東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 24

 

 

 真っ直ぐ上空へと駆け上がっていく輝夜とアリス。

 

 アリスがふと振り返り見下ろすと、先ほどまでいた永遠亭がみるみるうちに遠ざかっていき、あっという間に小さくなって見えなくなる。

 

(すごいスピード……魔理沙よりも速いんじゃないかしら)

 

 それでいて何の圧力も感じない。飛ぶ、というよりは空間ごと移動しているような感覚だった。

 

 視線を地上から空へと移す。

 

 頭上に分厚い雲が浮かび、その向こうから激しい光が溢れている。

 

 そこから感じるふたつの魔力。ひとつは知らない魔力。だが、輝夜の()()に似ているところから、恐らく輝夜の大切な人なのだろう。

 そして、ぶつかり合うもうひとつの魔力。

 

 ――――これは魔理沙だ間違いない、あの先に魔理沙がいる。魔理沙が、戦っている。

 

「魔理沙……」

 

アリスが心配げに呟くと、輝夜もまた、

 

「永琳……」

 

同じように大切な人の名を呼んでいた。

 

思わず顔を見合わせるふたり。

 

それ以上、言葉は無かった。

お互いがお互いの想い人を心配をしている、それだけのことだった。

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 

 俯き、肩で大きく呼吸をする魔理沙。

 全ての力を出し尽くした。やれることはやった。

 

 箒の上で何とか立ってはいたが、背中のオーレリーズサンも解除されると全身の力が抜けバランスを崩す。

 

「……っと、あぶないあぶない」

 

 よろけるように箒に跨がり、両手で身体をなんとか支える。

 はらりと髪が一房、左の頬へと垂れた。

 金髪の筈の魔理沙の、その一房の髪は()()()()()に変わっていた。

 

「……まずいな、コイツは力を使い過ぎたぜ」

 

自嘲気味に嗤いながら、魔理沙は自身の懐を探った。

残りスペルカードは、

 

「っ……ラスイチか……」

 

ギリッと奥歯を噛み締めながら顔を上げる。

 

 もうたいした魔法は使えないな。

 

 いかに弾幕ごっことはいえ、ファイナルマスタースパークを真正面から受けて無傷でいられる存在がいるとは思えない。―――思えないのだが、

 

 爆煙の向こうを睨みつける魔理沙。

 

「これでもしピンピンしてたら化け物だぜ……?」

 

 不意に西風が吹く。

 赤髪混じりの魔理沙の髪が西からの夜風にはためく。

 帽子が飛ばされないよう深く被り直し、鍔越しに真正面を睨み続けた。

 

 果たして風に爆煙が流されるとそこには―――、

 

「……フッ………ククク………」

 

 八意永琳の昏い嗤い声が風に揺れる。

 

 ボロボロの姿になったとはいえ、ファイナルマスタースパークに耐え、それでもなお八意永琳は意識も幻想回路も保ったまま魔理沙の視線を受け止め、見つめ返していた。

 

 ―――倒しきれなかった。

 

 魔理沙は片目を瞑り、舌打ちをする。

 

「チッ……とっておきだったってのにな……」

 

 悔しそうな魔理沙の独白に、八意永琳は鷹揚に頷いた。

 

「ええ、非常に素晴らしいスペルカードだったわ。あれほどの威力、()()()()()使()()では到底至らない、魔の極致、とも言えるわ」

 

 グッと帽子を目深に被り直す魔理沙。

 褒められているのか、馬鹿にされているのか、八意永琳の真意が掴めない。

 

「そりゃどーも。けど、お前はそれに耐えてみせた」

 

「……貴女の本気に応えるためにね」

 

()()が、さっきレミリアとの戦いで見せた、()()()()ってやつか?」

 

「いいえ」

 

 首を横に振る八意永琳。

 

回復(その力)は、使わなかったわ」

 

「……なんだよ、それじゃあまだまだお前は奥の手を残して、それでもなお耐えたって事じゃあないか」

 

 不満げな魔理沙の声。しかし、それには答えずに八意永琳は魔理沙をじっと見つめる。

 

 魔理沙はため息混じりに肩を竦めた。

 

「流石、()()といったところだぜ。ファイナルマスタースパークを真正面から受けてその程度で済まされたんだ。正直、自信失くすぜ?」

 

