東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 42

 

 

「全く―――、何やってんだか」

 

 

 不意に聴こえた声に目を上げるアリス。

 

 同時に藤原妹紅もまたその声を聴き、振り返る。

 

 そこには、

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 藤原妹紅とアリスが驚きの声を上げる。

 

 そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、()()()()()()()()()()()姿()()アリスと藤原妹紅を陰鬱な笑みを浮かべ、ふたりを見つめていた。

 

 続いて、

 

「―――!?」

 

 魔力障壁に叩きつけていた拳を離し、藤原妹紅はその場から高速で飛び退る。

 

 次の瞬間、

 

 ほんの僅か前まで藤原妹紅がいた空間を、()()()()()()()()()()()()レーザーが貫いた!

 

 障壁に掛かる圧力が消え、数枚残った障壁は光と消える。

 

 アリスが振り向くよりも早く、藤原妹紅とアリスとの間に割って入るように現れたのは―――、()()()()()()()()()()()()だった。

 

「……ここは任せて」

 

 アリス本人よりやや落ち着いたトーンだが、どう聞いても自分の声にしか聞こえない。

 

 アリスを守るように、薄い魔力フィールドを展開する。

 

 突如現れた謎の援軍に、安全圏まで間合いを取りつつ藤原妹紅は呟く。

 

「分身……というわけか?」

 

 睨みつけるその表情は、どこか楽しげに見える。

 

「まさかまだこんな隠し玉があったとはな」

 

 呟きに滲むのは驚愕よりも、むしろ感嘆の方が大きい。

 

 しかし、

 

「な……?」

 

 アリスもまた、()()()()()()()()()()()()()()を目の当たりにして茫然としていた。

 

 ―――分身なんか出してないし、そんな芸当持ち合わせてないわよ?

 

 そうは言っても目の前のふたりはどう見ても自分達だし、ふたりから伝わってくる魔力の波長も自分のものとしか思えない。

 

 ―――魔理沙の悪戯? ううん、アイツの魔力は感じない。だとしたら―――?

 

 動揺を隠しきれないアリスに、首から外した荒縄をブンブンと振り回しながら()()()が言う。

 

「何、呆けた顔してんのよ。それにアンタもなんで追撃しないの?」

 

 アリス、ではなくアリスを守る()()()がそれに応える。

 

「わたしたちが割って入らなくても、きっと()は切り抜けていたのに。あなたが」

 

 言われた()()()が、()()()へと詰め寄る。

 

「ほー、いい子ちゃんぶるってか。悪いのはアタシか」

 

「いつもそう。あなたは()にそう」

 

「はー? ほー。 へー。じゃあいいわ。アタシだけでやってやるわよ」

 

「わたしだって……!」

 

 本人を置き去りに言い争う()()()()()()を交互に見比べて、()()()()()に気付いた。

 

 そして、それはアリスにとって見覚えのある()()でもあった。

 

 ―――このふたり、もしかして―――。

 

 

 その時だった。

 

 

「何をゴチャゴチャとやってるッ!!」

 

 

 ごうっ!!

 

 

 単発の鳳翼天翔。

 

 アリスは無言で()()()の前に出ると、完全にコツを掴んだのかそつのない動きでその襲い掛かってきた鳳凰弾幕を解体する。

 

 これもアリスの魔導書がもたらす特殊能力だ。魔導書を展開、接続する事で五大系統の術式、その根幹そのものがアリスの幻想回路に流入する。なので、五大系統の魔力を介した能力全て、その仕組みが理解できるのだ。

 だからこそ、藤原妹紅が放つ鳳翼天翔のように高練度ではあるがシンプルな構造の弾幕は、やろうと思えば分解することは今のアリスには容易い事だったのだ。

 

 

「チッ……」

 

 大きく舌打ちする藤原妹紅。今の一撃がまともに効くとは思っていなかったが、こうも簡単に対処されると腹が立ってくる。

 

 メラメラと心の中で暗い炎が巻き起こる。

 

 それは狂気に染まった炎。だが、その狂気の炎も、アリスと弾幕ごっこを始めた当初に比べて小さくなっている事に藤原妹紅自身気付いていなかった。

 

 それでも苛つくことには間違いない。頭をバリバリと掻きながら、

 

「もうまどろっこしい事やってられっか! 分身だろうが何だろうが構わしない! 三人同時に掛かってきやがれ!!!」

 

 叫んで、怒りの炎を噴出させる。

 

 

 ふうっ、と息を()くアリス。

 

 三対一、か。

 

 魔理沙だったら、一対一を選ぶかもね。でも。

 

 チラ、と振り向く。自分を見つめる、自分と同じふたつの顔。それを見てアリスは確信した。

 

 間違いないわね。だとしたら、このふたりはこの上ない援軍だし、なにより弾幕ごっことして最低限のルールは破っていないはず。

 

 藤原妹紅(あいつ)も三人同時で来いって言ってるし。

 

