東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜 作:赤井せりか
◇
藤原妹紅は眉根を顰めながらも目の前で起こっている現象をじっと見つめていた。
五色の魔力光が
その光の激しさに、藤原妹紅からは
(―――どういう事だ?)
アイツは
それと同時にあの人形遣いが持つ七色の魔力のうちの二色が、明らかに人形遣いの幻想回路から消失した。
その二色分の魔力減衰があるのは言うまでも無い。
それと同時に人形遣いの傍にふたつの人影が見えたのも気になったが、今は烈光の向こうにその姿を確認する事は出来ないし、複数の気配を感じる訳でもない。
だが。
気になる―――、否、気に入らないのはそうまでして喚び出したあの書物だ。
Grimoire of Alice
確かにそう聞こえた。
「あの魔導書を喚び出すのにそこまでの魔力を消費した。
ならば―――。
依然として腕は組んだまま、藤原妹紅は五色の光を、その中に居るであろう
「ここからがアイツの本気ってワケだ!」
ニッ、と凄絶な笑みを浮かべると、周囲の空気がチリチリと焦げたような音を立てた。
◇
アリスを見つめる視線。それは藤原妹紅だけではなかった。
蓬来山輝夜もまた、アリスの変化に注目していた。
「アリスもこんな隠し球を持っていたなんてね」
視線の先、五色の烈光に包まれ、アリスの姿は見えない、彼女がそこにいることは魔力反応から見て明らかだった。
―――確かにふたつの魔力を放棄した事でアリスの魔力はその3割弱を失った。そこだけを見れば大きなパワーダウンに過ぎない。だが、
「ポイントはあの魔導書」
一見すれば、そうまでして喚び出すだけの能力があの魔導書にはあるということだ。
しかし。
「恐らくは
己の力を棄てて魔導書に頼るなど、そんな愚かしい真似をするだろうか?
否。あの娘は、そんな浅薄な少女では無い。
―――ならば。
目をスッと細める蓬来山輝夜。
正直なところ、アリスでは藤原妹紅を倒すことは出来ないと蓬来山輝夜は考えていた。例えアリスが彼女の予想以上の力を持っていたとしても、だ。
それくらいに藤原妹紅の力は
幾度となく殺し合ってきた、にも関わらず。
蓬来山輝夜と藤原妹紅、このふたり同士では絶対に決着がつかない。確かに蓬来山輝夜も埒外の力を持っている。それは藤原妹紅も同じ事。ふたりの力量は同等と言っても差し支えない。しかし決着がつかない理由はそれだけではない。その真の理由は
だから。
アリスの力が
「でも、そうね。
視線を藤原妹紅へと移す。
先程までポケットに入れたままだった手を、両方とも出して腕組みをしている。
つまり、
あの藤原妹紅が、だ。
藤原妹紅の行動が意味するもの、それは―――。
「―――ならば、或いは。
意味有りげな面持ちで小さく息を吐くと、蓬来山輝夜は肩越しに後ろを振り向いた。
「……これも、貴方の計画の内なのかしら?
ねえ、
「
軽薄な声。
音も無く閉じる
ばさり。
夜風に法衣が、はためく。
にやり。
夜の闇のなかに、まるで三日月のような笑みが浮かぶ。
バッ、と音を立てて開くアンブレラ。
偽月の光を受け、金色に輝くゆるくウェーブのかかった髪。
八雲紫は、そこにいた。
◇
―――力が溢れてくる。
アリスは己の幻想回路に魔力が満ちていくのを感じていた。
それは
以前、アリスは
ただ、七色の魔力を使用する上でその密度はどうしても薄くなる。その分、魔法の多彩さがアリスの武器となっていた。
しかし、だがしかしだ。
それでは藤原妹紅には勝てない。
歴然とした実力差をアリスは痛感していた。
アリスが選んだ手段は―――、
「さあ、行くわよ―――」
パン、と音を立てて両手で魔導書を閉じる。
烈光が、アリスの胸元へと吸い込まれていった。
◇
(収束、いや、集束と言う方が正しいな)
光は霧散していくのではなく、人形遣いの中、つまり幻想回路へと集束していっているのだろう。
(さあて、鬼が出るか蛇が出るか)
目元にグッと力を入れ、口元はペロリと舌舐めずりわする。
相手が強ければ強いほど、藤原妹紅は燃える
だからこそ―――、
輝きが全てアリスの中へと集束し消えた時、 改めてアリスの姿を見た藤原妹紅はギョッと目を見開いた。
アリスの胸元には、青いリボン。
カチューシャも青。
青いワンピーススカート。
そして、それらを纏うアリスの姿は先程と打って変わって、
―――
「なんだそりゃ!?」
ガクッと肩を落とす。
どんな姿に変貌するかと思えば。
どんな
全くの期待外れだった。
まさか魔力の減衰そのままに
蓬来山輝夜とやり合う前の準備運動程度に考えていた藤原妹紅だったが、
ただの時間の無駄だ。
それならばこんな下らない茶番に付き合っている事も無い。
「バカにしてンのかッ!!」
怒りにまかせて炎弾をアリスに向かって打ち出す。
しかし。
ごぅんっ!!