 グシャグシャになった長い銀髪を手櫛で整えながら八意永琳は口の端を吊り上げた。

 

「ふふふ……そんな事は無いわよ? それよりも貴女はその身にどれだけの魔力(もの)を秘めているのかしら? まだまだ本気じゃないんでしょう?」

 

 魔理沙は口を開きかけ―――、やめる。

 

「……」

 

「霧雨魔理沙、()()()()()()()()()()()?」

 

 八意永琳の視線が、左にわずかにずれる。その視線に気が付いた魔理沙は、左肩にかかっていた赤く変色した髪を後ろへと掻き上げるとおどけた表情を見せた。

 

「はて。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 笑みを張り付かせたまま八意永琳は視線をまっすぐに戻す。

 

「まあ良いわ。それよりも貴女、私を()()と、貴女は私をそう呼んだわね?」

 

 腕を組み、右手を顎に当てると八意永琳はその切れ長の目をスゥッと細めた。

 

「ならば問うわ偉大なる魔法使い(マグヌス・ウェネーフィクス)

 

 ()()と評した私をここまでボロボロにした貴女は一体何? 

 

 これでもまだただの()()()()()使()()と言い張るのかしら?」

 

「………」

 

「………」

 

 魔理沙は何も答えない。

 八意永琳もまた、何も言わない。

 

 しばらく沈黙が流れる。

 

 ふたりの間を、冷たい西風だけが通り過ぎていく。

 

 先に沈黙を解いたのは―――、八意永琳だった。

 

 

「まあいいわ。それはいつか、いずれ、わかるときが来るでしょう。いつか、ね」

 

 

 組んでいた腕を解き、右手をスッと魔理沙へと差し伸べた。

 

「―――楽しかったわ霧雨魔理沙。

 

 こんなに楽しい夜は―――、ここ千年は無かったかもね。

 

 でもそんな楽しい夜ももう御仕舞」

 

 八意永琳の行動を最後の一撃と判断した魔理沙は、残る1枚のスペルカードを取り出し、八卦炉へと僅かな魔力を注ぎ込む。

 

「次で決着ってやつか? あいにくと私にはスペルカード1枚とわずかな魔力しか残っちゃ無いぜ?」

 

「それだけ残っていれば上出来よ」

 

 差し伸べた右手を握りしめると、引き寄せて胸元へと当てる。

 

「―――これは霧雨魔理沙(あなた)八意永琳(わたし)の、弾幕ごっこ。全ては弾幕ごっこで解決する。それがこの幻想郷のルール」

 

「…………ああ、それがこの幻想郷の一にして全なるルールだぜ」

 

 八意永琳の言葉に真剣な眼差しで頷く魔理沙。

 

「貴女はスペルカードと魔力を残し、私は全てのスペルカードを出し尽くした。回復能力は出し惜しみじゃあないわ、あれは―――、貴女の言うところの反則(埒外)みたいなもんよ。だからね―――」

 

 魔理沙の反応に満足そうに八意永琳も大きく頷くと、

 

「こんな私に臆せず真っ向から挑み、そして撃ち破った普通の魔法使い(あなた)に敬意を評して―――」

 

 

 小首を傾げ笑う。その笑顔は今までのものと違い、まるで親愛の情が籠められているかのような、優しい笑顔だった。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ゆっくりと上体が後ろへと倒れていく。

 糸の切れた操り人形のように八意永琳の全身から力が抜けた。

 その身に纏っていた魔力も散逸し―――、

 

 魔理沙はハッとする。

 

 このままでは八意永琳は―――、落ちる。

 

「危ない!」

 

 八意永琳を助けようとするが、体が、魔力が、動かない。魔理沙自身、自分を浮かせているだけで精一杯だった。

 

 間に合わない! 魔理沙がそう思った、その時だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――間一髪だったわね」

 

 八意永琳を抱き留める。

 

 その温かさに八意永琳は目を開けた。

 

 目の前にあったのは蓬莱山輝夜の優しい笑顔だった。

 

「あ、れ……かぐや?」

 

「お疲れ様、永琳。あとは私に任せて」

 

 もう一度永琳をきつく抱きしめると、蓬莱山輝夜は彼女をそっと離した。

 光の柱の中は特殊な力場が発生しており、八意永琳はその中で落ちること無く揺蕩っている。

 

 その様子に満足そうに微笑むと、

 

