東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 21

 

 

 ―――場面は永遠亭へ。

 

 永遠亭の庭園に敷いた茣蓙(ござ)にはお茶と饅頭。

 上座に蓬莱山輝夜。

 その正面には西行寺幽々子と魂魄妖夢が並んで座り、蓬莱山輝夜のとなりにはアリスが座っている。

 

 てゐはパタパタとお盆を手に走り回っている。

 

 空ではレミリア・スカーレットと十六夜咲夜が撃墜され、魔理沙と八意永琳の最後の睨み合いを始めるところまで、時間を少し遡る。

 

 

 

「―――あら。黒幕だなんてひとを悪の総本山みたいに呼ぶのはよしてくれる?」

 

 

 八雲紫(やくもゆかり)の声とともにアリスの背後で()()()が開いた。

 

 ぞわり。アリスの背筋を冷たいものが滑り落ちる。

 

 ()()()から現れたのは、一頭の黒死蝶。昏く輝く闇の鱗粉ですら触れたものに等しく生と死を振り撒く、隙間に棲まう深淵の蝶。

 

 黒死蝶がヒラヒラとアリスに迫り―――、

 

 バチッ!!

 

 アリスの身体が白い光に包まれた。

 

「―――えっ!? ひゃっ!?」

 

 当の本人(アリス)は何が起こったか理解出来ず慌てふためいて自分の体を見ると、周囲を白い魔力のフィールドが覆っていることに気が付いた。

 

 その白い魔力フィールドは、黒死蝶がアリスに触れるのを拒んでいる。

 

 そして、白い魔力にアリスは覚えがあった。

 

(この魔力……魔理沙の?)

 

 意識を集中して視れば、魔理沙から貰った指輪が魔力を放ちアリスをその魔力フィールドで護っている。

 

 その指輪は以前、魔理沙がプレゼントしてくれたもの。

 いきなりなんの前触れもなく指輪なんてプレゼントされたもんだから、その時に魔理沙がなんだか説明をしてくれていたことをアリスはすっかりと聞き逃していた。

 

『これは、()()()()()()()()()()だぜ?』

 

 記憶にあったのはその言葉と、魔理沙の悪戯っぽい笑顔。

 アリスは魔理沙からの贈り物を愛おしそうに撫でる、が、

 

「―――あれ? これは……」

 

 贈り物は()()()()()()()()()()。怪訝そうな声を上げるアリス。

 ()()に気を取られ、黒死蝶に襲われそうになっていたことなど忘れていた。

 

「―――(ゆかり)

 

 西行寺幽々子が黒死蝶の主の名を呼ぶ。

 

 すると、アリスの周囲を舞っていた黒死蝶が音も無く消え失せた。

 

 アリスはハッと我に返ると、慌ててその場を離れ―――、輝夜が目で合図をくれたのでその背後へと隠れた。

 その様子を横目で見つつ、西行寺幽々子が続ける。

 

「いい加減になさいな。あんまり()()()が過ぎるとさすがの私も怒るわよ?」

 

 空間に開いた()()()

 

 そこからズルリと這い出すように―――、()()()が現れた。

 

「―――あら、幽々子。ご機嫌いかが?」

 

 何処かあっけらかんとした物言いの()()()に、西行寺幽々子はぷくっと頬を膨らませた。

 

「ご機嫌もなにもないわよ。ひとの幽体(からだ)を乗っ取って大暴れするし、なにやら裏で暗躍してるし。まったくこれで黒幕じゃないなんて本当に嘘みたいだわ」

 

「あらあら。まったく悪いやつもいたもんね?」

 

「……まったく」

 

 何を言っても彼女に響くことは無い。西行寺幽々子もそれは分かってはいたが、それでも少し文句のひとつも言いたくなるというもの。

 

「貴女、本物の紫なんでしょうね?」

 

と、半眼で皮肉る。 

 

「フフフ……」

 

 意味ありげに笑う古の大妖怪に、西行寺幽々子は盛大な溜息をついた。

 

「あーもー、紫と話してると疲れるわー」

 

「幽々子さま、お茶をどうぞ」

 

「ありがとね、妖夢」

 

 妖夢が差し出したお茶を啜る西行寺幽々子。

 言いたいことを言ったのか、次の言葉はない。

 

 その様子を横目で伺っていた蓬莱山輝夜だったが、こちらもまた溜息をつくと億劫そうに口を開いた。

 

「……さっきは西行寺幽々子に取り憑いていたけれど、今度は少なくとも見た目は八雲紫といったところね」

 

