東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 30

 

 

 輝夜を庇うアリスの姿に、藤原妹紅は顔を顰め吐き捨てる。

 

「何の関係もない奴が、私と輝夜の間に入ってくるんじゃあないよ」

 

 自分に向けられる眼差し。その瞳に、緑の炎が揺らめくのをアリスは感じ取っていた。

 

 それは、知っている感情。

 

 魔理沙と博麗の巫女に向ける自分の眼差しに、それはよく似ていた。

 

(―――そうよね)

 

 理屈ではなく感情で理解し、共感する。思わず笑いそうになるのをグッと堪え、アリスは炎翼白髪の少女を見据える。

 

(輝夜と彼女の間にどんな出来事があったかは知らない。けれども―――、()()()()()よね)

 

 ならば。

 

 しかし。

 

 そうとはいえ、アリスとて引く訳にはいかない。なぜならば―――、

 

「―――あら。()()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 唐突に始まった魔理沙と夜の散歩が二転三転して()()に至っている。知らないうちに巻き込まれていた(だいたい八雲紫のせい)とは言え、アリスがそうと望んだ為に起こった永夜(よる)を、終わせなけらばならないのはアリスの義務でもある。そのためにここまで来た。義務。そう、少し前までは()()()()()。だが、今は、それだけではない。

 

 

「それにね―――」

 

 

 チラリと下を見、そして脇に抱える輝夜にも視線を送る。

 

 そうして視線を眼前の藤原妹紅へと戻すと、

 

「―――あなたは私の大切なひとをふたりも傷つけたわ―――」

 

()()()()()()()、だって?」

 

「ええ。魔理沙と―――、輝夜よ」

 

 アリスの背後で輝夜の感情が揺らぐ。が、アリスは振り向かない。視線を炎翼白髪の少女へと向けたまま、きっぱりと言い放った。

 

「あなたは、わたしの大切なひとを傷つけた。だから、()()()()()()()()

 

 それまで忌々しげにアリスを見ていた藤原妹紅の視線が、不意に緩んだ。明らかにアリスの言葉を聞いて、その反応だった。視線だけではない、その目元も、口元も、全身も弛緩している。

 

 はじめは小さな感情の震えだった。その震えが徐々に大きくなり―――、

 

「くく、ははは、あはははは」

 

 上体を曲げ、腹部を左手で覆い、肩を震わせ、

 

「かはははは、くふふふふふ」

 

 顔を歪ませ、右手で額を押さえ、涙を零し、

 

「はーっはははははは!!」

 

 全身を引き攣らせながら、藤原妹紅は嗤った。

 

 急な感情の変化に、アリスは僅かにたじろいだが、

 

「な、なによ。なにがそんなに可笑しいのよ」

 

「ははは……、いや、なにその、これが可笑しくないわけないだろう?」

 

 ポロポロと涙を流しながら、藤原妹紅は荒くなった呼吸を整える。大きく息を吸い込み、吐き出す。吸い込み、吐き出す。深呼吸を数度繰り返し落ち着くと、改めてアリスを睨んだ。背中の炎翼がボッと爆炎を放ち、頬を流れていた涙が蒸発する。

 

「私もおかしいとは思っていたんだ。地上の魔法使いが、しかも出会ってまだ一晩経っていないというのに輝夜に執着してるなんて」

 

「そんなにおかしいかしら?」

 

「ああ、可笑しいさ。だってそうだろうよ? マリサってのは私がさっき落とした奴だろう?」

 

「ええ、そうよ」

 

「あのマリサってのがお前の大切なひとっていうのはわかる。なんとなくだがな。お前があの魔法使いの名前を呼ぶ時、思う時、その感情の揺らめきを見れば、一目瞭然だ」

 

「……そんなにわかりやすいかしら」

 

「理解るさ。()()()()()()()()()? ……まあ、それはさておき、マリサを落とした私を憎む、それはわかる。だが―――、それならば輝夜はどうなんだ? さっきも言ったが出会ってからたいした時間は経ってないだろうに。それなのにそのマリサと同じくらいに大切に思ってしまっている。それはつまり―――」

 

 炎翼白髪の少女は、輝夜を抱きかかえるアリスをピッと指差し、こう言い放った。

 

「お前―――、輝夜の魅力(チャーム)にやられてるな?」

 

 

 藤原妹紅の言葉に、アリスは答えない。

 その反応を是と見たか否と見たか。 

 藤原妹紅は続ける。

 

「かぐや姫、知ってるだろう? あの有名な御伽噺さ。かぐや姫の魅力の前に、幾人もの男が我を失い、5人の貴族がすべてを失った―――」

 

 チッ、と舌打ちを挟み、僅かに表情を曇らせる藤原妹紅。しかしすぐに元に戻ると、

 

「―――何故だと思う? かぐや姫が美しかったから? この世のものとは思えない美貌のせいか? 確かに、それもあるだろう。

 

 だが、それだけじゃあない」

 

