東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 41

 

 

 ―――避けようのない攻撃が襲い来る。

 

 それは―――ただの勘。

 

 博麗の巫女としての勘。

 

 その勘を信じ、私は瞬時に結界を展開する。 

 

 次の瞬間、

 

「―――ヘックション!!」

 

 大口を開けた魔理沙がクシャミをした。こちらに向かって。

 

 霊夢は心底安堵する。

 

 結界には魔理沙から飛び出した色々なモノが色々とへばりついていた。

 

 ―――恐ろしい。結界が無ければ直撃だったわ。

 

 本気で嫌そうに半眼で見ると、

 

「あんたねぇ、手で覆いなさいよ口を」

 

「ックシュン!! へへ、悪い悪い。出物腫れ物、急なクシャミは所構わずだぜ」

 

 立て続けにクシャミをすると、魔理沙はたいして悪びれもせずに笑うとズズッと鼻をすすった。

 

 半眼で結界(とそこにへばりついた色々)をチラリと確認し眉を顰める。そのまま視線を魔理沙へと移すと、問題の黒白の魔法使いはスッキリした顔でこちらを見ていたので結界を消すことにした。

 

 ……結界を消すのはいいけれど、へばりついた色々はそれとともにどこに果たして行くのかしら。

 

 謎よね。この博麗の巫女たる私でもわからない。もしかしたら紫あたりは知っているかもしれない。今度聞いてみよっと。

 

 などとうすらぼんやりと思っていると、

 

「しかし、誰か私の噂をしているみたいだぜ?」

 

と、魔理沙が笑った。

 

 私はヤレヤレと肩をすくめる。

 

「クシャミ2回だから悪口ね」

 

「昔からよく言うよな。へへ、人気者はツライぜ」

 

「魔理沙こそよく言うわ」

 

「とは言え―――、悪口の心当たりなんてこの私には全く思い当たらないんだぜ?」

 

「……それ、本気で言ってるの?」 

 

「私はいつだって本気だよ」

 

 そう嘯く魔理沙だったがふと真剣な顔になると、

 

「―――まあ、アリスかな」

 

「―――まあ、アリスでしょうね」

 

 うんうんと頷くふたり。

 

「あんたの事だから何も言わずに空の上に置いていたんでしょう?」

 

「んー、そんなことはないんだぜ?」

 

 箒を担ぎながら空を見上げる魔理沙。

 

 空には月。

 

 しかし先程まで弾幕ごっこをしていた竹林とは辺りの風景も、月の見える角度も違う。

 

「けど、アリスなら大丈夫だろ」

 

 けろっと根拠も無く言い放つ魔理沙に首を振ると、私は小さく息を吐いた。

 

「―――ところで」

 

 魔理沙が言う。

 

 キョロキョロと周囲を見回しながら。

 

「いったいここはどこなんだ―――」

 

 ふたりがいる場所は結界の中でも竹林の中でもない。

 

 どこまでも続く石段の途中だった。

 

 石段の両脇には灯籠が立ち並び灯りが灯っている。

 

 ひらり。

 

 桜の花弁が魔理沙の視界を過った。

 

 灯籠の灯りに照らされて夜の闇に桜の花が仄かに光る。

 

 魔理沙も私も、見覚えのある場所だった。

 

 かつてこの石段で、主を守護る半霊半人の庭師と弾幕ごっこを繰り広げた事がある。

 

「白玉楼への石段ね」

 

 額を押さえながら答える。

 

 そう、白玉楼へと続く石段だった。

 

「そっかー、白玉楼かー。ってことはここは冥界……」

 

「そうね」

 

「ん? けど私と霊夢は結界内で弾幕ごっこやってたはず?」

 

「そうね」

 

「なんで冥界にいるんだ?」

 

「あんたねぇ……。そりゃあんたが考えもなしにスペルカードぶっ放したからでしょ」

 

「ほー。てことはアレか、なんか魔力がいい感じに作用してここまで転移した(ふっ飛ばされた)ってわけか」

 

