東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 17

 

 

 ―――その異変に最初に気が付いたのは八意永琳だった。

 

 だから、八意永琳は太古の月を呼び出し偽りの満月とした。

 

 そして、博麗大結界の内側にさらにもう一重、重ねて結界を張った。

 

 月から見下ろした時に、永遠亭一帯がまるで湖に浮かぶ酔月と見える様に。

 

 そうして、月から地上へと降りれぬよう、地上より月へと昇れるぬよう、封鎖した。

 

 何故、そんな事を?

 

 天才、八意永琳が最初に見抜けていた大いなる異変、それは。

 

 幻想郷全体を覆う博麗大結界の力が、以前より弱まっていたということだった。

 

 幻想郷は博麗大結界によって閉じ隠匿されている。

 月から地上を見下ろしたとしても、埒外の視力で覗いたとしても、幻想郷の姿形は博麗大結界によって見通すことは出来ない。

 

 だから、今まではここまでする必要が無かった。

 

 だが今回の満月の夜はいつもと違った。その大結界が弱まった所為で、月から見通すことが可能になるかもしれない。

 

 そうなれば……私と輝夜が月から見つかってしまうかもしれない。

 遠い昔、月への帰還を拒んだ輝夜。

 それを迎えに地上へと降り立ったものの、月を捨て輝夜との永遠を選んだ私。

 裏切り者の二人を月は見逃さない。 

 そうなると月からの迎えが来てしまう。かりそめの永遠が閉ざされてしまう。輝夜とのふたりの時間が終わりを迎えてしまう。

 

 天才は、()()()()()()()

 

 

 次にこの異変に気が付いたのは、大妖怪 八雲紫だった。

 

 満月が紛い物である、それはまあ良い。

 

 それよりも気になったのは、博麗の巫女の力が弱まっていた事だ。

 

 内心ほくそ笑むと共に、自分よりも先にそれに気がついた存在がいたことに腹を立てた。

 

 だから、あらゆる方向に嫌がらせをしてやろうと企んだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

 レミリア・スカーレットは終わらない夜を楽しんでいた。

 

 だが、月が紛い物であると気付き憤慨した。

 

 だから、その元凶を見つけ出し自ら懲らしめてやろうと目論んだ。

 

 そのためには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

 アリス・マーガトロイドは霧雨魔理沙とともに月の異変の解決のため飛び立った。

 

 今回はあの2色巫女の姿はない。なんという好機!

 

 月夜に魔理沙とふたりで夜空の飛行。嗚呼、なんて素晴らしい時間なの!

 

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そして、同じ様に月の異変に気付いた西行寺幽々子は―――。

 

 

 

 

 

 魂魄妖夢の向ける切っ先と殺気を受け、()()()()()

 

「あら妖夢ったら。主であるこの私にその剣を向けるというの?」

 

「……もう一度問う。お前は何だ?」

 

「やあねぇ妖夢。あの月の狂気に囚われ、私すらもわからなくなってしまったの?」

 

「……そうであれば、どれほど良かったか」

 

「ふぅん?」

 

「お前の言う通り、主である幽々子さまに刃を向けることになるなんてな。この私が」

 

 アリスもてゐも、輝夜でさえも、事の成り行きに固唾を飲む。

 妖夢は楼観剣を鞘に納めると、白楼剣を逆手に持ち直す。

 

「―――全ては、この一刀の元に」

 

「良いのかしら? その白楼剣は全ての迷いを断ち切る刃。そんなもので私を斬ったら、この世の未練すら断ち切ってしまうかもしれないわよ? そうしたら、どうなる?」

 

「もしもそうなったら、幽々子さまは成仏し、消滅する」

 

「貴女は、それを望んでいるのかしら?」

 

「…………」

 

「ほんとうにいいの? 半人半霊の貴女に、できるのかしら妖夢?」

 

 ギリッと奥歯を噛み締める妖夢。

 

「その顔で―――」

 

「ん?」

 

 妖夢の両の瞳が、一際強く赤に輝く。

 

 

「その目で、その声で、

 

   私の名を呼ぶなッ―――!!」

 

 空を斬る音が同時に複数鳴る。妖夢の周り、斬撃が八芒星を描く。散る霊力がまるで桜の花びらのように舞い、妖夢へと集束する。

 

 瞬きの間すらあらばこそ。

 

 

「妖怪が鍛えた、この白楼剣に斬れぬものなど―――」

 

 

 アリスの目に映ったのは―――、

 

 

 妖夢が立っていた場所から奔る二条の光の軌跡。

 

 白楼剣の白銀の煌めきと、瞳の赫の輝きが、それぞれ光の軌跡となって()()を断ち斬っていた。

 

 

「―――殆ど無い!」

 

 

 

 そして、同じ様に月の異変に気付いた西行寺幽々子は―――、

 

 徐々に進みが緩やかになっていく夜にも気付いた。

 

 これは何がある。

 何だかわからないけれども何か起きてる。

 じゃあ、とりあえず、夜食をたらふく食べて腹ごなしね。

 

 ()()()()()

