東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 32

 

「―――魔理沙」

 

 偽月を背に、霊夢が魔理沙の名を呼ぶ。

 

「魔理沙、本当に魔理沙なのね?」

 

 声に混じる僅かな震え。

 

 魔理沙は偽月の光に目を細める。

 

 その声も、気配も霊力も、紛うことなき霊夢だ。例え八雲紫がその姿を偽っていたとしても、魔理沙には見抜く自信がある。間違えようがない、正真正銘の霊夢本人だ。

 

 霊夢の無事に安堵しつつも、魔理沙は最低限の警戒は解かずにいた。

 

「ああ―――私だぜ、霊夢」

 

 注意深く周囲に気を巡らせながら、霊夢に話しかける。どこから()()()が開いて八雲紫が現れるとも限らない。

 

「なんだか久しぶりに感じるぜ」

  

「うん」

 

 頷き、ゆっくりと降りてくる霊夢。

 

「久しぶり、でもないけどね」

 

「まあ、そうかもな」

 

「さっき、魔理沙が落ちていく時にも、ね」

 

「ああ、そうだな……」

 

 ―――明らかに緊張を見せる霊夢に魔理沙は何時でも動けるよう、スペルカードを待機状態に設定する。

 

「霊夢、お前は私を止めに来たのか?」

 

「うん」

 

 霊夢はなるべくゆっくりと、慌てずに。

 魔理沙から10歩ほど離れた場所に降り立った。

 

 ふたりを照らす光は偽月(つき)明かりのみ。

 仄暗かったが、それでも互いの顔は見える程度には明るかった。

 

「なあ霊夢」

 

 魔理沙の問い掛けに、霊夢は俯く。

 俯いて肩を震わせる。

 

「うん?」

 

 俯いた霊夢からこぼれ落ちる雫が光る。

 

 それを認め、魔理沙は小さく息を吐いた。

 

 

「どうしてお前は―――泣いているんだ?」

 

 

 ざあっ、と竹林が風に揺れた。

 

 

 あの時―――、魔理沙が蓬莱山輝夜を庇って霊夢と藤原妹紅のスペルカードを同時に受けた時。

 魔理沙に決死結界で抑え込まれた事は霊夢からも手応えでわかった。自分のスペルカードが破られたことに、霊夢は怒りも悲しみも無い。()()()()()()()()()

 

 ―――さすが私の魔理沙! 決死結界を発動させるなんて余程の実力と才能が無ければ出来ることではないわ! 

 

 と。

 

 だが、同時に自らのスペルカードが魔理沙を傷付ける要因になったことに霊夢は激しく動揺していた。

 

 どうしよう、私のせいで魔理沙が―――。

 

 落ちていく魔理沙を追いかけて、探して、探して、探して。竹林の中、こちらを見上げる魔理沙を見つける。

 

 魔理沙は、無事だった。

 

 しかも魔理沙はすぐに自分に気付いてくれた!

 

 霊夢は嬉しくて仕方なかったが、イキナリ飛びついたりして引かれたりしたら、悲しくて死んでしまうかも知れない。だから―――。

 

 

 

 顔を上げる霊夢。

 

 

「それは―――」

 

 

 竹林の外で出会った時は怒りを孕ませた無表情を見せていたが、魔理沙の眼前に降り立った今の霊夢は……泣き顔と笑い顔、複雑な感情が入り混じった表情だった。

 

 

「―――魔理沙に会えたからだよ?」

 

 

 その頬を、涙がポロポロとこぼれ落ちる。

 

 その頬は、笑みの形に緩んでいる。

 

 声の震えは、泣いていたからだった。

 

 

「そうか……いや、ああ、そうだな」

 

 

 魔理沙は目尻を下げ、にっ、と白い歯を見せる。

 

 

 ―――再び風がふたりの間を吹き抜けた。

 

 

「そうだな。なんだかもう随分と長い間、霊夢に会ってなかったような気がするぜ」

 

 そう答える魔理沙の眉だけは、笑っているはずなのにどこか悲しげにひそめられていた。

 

 だが、その感情の機微は霊夢には届かない。

 そんな魔理沙の表情に気付くことなく霊夢は言葉を続ける。

 

「そうだね。もう随分と離れていた気分だよ」

 

 ヘヘヘ、と笑う霊夢。その頬を伝う涙は止まらない。

 

 魔理沙は息を吐くと、帽子を目深に被った。

 

 己の力不足を痛感する魔理沙。ズキン、と胸の奥が痛む。アイツ(霊夢)のこんな表情、見たくなかった。

 こうなるまでに、どうにかしたかったのが魔理沙の本音だ。しかし、()()()()()()()()()

 

 

 異変は未だ続いている。 

 

 

「……今回の異変は……何なんだろうな」

 

 霊夢は答えない。何故なら、それは霊夢の欲しい言葉では無かったからだ。

 

 構わず魔理沙は続ける。

 

「月がおかしくなって、夜が終わらなくなった。てっきり()()()がその原因かと思っていたら()()()()()()()。レミリア・スカーレットが、西行寺幽々子が、アリスが、それと八雲紫が―――」

 

「魔理沙、それは嘘よ」

 

 魔理沙の言葉を遮る霊夢。

 その声に先程までの震えは無い。

 

「嘘? 嘘だって?」

 

「ええ。全てはあの月が元凶。永遠亭の住人が、太古の月の魔力を用いて幻想郷に偽りの永遠を喚んだ」

 

 霊夢は右手を自分の胸に当てる。

 

「私は紫とそれを止めに来たの」

 

 魔理沙は何も言わずに霊夢を見つめる。霊夢も魔理沙を見つめ返しているが、その視線は何故か絡み合わない。

 

「本当なら魔理沙と来たかったのに」

 

「私と?」

 

 焦点の定まらない目付きで霊夢は言葉を続ける。

 

「そうよ。魔理沙と。今までだってそう、幻想郷が紅い霧に包まれた時だって、幻想郷の冬が終わらなくなった時も! 何時だって私と魔理沙で解決してきた。

 

 なのに―――魔理沙はあの人形遣いを選んだ」

 

 帽子の鍔を押さえる魔理沙。

 

 ―――コイツは、相当根深(ヤバ)いぜ?