数瞬、その様子に目をパチクリとする。
「―――力加減を間違えたか……?」
間違ってアリスにぶち当たるまでに爆発させてしまつたか、それとも感情が乗り過ぎてすぐに弾けてしまったか。
内心首を傾げながらも気を取り直すと、藤原妹紅は次々と炎弾を放つ。
が―――、
結果は同じ。アリスに辿り着く前に炎弾は全て爆発して霧散していた。
「ほぅ―――」
スウッと目を細める藤原妹紅。
組んでいた腕を解き、だらりと下げる。
その視線の射貫く先。
炎弾が起こした爆風に暴れる髪をそっと手で押さえながら、表情も変えずにこちらをじっと見つめてくる
まるで
藤原妹紅は苦笑混じりの溜息を漏らすと
にわかには信じ難かったが、間違い無い。炎弾は
この、幼い姿をした人形遣いに。
「ほうほう。成程成程。危うく見た目に騙されるところだったぜ」
くっくっ、と低く笑うと左手で顔を覆った。
藤原妹紅はこの愚かな
―――なんと、姑息な、と。
「幼い見た目に変化して油断をさせて、その隙を突く。そういうつもりだったんだろうが……生憎と私にはそういう姑息な手は通じんよ」
―――下らない。
右手を掲げると、その手をやや後方へと引く。
背中の炎翼が大きく膨れ上がっていく。
「その魔導書の防御能力がどれほどかは知らんが、コイツを防ぐ事が出来るか?」
藤原妹紅の眼前に1枚のスペルカードが現れる。
それに呼応して右側の炎翼がさらに大きく燃え上がった。
「さあ、ここからは一切の手加減無しだッ! ぼやぼやしてたら火傷どころじゃねぇ、消し炭すら残さず燃やし尽くすぜ!」
スペルカードが赤く炎のように輝く。
「喰らえ鳳凰の羽撃きを………ッ!
不死『火の鳥 ―鳳翼天翔―』!!!」
熱波が―――、全てを焼き尽くす灼熱の熱波が天を翔ける鳳凰を象り、業火の嘶きを上げながらアリスへと襲い掛かった!
「今度はさっきのような通常弾じゃねえ! 避けるか逃げるかしねえと黒焦げだぜ!!」
藤原妹紅自慢のスペルカード。あの蓬来山輝夜に放った時も、彼女の全力をもってしても防ぐので精一杯だった。
特大のスペルカードをぶつけて相殺しそれから防御行動を取るか、或いは、逃げの一手か。
だが逃げたところで爆炎の鳳凰はどこまて相手を追い詰める。最も、弾幕ごっこの
では、今の
そうなると―――、スピードタイプか。
アリスの能力を冷静に予測分析する藤原妹紅。
しかし。アリスは動かない。
スペルカードを準備する様子も無い。
「死ぬ気かッ!?」
まさか防御も回避も無しとはさすがの藤原妹紅も予測出来なかった。いくら弾幕ごっことはいえ、『鳳翼天翔』をノーリアクションで受けてしまったら火傷どころでは済まない。真剣勝負所以、
とは言え今更スペルカードを止める事も出来ない。止めたところで既に放ってしまった鳳凰は最早どうしようもない。
(……あの軟膏はまだ予備があったよな)
どんな怪我でも立ちどころに完治させる特別な軟膏を藤原妹紅は所持していた。―――己の火力の高さで意図せず誰かを傷付けてしまった時用のものだ。
最近はあまり使うこともなくなっていたのでどこにしまったか………。
などと、そんな心配が藤原妹紅の脳裏を過っていた、その時だった。
アリスは落ち着いた所作で魔導書を両手でパンと叩いた。
瞬間、魔導書はひとりでにページを捲り、そのまま光の粒子となって消えていく。
なおも襲い来る爆炎の鳳凰。
そしてアリスは―――、
慌てることも、力むことも無く。
両方の腕を、掌をゆるりとした動作で持ち上げると、
襲い来る鳳凰の嘴に向かって無造作に突き出す。
アリスの白魚のような手指を烈火に燃え盛る鳳凰が喰い破らんとした、その時だった。
何の前触れもなく。
まるで蝋燭の火がフッと吹き消されたように。
鳳凰の姿は夜風に散っていた―――。
続