東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜 作:赤井せりか
雷鳴の如き斬撃により、蓬莱山輝夜のスペルカードが破棄される。
全ての弾幕は一刀両断され、掌にあった七色の玉は砕け、光の塵となる。
空から閃光を纏い戦場に飛来してきた影―――。
西行寺幽々子がその名を呼ぶ。
「あら、妖夢じゃない」
そう、魂魄妖夢だった。
妖夢は右手に握った刀の切っ先と共に、強い視線を蓬莱山輝夜へと突き付ける。
アリスは記憶の中の妖夢と瞳の色が異なっていることに気がついた。
蓬莱山輝夜はスペルカードをストックしたまま、警戒は解かずにほんの僅かに身構える。そうして値踏みするように、突然の乱入者である西行寺幽々子お抱えの庭師を頭の先から爪先まで眺めた。
深い緑色のベストとスカート。胸と頭には深い青のリボン。そして、おかっぱ頭の銀髪と手にした一振りの方が月光に照らされきらきらと煌めいていた。
それと、
蓬莱山輝夜は小さく嘆息した。
「その瞳の色……
◇
「
アリスが訊ねる。
「あの
答えはアリスのすぐ傍らからの
「―――師匠、八意永琳が喚び出した
「影響?」
「月の光が孕む狂気に囚われるのさ」
「……狂気」
「ああ。あの庭師はだいぶその影響が大きいみたいだね。瞳が赤く輝いているのがその証拠だろうさ」
「……まるで兎の目みたいね」
「ああ、そうさね。しかしあんたら魔法使いは本当に特殊だな」
「え?」
「あの黒白が言っていたよ。魔法使いと月は昔から縁があるから耐性があると。だから狂気にはそんなに囚われずに済む」
「黒白……魔理沙ね。え? あなた魔理沙を知っているの?」
「ああ。さっき
「……無事なの?」
「まあ、あたしと相対した時は元気どころか水を得た魚って感じだったけどね」
そう言って空を見上げる。その視線の先は
アリスは直感で魔理沙が上空にいると気付いた。
「けどどうして私と魔理沙を分断して、魔理沙は上へ、私をここへと導いたの?」
「ん? まあ、師匠は黒白に興味があったみたいだし、輝夜様はあんたに興味があったみたいだよ?」
「私に……?」
「話してみたかったんだとさあんたと。ほら、輝夜様はこの永遠亭で蟄居してるだろ? 竹林も迷いの呪が掛けられて客人もほとんど来ないし。だから話し相手が欲しかったんだよ」
「なんで私が……? それにどうして私のことを?」
「うちは
「ああ……あの……」
文々。新聞。烏天狗のブンヤが発行している新聞だ。幻想郷での事件、異変、天気、グルメなどなどエトセトラエトセトラ。幻想郷での出来事や人物を盗撮につぐ盗撮でお伝えしているすこし不思議な新聞だ。
「あんたもけっこう有名人だぜ?」
「え? 私? やだな照れるなぁ……」
「森の奥で人形に囲まれてひとりさみしく暮らしてる魔法使いとな」
「なんですって!?」
「……言ったろ? 輝夜様もここでひとりで暮らしている。確かにお付きの永琳やあたし、あともうひとりレイセンがいるけどな。自分と同じ様に森の中でひとり暮らしているあんたに興味を持ったのか、なんなのか。まあ詳しくは本人しか分からないけどね」
「うーん……」
確かにさっきまで輝夜と他愛もない話をして盛り上がっていたのは確かだ。
「それに―――」
「―――それと同時にあんたが
「―――!?」
「ああ、わかってる。あんたは
「私は……」
それはほんの些細な願い。
月の異変を魔理沙と共に。
そんな夜が、
ずっと続けば良いと、
確かに、そう願った。
ただそれだけだったのに。
しかし、輝夜と話していてアリスも気がついた。
輝夜は私が夜を止めた張本人だと確信していることに。そして自分自身も終わらない夜を願った。だからだということに。
「けど、そんなことが……」
「それがあの太古の月の恐ろしいところなのさ。そもそもこれはある事情のもと、
「……月からこの永遠亭を隠すために?」
「ああ。もちろん朝になればまたいつも通りさ。今回もそのはずだったんだ。それなのに―――、夜が終わらなくなった。さあ困ったぞ、というわけさ。―――けどまあ異変が起これば幻想郷の住人たちは異変解決に乗り出す。それならばこちらとしては待ち受けるか、と策を弄して待っていたのだけれども……まさか直接宇宙に向けて飛び上がるとは思わなかったさ」
「でも、私、そんな、夜を止めるつもりなんて」
ずっとこんな夜が続けばなんて、言葉の綾だ。本当に永遠を望んでいるわけじゃあない。
「ああ、それはあたしも輝夜様もあんたの話を聞いててわかったさ。あんたはただ、無意識のうちに
―――戦場に動きがあった。
◇
魂魄妖夢は苛立っていた。
今夜は特別気は昂るし、目はチカチカするし、夜食を何度も何度も食べたような気がするし、刀も普段より妖しく光ってる。
よく昔から『クックック……今宵の村正は血に飢えているぞ……』なんて使い古されたお約束もあるものだし、笑い方以外を試しに実践してみたらスペルカードもぶった斬れたし。まあ、これは確かにちょっとスッキリしたが思わずクククと笑いそうになったのは内緒だ。
けど苛立ちはそこじゃあない。
まずは幽々子さまが私を置いて勝手に出掛けたこと。もしかしたらこれはこの苛つきの根本と関連があるのかもしれない。それはまあいい。幽々子さまのおやつ抜きで対処するとしよう。
次に、幽々子さまの気配を追ってみたら途中で見失ってしまったこと。魂魄妖夢一生の不覚。これは私もおやつ抜きに付き合うことで良しとする。
だがこの苛々はそんなことじゃあない。
最大限私を苛つかせたのは―――、
◇
右手の刀を蓬莱山輝夜へと突き付けたまま、魂魄妖夢はもう一振りの小刀を左手で抜いた。
長刀は楼観剣。魂魄家に伝わる幽霊10匹分の殺傷力を持ち、全てを斬り裂く必殺の一振りだ。そして今抜いた小刀の方は白楼剣。これは人の迷いといった形無き概念すらも断ち切る小刀だった。
白楼剣が月の光に照らされ白銀に閃く。
魂魄妖夢は視線を蓬莱山輝夜から外すと、
「―――さて、
そうしてその白楼剣を―――、
続。