東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 40

 

 アリスは己の両手をまじまじと見つめる。

 

 いつもの自分の手では無い、ちいさなて。

 

 その手の先、炎で象られた鳳凰の残滓が爆煙となって立ち込めている。

 

 鳳翼天翔を掻き消した両の掌には、僅かな火傷の跡も無い。かわりに、淡く光る魔力の粒子を纏っていた。 

 

 ふうっ、と小さく息を吐くアリス。同時に掌に纏っていた魔力の粒子がひとところに集まり魔導書の姿に戻る。

 

 アリスは目を細め、掌にある魔導書を愛おしそうに見る。

 

 藤原妹紅の弾幕に対抗できた安堵もある。同時に高揚感を覚えたのも確かだった。

 それは油断。ほんの僅かな油断。

 

 だから、ほんの僅かに()()()()()()

 

 目の前に立ち込める煙がかすかに揺らぐ。

 

 ハッとなるアリス。

 その背筋を冷たい汗が滑り落ちる。

 

(―――!)

 

 アリスの危険察知能力(センサー)が警鐘を鳴らす。

 

 まだ、弾幕ごっこの、真剣勝負の真っ最中なのだと。

 

 瞬間、アリスは幻想回路の魔力濃度を高め、フル回転。魔導書は()()()()()()()()()()()()()

 

 ほぼ反射的にアリスは身体を左に捻った。魔力を練り上げそのまま飛行魔法を発動する。理由も根拠もないただの勘。弾けるようにその場から離れる。

 

 その時だった。

 

 アリスの背後が真っ赤に燃え上がった!!

 

  キュゴゴゴッ!!

 

 幾羽もの鳳凰が、数瞬前までアリスのいた空域を次々と灼熱の炎で焼き尽くしていく。

 

 身体が小さくなったのも幸いした。あと少し避けるのが遅ければアリスは紅蓮の炎翼にその身を焼かれていただろう。

 

 追撃は終わらない。続いて次々と飛来する鳳凰。 

 夜空が炎の赤で染められていく。

 

(呆れた火力だわ! 少しでも気を抜いたら撃ち落とされちゃうわね) 

 

 アリスはさらに高速移動で飛びながら、襲い来る鳳凰を或いは避け、或いは―――、

 

 ギリギリまで引き付け両手を突き出す。

 

 魔導書が変化した、淡い魔力の光。

 

 鳳凰がアリスを焼き喰わんとその嘴を大きく嘴を開き―――、再び鳳凰は音も無く霧散し煙と化す。

 

 しかし。

 

 霧散させた鳳凰に、その煙に隠れるようにさらに数羽の鳳凰が襲い来るのが見えた。

 

「―――ちっ」

 

 瞬間、加速してそれらを躱していく。

 

 アリスの後を白い雲が尾を引き、闇夜に弾ける炎に照らされてその軌跡が照らされ、掻き消える。

 

 数多(あまた)もの鳳凰がアリスを喰い落とさんと迫るが、そのまま高速移動を止めることなく避け続けながらアリスは鳳凰が飛来して来た方向を見据えた。炎の合間にその根源、紅蓮の火炎弾を腕を振るい放つ藤原妹紅の姿が見えた。

 

(よし、それじゃあ……)

 

 アリスは方向修整し、藤原妹紅を中心にその周囲を回るようコースを変えた。付与されていた魔力の粒子は両手から胸元へと集まり、魔導書の姿を取り戻す。

 襲い来る鳳凰を上へ下へと避けながらパチンと指を鳴らすアリス。すると魔導書がひとりでに捲れ()()(ページ)で止まり、そこで大きく開くとそこに記された魔を統べる一節(マギウス)が歌うように緑光を放ち輝いた。

 

 ―――自動呪文詠唱(オートノマスキャスト)

 

 アリスの周囲に、緑色の光球が複数生まれる。 

 

(今度はこちらから―――!)

 

 同時にアリスの周囲の魔力球から、空間すらをも薙ぎ払う高エネルギーの魔力槍が次々と射出された。

 

 ジャッ!!

 

 音を上げて藤原妹紅へと迫る魔力槍。しかしスピードはさほどでは無い。 

 

「小癪なッ!」

 

 声を上げ魔力槍の射線から身を避ける藤原妹紅。アリスへと鳳凰を撃ち出そうとした、その時だった。

 

「―――!?」

 

 魔力槍がその軌道を変え、大きくカーブする。

 まるで生きているかのように藤原妹紅へと襲いかかった!

