東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 35

 

 夜の竹林の暗さに目が慣れていた魔理沙は、周囲が急急激な明るさの変化に思わず顔を手で覆う。 

 

 先程まで竹林だった筈が、一瞬で光溢れる白の空間へと変貌していた。

 

「二重結界―――か」

 

 取り出したミニ八卦炉を弄びながら魔理沙はぐるりと周囲を伺う。上下左右に仄白い障壁。

 紅の結界はさらにその外側を結び、その境界を閉じている。(しろ)(あか)の二つの結界が魔理沙と、発動者である霊夢をも閉じ込めていた。

 

 二重結界発動前、目と鼻の先にいたはずの霊夢は今は随分と遠くの場所からこちらを見つめている。

 

 魔理沙は少し思案し、

 

「……成程、結界の中心からそれぞれ等間隔で私と霊夢ってわけか。さしずめ結界(こいつ)は博麗神社くらいのサイズってとこだな?」

 

「さすがの空間認識能力ね」

 

 感情無く霊夢が賞賛する。

 

 魔理沙の目算は凡そ正解だった。正確には白の結界の外側にもうひとつある紅の結界の広さが、博麗神社のそれとほぼ同じ大きさに等しい。この広さは霊夢が無意識に認識する空間の広さが具現化したもの。博麗神社によく訪れる魔理沙だからこそその広さが感覚的に把握出来たのだ。

 

 外界とは完全に隔絶された結界内、余計な雑音は何もない。これだけ離れていてもお互いの声はふつうに届いている。もしかするとこれも結界の効力のひとつかもしれない。

 

 魔理沙は再度辺りを見回す。

 

 ようやく明るさに目が慣れてくると、明るさの原因は結界の白光だけではないことに気が付いた。

 

 魔理沙と霊夢の間。ちょうど結界を半分に断ち切るように、ふたりをの間を幾何学的な紋様陣が隔てている。

 無数の(しろ)(あか)御札(アミュレット)一枚一枚がそれぞれの色の光を放ち、その光同士が繋がりあうことによって巨大な曼荼羅のような紋様陣を描いていたのだった。

 

 これだけ大掛かりな陣、その効果も半端なものでは無い代物だということを魔理沙は感じ取っていた。

 

「ちっ……本気(マジ)で本気なんだな、霊夢」

 

 風も無いのに、魔理沙のスカートが、フリルが、帽子がはたはたと(なび)く。

 霊夢の霊力が、圧力となって魔理沙へと吹き付けているのだ。

 

「ええ、そうよ」

 

 にっこりと笑う霊夢。まるで夕食の献立でも訊かれたかのように、他愛もない会話のようなトーンで霊夢は答える。

 しかし魔理沙が感じるプレッシャーは夕食の献立トークとは到底比べようもない程、強いプレッシャーだった。

 

結界(ここ)術者()空間(世界)。霧雨魔理沙、あなたはここでは()()()()()使()()()()()()()()()()()

 

「御大層な話だぜ……。けど要は、この結界を破ってしまえばいいんだろう?」

 

「―――ええ、そうよ」

 

 小首を傾げ、頷く霊夢。

 

「ただ、それだけの、簡単なお仕事―――」

 

 霊夢の言葉を最後まで聞かずに、

 

「ならば早速破らせてもらうぜ! 魔符―――」

 

 魔理沙のスペルカードの宣言。しかし宣言が為されると同時に紋様陣の白の御札(アミュレット)と白の結界が同時に光を放つ。

 

 するとどうだ、

 

 ひらり。

 

 魔理沙のスペルカードは輝きを失い、力無く足下へと落ちていった。

 

「―――む?」

 

 宣言を途中で破棄し、落下したスペルカードを見つめる。

 

 ―――スペルカード宣言をミスした訳では無い。いくら私でもそんな凡ミスはしないぜ……。ならば、何故―――?