「―――」

 

 何かを言いかける輝夜をアリスは自分の体を前に出して藤原妹紅の視線から遮る。

 

 藤原妹紅を煽ってターゲットを輝夜からアリスへと移動させたのだ。ここで輝夜が語りかけてはその策も無意味になる。

 

 アリスは藤原妹紅の言葉を鸚鵡返しに訊ねた。

 

「それだけじゃない?」 

 

「そう、それだけじゃない。かぐや姫には―――、周囲の男を魅力する能力を持っていたんだよ」

 

「有名な話よね」

 

 当然、と言わんばかりにヒョイと肩を竦める仕草を見せるアリス。

 

「だからなんだっていうの? 今さら御伽噺の考察? 古典の授業でも始めるのかしら?」

 

「―――輝夜も持っているのさ。絶世の美少女の持つ魅力、魅了の力を。そしてお前はその力に―――」

 

魅了(チャーム)がもたらす効果にはある種の弱体化(デバフ)強化(バフ)があるわ」

 

 藤原妹紅の言葉を遮るようにアリスが口を開いた。話の腰を折られて藤原妹紅は眉を顰める。

 

「はァ?」

 

 ピッと人差し指を立てて、アリスは早口気味に語りだした。

 

「精神抵抗力を下げ、正気を失わせ、術者の虜になり、命令を盲目的に受け入れるようになってしまう、これが弱体化(デバフ)、あるいは状態異常(ナーフ)の部分ね。けど、一方で魅了(チャーム)強化(バフ)ももたらすのよ。精神の高揚、魔力の増幅、霊力の活性化、限界を超えた肉体行使エトセトラエトセトラ」

 

「……それで? 何が言いたい?」

 

(不満げね。けど律儀に講釈を聞いてくれるあたりこの子も悪い人間、もしくは妖怪? でもないみたいね)

 

 語りながらアリスは頭の片隅でそんな事を思いつつ、さらに続ける。

 

「簡単な話よ。輝夜の魅了(チャーム)には気づいていたわ。始めっからね。掛かり切る前に抵抗(レジスト)して、ネガティブな効果だけ打ち消した」

 

「…………」

 

魅了(チャーム)が任意発動ではないことは、輝夜と接しているうちに理解できたわ。出し入れが不可の常時発動能力(パッシブスキル)。あなたの言う5人の貴族も恐らくはそれにやられたのね」

 

「……チッ!」

 

「ふふ、私は魔法使いよ? その程度の芸当朝飯前だわ。

 

 残念ながらあなたの言うような、盲目的な虜にはなってないのよ」

 

「それならば、何故!」

 

「だからね? それを踏まえてもう一度、言うわよ? 

 

 輝夜は私の大切な友人のひとりよ。出会ったからの時間なんか問題じゃないわ。

 

 その大切なひとを傷つけたあなたは―――、

 

 絶対に許さない。絶対にね」

 

「―――アリス」

 

 アリスに抱きつく輝夜の手に、ギュッと力が籠もる。アリスもまた、左手で輝夜を抱き寄せる。

 

「妹紅―――」

 

 アリスの陰から輝夜が妹紅に呼びかけた。

 

「今、私には今()()()()()()()()()()()()()()()。それが終わればいくらでも相手をしてあげるわ。いくらでも(永遠に)ね」

 

 妹紅は愕然とし、後ろによろける。

 

「―――輝夜」

 

 哀しげな声で名前を呼ぶ。

 その反応に、アリスは胸の奥に黒く鈍い痛みを感じた。藤原妹紅の苦悩は、アリスもまた理解できるものがある。だが―――、

 

(悪いけれど今は感傷的になってる場合じゃないわ。まずはこの永夜(よる)を終わらせるのが先、その後のことはそれから考えればいいわ―――)

 

 バッ、とスカートをはためかせ、アリスがスペルカードを取り出すと、無数の七色の人形がアリスと輝夜の周囲に展開した。

 

 様子見はしない、出し惜しみもしない、否、そんなことをしている余裕など無い相手だ。

 

 集中する。自分の幻想回路はいつになく絶好調だ。

 

 落とされた魔理沙のことも、輝夜のことも今は意識から外す。弾幕ごっこは一対一の真剣勝負、そこに余計な感情などそれこそ弱体化(デバフ)でしかない。

 

 ピンと張り詰めた緊張。

 

 両目を閉じ、カッと見開く。

 

 アリスは声高らかに、炎翼白髪の少女へと弾幕の始まりを宣言する。

 

 

「さあ、はじめるわよ―――」

 

 

 

 

 瞬間。

 

 

 

 ―――熱波が駆け抜け、

 

 

 アリスが周囲に配置した無数の人形たちは、

 

 

 ()()()()()()()()―――。

 

 

 

 その時、アリスは確かに見ていた。

 

 

 炎翼白髪の少女が繰り出す、

 

 

 鳳凰の羽撃(はばた)きを。

 

 

 

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