 

「ふ……ざけるなぁッ!!」

 

 魔力槍を睨み、発射寸前だった鳳凰をそちらへと放つ。

 

「甘いわよ!」

 

 アリスがその細腕を振るう。

 

 魔力槍は更に軌道を変え、鳳凰を避けるように分散した!

 大半の魔力槍は藤原妹紅の圧倒的な火力の前に相殺、消滅。なんとか紅蓮の炎翼を躱した魔力槍の一本も紙一重のところで藤原妹紅は躱す、が―――、

 

 ぞぶっ!!

 

 もう一本、死角からの一撃がついに藤原妹紅の左脇腹を貫いていた。

 

 藤原妹紅の胸元で輝いていたスペルカードが砕け散り、光を失う。

 

 スペルブレイク。

 

 ぐらり、藤原妹紅の身体が傾ぐ。そのまま後ろ向きに倒れると、

 

 ―――ボッ。

 

 コントロールを失った炎翼が燃え盛る炎となり、術者である藤原妹紅の身体を包んだ。

 

 

 

「……潜在能力は隠し持ってるとは思ってたけど、ここまでとはね」

 

 その様子を上空から見下ろしていた蓬来山輝夜は顎に手を当て、小首を傾げた。

 

「鳳翼天翔を相殺……いいえ、違う」

 

 すうっ、と目を細めた。

 

 スペルカードを止める方法は確かにいくつか存在する。

 

 ひとつ、スペルカードを攻略する事。

 

 弾幕を避けきる、弾幕を相殺する、発動者の魔力を消耗させスペルカードの維持を失わせる、エトセトラエトセトラ。

 

 スペルカードの性質によってその方法は異なるが、これが、これこそが弾幕ごっこの真髄だ。

 

 そしてもうひとつのスペルカードを止める方法。

 それはスペルカードそのものを破壊する事だ。

 蓬来山輝夜は直接見てはいないが、魔理沙のダブルスパークをレミリア・スカーレットが不夜城レッドで貫いて止めたやり方がそれに当たる。もっとも、あの時のダブルスパークは発動直前だったが。

 

 確かにスペルカードの直接破壊は一番効果的な方法である。だが、これはほとんど用いられることはない。

 

 何故なら。これは弾幕ごっこ、だからだ。

 

 互いにスペルカードを撃ち合い、それを真っ向から攻略する。それこそが弾幕ごっこの真髄だ。スペルカードを破壊して弾幕を止めるというやり方はこの作法(ルール)に反している。

 

 そういう見方をすれば、あの時のレミリア・スカーレットは実際は無作法とも言えるのだが―――。

 

 スペルカードの直接破壊はそう簡単に出来るものでは無いのもまた事実だった。相当な格の差が無ければ実現し得ない事だ。

 

 レミリア・スカーレット。幼きヴァンパイアクイーン。

 

 紅魔館の主として、夜の王として、不死者たちの頂点として、その力を見せつけただけに過ぎないのだ。

 

 しかし。

 

 今、眼下の幼児化したアリスが見せた方法はそのどちらとも異なる方法だった。

 

 蓬来山輝夜が見るにそれは―――、

 

「色々と見どころだけれども、特に『鳳翼天翔』の相殺。 いいえ違うわね。そう―――、あれは分解したという方が正確ね」

 

 

 弾幕の分解。

 

 

 見たことも聞いたこともない。

 

 幼児化したアリスを、否、アリスが手にしている魔導書を見据える。

 

「どうやったかはわからないけれど、それでもそれを可能にしたのは、あの魔導書ね。」

 

 見た目も古い、(ふる)い書。

 

 蓬来山輝夜も永く生きてきたが、あのような書の存在は知らなかった。

 

 或いは、もっとずっと旧い代物なのか。

 

「魔の真髄が、あの書にあるというの?」

 

 アリスの幼児化とも何か関係があるのかも知れない。

 

 蓬来山輝夜は、今はそれを知る由もない。

 

 だが、アリスの魔力密度は変身前とは比べるまでもない程に濃く、強大になっていた。

 

 そうしてその魔力は遂に藤原妹紅を貫いた。

 