 

 …………。

 

 ふと、足元の箒が弱々しげに振動している事に気が付いた。それは魔力が抜けそうになるのを箒自身が無理矢理奮い立たせているかのように感じられた。

 

 真逆(まさか)―――。

 

 魔理沙は自身の幻想回路にチェックを入れると、確かに幻想回路が異常な反応を示していることに気が付いた。

 

「…………ふむ」

 

 何かに納得すると魔理沙は箒の上に立つのを止め、慎重に腰を下ろし跨る姿勢に変えると、箒の柄を握る両手にグッと力を籠めた。そうでもしないと魔力切れ(ガス欠)を起こして落下してしまいそうだったからだ。

 

 バランスをなんとか保ちながら、魔理沙は紋様陣の向こうにいる霊夢を鋭い視線で射抜いた。

 

「―――()()()、か」

 

 霊夢は両目を伏せ、降ろしていた両腕を伸ばしたまま掌を天へ向けゆっくりと左右に持ち上げていく。

 

「ご明答。封魔陣であなたの魔の力を封じたわ」

 

 霊夢の声とともに無数の御札(アミュレット)が紋様陣から一斉に魔理沙へと襲い掛かった!

 

「ならば―――」

 

 瞬時に切り替え、魔理沙は次のスペルカードを引き抜く。

 

「恋符 『スターライトタイフーン』!」

 

 スペルカードが光を放つと、魔理沙を中心に星光(ひかり)のうねりが起きる。それはまるで星々の輝きが渦を巻く銀河にも似た、星嵐(あらし)の様だった。

 

 迫りくる御札(アミュレット)をことごとく撃ち落とす星嵐、しかし。

 

「―――そう来る、わよねぇ」

 

 どこか愉しげな霊夢の声。

 

 巫女が神に祈を捧げる姿そのままに、広げた両手を勢いよく胸の前で合わせる。

 

 パン!

 

 結界内に響き渡る、拍手の乾いた音とともに紋様陣が(あか)に輝いた。

 

 

 

 拍手の音は魔理沙の耳にも当然届いた。

 

 霊夢が両手を胸の前で合わせているのが見える。

 

 音からして霊夢が拍手をしたのだろう。しかし博麗の巫女である霊夢だ、あれがただの拍手では無いことは明白だ。

 

(攻撃の起動所作か?)

 

 新たな攻撃の起点と読んだ魔理沙はスターライトタイフーンを維持したまま周囲に注意を巡らせ―――、

 

 

「――――――!?」

 

 

 魔理沙を中心に吹き荒れる星嵐が唐突に―――、

 

 凪いだ。

 

 スペルカードは再び力を失い落下していく。

 

(まただ、また―――)

 

 だが魔理沙に迷っている暇は無い。次の霊夢の攻撃が来る前に―――、

 

「動くと―――撃つ!」

 

 すぐさま次のスペルカードを引き抜く魔理沙。

 同時にミニ八卦炉を霊夢へと突き出す。

 

 必殺の、魔理沙の代名詞とも言えるスペルカード。

 

 声高らかに宣言する。

 

 

「恋符 『マスタースパーク』!」

 

 

 しかし。

 

 ミニ八卦炉は沈黙したまま、(そら)を貫き星を穿つ光芒はついぞ放たれることは無かった。

 

 三度、スペルカードは力無く落下する。

 

「ん………!?」

 

 魔理沙の困惑した声。

 

 自身の幻想回路から()()()()()()()()()()

 

 頬を冷や汗が流れる。

 

 

 ―――()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()―――!?

 

 

 本能的に霊夢への警戒を強める魔理沙。

 

 霊夢は伏せていた瞼を、伏せた時と同様にゆっくりと持ち上げる。

 

 

()()()()()()()()()―――、()()()()()()()()()()()

 

 

 狂気の赤の光を(たた)えた瞳が、その視線が魔理沙を貫く。

 

 

 結界内に響く、無慈悲な霊夢の声。

 

 

「 ―――夢想、封印――― 」

 

 

 ごくり。

 

 魔理沙の喉が鳴った。

 

 

「…………ちっ」

 

 

 舌打ち。

 

 ぐらり、魔理沙の身体が傾ぐ。被弾―――、をした訳では無い。

 