「いや、それは……」

 

「んー、ま、いっか」

 

 魔理沙は頭の後ろで腕を組むと、あっけらかんとした調子でケラケラと笑った。

 

 すぐ傍らに浮かんでいる箒もそれにつられてふよふよと揺れる。

 

「ま、とは言え霊夢ならなんとかなるだろ?」

 

 にっと白い歯を見せる魔理沙。

 

「まあね」

 

 と私。

 

「別にひとりだったらここから帰るのなんてワケ無いわよ」

 

「おっ、さすが博麗の巫女だな。それじゃあそんな感じでちょちょっとやってくれよ?」

 

 コイツは……。人の話を聞いてんだが聞いてないんだがわかんないだから。

 けどまあ、いっか。

 

「ハイハイ。今すぐやってやるわよ」

 

 ゴソゴソと袖の内から一枚の御札を取り出すと、魔理沙の額に雑に貼り付ける。そうして口の中で祝詞を唱えれば、魔理沙の身体は結界で包み込まれていた。

 

 構築されるスペルは、術式的に移動でも転移でもない。全く異なる質の、術式だ。

 

 当然魔理沙もそれに気付くと、少し慌てたような声を上げた。恐らくは予想していた術式と異なるものだと理解したからだ。

 

「え? あれ? 転移じゃなくて蘇生? えっ? 霊夢、アレ? お前は?」

 

 光に包まれて消えていく魔理沙。

 

 私はちょっと困ったように、それでいて悪戯っぽく笑ってやった。

 

 たまにはもっと、そうよ、私のことを心配すればいいんだから。

 

「言ったでしょ? ()()()()()()()って、ね」

 

 結界が完全に閉じると、()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()

 

 つまりは、

 

 ()()()()()()()

 

 最もここは冥界に近い場所。黄泉の世界とはまた違うのだけれども。―――まあ、似たようなもんよね、うん。

 

 

 まあざっくり言って私と魔理沙は、魔理沙が出力もコントロール出来ていないようなまだまだ不完全なスペルカードのせいで、あの世送りにされ(死に)かかった、ということだったのだ。

   

 

「さて、と」

 

 魔理沙への術式が完全に成功したのを確認すると、私は踵を返す。

 

 向かわなければならない場所がある。

 

 まだ黄泉帰るわけには行かない。

 

 

 ざあっ、と木々が風に揺れ、騒がしげな音を立てる。

 

 風に混じり、桜の花弁が吹雪のように舞い散る。

 

 

 ああ、矢張り。

 

 私の勘が正しければ、或いは。

 

 

 行かなければならない。

 

 私はふわりと浮かぶと、石段の上を目指してその場から飛び立った。

 

 

 

 

 

「―――ところで」

 

 不意に口を開いたのは、蓬来山輝夜とともにアリスと藤原妹紅の弾幕ごっこをじっと見つめていた、八雲紫。

 

 畳んだ扇子を口元に当て、蓬来山輝夜へと問い掛ける。

 

「どうして貴方は『永夜返し』を完成させないのかしらぁ?」

 

 目尻が歪むように緩む。それが、八雲紫が嗤っているのだと理解するまでに、蓬来山輝夜は数秒かかった。

 

 その邪悪な嗤いに、蓬莱山輝夜は顔を(しか)めた。

 

 ―――あまりにも事が運びすぎている。

 

 それが蓬莱山輝夜が『永夜返し』を発動させない大きな理由だった。

 

 月から隠れる為、永琳に()()―――(ふる)き月を喚び出させた事は計画通りだ。しかし、その()()が何時までも沈むことなく幻想郷に留まり続けたのは計画の外の話だ。

 

 それを目論んだのは、この眼前に揺蕩う大妖怪・八雲紫の仕業だろう。

 

 幻想郷を終わらない夜に閉ざすことなど、蓬莱山輝夜は望んでいない。

 

 それは彼女の望みではないのだ。

 

 八雲紫は、全ての混乱と異変の根源をを蓬莱山輝夜へと押し付けるつもりだったのだろう。

 

 だからこそ。蓬莱山輝夜は全てを逆手に取ってその目論見を反故にする為に上手く立ち回ったつもりだった。

 

 霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドを導き、レミリア・スカーレットを(いざな)い、八雲紫を出し抜き―――。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこで蓬莱山輝夜は踏み止まった。

 

 出し抜いた、そう思わされただけだったのでは?