 炎に包まれる藤原妹紅と、アリスとを交互に見る蓬来山輝夜。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()―――」

 

 右目を伏せ、人さし指を唇に当てる。

 

「―――藤原妹紅は()()()()では止まらない」

 

 そう呟く口元はどこか笑っているようにも見えた。

 

 

 

 

 炎に包まれる藤原妹紅をぼんやりと見つめるアリス。

 

「これで……勝ちなの?」

 

 ―――確かに自分の魔力槍は藤原妹紅を貫いた。貫きはした。けれども―――。

 

 手応えがこれっぽっちも無い。

 

 それに、己が炎に身を焼かれ、敗北を喫するなど―――。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 否。

 

 そんな筈はない。

 

 その程度の相手ならば、私が()()姿()になるまでも無い筈だ。

  

 しかし。

 

 現に藤原妹紅は炎に包まれて、微動だにしない。

 

「炎……?」

 

 アリスは目の前の出来事に違和感を覚えていた。

 

 炎を操る術者が、それも埒外の存在ですらある藤原妹紅が自らの炎で燃え尽きるだろうか。

 

 アリスの中の違和感が、弾けた。

 

「…………鳳凰」

 

 炎翼を纏った藤原妹紅が放つ鳳凰を象った弾幕、『鳳翼天翔』。

 

 鳳凰は伝説上の鳥で火の鳥、フェニックスなどとしばしば同義とされる。

 

 それらの特性、それは―――、

 

 アリスの頬を冷や汗が流れるが、炎の放つ熱気にすぐに蒸発してしまう。

 

「―――!?」

 

 そこではじめてアリスは、この藤原妹紅を焼き包む炎がその強さを増してきていることに気がついた。

 

 単に火力が増しただけでは無い。そこから感じられる魔力、生命力、それらがまるで脈打つように強い鼓動となって炎全体を揺らしていた。

 

 ()()()()()()

 

 アリスは魔導書をパンと叩く。

 

 ―――自動呪文詠唱(オートノマスキャスト)

 

 再びアリスの周囲に緑の魔力球が生まれ、魔力槍が放たれる。

 

 魔力槍は突き進み、全て炎へと()()()()()

 

 

 瞬間、アリスの危険察知能力(センサー)が最大級に警鐘を掻き鳴らした!

 

 

(これは()()()!!)

 

 

 本能的にアリスは防御魔法を準備する。

 

 

 だがそれよりも速く、アリスの眼前の炎は吹き飛ばされ、視界が一気にクリアになった。

 

 

 

 

「 『リーインカーネーション』 」

 

 

 

 

 ―――炎の中で藤原妹紅は目を閉じて考えていた。

 

 

 最初、『鳳凰天翔』が消えたのを見て藤原妹紅は、己の弾幕がどうやったのかはわからなかったが、とにかく打ち消されたという事実を受け入れた。

  

 それをやってのけたのは八意永琳でも蓬来山輝夜でも無い。今宵出会ったばかりの、ちっぽけな人形遣い。

 

 しかも、さっきまで圧倒的な実力差で捻じ伏せていた相手に、だ。

 

 多少の驕りがあったことは認める。

 

 もしが並の術師だったなら、驚き、怒り、同じ弾幕を続けて放ったことだろう。それが通じないとわかっていながらに。

 

 だが、私はそのような傲慢さは持ち合わせてはいない。

 

 このちっぽけな人形遣いが、自身の自信のスペルカード、その弾幕を一瞬で消してみせた。

 ちっぽけだと考えていた相手が、想像を絶する反撃を繰り出した。

 

 それは即ち。

 

 

 カッと両目を見開く。

 

 

 この()()()とやらは自分が()()()()()()()()()()()()()()()ということだ!

 

 

 

 

 ―――炎を吹き散らしそこから現れたのは、全くの無傷の藤原妹紅だった。

 

 振り被った右手に、紅蓮の魔力。

 

 藤原妹紅が無傷だった事に驚きもしたアリスだったが今はそれどころではない。藤原妹紅の次の攻撃を予測する。

 

 

(近距離からの魔力弾幕!?)

 

 

「遅いんだよッ!!」

 

 

 雄叫びのような声を上げる藤原妹紅。

 

 魔導書が瞬時に捲れ光を放つと、多重の魔力障壁がアリスの眼前に展開される!