「あら、蓬莱山輝夜。久しいわね」

 

「……」

 

「なあに? つれないわね。せっかくこうやって会いに来たっていうのに」

 

 言いながら大妖怪は縁側に腰掛けた。

 蓬莱山輝夜は湯呑みをクイッとあおると、

 

「……どうせお前は遅かれ早かれ姿を現す。そう考えてるわ」

 

 そう言って大妖怪を睨みつける。しかしそんな視線もどこ吹く風といった様子で、

 

「ふうん。で?」

 

と、()()()は扇子を仰々しく開き口元を隠すと、にやりと目元を歪めた。

 

「―――ねえ、蓬莱山輝夜。そろそろこの明けない夜を終わらせてくれて?」

 

 表情を動かすこと無く蓬莱山輝夜は応えた。

 

「どの口がそんな事を言うのかしら」

 

「ほら、そこの人形使いだってそのためにここに来たんでしょう?」

 

「私は……」

 

 急に話を振られ、言葉に詰まるアリス。

 

「ほら紫。もういい加減に茶番は終わりにしましょう? だいたいわかってるのよ?」

 

 お茶を啜りながら西行寺幽々子が続ける。

 

「貴女がこの終わらない夜の元凶なんだってことは、この場にいる全員がみんなわかったんだから」

 

「なあに? もうネタバレしちゃったの?」

 

 つまんない、といった風に(かぶり)を振る。

 

 言葉の合間に饅頭を数個まとめて口に放り込むと、西行寺幽々子は話を続けた。

 

「あの太古の月の魔力と私たちの()()()()()を利用して、貴女はこの偽りの月が照らす夜を()()()。私たちが少しでも()()()()()()()()()()()、と願い、望んだその()()を利用してね」

 

「隠すこともない。正解だわ」

 

 空になった湯呑みを両手で抱え、西行寺幽々子は夜空を見上げる。

 

「……だいたい私は気づいていたけどね。最初はまあ、私も『夜食がいっぱい食べられるから幸せ〜♪』とか思ってたわ。だから、そのまま気付かないふりをしようかと思ったけれども、予想以上に月の狂気に妖夢が侵食されてたから」

 

「本当に……私が未熟者なばっかりに幽々子さまにご足労を……!!」

 

 ガックリと肩を落とす妖夢の頭を、西行寺幽々子は優しく撫でる。

 

「妖夢が謝ることじゃあないわ。あの月の狂気は妖夢では抗えない程の強さがあったから。―――私以外の何かに妖夢が心を奪われるなんて許せなかったんだもの」

 

「幽々子さま……! ありがたき幸せッ! 妖夢は、妖夢は……!!!」

 

 額を何度も地面へ打ち付けるように土下座をし、感涙むせぶ妖夢。

 西行寺幽々子は妖夢のおでこを優しく撫でて微笑むと、

 

「自ら月の狂気を克服した妖夢には感謝しか無いわ。

 

 ―――それはさておき。本当だったら夜が明ければあの月も消える、そうだったんでしょ? 蓬莱山輝夜」

 

 視線を送られ、蓬莱山輝夜は頷く。

 

「ええ。一夜限りの出来事の筈だった」

 

「―――それなのに夜が終わらない。太古の月は幻想郷に狂気を振り撒き続ける。さあ困ったわ。というわけで、そこの人形使いさんは相棒の黒白魔法使いと共に永遠亭を目指した。あの、偽りの月を()んだモノと、終わらない夜を仕組んだモノが同じだと誤解して。……よもや自分が夜を止めた元凶のひとつだとは露にも思わず、ね」

 

「う、うるさいわね」

 

 アリスが口を尖らせて、視線を外す。

 

 西行寺幽々子は半眼を流し、大妖怪を睨め付けた。

 

「そうやって皆が、誰も彼もが踊らされた。紫が裏でなにやら企んで、仕組んで。そうやって片棒を担がさ(巻き込ま)れた。私も、そこの人形使いも、それと―――」

 

 そこで言葉を切ると、西行寺幽々子は庭の端の方を向いた。

 

 かちり。

 

 時計の針の音と―――、

 

 赤い影。

 

「―――この私、レミリア・スカーレットもまたその片棒を担がされた、ということか」

 

 いつからかそこにいたのだろうか。

 

 レミリア・スカーレットと十六夜咲夜が、永遠亭の庭先へと姿を現していた。

 

「そーゆーことね」

 

 西行寺幽々子は小首を傾げて、軽く肩を(すく)めた。

 

 

 

 

 蓬莱山輝夜は小さく息を吐くと手を叩いた。

 

