東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 28

 

 不死鳥の少女の爆炎に焼かれ、落ちて行く魔理沙。

 

 

 落下していく魔理沙を追い掛けようとして、アリスは思い留まる。

 取り乱しそうになる一歩手前で魔理沙の言葉を思い出した。

 

 (―――魔理沙は言ったわ、ここは任せた、と)

 

 一呼吸、感情と理性を制御すると、自分の精神が一気に集中していくのを感じた。

 

「……よし」

 

 アリスは、混乱した今の状況を改めて整理することにした。

 

 ―――下には魔理沙。魔理沙は落ちた。思い返すと腸が煮えくり返りそうになるけれど、これはこの際置いておくわ。あとで助けに行くからね。

 次に八意永琳。八意永琳はちょうど私と同じ高さで、いまだ光の柱の中で回復中(?)。これもとりあえずは放置。

 

 問題は魔理沙と輝夜を狙ったふたつのスペカね。

 ひとつはあの2色巫女の仕業……なんだけど、あれ以降気配も霊力も感じない。ちょっぴり不気味だけれども、即干渉してくるわけでないならこれも放置ね。

 

 そして問題なのは、ふたつめのスペカ主。

 

 私は視線を上げ、その主を睨みつける。

 

 永夜返し中の輝夜を直下から爆発的なスペカで狙い、その盾となった魔理沙を撃ち落とした張本人。

 この場に急に現れた、炎を纏った謎の少女。

 

 奥歯を噛み締める。

 

 大丈夫。魔理沙なら大丈夫。大丈夫。

 

 何度も自分に言い聞かせる。

 

 これはあくまで弾幕ごっこだ。弾幕ごっこのルールに命のやり取りは無い。派手に見えるが怪我だって大したことは起き得ない。

 

 大きく深呼吸。

 

 魔理沙は私に託されたのはふたつ。ひとつはこの場の後始末。もうひとつは……。

 

 胸元に手を当てる。それは魔理沙から託されたもうひとつ。

 魔理沙から送られた指輪に封じられていたもの。

 

 ()()()()()()()

 

 それに、よ。

 

 魔理沙には魔理沙の考えが、計算があるはず。ならば、私は―――。

 

 

「私が出来ることを、やる」

 

 

 決意を篭め、視線を輝夜と炎翼白髪の少女へと戻した―――。

 

 

 

 魔理沙が撃墜されたのを目の当たりにして、蓬莱山輝夜は動けなかった。

 

 否、動かなかった。

 

 ―――あの黒白の魔法使いが決死結界を発動して己を犠牲にしてまで私を守ってくれた。それは、私に永夜返しを遂行しろと言う無言のメッセージ。

 

 それを有耶無耶にして彼女を助ける事はナンセンスに他ならないわ。

 

 あの黒白の魔法使いのこと、この私に向って『いったい何を考えてるんだぜ?』とため息混じりに文句を言いかねないわね。

 

 とはいえ、よ。

 

 なかなか無茶な注文をしてくれたものね。

 

 永夜返しの発動を維持したまま()()と相対するのはさすがの私でも……。

 

 せめて永夜返し(これ)さえ無ければ―――。

 

 

 蓬莱山輝夜は炎翼白髪の少女を睨みつける。

 

「妹紅―――、どうして貴女が現れるのかしら?」

 

 不死鳥を纏う少女、名を藤原妹紅という。

 藤原妹紅と蓬莱山輝夜は旧い知り合いである。

 最も、蓬莱山輝夜にとって藤原妹紅は出会えて嬉しいお友達、というわけではない。

 

 ふたりの間には深くて永い因縁があった。

 

 故に。

 

 藤原妹紅が蓬莱山輝夜へ投げ返す応えは、殺気。

 

 心臓の弱い人間ならばそれだけで生命を奪えそうな程の、灼熱の業火の如き殺気だった。

 

()()()()?」 

 

 藤原妹紅は左手を腰に手を当て、右手を蓬莱山輝夜へと向けて突き出した。

 

 右炎翼がバサリと音を立てて羽撃く。

 

 同時に突き出した右手が焔に包まれた。

 

()()()()、だって? それはこっちのセリフさ!」

 

 叫びに近い声を上げ、藤原妹紅はその焔を力一杯握り潰した。

 

 焔は爆散し、火の粉が舞う。

 

 その右手を振り払い、藤原妹紅は天を仰ぐ。右手から溢れた火の粉が宙を舞い、それぞれが爆発、その爆発が次の、さらに次の爆発を呼び―――、次々と連続した爆発が天を焦がした。

 

 その余波に蓬莱山輝夜の長い髪が、スカートがはたはたと揺れた。

 頬にかかる髪を鬱陶しげに払いながら、しかし無言のまま藤原妹紅を半眼で見やる。

 

 太古の偽月(つき)にあてられたか、何処か狂気じみた嗤いを浮かべ、白髪炎翼の少女は蓬莱山輝夜の視線に応えた。

 

「月に近い空の上で! こんな満月の夜に! お前がどうして現れる?

