東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 15

 

「貴女……どうして生きているの? それに、明けない夜を、終わらせる? そう言ったかしら?」

 

 珍しく表情を揺らす西行寺幽々子が、驚いた様子で訊ねた。

 それに対して輝夜は西行寺幽々子の正面に立つとニッコリと微笑んだ。

 

「私が生きていようとも死んでいようとも、どうでもいいじゃない?」

 

「……」

 

「それと、後半の質問の答えだけれども。―――こんな下らない茶番はいい加減にお終いにしようと思って」

 

「……茶番、ねぇ……」

 

 すうっと目を細める西行寺幽々子。口元、左右の口角が静かに上がる。まるで魅了の魔法でも掛けられているかのようにアリスは、西行寺幽々子に魅入られてしまった。その顔は、この世のモノとは思えない美しさと冷酷さとが入り混じった、恐ろしくも慈悲を感じる笑顔だった。

 輝夜はその視線を真正面から受け止め、その圧力を自然体で受け流す。

 

「ふふ、そう、すべては茶番だわ」

 

「今の言葉、あの(ふる)い月も、永い夜も全て蓬莱山輝夜、貴女が仕組んだ茶番だと白状したと言って良いのかしら?」

 

「ふむ……全てが茶番だといったら、永琳には悪いわね。あの月は私のためにやってくれたのだからね」

 

「永琳? ああ、あの薬師ね? 確かにあの薬師がやりそうなことだわ。幻想郷全体に悪影響を与えては暗く嗤っているのかしら?」

 

「あら、うちの永琳を悪く言わないであげて?」

 

 輝夜の言葉の端に僅かな苛つきが混じる。

 

「永琳は自慢の従者なんだから」

 

「ふうん。薬師なら薬師らしくお嬢様の毒見でもしていれば良いものを」

 

「……あら、今日びの薬師は毒だけでなく謎の検分もするものよ?」

 

 言って、輝夜は首を横に振り溜息を()く。

 

「謎―――。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あらあら、明けない夜にしたのはまるで自分達では無いみたいな物言いね」

 

「おやおや、明けない夜にしたのはまるで私達みたいな物言いね?」

 

 輝夜の問い返しに、西行寺幽々子は笑みの形こそは変えず、その身から放つ魔力をいっそう深めた。

 

「今回の一件は貴女たち月人が、太古の月を喚び出し、この歪んだ満月の一夜を永遠のものとする、そう、謂わば“永夜事変”だわ」

 

 西行寺幽々子は両腕を静かに降ろす。そうしたのち小さく息を吐くと、右腕だけゆっくりと持ち上げ―――、掌はゆるやかに開いたまま輝夜を指し示した。

 

「月も夜も、この幻想郷は決して誰のものでもない。それはあの夜に棲まうものども(ミッドナイト・ストーカー)のものでもなければ、眼前の月からの異邦人(ムーン・ストレンジャー)のものでもない」

 

「ふふ……()()のイメージってもっと余裕ぶってる雰囲気の持ち主と聞いていたけど。ねえ、()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()?」

 

「あらあら、だとしたらそれは今宵の月の光が、私を狂わしているのかもしれないわね」

 

 西行寺幽々子の魔力が一気に膨れ上がる。

 輝夜はいたって自然体でその眼前に佇んでいる。

 今にも西行寺幽々子から吹き付ける魔力の嵐に巻き込まれ散り散りになってしまうのではないかとアリスは心配だった。

 しかしそんなアリスの心配をよそに、輝夜はすっと目を閉じて笑った。

 

「そうね、人づてに聞いた噂やあの新聞記事から想像する姿と、今の貴方は大きくイメージが乖離しすぎているみたい。()()()()()()()()()()()、恐らく」

 

 ふわり、輝夜は宙に浮くとそのままゆっくりと上昇していく。

 それを見上げる西行寺幽々子とアリス、そして()()

 旧い月を背に、蓬莱山輝夜が両腕を西行寺幽々子へと突き出す。その右手にはいつの間に持ったのか―――、

 

 アリスが魔力視でその右手を視る。

 

(……あれは、玉? いいえ、()ね?)

 

 そう、輝夜の右手には色とりどりに輝く()があった。

 

(属性魔力の籠められた弾?)

 

 遠くからではいまいちハッキリしない。詳しくは発動を待つしか無かった。

 

 蓬莱山輝夜は静かに厳かに、永遠亭の主たる威厳を持って闖入者である西行寺幽々子へ告げた。

 

「―――それならそれで良いわ。さあ、構えなさい欺瞞と虚構の桜縛霊姫。貴方の全てをこの月光のもとに晒してあげる。それと―――」

 

 蓬莱山輝夜の声のトーンがさらに一段下がる。

 静かな怒りの感情が、そこには籠められていた。

 

「貴方には少し痛い目にあって償ってもらうわ。永琳を軽んじ、馬鹿にした罪をね」

 

「あら、従者風情に優しいのね?」

 

 意外、と言ったふうに言うと、西行寺幽々子は袖口から扇子を取り出すとバッと音を上げて仰々しく開き、口元を覆った。

 

 ふたりのやり取りを傍観していたアリスは、その隠された口元の表情を雰囲気で読み取っていた。

 嘲り、憐れみ。そして、

 

(……笑った!?)

