東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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1 Unrequited feelings  
 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 1


 

 お月見―――、もとい、月の異変を調べるため、アリスが魔理沙と一緒に飛び立ってからどれくらいの時間が経っただろう。

 

 ドキドキ高鳴る胸。そんなことはおくびにも出さずアリスはクールを装い、魔理沙に並び、空を疾走る。楽しい時間は一瞬と昔から相場が決まっているものだけれども、それでも、いつまで経っても月は傾く様子を見せなかった。

 

(これは、楽しい時間は永遠にも感じるっていう逆パターン?

 え、いや、楽しいだなんて。別に、私は魔理沙のいつもの好奇心に付き合ってあげてるだけで、そんな、いっしょが、ううん、ヤダ、何考えてるの?)

 

 ちら。

 

 アリスは横にいる魔理沙の方を盗み見る。

 いつも通り箒に跨り、真っ直ぐ前を見据えるその姿はどこか眩しく見える。

 魔女の帽子から伸びる、ゆるいウェーブのかかった金色の髪はまるで流星の尾のように風に靡いている。

 

 どきん。

 

 胸のあたりに鈍い痛みのような鼓動を覚え、アリスは頭をぶんぶか振った。

 

(ダメダメ、魔理沙に気取られるのだけは―――絶対にダメ)

 

 頬が熱くなっていくのを感じる。

 アリスはギュッと目を閉じる。そうやって、想いを封じ込めるように。

 

 頭を切り替えるために空を見上げるアリス。

 

 

 夜空には、月。

 

 

 頭上の月は確かに丸かった。それでいてどこか歪な―――、 

 

(あら?)

 

 違和感。

 

 そう、その違和感は僅かだけれども、

 

 

(――満月って、こんなだったかしら?)

 

 

 そんな疑問を持った、その時だった。

 

 

「――ス、おーい、アリスってば!」

 

 

 遥か後ろから聞こえた魔理沙の声に、アリスはハッと意識を取り戻す。

 

「え? あ? ま、魔理―――」

 

 

  バサバサバサッ! ごんっ!

 

 

「ぎゃっ?!」

 

 

 気がつく間こそあれ。アリスは頭から竹林に突っ込み、ひときわ太い竹に頭をしこたま打ち付けてしまっていた。

 

 

 

「……っ、痛ぅ〜……」

 

「大丈夫か?」

 

 

 地面にへたり込んだアリスに、あんまり心配していないような軽い物言いで声をかける魔理沙。アリスは痛む頭を擦りながら口を尖らせた。

 

 

「止まるなら早く言ってよね……」

 

 

 ポリポリと頬を描きながら魔理沙は大きく息を吐く。

 

 

「何度も呼びかけたのに、全く聞く耳持ってなかったじゃないか」

 

「あ、え? そうなの?」

 

 

 コクリ。頷く魔理沙。

 

 アリスは先ほどとはまた別の意味で頬が熱くなるのを感じた。

 

 ……そんなこんなで先程感じた違和感のことなどアリスの頭からすっかりこぼれ落ちてしまっていたのだった。

 

 アリスの無事を確認すると、

 

 

「まあ、兎に角だ」

 

 

 魔理沙は箒を右肩に担ぎながら、左手で帽子を深くかぶり直す。

 

 

「この竹林の奥から、件の瘴気を感じるぜ」

 

「瘴気……確かにね。魔力というより、何とも言えない霊力、そう、不気味なチカラを感じるわね」

 

 

 ふたりの眼前広がる竹林。

 月の光もまともに届かない程に鬱蒼とした竹林は、奥まで見通せず不気味さに拍車をかけていた。

 

 いつになく真面目な魔理沙に、ゴクリと唾を飲み込むアリス。緊張が二人の間を支配していく。

 

 その張り詰めた雰囲気を、魔理沙が破る。

 

 

「ま、考えても埒が開かないぜ?」

 

「確かにね」

 

「埒が開かないなら――」

 

 

 よっ、とまるで玩具を弄ぶような手つきでミニ八卦炉を左手に構える。

 

 これから起こるであろう事態を想定し、アリスはギョッとした表情で魔理沙を見た。

 

 魔理沙は、いつも通りのあっけらかんとした笑顔。

 

 

「――こじ開けるまでだ」

 

 

 しかし、魔理沙の魔砲は埒をこじ開けることはなかった。

 

 

「そこまでよ」

 

 

 凛と響く声が辺りに響いた。

 

 アリスは声の主に思い至り眉をひそめ、

 

 魔理沙は――、

 

 肩をすくめた。

 

 

「なんだ、お前も来ていたのか」

 

 

 ミニ八卦炉をごそごそとしまいながら、ややうつむき加減で両方の脚を肩幅に広げ足場を慣らす。

 

 

「当たり前でしょ。幻想郷の異変ですもの、私が出張らなくてどうするっていうの?」 

 

「そうかい? お前はてっきりコタツでぐーたらしてるのかと思ったぜ?」

 

「失礼ね。私が来なきゃ無茶をする誰かさんがいるからね。解決するのは異変だけじゃあないわ。起こるべくして起こる環境破壊を防ぐのも、私の役目よ」

 

「環境破壊か、そりゃ一大事だ。私も協力するぜ? 霊夢」

 

 

 振り向く魔理沙。

 数瞬遅れ、アリスも振り向く。

 

 その視線の先。

 