 

 すると月はその傾きを完全に止め、果たして夜は全く明けぬ永遠となった。

 

 その後、何度も運ばれてくる夜食に最初はご満悦であったが、如何せんお気に入りの庭師の様子もおかしくなっていくことに気がついた。

 

 魂魄妖夢は月の狂気に囚われている。

 

 ()()()()()()()

 

 腹ごなしもすっかり済ませたことだし。と西行寺幽々子は立ち上がると、そうして、永遠亭へとひとり向かったのであった。

 

 

 

 ―――()()()()()()()()()()

 

 この時、この場にいた者は知る由もなかったが、遥か上空でレミリア・スカーレットと十六夜咲夜が八意永琳のスペルカードの前に敗れ落ちたのは、妖夢が()()を斬ったのとまさに、全く、同時であった。

 

 月を仰ぐ輝夜。

 

 まだ緩やかではあるが、夜は確実に夜明けへと向かっていくのを輝夜は感じていた。永琳はうまくやったのかしら。あとで確認にいかないとね。そんな事を考えつつ視線を空から地上へと戻す。

 

 その視線の先には西()()()()()()とその庭師。

 

 西行寺幽々子に背を向けたまま、白楼剣を鞘に納める魂魄妖夢。

 

 ―――ちん。

 

 鍔鳴りの音。と、スローモーションで倒れる西行寺幽々子。

 

「妖……夢……?」

 

 倒れながら幽々子が庭師の名を呼ぶ。

 

 妖夢はハッとなって、瞬間移動に近い歩法を用いて主の身体を抱きかかえる。

 

「幽々子さま、申し訳ありません!」

 

「あらぁ……? 私、どうしていたのかしら?」

 

 幽々子の身体には斬られた跡は無い。()()()()()()。ホッと胸をなで下ろす妖夢。

 真剣な眼差しで敬愛する主を見つめる。

 

「いえ、何も御座いません。何も心配御座いません」

 

 その眼差しに、幽々子はふわりと笑った。

 

「その目、貴女、克服したのね」

 

 魂魄妖夢の瞳は先程までの赤色ではなく、いつも通りの色に戻っていた。

 

「え?」

 

「んーん、なんでもないわ。とにかく妖夢が無事で良かったわ……」

 

「幽々子さま……そんなありがたいお言葉……ハッ!? 否、この妖夢が未熟故、致し方なしとは言え幽々子さまへと刃を向けるなど! この妖夢、腹を掻っ捌いてお詫び致します!!」

 

「馬鹿ねぇ、良いのよそんなこと」

 

「しかし、それでは………」

 

「私だって何も言わずに出ていってしまったもの。ちゃんと貴女を信頼して話をしておけば良かったわ」

 

「ゆ、幽々子さまッ!!」

 

 主からの労いの言葉に、感涙咽ぶ妖夢。

 

 そんな中、

 

 ―――ぐぅ。

 

 幽々子の腹の虫が鳴いた。

 

「もう、何だかよくわからないけどおなかがへったわぁ」

 

「ハッ、ではこの妖夢何か食せるものを見繕ってまいります」

 

「なるべく早くね?」

 

「ハッ!」

 

 そんなふたりのいつも通りのやり取りが繰り広げられていたが、

 

「―――それには及ばないわ」

 

 蓬莱山輝夜が割って入った。

 

 音もなく魂魄妖夢が西行寺幽々子の盾になるように立ち、いつの間にか抜刀していた楼観剣を蓬莱山輝夜へと向ける。

 

 しかし、

 

「もう弾幕ごっこはおしまいよ。―――()()?」

 

「はい、こちらに」

 

 これまたいつの間にか両手に盆を持った()()が輝夜の傍らに立っていた。

 

 つい先程まで隣にいたハズのアリスは慌ててキョロキョロと見回した。

 

「い、いつの間に……!?」

 

 従者が時を止めるのは十六夜咲夜の専売特許だと思っていたけど、なかなかどうして妖夢も()()素早い出来た従者ね、と胸のうちで呟くアリス。

 

「こちらをどうぞ」

 

 ()()が持つ盆には、先程アリスも食べた饅頭がてんこ盛りになっていた。

 

「あら♪ 月見団子ならぬ月見饅頭ね♪」

 

 満面の笑みを見せる西行寺幽々子。

 ゆるりとその身を起こすと―――、

 

 瞬間、盆の上の饅頭は消え失せていた。

 

「えっ!?」

 

 さすがの()()も驚きの声を上げる。

 

「美味しかったわ〜。あとは熱いお茶が一杯怖いわね?」

 

 言って、ウィンクをする幽々子。

 

 盆の上に満載だったはずの月見饅頭は、瞬く間に幽々子の胃袋の中へと消えていたのだった。

 

 

 

「そろそろ教えてもらえないかしら―――」

 

 いまひとつ状況の飲み込めていないアリスが疑問を口にする。

 

 ()()が運んできた緑茶を啜りながら、幽々子はニコニコと妖夢の方を見る。

 茣蓙(ござ)まで敷いて、すっかりお月見の様相を呈している。

 