「さて―――」

 

 光の柱から出てきた蓬莱山輝夜が魔理沙と対峙した。

 

「貴女が、霧雨魔理沙、ね?」

 

 油断することなく身構える魔理沙。目の前の少女は自分と同じくらいに小柄で、自分よりもだいぶ華奢なのは見て取れた。魔力も霊力も、たいしたものは感じられない。だからこそ―――、不気味であった。

 

 加えて不思議だったのは、彼女からは全くと言っていいほどに敵意というものが感じられない無いのだ。

 

 魔理沙は意を決して応える。

 

「ああ。霧雨魔理沙、普通の魔法使いだぜ? そういうお前は、一体何者だぜ?」

 

「私は蓬莱山輝夜。永遠亭の主よ」

 

「蓬莱山輝夜、な。お前がそいつのご主人ってわけだ?」

 

「ちょっと違うわね。私は永琳の―――友人よ」

 

「……友人、か」

 

 そこで魔理沙は目の前の少女からアリスの魔力の残滓が漂っていることに気が付いた。

 

 アリスに渡した守護の指輪が発動したのはうっすら勘付いていた。あれが発動したということは、それなりの危機がアリスに迫った証拠だ。

 

 背筋を冷たい汗が滑り落ちる。

 

 まさか、アリスは―――、

 

「友人といえば、ねえ。霧雨魔理沙。貴女も―――」

 

「まさか!? アリスに何か―――」

 

 魔理沙が残る全ての魔力をミニ八卦炉に注ぎ込もうとした、その時だった。

 

「―――魔理沙ぁっ!!」

 

 遅れて光の柱からアリスが飛び出してきた。

 そのまま勢いよく魔理沙に抱きつく。

 

 魔理沙の下っ腹にアリスの頭突きが炸裂した。

 

「―――っごふ!?」

 

 思わず吹き出し、 目を白黒させる魔理沙。その様子にアリスは泣きそうな顔で、

 

「魔理沙、魔理沙! 大丈夫? ケガしてない? ねえちょっと、なんだかグッタリしてない!?」

 

「き、今日イチの一撃だったぜ……」

 

 言われて、自分が魔理沙に頭突きをかましたことを察するアリス。

 

「ご、ゴメン!? 」

 

 苦笑しながら魔理沙はアリスの頭を撫でた。

 

「それはともかく、どうしてアリスはここへ?」

 

 ムスッとした表情でそっぽを向くアリス。いつも通りのアリスの反応に、魔理沙はなんだか緊張感がほぐれていくのを感じた。

 

「魔理沙が心配だったからに決まってるじゃない!」

 

 だが、それ以上に魔理沙に不思議なことがあった。それは、

 

「まあ私は大丈夫だぜ。ところでだ、この、蓬莱山輝夜? と、どーして一緒なんだ?」

 

「ああ、それはね………」

 

 魔理沙とはぐれたあとアリスは永遠亭へと辿り着いたこと。そこで蓬莱山輝夜と話をしたこと。西行寺幽々子、レミリア・スカーレット、八雲紫たちが一堂に介し、八雲紫が終わらない夜を仕組んでいたこと。そして輝夜とともに、八意永琳と魔理沙を助けに来たこと。それらをアリスは懸命に説明した。

 

「―――なるほど、だぜ」

 

 腕を組み、ううむと唸る魔理沙。

 

 空で八意永琳や十六夜咲夜と弾幕ごっこをしている間に、地上ではそうそうたる面子が集まっていたとは。

 

「待てよ? と言うことは? 弾幕ごっこで八意永琳を倒した。八雲紫が全部ゲロった。あとはもう―――、今回の異変は、もう解決ってわけか?」

 

 顎に手を当て、魔理沙が唸る。自分の言葉に足りないものを自覚した。

 

「―――いや、まだか。まだ、夜が明けていないぜ?」

 

 蓬莱山輝夜は頷き、魔理沙の問いかけを引き継いだ。

 

「そう。だから私がここへ来たのよ」

 

 彼女の表情は、強く、優しい笑顔だった。

 

 

「私がこの永遠(よる)を、終わらせるわ」

 

 

 そう宣言すると蓬莱山輝夜は両手を開く。

 

 その指先に繊細さが宿るしなやかな手の中には、月の光にも似た輝きを放つ4つの()()()があった。

 

 

 

 

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