()()。新しい客人達にお茶の用意を―――」

 

 ぱたぱたと()()が屋敷の奥へと走る。

 

 茣蓙の空いているところに十六夜咲夜が何処からともなく取り出したクッションを置くと、レミリア・スカーレットは満足げに頷きそこに座る。

 十六夜咲夜は恭しく頭を垂れると、その傍らに立ったまま控えた。

 

 それを見た妖夢が慌てて自分も立とうとしたので、西行寺幽々子がそれを手で制する。

 

「いいのよ妖夢は」

 

「しかし……!」

 

「いいったらいいの。ちゃんと私の隣に座っててね?」

 

「ハイッ!」

 

 そんなふたりのやり取りをよそに、古の大妖怪は茣蓙には座らず縁側に腰掛けたまま両腕を広げた。

 

「さて、これで役者が揃ったのかしら?」

 

 そう言って虚ろに光る瞳で、永遠亭に集まった面々をぐるりと見回す。

 

 蓬莱山輝夜。

 西行寺幽々子と魂魄妖夢。

 レミリア・スカーレットと十六夜咲夜。

 そして、

 

 アリス・マーガトロイド。

 

「―――んっ?」

 

 思わず声を上げるアリス。

 

 アリスも改めて全員の顔を見回した。

 

 永遠亭の主。

 不滅の亡霊姫とその庭師。

 幼き吸血皇女と瀟洒なメイド。

 古の大妖怪。

 

 そして私―――、アリス・マーガトロイド。

 

「…………」

 

 アリスは自分の血の気が引く音が聞こえた気がした。

 

(―――もしかしなくても物凄く危険なメンツじゃないのこれ!?)

 

 この場においてアリス(自分)だけが格落ち感が凄いと感じていた。

 

(まあ、魂魄妖夢と十六夜咲夜はそれぞれの付き人だからそこまでじゃないとしても、輝夜も西行寺幽々子も八雲紫もレミリア・スカーレットも、みんな魔理沙の言うところの()()ってやつじゃない!)

 

 今は大人しく茶を啜ったり饅頭を頬張ったりしているが、誰も彼もその気になればアリスひとりくらい気まぐれで消滅させることなど容易く出来る程度の能力を持っている実力者達だ。

 

 魔理沙ならこんな状況ですら楽しんで不敵に笑うだろうが、アリスは性格的にそうはならない。

 

 大体においてさっきだって、魔理沙の指輪が無ければ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 こんな()()()()()()に並んで仲良くお月見なんて冗談じゃない。

 

 そう思うと恐怖がわき上がってきた。

 

 キョトキョトと視線が泳ぐ。

 思わず()()()と視線が合ってしまった。

 

「あら―――」

 

 まるで地獄の釜が開いたかのように口が裂け、大妖怪の顔が笑みの形を作る。

 

「―――()()()()()()()()()()()()?」

 

 大妖怪の笑みに、深淵の闇へと引きずり込まれるような錯覚をアリスは覚えた。

 

「ひっ!?」

 

 そんな心の動揺を感じ取ったかのように、蓬莱山輝夜はアリスに優しく微笑みかけた。

 

「大丈夫よアリス。貴女は私が招いた客人なんだから、今は私が貴女を護るわ」

 

「……う、うん」

 

 アリスを庇うように、蓬莱山輝夜は大妖怪の視線を真っ向から受け止める。その双眸には真なる月が放つ金色の輝きがある。

 

 大妖怪もまた、闇色に輝く瞳でその光を受け止める。

 

 

 その様子を見ていた西行寺幽々子が妖夢へと耳打ちした。

   

「ねえねえ妖夢、蓬莱山輝夜vs紫の大弾幕ごっこ、始まるかしら? ワクワク」

 

 口の前で人さし指を立てる妖夢。

 

「シッ、幽々子さま……今は緊張感マックスなのでしばし静観するが吉かと……」 

 

「むぐぐ………」

 

 妖夢に嗜められ、幽々子は口をキュッと閉じて妖夢とともに事の成り行きを見守ることにした。

 

 蓬莱山輝夜の視線と()()()の視線とがバチバチと火花を散らす。

 

 少しでも均衡が崩れれば激突は必至―――。

 

 蓬莱山輝夜の背後で、アリスは固唾を呑んで見守る。

 

 

 そうして。

 

 その均衡を最初に崩したのは―――、

 

 

 それまで沈黙を保っていたレミリア・スカーレットだった。

 

 

「―――さて、先程から我らが蚊帳の外扱いだが?」

 

 

 

続。

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