 

 あの薬師の張った結界の奥に、あの竹林に隠れた屋敷の奥に、お前は何時だって其処に居たじゃあないか!!」

 

 そう叫ぶと、藤原妹紅は虚ろな視線を偽月(つき)へと向ける。

 

 八意永琳が喚び出した、今そこに在り得ない、太古の偽月(つき)

 

 目を細め、偽月(つき)の光を眩しそうに見つめるその顔には、どこか嬉しげな感情が浮かんでいた。

 

 藤原妹紅は右の親指を立て、偽月(つき)を指す。

 

「……()()はあの薬師の仕業か?」

 

 あの薬師―――、今は光の柱の中で修復中の八意永琳が喚び出したあの偽月(つき)は、月から(あちら側)の捜索の目を誤魔化すための儀式スペル。

 

 ()()は今回の事変の、発端ともいえる。

 

 蓬莱山輝夜は目を伏せ、頷いた。

 

「そうよ……」

 

「だよな! あっはは!! それじゃあ()()は誰の仕業だ?」

 

 頷き、嗤うと、藤原妹紅は右の親指を己の足元へ向け、地上を強く指し示した。

 

 だが、蓬莱山輝夜には妹紅の言う()()が何を指しているのか解らなかった。

 

()()?」

 

「惚けるつもりか?」

 

 藤原妹紅はバッと両腕を拡げた。

 

()()だよ、こいつだよ、()()()()()()()()のことだよ!」

 

 勿論、()()を仕組んだのはあの大妖怪、八雲紫だ。

 

「……()()は違う、私たちじゃあ無いわ」

 

()()()()!! 月の奴等から見つかるかもしれないって夜を、お前らがわざわざ永くするわけないもんなあ!!」

 

「…………」

 

「成る程成る程。彼奴(あいつら)の言っていたことは正しかったって訳だ」

 

()()()()?」

 

 鸚鵡返しに訊く蓬莱山輝夜に藤原妹紅は、

 

「なあ輝夜、偽りとは言え永遠の夜だ。今宵の永遠が夢と幻と果てる迄、思う存分に殺し合おうじゃないか。 お前と私で」

 

 応えることはなく、ひとり語り続ける。

 

「なんて素晴らしい夜なんだ。あれは、あの偽月(つき)は―――、初めてお前を殺した夜と同じ月だ!」

 

 肩は震え、声は上擦り、眼差しは焦点を失い、表情は泣いているようにも嗤っているようにも見える。

 

「―――妹紅」

 

 最早、輝夜が名を呼んでも、その声が真に届くことはない。

 

 藤原妹紅は全く完全に―――、

 

 偽月(つき)()ってしまっていた。 

 

 

「ああ輝夜!

 

 私はお前が憎い。憎くて悪くて憎くて悪くて、今やその憎悪すらも愛おしい。 

 

 何度その美しい首を刎ねても!

 幾度その白い肌を突き破っても!

 殺しても殺し足りない!

 

 さあ輝夜、私を殺してくれ! 

 

 何度も何度も、私を突いて、裂いて、貫いて! 

 

 そう何度もだ!!」

 

 拡げた両腕をゆっくりと()(いだ)く。まるで愛しい恋人をその腕に抱くように、優しく、激しく。

 

「殺し合い、殺し逢い、殺し愛、生き返り、復活し、また黄泉帰る。

 

 お前と私は永遠に出逢い続けるのだ! 何度でも! だから―――」

 

 そこで言葉を切ると、ふーっと大きく息を吐く。先程までの狂気が嘘のように消え失せ、輝夜を見る眼差しには決意と深い愛情が()い交ぜになって渾沌と輝いていた。 

 

 優しい笑顔。

 

 そして、藤原妹紅は告げる。

 

 

「―――死んでくれ」

 

 

 それはまるで。

 

 御伽噺のかぐや姫に出てくる貴族のように。

 

 永遠に叶わぬ片恋に焦がれる少女のように。

 

 叶わぬと知って尚、告げる愛の言葉にも似た、悲しい告白だった。

 

 

 藤原妹紅の言葉に、蓬莱山輝夜は口を真一文字に結び何も答えない。

 

 

 沈黙と、風の音だけが空を包む。

 

 

 その沈黙を破ったのは―――、

 

 蓬莱山輝夜がしばらく何かを決意し、口を開きかけた、その時だった。

 

 

 両腕を組み、俯き加減に蓬莱山輝夜と藤原妹紅を斜め見るアリスが、髪とスカートに風を孕ませながらゆっくりと浮上してくる。

 

 

「―――いい空気吸ってるわね、あなた」

 

 

 ふたりのセカイに割って入り、その沈黙を破ったのは―――。

 

 

 魔法使い、アリスだった。

 

 

 

続く。

 

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