東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 2

 

「紫……」

 

 バツが悪そうな表情になり、顔を背ける霊夢。

 

「…………ちっ」

 

 言葉は発さず、ただ舌打ちのみ。

 

 この場に八雲紫が現れたせいで別の意味の緊張感は新たに生まれたが、先程まで霊夢と魔理沙の間で張り詰めていた弾幕ごっこの空気は、一気に霧散していた。

 

「命拾いしたわね、魔理沙」

 

 忌々しげに吐き捨てる。

 霊夢も大概物騒な物言いである。

 

 言われた方の魔理沙はと言えば――、

 

「――命拾い?」

 

 霊夢と対峙したままの体勢を崩さず、霊夢に問いかける。

 

「何を言っているんだ霊夢は。私らがやろうとしてるのは弾幕ごっこだぜ? そこに命のやりとりなんざありゃしないだろ? なあ、アリス?」

 

 アリスに呼びかけ、手招きをする。背後のスキマ妖怪に細心の注意をしながらも、小走りで魔理沙の元に駆け寄るアリス。

 八雲紫も口元を扇子で隠したまま、薄い目付きでアリスの後ろ姿を見送るだけで身動ぎひとつしない。

 

「――ちょ、何よ魔理沙?」

 

「シッ、いいから黙ってそばにいるんだぜ?」

 

 言って、魔理沙はアリスの肩を抱き寄せた。

 

「ひゃッ!?」

 

 不意のことに思わず声をあげてしまった。

 全く油断していたため、体を完全に魔理沙に委ねる形になる。

 お互いの顔も、触れんばかりの近い位置。

 魔理沙の息遣いも、鼓動の音さえも聞こえてくるような距離。いや、それどころか自分の鼓動の音はすでに魔理沙に聞かれてしまっているかもしれない。そう考えるといっそうアリスの胸は高鳴る。

 

(か、かかかかかかおがちかいっ!!?☆★?) 

 

 混乱に目を白黒させる。

 

 すぐ近くに、魔理沙の顔。

 

(魔理沙の睫毛……思ってたより長いんだ……)

 

 あと少し、近づけば、アリスの唇が魔理沙の頬に触れるかもしれない。あるいは、唇同士が触れ合ってしまうかもしれない。今だったらその禁断の接触も、事故で誤魔化せるかもしれない。

 

 アリスの視線は、視界は、意識は、世界は――、魔理沙しかなかった。

 

 霊夢は目を見開き、八雲紫は視線をふたりから霊夢へと移す。

 

 ここまで――、アリスが魔理沙に肩を抱かれてからここまでで、わずか1秒間の出来事である。

 

 アリスは驚き、魔理沙は笑い、八雲紫は嗤い、霊夢は――、

 

 そのわずかな()()ですら、霊夢は許せなかった。

 

「―――なにやってんのよ!!」

 

 瞬間、再び激昂する霊夢。

 感情の発露。連動して一度は霧散した霊力の高まりも再び膨れ上がり、爆発にも似た衝撃波となる。

 

  ぶわっ!!

 

 あまりの勢いに、帽子を飛ばされないように俯く魔理沙。魔理沙にしがみつきながら悲鳴も出せずはためくスカートを必死に押さえるアリス。

 その霊力の暴風にも、八雲紫は口の端を歪めただけで、あとはリボンとスカートの裾が多少揺れたに過ぎなかった。

 

 

「莫迦な娘――」 

 

 どこか愉しげにくっくっと嗤う八雲紫。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 動揺を見せる霊夢に、八雲紫は愉悦が止まらなかった。

 その霊夢の動揺が、

 八雲紫にはこれ以上なく忌々しく、これ以上なく――、

 

 愛おしかった。

 

「素敵よ、霊夢。けどね」

 

 口元に当てた扇子を開く。扇子の裏側では、果たして八雲紫は嗤っていた。――その口元はまるで深淵のように、何処までも暗い、昏い、空虚な隙間のようにも見えた。

 

「戯れの時間は、お終いよ」

 

 

 霊夢が発する霊力に、魔理沙は矢張りな、と呟く。

 

(身体を巡る気脈と霊脈が澱んでいるぜ。いつもの霊夢のそれじゃあない。と、なると――)

 

 ちら、と目線を上に送る。帽子の鍔で視えはしなかったが、その先にあるは

 

(あれ、だな)

 

 今回の異変の大元、月だ。

 

(何らかの異変が起きて、その影響が幻想郷全体に広がってる。不自然に見えるあの月は、おそらくは紛い物。満月のようであって、そうではない何かが――)

 

 実際のところ、月の異変に気付いてから魔理沙もわずかに体調の異変を感じていた。

 軽い頭痛と、魔力回路や気脈の澱み。丹田のあたりに流れの異常を感じる。

 だが、彼女自身それは些細なものだった。

 

(――私はいつもよりちょっと濃い目の珈琲を飲めばシャッキリしたしな)

 

 しかし。

 

 霊夢はその影響を魔理沙以上に受けている、ように思えた。

 

(ま、あくまでも勘だけどな)

 

 ――実際のところ霊夢の変化の要因の半分以上は全く別のところに在るのだが……、それでも魔理沙の勘は少なからず当たっていないとうわけでもなかったが。

 

 ともあれ、魔理沙は今回の異変を、霊夢の霊脈不良を

治すために飛び出したわけだが……、どうしたことか霊夢と対峙する羽目になっている。

 

(アイツ、か)

 

 未だ動きを見せない、八雲紫。そう、彼女が――、

 

(間違いない、霊夢をけしかけたのは八雲紫だ)

 

 自分の中で結論付ける。そうなればやる事はひとつ。まずは霊夢を説得する。それからどうするかは、考えていない。

 まずは撃つ。撃ってから動いて、それで考える。

 いつもの魔理沙のやり方だ。

 

 と、なれば。

 ぐっ、とアリスを抱く左手に力が籠もった。

 

 

 アリスは自分の肩に置かれた魔理沙の左手に力が入ったのを感じた。

 

(始まる!?)

 

 瞬間、それまで色んな感情でゴチャゴチャになっていた思考が急速に集中した。

 一気に戦闘モードへと切り替わる。

 

 状況整理。

 

 人数的には2対2だが、状況は圧倒的に不利。

 正面には2色巫女、左側面にはスキマ妖怪、背後には竹林。

 弾幕を躱すにも魔理沙と密着している今、明らかに足手まといになっているのはアリスは自分自身だと考えた。

 

(ここは私が被弾覚悟で狙いを引きつけるのが最良かしらね)

 

 人形たちとアリス自身が盾になるつもりで飛び出し、その間に魔理沙が威力の大きな一撃を喰らわす。

 

(例え博麗霊夢だろうと大妖怪·八雲紫だろうと、魔理沙の魔砲の威力は馬鹿には出来ないはずだわ)

 

 なんとかなる。いいえ、なんとかする。

 覚悟は決まった。

 

 ならば、と発動するスペルカードを頭の中で選ぼうとした、その時だった。

 

「アリス、()()()()()()()()()

 

 自分の考えを見透かしたのか、魔理沙はため息混じりに困ったような笑顔を見せた。

 

 ――その刹那。

 

 冷ややかにスペルカード名を宣言する霊夢。

 

 呪符と結界が展開し、霊力が嵐のように吹き荒れた。

 

 

 

続く。

 

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