東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜 作:赤井せりか
よっつの光を大事そうに両手で抱えながら、蓬莱山輝夜が微笑む。
「これから行うのは『永夜返し』。この偽りの永遠となった夜を、夜明けへと導くわ」
そう自信有りげに語る蓬莱山輝夜を見て、アリスは首を傾げる。
「夜明けへと導く?」
「ええそうよアリス。例えて言うならあとはパズルを解くだけってところね。私の能力は須臾と永遠を操る程度の能力。仕組まれた永遠の
ふむ、と鼻を鳴らしながら魔理沙がぼやく。
「……それなら、最初からお前が出張ってチョチョイとやってくれれば良かったんじゃないか?」
「たしかにね。けれども、私が完璧に私の能力で力尽くでこの永遠の術式を解呪しようとしたら―――、
チラリ、目線をアリスへと送る。輝夜の言葉にアリスはギョッとした表情を見せた。
「えっ」
そんなアリスに悪戯っぽく笑いかけると、
「あの大妖怪が組んだ永遠の術式よ? アリスはその鍵の一つとして配置されていたんですもの。いわば術式の楔のようなものよね? それをそのままにして進めたらどんな影響を受けるか……私には想像出来ないわね」
「そ、そんなことになってたなんて……」
自分が思っていた以上にとんでもないことになっていたのね、とアリスは内心冷や汗をかく。
そんなアリスと蓬莱山輝夜のやり取りに、魔理沙は単純な疑問を持った。
「蓬莱山輝夜……なんでお前はそこまでするんだ? アリスなんか気にせずそうすることだって出来たってことだろう?」
言いながら、魔理沙はアリスの側へと近付く。
蓬莱山輝夜はそんな魔理沙を横目で追いながら、何かを言いかけて一度口を
「まあね。まあ……色々と面倒なのよ。私、面倒なのは嫌だし。面倒な事を私がするくらいなら、それなら鍵を一同に集めて一気に引っこ抜く方がおおよそ楽だわ」
アリスは今回の事を振り返り、ひとつ腑に落ちた。
「だからなのね? 永遠亭へと私がたどり着いたのは……」
再び視線をアリスに戻すと、輝夜は軽く肩を
「貴女に興味があったのは本当のことよ? ただ、アリスの言う通りよ。それだけじゃあない。あの場に貴女―――、アリス・マーガトロイド、レミリア・スカーレット、西行寺幽々子、八雲紫。この4人を集める必要があった。そして、その4人から術式の楔を引き抜く必要があった。私はそれをやったのよ」
「え、いつの間にそんなことを」
純粋に驚くアリス。一緒にいたが、輝夜が何かをやっていた素振りは微塵も感じなかったからだ。
ヤレヤレと言わんばかりに、輝夜は僅かに眉を顰めて笑った。
「私がただぼんやりとお月見をしていただけだと思った?」
正直に言えば、そう。アリスは心のなかで大きく頷いた。目線を逸らしながらアリスは、ムニュムニュ呟く。
「うう、輝夜、あんまり発言もしてなかったし……」
「誰にも気づかれないように、八雲紫が施した術式を解いていくのは骨が折れたわ。まあもっとも私は
「……今のどこが面白かったのかしらね魔理沙」
「……きっとあれが蓬莱人ジョークってやつだぜ」
「……やっぱり天上人の感性はちょっとわからないわね」
「……ああ」
ヒソヒソ話すアリスと魔理沙の視線に気付き、輝夜は顔を赤くしながらわざとらしく咳払いをする。
「……こほん。そ、それはさておきよ。最後の八雲紫が大変だったのよ。なんせ最初にあの場に現れたのは
そこはまあ、レミリア・スカーレットが偶然にもうまいことやってくれたから手間が省けたけれども……。それでも精神のプロテクトが半端なかったわ。それで―――」
「だから、八雲紫を煽ったのね?」
合点のいったアリスとは裏腹に、話が見えない魔理沙は首を傾げる。
「煽った?」
「そう、輝夜は八雲紫に
「ふうん、
「なんか、幻想郷から月へと攻め込んだとかなんとかって話ね」
「ふうん……」
記憶を探るように魔理沙は顎に手を当てた。
(月に……幻想郷から……確かにどこかで聞いたことがある話だぜ? けれども……)
