東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 20

 

 魔理沙の魔砲は地上からもハッキリと見える程、強大で極大の威力とサイズだった。

 

 ぼんやりと夜空を見上げていた大妖精とチルノもまた、その目撃者だった。

 

「ねえ、見て見てチルノちゃん。ほら、また流れ星」

 

「流れ星!? ―――最強になれますように最強になれますように最強になれますように!! やった! 流れ星が消えるまでに3回願い事言えたわ!」

 

「……うん、でもまだ消えないよ?」

 

「ふっふっふ、これで名実ともにアタイが最強だわ!」

 

「……変だなあ、流星群はまだ近づいて無いはずなのに。それにどっちかと言うとあれは彗星みたい」

 

「んー? ホントだわ、まだ消えてないわね?」

 

「うん。あ、でもだんだん細くなっていくよ?」

 

「彗星に願い事って効くのかしら……まあいいや! この機会にもっと願い事唱えなきゃ!」

 

「チルノちゃん………」

 

 

 

 

 ―――魔理沙の背後に顕現していた太極図がその輝きを失っていく。それは魔力のブーストが切れることを意味している。魔理沙は全身を包んでいた魔力の強大な後押しが失われていくのを感じていた。

 

(ここまでか……!?)

 

 同時に、それまで完全にコントロール化に置いていたファイナルマスタースパークが暴走を始める。

 

 魔理沙の両手の先、赤熱したミニ八卦炉がガタガタと震え始めた。

 太極図の魔力増幅があって初めて発動、放出することが出来るファイナルマスタースパーク、太極図が消失しかかっている今、その維持は困難なものとなっていた。

 

 ともすれば大爆発を起こしかねないこの極大スペルカード。魔理沙は奥歯を噛み締め暴れる魔力を必死に抑え込んでいた。

 

(まだ、まだだ―――!)

 

 ―――手応えはある。ファイナルマスタースパークは躱されているわけではない。

 八意永琳を確実に捉えている、それは手応えでわかる。だが―――、

 

 まだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その証拠に、徐々にファイナルマスタースパークが押し戻されているのだ。

 

 魔理沙は自分の中に残った最後の魔力と生命力、気力を掻き集めて丹田の辺りへと集中させ無理矢理ファイナルマスタースパークを維持、押し切ろうとするが―――、

 

 

 ―――ずくん!

 

 

 幻想回路の核が悲鳴を上げた。

 

「ぐっ!?」

 

 それは魔力の異常暴走。魔理沙の全身を行き場をなくして逆流した魔力が駆け巡る。

 幻想回路が彼方此方(あちこち)で断ち切られ、身体中に激痛が走った。

 

「―――!!」

 

 奥歯を噛み締め悲鳴をグッと飲み込む。

 

 現状、魔理沙にはみっつの選択肢があった。

 

 ひとつめは、ただちにファイナルマスタースパークを解除し、次のスペルカードを選ぶ。

 ふたつめは、このまま気合と根性で乗り切る。

 

 ひとつめの選択は、このあとの展開を考えると可能性が高そうだが()()()()()でも簡単に倒せない辺り魔理沙の残りの手持ちのスペルカードで八意永琳を倒しきれるものがあるとは到底思えなかった。

 

 ふたつめは、出来るならばそれで乗り切りたかったが八意永琳はやはり埒外の存在。気合と根性でどうにかなるならとっくに勝負は終わっていたことだろう。なのでふたつめも除外だった。

 

 こうなると最後に残されたのは、

 

 みっつめ、諦める。

 

 もう全てを解除して白旗を上げる。

 

 ―――そうして楽になれば良い。相手は今まで私が相対してきた中でもトップクラスの埒外なやつだ。ここで諦めたとしても誰も文句を言うやつはいないさ。誰もこの弾幕ごっこを観戦しているわけじゃないんだし―――。

 

 そんな弱気な考えが、魔理沙の脳裏を過ぎる。

 

(否、駄目だ駄目だ。考えろ、考えるのをやめるな諦めるな。思考を加速させろ、もっと、何か手段が―――)

 