 

 愉悦。

 

 そんな西行寺幽々子の雰囲気に蓬莱山輝夜は眉根を(ひそ)めつつも、答えの代わりに右の掌を西行寺幽々子へ突きつける。その掌には七色の()があった。

 

「刮目しなさい、()()が―――、

 

 今まで、何人もの人間が敗れ去っていった五つの難題、その()()()()よ。

 

 ―――妖怪の貴方に幾つ解けるかしら?」

 

 

 

 輝夜と西行寺幽々子の弾幕ごっこを眺めながら、アリスは言いようの無い違和感を覚えていた。

 

 いや、正確に言えば違和感は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だが、()()が何処から来るものなのかどうしても解らない。

 

 ヤキモキしながら、アリスはただふたりをみていることしか出来なかった。

 

 

 蓬莱山輝夜の繰り出す難題『龍の頸の玉 ―五色の弾丸―』はあっさりと攻略されてしまっていた。

 

 効果時間切れ。七色の弾は砕け、光の塵となって虚空に消えた。スペルカードの効果で実体化した概念的なアーティファクトであり贋作(にせもの)、実物ではないのだ。

 

 そのスペルカードの効力時間中、なんと西行寺幽々子は一発の弾も放つこと無く、全て躱しきっていたのだった。

 確かにそれは理論上可能な事ではある。スペルカードの時間切れ待ち。

 

 しかし、それを言うのと行うのとでは話が全く変わってくる。

 

(……魔理沙なんか絶対に理解出来ない所業ね)

 

 いつだって全力、ウルトラ魔砲バカの魔理沙はノーショットなんか絶対にやらない。そんなもの弾幕ごっこじゃないぜ? そう言うに決まってる。アリスには確信し、内心クスッと笑った。

 

 それはさておき、向き不向きもあるが時間切れ待ちは、向き不向き以上に相当な実力が無ければ出来ない事だった。

 

 そんなスペルカードの破り方をされた蓬莱山輝夜はその割にはケロッとした様子で、

 

「なるほど、なかなかやるわねぇ」

 

と感心した様子で余裕を見せる。

 西行寺幽々子は相変わらず口元を扇子で隠したまま、

 

「それは()()()()()()()()()()()()()()()()から。初見でなければどうということもないわ」

 

「ふぅん? じゃあ、これはどうかしら?」

 

 続いて取り出したのは黒い石鉢だった。

 

 二枚目のスペルカードの宣言。それは同時に蓬莱山輝夜が持つ五つの難題のふたつめを表していた。

 

「 難題 『仏の御石の鉢 ―砕けぬ意思―』 」

 

 

(やっぱりおかしい)

 

 アリスは目の前の弾幕ごっこを見つめながら考える。

 

 蓬莱山輝夜の繰り出す弾幕を、相変わらずの様子で避け続ける西行寺幽々子。

 

 これだけ激しい弾幕ごっこを繰り広げていながら、西行寺幽々子は一枚のスペルカードはおろか一発の弾すら撃つ気配が無い。

 このまま全てを避け切るつもりなのだろうか。

 それとも、

 

(何か他に意図があるのかしら?)

 

 魔理沙曰く。西行寺幽々子の弾幕は優雅で優美で、今まであれほど綺麗な弾幕は見た方が無い。とのことだ。

 実際に相対した魔理沙からは『西行寺幽々子はノーショットで避けまくる』なんて話は微塵も聞かなかった。

 むしろその美しさを見せつけるかのように、或いは楽しませるかのように圧倒的な弾幕を、数多のスペルカードを行使してきたと言う。

 

 しかし。

 

 今、実際に目の前にいる西行寺幽々子はどうだ?

 

 余裕の笑みすら浮かべ、襲い来る弾幕を掠らせるように紙一重で躱していく。チリチリと魔力の残滓をちらつかせながら。

 

 その軌跡は確かに華麗ではあるが、優雅さや優美さを感じるかと問われれば、それとはやや異なる感想だ。

 

 アリスは募らせた違和感の中、あるひとつの仮説に思い至っていた。

 

 

「やはり贋作(これ)ではダメみたいね!」

 

 弾幕を躱され続けている蓬莱山輝夜だが、その表情はどこか楽しげですらあった。

 

「それなら―――」

 

 展開しているスペルカードに、もう一枚のスペルカードを重ねる。

 二枚のスペルカードは互いに強い光を放ち―――、新たな一枚のスペルカードへと変化した。

 それを確認した蓬莱山輝夜は静かながら、力強く宣言した。

 

「難題改メ―――、神宝 『ブディストダイアモンド』!」

 

 宣言が完了すると同時に、蓬莱山輝夜の手にした黒い石鉢が変遷し、金剛石が如く輝きを放った。

 

 スペルカードの書き換え。西行寺幽々子を狙うレーザーの数が倍に増える。

 今まで抜けられていた弾幕とレーザーの間を埋めるように、倍になった弾幕とレーザーが嵐のように襲いかかった。その不意打ちにギリギリを躱していた西行寺幽々子は逃げ場を失う。

 

 直撃コースだった。

 

 アリスの位置から見ても、西行寺幽々子に追加の弾幕とレーザーを躱す余地は無いように見えた。

 スペルカードを発動させるか、カウンターでの霊撃発動くらいしかそれを躱す事は不可能。回避不可それ即ち、

 

 被弾。

 

 西行寺幽々子を除く、その場の全員が彼女の被弾を確信した。

 

 ―――その時だった。

 

「 『待宵反射衛星斬』! 」

 

 スペルカードの宣言。

 声は、遥か上空から響いた。

 

 それはさながら雷鳴の様に。

 

 閃光、

 

 轟音、

 

 天から地へ、そしてそこから地を這うように疾走る煌めきと軌跡。 

 

 アリスはその眩しさに思わず目を伏せる。それはほんの僅かな間。

 

 再び目を開けたアリスは目の前の光景に声を失う。

 

 

 蓬莱山輝夜の放った弾幕、レーザーのすべてが―――、

 

 

 ()()()()()()()()

 

 

 

続く。

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