はっきりとは思い出せない。少なくとも、魔理沙は
そんな魔理沙を眺めながら輝夜は言葉を続ける。
「まあね、アリスの言う通りよ。
そう言って蓬莱山輝夜はふわりと浮かび上がった―――。
◇
「―――
西行寺幽々子が鸚鵡返しに八雲紫に訊ねる。どう考えても西行寺幽々子には、八雲紫がただただ嫌がらせのためだけに今回の事変を起こしたとは思えないのだ。
だとすれば。
(紫の言葉が
亡霊である西行寺幽々子には、幻想郷の趨勢にはたいした興味も無い。
幻のような彼女自身、その名の通りの幻想郷という此方にあるがまま在るし、儚いけれども消えるときは泡沫如く彼方の夢と消える。
しかし。
西行寺幽々子の未練、それは。
「紫…………」
もう一度、名前を呼ぶ。
それはまるで祈りの言葉にも似ていて。
目の前の八雲紫。
桜散る白玉楼の、それでも尚、花を咲かせない西行妖の下。
初めて出会ったその時から、
ずっと――――――。
「ねえ紫―――、貴方は今、どんな気持ちでいるの?」
ざあっと強い西風が、永遠亭の竹林を揺らす。
竹と竹が擦れ合う音と颶風の唸り声に幽々子の言葉は溶け、しかし紫へとは届かない。
それでも幽々子は紫をじっと見つめる。その視線に気づいたのか、はたまた。―――幽々子の声は聴こえた訳でもないだろうに、紫が振り向いた。
ふたりの目と目が、逢う。
幽々子の既に打つはずの無い心臓が、不意にドクンと鳴ったような錯覚。
からっぽの筈の胸が、締め付けられるように痛い。
似た感覚は比較的最近味わったような気がする。
あれは確か………いつかの春。
否、春が何時まで経っても訪れない、永い冬のこと。
だから、
しかし。今は違う。
憶えていないはずの、記憶が泡のように浮き上がっては消えてゆく。
その感覚は徐々に鼓動のように繰り返し、やがて幽々子の掠れた記憶が、壊れた映写機のように更に過去の想い出を
桜吹雪舞う、満月の夜―――。
幾夜幾代、何度の満月を遡ればその想い出に辿り着くことか。
幽々子には、もう
◇
―――西行妖の袂で、木の根を枕に倒れている女性の姿があった。
ボロボロになった、白と紫を基調としたブラウスとスカート。同様にボロボロになった日傘。
生きているのか死んでいるのか。
目を閉じ、ピクリとも動かず、力なく横たわってチル。
その姿に気付いた幽々子は、恐る恐る、けれども興味深そうに訊ねた。
『―――あなたはだあれ?』
その気配に気付いた女性は、うっすらと両目を開く。
はじめは焦点が合ってないかのようにその視線は宙を彷徨っていたが、やがて幽々子が覗き込んでいることに気が付くと、口元を笑みの形に歪めて自らの名を名乗った。
『私は―――紫。八雲紫よ―――』
◇
思えばあの夜も、今夜と同じ満月の夜だったような気がする。
あの時の紫は何故、西行妖の袂に横たわっていたのだろうか。
あの時の紫は何故、あんなにもボロボロになっていたのだろうか。
そんなことを考えながら、幽々子は紫を見つめ続ける。
視線の先、紫はどこか寂しげに、それでいて優しく微笑んでいるが、紫がどんな気持ちで
記憶が再び深い霧の中に埋もれていくのを西行寺幽々子は感じた。
また、私は全てを、忘れてしまう。
いつかは何もかもを忘れて―――、
誰からの記憶からも、消えてしまうのだろうか。
くるり―――、西行寺幽々子の視界が暗転する。
上も下も、わからない。
自分が立っているのか、倒れ伏せているのかも。
「―――幽々子さまッ!?」
何処か遠くで自分の名前を呼ぶ声が聴こえた。
あれは、誰の声だったろうか。
さらにもうひとつの声が聞こえてくる。
「―――幽々子」
この声は誰の声だっただろうか。
誰か大切な人だったような気がする。
薄れゆく意識の中で、消えてゆく想いを手繰るように幽々子はその名を呼んだ。
「―――紫―――」
幽々子の意識が深淵の闇に溶ける直前、その声は優しい響きとともに彼女の身体を包んだ。
「―――幽々子、今はただおやすみなさい。白き
続