には理解るのね、()()が」

 

「それは、それは貴様如きが持っていいはずの能力では無い!! ()()―――だと!?」

 

 レミリア・スカーレットには本能的に理解できた。八意永琳の()()は吸血種のもつ()()()とは全く別のものだということを。

 

「貴女とは違うのよ、生なきの不死の女王(ノー・ライフ・クイーン)()()が正真正銘の不死身(イモータリティ)、紛うこと無き不老不死(エターナリティ)よ」

 

 ざわり。

 

 八意永琳の髪が揺ら揺らと逆立っていくのと同時に、魔力と霊力が桁違いに上がっていく。

 

「さあ、果たして貴女にこれが耐えられるかしら?」

 

 左手を差し出すとそこに光り輝く弓矢が現れ、それを左手で掴む。右手で矢を取ると、弓に番え、引く。

 すると、八意永琳を中心にして、周囲に円形状に魔力弾が現れた。

 

 咲夜がレミリア・スカーレットを庇うように前に移動する。

 

 レミリア・スカーレットがスペルカードを呼び出す。

 

 咲夜が懐中時計を手に取る。

 

 

 しかし。

 

 

「―――天呪 『アポロ13』 」

 

 

 月が、眩いばかりの烈光を放った。

 

 

 

 少し離れた場所で、魔理沙はその光景を見ていた。

 

 何も出来ない歯痒さと、己の弱さを噛み締めながら。

 

 

 

 ―――夜の闇へと真っ逆さまに落ちて行く人影がふたつ。

 

 

 

 月が傾く。

 

 

 

 明けるはずの無い夜が、夜明けへとその針を進めた。

 

 

 

続。

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