「月の妖気にあてられてしまったのね妖夢も、私も」

 

 どこかのほほんとした口調の幽々子。

 

「この子を元に戻すつもりで私はここに来たの」

 

 話しながら追加で運んできた月見饅頭をぱくり。

 

「けれども途中で意識が無くなって―――、あとはさっきの通りよ?」

 

 言って、幽々子は小首を傾げて肩をすくめる。

 

「どういうこと?」

 

 アリスの問いに答えたのは妖夢だった。

 

「私が斬ったのは幽々子さまではありません」

 

 妖夢ももぐもぐと饅頭を食べ、お茶をひとくち。

 

「ふう。……この白楼剣が斬るのは人の迷いや想い、そういう概念的なものを斬ります」

 

 妖夢の話の間にも幽々子は恐ろしいスピードで饅頭をたいらげていく。妖夢はそれを横目で見つつ、

 

「つまり、ここ永遠亭を訪れられた幽々子さまはその時点で既に幽々子さまではなかったのです。私はその幽々子さまに取り憑いた()()を斬っただけです」

 

 妖夢は手にした湯呑みに目を落とした。

 アリスはまだ事態が飲み込めず首をかしげる。

 

()()?」

 

 そんなアリスに輝夜はチラッと視線を送ると、ビシッと幽々子を指差した。もっとも指差された幽々子は饅頭を口いっぱいに頬張っていたが。

 

「そうよアリス。西()()()()()()()西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「亡霊なのに?」

 

 アリスの疑問にちょっとムスッとする幽々子。口の中の饅頭はすでにない。頬が膨れてるのは饅頭のせいではないようだ。

 輝夜は構わず続ける。

 

「ええ、そうよ」

 

「輝夜は、それに気づいていたというの?」

 

 アリスの問いに輝夜は満足げに頷く。

 

「当たり前じゃない、すぐにわかったわ? だから私は一度も()()のことを『西行寺幽々子』とは呼ばなかったわよ?」

 

「……全然気付かなかった」

 

「最初に飛んできた蝶。あの時点で気づいたわ」

 

「そうだ! あの時、死の冥蝶に触れて―――」

 

「死んだ。けどね、私は()()()()のよ」

 

「えっ」

 

「私は不老不死の身体を持っている。私に()そのものは訪れない」

 

「えっ、でもさっき()()()って」

 

「そう。だからこそ気付いたわ。あれは死をもたらされたのではなく、()()()()()()()()()()のだ、と」

 

「―――境界!?」

 

 境界といえば連想されるのはひとり。アリスはもはや嫌な予感しかしなかった。

 

 ヒソヒソと耳打ちする幽々子と妖夢。

 

「……()()()じゃないわよねソレ」

 

「と、言いますと?」

 

「たぶん、()()()だわ」

 

「違いがよくわかりませんが……」

 

 そんな幽々子と妖夢を怪訝そうに見るが、輝夜は気を取り直して続ける。

 

「それに、あの時の()()は一度たりともスペルカードを使わなかったでしょ?あれは恐らく使わなかったのではなく、使えなかった」

 

「だから……ノーショットで避けまくってたのね」

 

 納得するアリスに幽々子はぷくっと頬を膨らませる。

 

「全く、なんの思惑があったのかは知らないけれども、本当いい迷惑だわ」

 

 プンプンと怒る幽々子の隣で妖夢がウンウンと頷いて同意する。

 

 腕組みをして輝夜は嘆息し、唸った。

 

「……まあ、おおよそ今宵の異変を私たちの責任として押しつけるつもりだったんでしょうけど…………そんなことが出来るのはこの幻想郷でもただひとりと聞いているわ」

 

「―――紫ね」

 

 盛大な溜息をつく幽々子。

 

 ―――八雲紫。

 

 アリスはチラと思い出す。竹林の前で2色巫女と大妖怪と対峙した時のことを。あの時の八雲紫を―――。

 

 幽々子も腕組みをしてうーんと唸る。

 

「まったく紫ったら、私の身体を借りたいならあらかじめ言ってくれれば良いのに」

 

「―――なので、私は幽々子さまと紫さまの繋がり、その境界を断ち切ったのです」

 

 言うは容易いが、妖夢が行ったことはかなり高度な次元での話だ。

 

 アリスも腕を組みひとしきりうんうんと唸ると、ひとつの答えに辿り着いた。

 

 

「つまり、八雲紫が今回の黒幕ってことになるのかしら?」

 

 

 その時だった。

 

 

「―――あら。黒幕だなんてひとを悪の総本山みたいに呼ぶのはよしてくれる?」

 

 

 ()()()()()()()()()()

 

 ぞわり。アリスの背筋が凍る。

 そのスキマが開いたのはアリスのちょうど真後ろ。

 

 言いようの無い闇と悪意を纏った障気が噴き出す。

 

 

 スキマから音も無く―――、

 

 

      黒死蝶が舞う。

 

 

 生と死の境界を舞う黒死蝶が、アリスへと迫った。

 

 

 

続。

 

 

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