 魔理沙の魔力を増幅していた太極図は散逸した。それならば、代わりに魔理沙の魔力を増幅する何かがあれば―――。

 

(ああ、こんなことならパチュリーから賢者の石でも借りてくれば良かったぜ―――)

 

 賢者の石。それは錬金術最高峰のアーティファクト。持つ者に無限の魔力をもたらすと言う。

 ヴワル図書館の主、パチュリー・ノーレッジはその伝説の賢者の石の所持者だ。彼女のスペルカードにもその名を冠したものがある。五色の色鮮やかな宝石がパチュリー・ノーレッジの周囲を取り囲み、多種多様な属性魔法を―――、

 

(……待てよ!?)

 

 魔理沙はパチュリー・ノーレッジが操る賢者の石のイメージに、魔理沙自身忘れていた遠い記憶を呼び起こされていた。

 

 それは遥か過去の記憶。

 まだ魔理沙が駆け出しの魔法使いの頃。

 魔力が弱く安定していなかった魔理沙が、その魔力を安定させるための補助として用いていたものがあった。

 修行を重ね、魔力を成長させた今の魔理沙にとっては使うことは愚か、自分がそれに頼っていたことすらも()()()()()

 

(そう、忘れていたぜ。()()の存在も、あの頃の弱さも)

 

 弱いことは悪ではない、魔理沙はそう考えている。弱いということは、これからもっと強くなれる。まだまだ成長がある、先があるんだ。

 

 完全に完成された自分なんて想像出来るか? もうこれ以上成長しない。これ以上進めない。完璧だ。

 ……私には無理だ。そんな自分、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう、私は弱い。八意永琳よりもずっと。

 

 だから、()()()()()()()

 

(とは言え―――正直うまくいくかどうかはやっぱり博打だぜ)

 

 内心、独りごちる。

 

(そもそもすっかり忘れていた術式だ。けれどもこのままじゃ()()()()()()()()いかないのも確かだぜ。それならば、最後にひとつ博打を打ってみるのもひとつだな―――、よし)

 

 そう考えているうちにも、ファイナルマスタースパークはジリジリと押し戻されていた。完全に押し戻されるのが先か、魔理沙がコントロールを失うのが先か。もはや躊躇している暇はなかった。

 

 覚悟を決めた。

 

 やるだけやって、それで勝つか負けるかはふたつにひとつだ。なら、やったほうが私らしいってもんだぜ!

 

()()()()()に名前なんて無かったからな。そうだな、名付けるならば―――)

 

 瞬間、魔理沙の脳裏にそのスペルカードの名が閃いた。

 

「―――儀符!」

 

 閃いた名を、魔理沙はそのまま言の呪として発していた。

 

 魔理沙の胸元から1枚の古ぼけたスペルカードが飛び出す。それは旧い時に封じられた魔を録する、忘れられたスペルカード。

 

 古ぼけたスペルカードにヒビが入る。

 

 その隙間から光が溢れ―――、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「 『オーレリーズサン 』 !」

 

 

 旧き記憶が今、歳月を超えて新たなスペルカードとして生まれ変わった瞬間だった。

 

 

 八意永琳は感動していた。

 

 魔理沙の放ったファイナルマスタースパークを受け止めながら、その魔術構成力の高さに心底感動していた。

 

 ―――人の身でよくぞここまで研鑽したものだわ!

 

 だが惜しむらくは、所詮は地上の人の身。その肉体には限界がある。容れ物が小さ過ぎるのだ。

 ……最も、だからこそ魔理沙は努力し、研究し、開発をしてこのファイナルマスタースパークを編み出したのだが。

 今の魔理沙では太極図のブーストなしには、この極大魔砲は使いこなせないことも、八意永琳にはわかっていた。

 だから、魔理沙の背後の太極図が霧散したのを感じ取り、八意永琳はガッカリした。

 

 ああ、この楽しいひとときももう終わってしまうのね。

 

 少し、もう少し強く魔力を籠めれば。

 霧雨魔理沙の魔砲はその集束を維持できなくなり自壊する。

 そうしたら憐れな魔法使いには次の手は無いだろう。

 