 魔理沙の跨る箒が力を失ったのだろう。

 

 箒への魔力供給の喪失か。

 

 飛行の魔法は破棄され、魔理沙は重力に引かれ墜落した。

 

 

 

 

 どさっ

 

「痛ッ!」

 

 墜落と言えど、地面に落ちたわけではない、結界の床面へと落ちただけだ。硬い地面と違い結界の床面への落下によるダメージは無かった。

 

 とは言え、衝撃の全てをキャンセルする訳では無く、多少は痛いことに変わりなかった。

 

 落ちた衝撃で魔理沙の懐からスペルカードが辺りに散乱した。

 

「ちっ!」

 

 即座に手近なスペルカードに手を伸ばす魔理沙。

 

 ドスッ!

 

 伸ばしたその先、霊力の籠もった針がスペルカードに突き刺さった!

 

 咄嗟に手を引っ込めると、帽子を押さえながら顔を上げる。

 

「霊夢―――!」

 

 眼前、視界に飛び込んできたのは(しろ)御札(アミュレット)

 

 霊夢からの追撃だ。

 慌てて首を捻りギリギリで躱す。

 

 そう、確かに躱した。白の御札(アミュレット)は。

 

 しかし。

 

 魔理沙の視界には躱した筈の御札(アミュレット)が―――!

 

 

(違う! これは!!)

 

 

 ―――(あか)御札(アミュレット)

 

 

 刹那の集中!

 魔理沙の体感時間が加速する! 

 

 ―――決死結界だ。

 

 だが魔理沙に出来たのは僅かに上体をずらすだけで精一杯だった。

 すぐに時間感覚が元に戻る。

 

 ただその僅かな差が、被弾と回避の差を分けた。

 

 

 (あか)御札(アミュレット)は魔理沙の頬を掠め金色の髪を数本、宙に舞わせたのみ。

 

 

 ギリギリのところで回避に成功していた。

 

 ホッと胸を撫でおろす魔理沙。

 

(一枚目の御札の影にもう一枚忍ばせて撃ち込んでいたのか!?)

 

 一瞬でも判断が遅れていたら直撃は避けられていなかったであろう。

 

 そんな魔理沙の姿を見下ろす霊夢。

 

「よく躱せたわね。でも今の動作であなたは全てを使い果たした」

 

 顔の前で、ひとつ、と人差し指を立てる。

 

「あなたの魔法の源は、ひとつはあなた自身が練り上げる()()()。そして―――」

 

 ふたつ、と中指も立てる。

 

「もうひとつはあなた自身の心の力、つまりは()()()

 

 封魔陣と夢想封印、このふたつを同時に展開する二重結界。ふたつの結界は、あなたのふたつの力を十全に封じるわ」

 

 さらに手を開き、

 

「さらに隔絶されたこの空間では、星々の力を借りることも、五大元素の力を借りることも出来ない。

 

 これでもう、あなたはスペルカードどころか魔法を使うことも、箒で飛ぶことすら出来ない。ただの普通の魔法使いにすら至らない、か弱き少女に過ぎないのよ」

 

 ぐっと握り潰す。

 

「あなたはこのままずっと、この二重結界内で封ぜられるの。ずっと。ああ、驚かないで?安心して?私がいるから。私はあなたとは違って他所には行かないわ。ずっと、魔理沙の傍にいるもの」

 

 にっこりと笑うと、霊夢は音も無く降り立った。

 

 倒れ伏したまま、魔理沙は顔だけ上げ霊夢を睨みつけた。

 

「……つまり、私は籠の中の小鳥といったところか?」

 

 魔理沙の言葉にヒョイと肩を竦める霊夢。

 

「ふふ、魔法を失ったあなたは、飛ぶことを忘れた小鳥と同じ。出来ることは囀ることくらいよね」

 

「どうかな? 小鳥にだって爪も嘴もある。脆弱ながら翼だってあるぜ?」

 

「ああ、そうね。それじゃあ―――」

 

 ポンと手を打つ霊夢。良いアイデアを思いついたといった風な口調で、

 

「―――()()()()()()()()()()()()()?」

 

 魔理沙を指差す。

 

 紋様陣が光り、白と紅の御札(アミュレット)、さらには神の加護を得た針が飛び出した!