 音もなく、アリスと魔理沙の眼前へと降り立つ巫女装束の少女。

 

 紅白2色の、リボンとフリルが特徴の巫女装束。

 右手には御幣。左手にはスペルカード。

 口元はきっと結ばれ、真っ直ぐ魔理沙を見据えている。

 

 

「2色巫女……」

 

 

 忌々しげに呟くアリス。そんなアリスにはチラリと視線を向けるだけですぐさま魔理沙へと向き直ると、

 

「おあいにく。だって私は博麗霊夢だもの。だからね魔理沙、破壊活動をせんとする今のあなたは私にとって排除すべき障害なの。協力は無理ってのは()()()()()よ。つまり……」

 

 膨れ上がる霊力が颶風となってふたりに襲いかかる。

 アリスは思わず身動ぎし、魔理沙は――、

 

 

「ああ、とどの詰まり()()()()()だな」

 

 

 言って顔を上げ、にっと白い歯を見せた。一方の霊夢はというと、僅かに目元が揺れただけ。表情が揺れることはない。

 

 

「ええ、詰まる所()()()()()。あなたはここでお仕舞い。ゲームオーバーよ」

 

 

 冷たく言い放つ霊夢。

 

 魔理沙と霊夢、二人の間には多くの言葉はなかったが、様々な感情が渦巻いているようにアリスには感じられた。

 

 自分は全くの蚊帳の外、である。

 

 

(……結局こうなるのね)

 

 

 溜息をついた。

 

 

「あーあ、バッカみたい。こんな茶番に付き合ってなんていられないわよ」

 

 腕を組んで、ふんっ、とそっぽを向く。

 

「弾幕ごっこでもなんでもやったらいいわ。けど、私は1抜けよ」

 

「おっ? アリスはもうドロンか?」

 

「バカ。せっかくのお月見だったのに興が冷めたってやつよ。宴会でもないのにこんな空騒ぎに付き合ってなんかいられないわ」

 

 

 ―――振り向かなくてもわかる。もう魔理沙は私のことなんか見ていない。そう考えるとアリスは悔しくて悲しくて、しかしどこか分かっていて、そうして、諦めた。

 

 帰ろう、ここにいても寂しくなるだけだわ、と決めたその時だった。

 

 

「―――なに言ってるんだよアリス、中秋の名月はまだ先だぜ?」

 

 

 予想外の魔理沙の言葉に、腕組みを解きアリスは体ごと顔を魔理沙へと向けていた。

 

「はぁっ?」

 

 急にを言い出すのか。驚きから怪訝そうな顔へと表情が変化するアリス。構わず、魔理沙は続ける。

 

「それに、だ」

 

「夜は―――、そう、ふたりの夜は、まだまだこれからだぜ?」

 

 霊夢と対峙したままの魔理沙の横顔。ちらとアリスに視線を送る。

 目元しか見えなかったが、それでも。

 

 

 優しい目だった。

 

 

「―――っ!!」

 

 言葉にならない声に喉を鳴らし――、大きく嘆息ひとつ。

 

「わかったわよ。じゃあさっさとカタつけちゃいなさい? 私は離れたところ見てるから」

 

「悪いなアリス。すぐ終わるぜ」

 

 宣言し、前を向く魔理沙。

 その横顔がなんだか頼もしく感じて、アリスは慌てて口元を手で覆った。

 

 

(駄目、なんで私、笑ってるの?)

 

 

 グッと口を引き結ぶ。頬に力を入れる。

 気取られちゃ駄目だ。

 

 感情の昂ぶりが、表情になって現れそうになるのを無理矢理抑えつける。

 

 

 そんなふたりのやり取りを霊夢は半眼で、

 

「―――()()()()()()ですって?」

 

 今までとは打って変わって、霊夢の声には感情があった。怒気、あるいは――。

 

「舐められたものね。例え相手が誰であろうとも、ええ、それが魔理沙、あなたであってもよ? 私は手を抜かない。()()()なんか終わってやらないわ。いいえ、逆ね――、すぐに終わるのはあなたの方よ、魔理沙」

 

「珍しく饒舌じゃあないか、霊夢?」

 

 

 確かに、と内心頷くアリス。わかりたくもないが、霊夢の感情の変化にアリスもまた共感に似たものを感じていた。

 普段はぐーたらで、仕事熱心とは程遠い博麗霊夢がだ、()()()()()()()()()()()()()()()()ときたもんだ。

 

(逆ね)

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、アリスは自分の眉間に右の人差し指を当てた。

 

(相手が魔理沙だからこそ、あの巫女は本気になる。私と同じように――)

 

 と、

 

(ん?)

 

 何かが引っかかる。

 思考のうちの、それが何か、何が引っかかったのか。

 

(んん? それにそうよ、さっき私は――)

 

 もうひとつ、気になる事があった事を、思い出しかけた。

 

 しかしそれらを追求をする前に――、

 

  ぞくり。

 

 ――アリスの背後に、不穏な気配――。

 

 

 背筋が凍る。

 

 振り向かなくてもわかる。アリスにはわかった。

 嘘くさいまでの恐怖と、偽りの既視感がアリスのカラダを貫く。

 

 

 これは―――、()()()だ。

 

 

 アリスの背後にスキマが空いた。 

 

 そして、そのスキマからズルリと現れたのは―――、

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ―――大妖怪、八雲紫だった。

 

 

続く。

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