 

 

「うらぁッ!!」

 

 

 ガンッ!!

 

 

 障壁が受け止めたのは魔力弾でも炎の弾幕でも無い。

 

 ()()()()()()()

 

 藤原妹紅は紅蓮の魔力を纏った右拳で障壁を直接―――、

 

(―――直接殴ってきた!?)

 

 そう、アリスが展開した多重魔力障壁を、藤原妹紅は己の右拳で()()()()()()()。 

  

 ビシッ!

 

 障壁にヒビが入る音。

 

 

(―――まさか!)

 

  

 アリスの眉根がわずかに歪む。

 

 顔にこそさほど浮かべなかったが内心では驚きを隠せないでいた。

 

 まさか。この多重魔力障壁は、普段の自分が用いたとしても魔理沙のマスタースパークをも防ぎ切る自信がある代物だ。ましてや今の、魔導書を手にした私に、その私が展開した障壁を―――、

 

 

 そんなの、そんなの、

 

 

 この藤原妹紅ってやつは、どれだけの火力バカだっていうの!?

 

 

 

 些細なアリスの動揺を藤原妹紅は見逃さなかった。

 

 自然と口角が上がる。

 

 楽しい、ああ、楽しいじゃないか、と。

 

 

「ハッハァッ!!」

 

 

 凄絶な笑み。

 

 ハッとなったアリスは目を見開き、藤原妹紅を見た。

  

 自分を見る藤原妹紅とアリスは真っ直ぐ目が合う。

 

 アリスはふと気付く。

 

 こうやって藤原妹紅とこれだけの近距離で、真正面から目を合わせたのは初めてだ、と。

 

 睨まれる事はあった。見下される事もあった。目も合わせずに言葉を交わす事もあった。ましてやアリスを見もせずに蓬来山輝夜のことを睨みながらアリスへ恐ろしい程の弾幕を放った時もあった。

 

 しかし、今は違う。障壁のむこうとこちらではあるが、ふたりの視線は確実にぶつかり合い、絡み合っている。

 

 

「あっ…………」

 

 思わず声がこぼれた。

 

 似ている……。

 

 ふとそんな思いが脳裏を過った。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 真っ直ぐな瞳。ただ相手を見据える、己の信念と自信による揺らぎない光を湛えた瞳。

 

 けれどもその目線は私に向けない。いつだってアイツは私のことなんかを見ていない。いつだって、アイツは―――!

 

 

「魔理沙のバカ!!!」

 

 

 煮えくり返るような感情が爆発し、アリスの口からは、今この場にいない、今この場とは関係の無い魔理沙の名が飛び出していた。

 

 一瞬、キョトンとした表情を浮かべた藤原妹紅だったが、すぐにその口元が綻ぶ。

 

 フッ、と息を吐くと、

 

 

「―――ほう、いい目をするじゃあないか」

 

 

「えっ?」

 

 

 唐突なひと言にアリスは間の抜けた声を上げる。

 

 

 ほんの僅かな間、アリスは集中を乱していたが障壁はまだ破られていない。

 

 藤原妹紅からの圧力も不思議と弱まっていたような気もしたが、今はそれを考査している余裕など無い。

 

 すぐに集中を高め、目の前の藤原妹紅へと意識を戻す。

 

 相変わらず凄絶な笑みを浮かべたままではあるが、どこかそれまでとはどこか藤原妹紅の雰囲気が変遷している事にアリスは気がついた。

 

 

 藤原妹紅は、今、私を見ている。

 

 

 それがどういうことなのかアリスには瞬時には理解できなかった。その意味を、自分を本気で撃墜にくる、単純にそうなのだと定義付けた。

 

 しかし。

 

 

「―――()()()、とか言ったな」

 

 

「!?」

 

 

 今、藤原妹紅が()()()()()()

 

 同時にアリスは全身が総毛立つのを感じた。

 

 今までは自分のことを()()()()としか呼んでいなかった藤原妹紅が、今、初めて名前で呼んだのだ。

 

 

 

「面白え。ああ、面白え。

 

 なんだよ、お前もとどのつまりは()()()()()()()()()()()()

 

 ならば認めるしかないようだな。

 

 

 人形遣い―――、

 

 いや、

 

 

 偉大なる魔法使い(マグヌス・ウェネーフィクス)()()()!」

 

  

 

 

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