 それらは魔理沙ではなく傍らに転がっていた箒に向かって、まるで鳥葬の様に次々と突き刺さった!

 

 滅茶苦茶な破壊音。

 

 暫くして、もはや原型すら留めていない、数分前までは箒だった竹の破片だけが残った。

 

 その結果に満足そうに微笑むと、霊夢は倒れ伏したままの魔理沙へと視線を戻す。

 

「あら? どうしたの魔理沙」

 

 見れば、魔理沙が心臓の辺りを押さえて苦しそうに喘いでいた。

 

 今の一連の攻撃は、全て、全く外れることなく箒に完全に着弾し、魔理沙には誤爆など一切してはいない。

 それなのに苦しむ魔理沙に、しばしの思案の後、霊夢は、あ、そうか、と呟いた。

 

「―――魔力切れとは言え、魔理沙と箒とがリンクしてるから、箒を破壊すると魔理沙にもダメージが行くのかしらね」

 

「ぐ……。っ、へへ、御名答、だぜ?」

 

 冷や汗を流しながら、それでも軽口を口にする魔理沙。何とか上体を起こすとミニ八卦炉を霊夢へと向ける、が、

 

「魔も恋も、力を失ったアンタが何やってんの?」

 

 箒の残骸を勢い良く踏みつける霊夢。

 

「―――っがぁっ!?」

 

 身体中に激痛が走り、もんどり打って倒れる魔理沙。

 

 霊夢はさらに箒を連続で踏みつける。

 

「なにを、やってんの、って、訊いてんのよ!!」

 

 がんっ!

 がんっ!! 

 がんっ!!!

 がんっ!!!!

 

「―――ッ!!」

 

 声にならない悲鳴を上げ、魔理沙がのたうち回る。咳き込み、口の端から血がつうっと流れた。

 

「痛いの? ねえ、痛いの魔理沙?」

 

 踏みつけた足をギリギリと踏みにじる。

 

 魔理沙の顔が苦痛に歪むのを見て霊夢は口の端を歪めた。 

 

「痛いわよね? でもね、私はもっと痛かったわよ? 身体じゃないわ、心が痛かった!」

 

 さらに三度、踏みつける。

 

「私は! 魔理沙に! 置いていかれたんだ!!」

 

 興奮のあまり肩で息をする霊夢。虚ろな瞳からはらはらと涙が流れる。口元を笑みの形に歪めたまま。

 

「だから、もう魔理沙をどこへも行かせない。ずっと、ここで私と―――」

 

 赤い瞳、溢れる涙。

 

 

 天を仰いだまま、溜息をつく魔理沙。

 

 ―――ったく、仕方ないな。

 

 身体を戦慄(わなな)かせながら、魔理沙が顔を上げた。

 

 

「……このまま私を結界内に閉じ込めて、お前がそれで幸せなら……まあ、それも悪くないんだがなぁ……」

 

 にひひ、と苦笑い。

 

 ―――そうして、ずうっと一緒か、確かにそれも悪くないんだがな。

 

 再び、何とか上体を起こす。

 

「悪くないんだが……なあ霊夢」

 

 霊夢の顔を真正面から見据え、魔理沙が笑う。

 

 ボロボロの姿で。

 

 ボロボロの顔で。

 

 それはいつもと変わらない笑顔―――、いや、いつもとは違う、ちょっと困ったような笑顔だった。

 

「けどやっぱり、()()()()()()()()()()()()()?」

 

「―――どうして!?」

 

 がんっ!!

 

 霊夢が箒を踏みつける、が、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()? だって?」

 

 

 魔理沙の手にしたミニ八卦炉に淡い光が灯る。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

「―――霊夢、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 スペルカードが―――、

 

 

 光を放った。

 

 

 

 

 

続く。

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