 残念だわ。非常に残念だわ。

 

 でもこれは弾幕ごっこ。その果てには勝者と敗者が必ずいる。それは避けることのできない()()()

 

 恐らくあの偉大なる魔法使いは全てを駆使して、今、終わろうとしてる。

 ならば。

 潔く引導を渡してあげるのが、勝者の務めというもの。

 

 強く念じる。

 

 八意永琳が纏う偽月(つき)の光が、一層その輝きを増す。

 

「これでおしまいよ!」

 

 その時だった。

 

 今まで押し返そうと思えば押し返せていた魔理沙のファイナルマスタースパークが、再びその集束力を高めていることに―――、

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「何故!? 何が!!」

 

 慌てる八意永琳。

 魔理沙はもちろん知る由もなかったが、八意永琳は慌てていた。

 八意永琳自身、もう最後に焦燥の念に駆られたのは何時だろう、記憶にも無いほどに昔の話だった。

 

 だから、その感覚が焦りだということに気付くのに、数瞬遅れた。

 

 そして、自分が焦っていることに気づいた八意永琳は、続いてもうひとつ大きな事に気がついた。

 

「あれは―――何!?」

 

 ファイナルマスタースパークの輝きの向こう。

 

 ファイナルマスタースパークよりも明るく輝くもの。

 

 

「まさか!!」

 

 

 それは。

 

 

「―――太陽!?」

 

 

 

 

 

 儀符『オーレリーズサン』

 

 それは本来、魔理沙を太陽に見立てて太陽儀を模した幻想回路を構築、魔理沙の周囲に4つのビットを召喚し、魔理沙の分身のように砲撃するスペルカード。

 まだ未熟だった頃の魔理沙もまた、まだ名も無いこれを使用していた。

 

 それを今、4つのビットを魔理沙の背後で高速回転させ、円環の幻想回路を重ねて構築することで擬似的な太極図を象り、暴走し魔理沙から溢れ出る魔力をもう一度魔理沙へと戻す役割を果たしていた。

 

 これにより、魔理沙自信が魔力を抑えつける必要が無くなり、先程よりもスムーズに魔力を循環させることが可能になっていたのだ。

 

(―――体が軽いぜ)

 

 魔理沙は身体中にあった激痛が薄らいでいくのを感じていた。

 ズタズタに断ち切られた幻想回路が再び繋がり、魔理沙の魔力も気力も霊力も、全てが綺麗に流れていた。

 

(やはり借り物の太極図じゃあ付け焼き刃だったな)

 

 太極図の能力は果てしないものだった。しかし、その太極図をフル活用することは、今の魔理沙には些か早かったのだ。

 

(だが、今なら行ける。()()()()()()()()()()()

 

 元々魔理沙が使用していたものは、やはり魔理沙に馴染んでいる。その違いだ。

 

 背後のビットがさらに回転速度を上げると、その軌道は虹色に輝く円虹と化していく。

 

 その中で魔理沙を循環する魔力は幻想回路を介し互いに交差するふたつの円を描き始める。

 

 さらに輝きを増す魔理沙。

 彼女の髪が、瞳が、魔力の残滓が、全てが黄金に輝いていた。

 

「行くぜ……八意永琳」

 

 もはや魔理沙の中には焦りも迷いも無い。

 

 それは、仏教で言うところの悟りにも似た境地。

 

 明鏡止水の心。

 

 魔理沙は目を閉じ、厳かに告げた。

 

 

「―――スパークエンド」

 

 

 両目を開く。黄金の双眸は、真っ直ぐ正面を、八意永琳を射抜いていた。

 

 

 次の瞬間。

 

 周囲の魔力が全て魔理沙へ集まると、ミニ八卦炉に集束し、八意永琳へと一気に襲い掛かる!

 

 

 真っ白な光が八意永琳を、魔理沙を、偽りの月を、幻想郷の空の全てを包んだ。

 

 

 そして―――。

 

 

 轟音は光に遅れること数臾、真昼のように明るくなった夜空に木霊した。

 

 

 

続。

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