 

 霊夢の両の瞳が狂気の赤い光を瞬かせている。

 

 狂気の光。空に浮かぶ太古の月の光には特殊な波長の霊力が含まれている。妖怪たちにはむしろその幻想回路を活性化させる効力があるが、人間がその光を長くあびていると―――、幻想回路を大きく狂わせてしまうのだ。

 

 魔理沙もアリスも魔法使い。魔女と月とは切っても切れない関係がある。だから、狂気の光にも少なからず耐性がある。

 

 しかし、霊夢には―――。

 

 恐らく普段の、本調子の霊夢ならなんということも無かっだろう。今回は()()()()()()()()()()。そこへ来て、八雲紫に何らかの精神干渉を受けている状態であれば、その効果は火を見るより明らかだ。

 或いは、逆かもしれない。タイミング悪く弱ったところへ狂気の光を受け精神のガードが下がり、そこを八雲紫に突かれたのかもしれない。

 

 どちらにしても今の霊夢は正常では無い。

 

「ねえ魔理沙、今からでも遅くは無いわ、私と一緒に空へ上がって永遠亭の住人を調伏しましょう?そうしてこの狂った夜を終わらせるの。ねえ、それがいつもの事じゃない? 

 

 博麗霊夢が、霧雨魔理沙と、幻想郷の異変を解決する。それこそが―――」

 

「霊夢」

 

 魔理沙の呼び掛けに、霊夢は言葉を止めない。

 

「魔理沙には、私じゃなきゃ駄目なのよ、私が―――」

 

 熱に浮かされたように。堰を切ったように喋り続ける霊夢。

 

 声が上擦り、どんどんとボリュームも大きくなっていく。

 

「そうよ、そうでしょ? だって魔理沙はあの人形遣いを選んだ! もう私は必要ないってことじゃない!」

 

 ヒステリックに叫ぶ霊夢に魔理沙は優しく声を掛けた。

 

「霊夢、そうじゃないんだ」

 

 しかし。

 

「そんなの嫌よ……私は、私はまたひとりになっちゃう………」

 

 魔理沙の言葉は届かない。

 

 ひとりで喋り、ひとりで問い、ひとりで答える。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……ううん、そうよね、だから魔理沙………」

 

 

 無茶苦茶だ。魔理沙は内心、頭を抱えた。

 

 全てはあの八雲紫が仕組んだ事だったのだ。

 

 永遠亭が太古の月を喚び出す事に乗じて、それを隠れ蓑にし、八雲紫はこの夜を永遠にした。

 

 そのせいで霊夢はおかしくなった。

 

 だが、何のために?

 

 何が目的だ?

 

 異変解決のために考えを巡らせる魔理沙をよそに、霊夢は魔理沙をじっと見つめた後に、泣きながらにっこりと微笑んだ。

 

 その笑顔は今まで魔理沙が見た霊夢の笑顔の中でも、とびきりの笑顔だった。

 

 

「………魔理沙。

 

 今夜は本当に―――、月が綺麗ね(あなたが好きよ)

 

 

 その笑顔に、その言葉に、魔理沙は一瞬息を呑み―――、

 

(霊夢―――こんな時に()()()()()()()()()()()。まったく……)

 

 頭を振って大きく息を吐く。

 

(そうして私もこんな時に()()()()()()()()()()()

 

 帽子の縁を摘み、離すと、指でパチンと弾く。

 そうして一語一句、確かめるように言葉を紡いだ。

 

 

「そうだな……霊夢。

 

 

 死んでもいいぜ(私もだぜ)

 

 

 ―――霊夢は目を閉じた。ポロポロと溢れる涙が止まらない。

 

 そのまま魔理沙の言葉を心の中で反芻する。

 

 ゆっくりと息を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出す。

 

 そうして再び目を開けると魔理沙を真っ直ぐ見つめた。

 

 

「ありがとう魔理沙。嬉しい―――」 

 

 

 駆け出す霊夢。

 

 動かない魔理沙。

 

 

 偽月の下。

 

 霊夢は魔理沙に飛びかるように抱きついた。

 

 首元に擦り寄ると涙で魔理沙の襟元が濡れる。

 

「魔理沙、魔理沙、魔理沙ぁ!!」

 

「あぁ。私だぜ……」

 

 言って、帽子を目深に被る魔理沙。己の感情を隠すように。

 紡いだ言葉に嘘は無い。魔理沙の言葉は本心からの言葉。そこに嘘偽りは本当に無かった。

 

 だからこそ。

 

 魔理沙は言わなければならなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 意を決したように、魔理沙は口を開いた。

 

 

「―――けどな、霊夢。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()―――?」

 

 

 

 

続。

 

 

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