 

 と。

 

「もうほとんど『永夜返し』は完成しているのでしょう?」

 

 八雲紫が口元で扇子をパタパタと開いたり閉じたりさせる。

 

「ほら早く、早くしないと。早くしないと、()()()()()()()()()?」

 

 何が、とは問わない。

 

 解っている。

 

 ()()だ。

 

 あの()()が照らす光に含まれる多量の狂気。

 

 八雲紫が嗤う。まるで深淵そのものが見つめてくるような表情で。

 

「幻想郷そのものが《《狂気》に包まれていくわよ―――」

 

 そんなことは解っている。

 

 取り返しのつかないことになるだろう。

 

 蓬莱山輝夜は八雲紫を睨みつけた。

 

 まるで深淵を覗いているかのような錯覚に捕らわれる。

 

 言いようの無い不安と、全てを飲み込む闇が、まるで口を開いて蓬莱山輝夜を待ち構えているかのようだった。

 

 この焦燥も、見抜かれているかも知れない。いいや、見抜かれている、だろう。

 

 どうして八雲紫は、私に『永夜返し』を使わせようとさえしているのか。このままやるべきか、やらざるべきか。

 

 蓬莱山輝夜の頬を一筋の汗が滑り落ちた。

 

 

 迷いも焦りも全て見透かしたような、八雲紫の双眸。

 

 

 そこに光るのは―――、()()()()()

 

 

「でもね蓬来山輝夜、あの月は、あの()()は貴方が喚んだのよ。

 

 だから。

 

 これから何が起きようとも―――『私は悪くない』わよ」

 

 

 

 

 まるで金属同士がぶつかるような音を立て、アリスの展開した魔法障壁が軋む。

 

 アリスが今受け止めているのは無数の弾幕でもなければ強力なレーザーでもない。

 

 拳、素手、いわば拳撃。

 

 藤原妹紅の右拳だった。

 

 確かにその拳からは、篭められた激しいまでの魔力が

(ほとばし)っている。

 

 だがそれはスペルカードでも何でもない。ただただ魔力を纏った、魔力が篭もった拳だ。

 

 それが今、

 

  ぱきぃん!

 

  ばきん!!

 

 マスタースパークすらをも受け止める自信があるそんな魔法障壁を、一枚、また一枚と打ち破っている。

 

 

(無茶苦茶すぎるわ!!)

 

 

 驚きに目を見開き、内心舌を巻くアリス。加減などもちろんしていない、全力で張った多重魔法障壁だ。しかし藤原妹紅の一撃は、ゆっくりとだが確実に割り貫いている。これは、或いは魔理沙のダブルスパークをも凌ぐかも知れない。

 

 

 ―――()()()()()()

 

 ―――()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――()()

 

 

 だとしたら、

 

 ―――私は負ける。

 

 魔理沙よりも、弱い私が負けるのは当然ね。

 

 だとしたら。

 

 もしかしたら、魔理沙が助けに来てくれるかも知れないわね。

 

 颯爽と。

 

 まるで英雄(ヒーロー)のように。ああ、黒い帽子と魔法の箒に跨った魔理沙は、容姿(ビジュアル)的には悪い魔法使い(ヴィラン)(サイド)だけれどもね。魔理沙は褒めてくれるかも知れない。「よく頑張ったんだぜ」って。私はそうしたら嬉しいけれども素直に慣れなくて悪態をつくかも知れない。でも、魔理沙はただ白い歯を見せて、ちょっと困ったように、それでも優しく微笑んで―――。

 

 

 そう考えた時、アリスの上瞼がスッと下がった。

 

 

 

続。

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