 それより何より。

 

 魔理沙を撃ち落とした奴に、絶対に負けたくない。

 

 例え、どんなテを使ったとしても―――。

 

 

 ふぅっ、ともうひとつ息を吐くと、

 

「いらっしゃい、()()()()()!」

 

 アリスが―――、

 

 顔を上げる。

 声を張る。

 藤原妹紅(対戦相手)を真っ直ぐ見据える。

 

 ―――その手にした魔導書が輝いた。

 

 それに呼応するように、

 

「ったく、やっとやる気になったか」

 

「さすがです」

 

 ()()()()()()()が移動し、彼女の両脇に控える。

 

 それを確認し、アリスは微笑んだ。

 

「世話かけるわね」

 

 ()()()()()()()()()は小さく頷き、()()()()()()()()()は鷹揚に頷く。同じようで異なるふたり。その違いは、頭のリボンの色。アリス本人は青だが、左脇のアリスのリボンは赤で右脇は青。

 

 このリボンの色に彼女は覚えがあった。

 

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この弾幕ごっこで、全て藤原妹紅に焼き払われたと思っていた。しかし、今こうしてアリスと同じ姿となり、共に並び立ってくれている。どうやってその姿を象ったのかはアリスには分からなかったが、今は細かいことを気にしている場合ではない。詮索は後からすれば良い。今は弾幕ごっこに集中だ。 

 

 覚悟を決めると心の底から力が湧いてくる。心の力は魔力の源だ。意志の強さは魔力の強さだ。

 

 想い(ちから)を篭め、魔力(おもい)を篭め、アリスは声高らかに言った。

 

 

「行くわよ、()()()()。敵をぶっ倒すわよ!」

 

 

 

 

 三人のアリスが飛ぶ。

 

 それぞれがそれぞれの魔力の残滓で、夜の空に光の尾を引いて。

 

 一対三か。

 

 藤原妹紅は独り言ちる。

 

 光の軌跡は、ひとつは藤原妹紅の正面上方、ひとつは左方、ひとつは右方へと分かれて飛んでいく。

 

 だが、よく視ればそれぞれの魔力波動は似通ってはいるが、その性質は異なることに藤原妹紅は気付いた。

 

 ―――分身じゃあない、あれは使い魔か。ああ、そう言えばアリスは人形遣いだったな。

 

 正面上方のアリスが拡散弾幕を放つ。左方からは直線的なレーザー、右方からは追尾式のレーザー。

 

 それらの全てが一撃必殺の威力であり、それらの全てが連携された軌道で放たれてくる。

 

 藤原妹紅は襲い来る弾幕を、或いは避け、或いは撃ち落とし、また或いは障壁で防御する。

 

 どれもこれも通常弾幕のはずなのに、どれもこれも必殺の威力が籠もっている。

 

 三方向に意識を払いながら藤原妹紅はこれまでアリスが使ってきた弾幕を思い出していた。

 

 多数の人形を使役し、色鮮やかな弾幕を張ってくる。その見事さはどれもこれも藤原妹紅をも驚嘆せしめるものだった。

 だが、それだけだった。藤原妹紅がひとつ羽撃(はばた)き打てば、人形の一切は(ことごと)く焼き落ちていく。

 

 貧弱なのだ。人形も、アリスの意志も。だから藤原妹紅の羽撃きひとつで全てが灰燼と帰す。

 

 しかし。

 

 奥の手を見せてからのアリスは違った。どういうわけで幼児化したのかは未だもって不明だが、二色の魔力を棄てた事で残りの魔力が凝縮されより強固な魔力へと変遷し、操る魔法もそれまでとは比べ物にならない程の威力になった。

 

 もはや、貧弱などとは呼べないほどに。

 

 それは藤原妹紅が繰り出した()()()()()を受け止めた事で実証された。

 

 そして今。この偉大なる魔法使いはさらに2匹の使い魔を従えて向かってくる。アツい展開だ。ああ、これほどまでに心が躍ったのは何時以来だろう。もう、千年は感じてこなかった感覚だ。これを本気で迎え撃たずに何が弾幕ごっこか!

 

 藤原妹紅の胸の炎が熱く燃え上がる。

 

 ……ふと、蓬莱山輝夜への憎悪や怨嗟がちらちらと胸に燻ったが、それすらも熱い胸の炎は呑み込み、大きく燃え上がっていた。

 

 藤原妹紅の両の瞳が一際眩く輝く。

 

「ああ、()()()()()()()! 偉大なる魔法使いアリス、ここに真に認めよう、貴様はこの藤原妹紅が挑むに足る、真の強者であると!!」

 

 大声で叫び、そのままの勢いで両腕を大きく広げ上体を反らす。

 

 背中の炎翼が左右に広がったと思えば、全方向に大きく燃え上がった!

 

 

 その熱量を受け、その魔力を受け、アリスは臍を噛む。

 

 

 ―――ったく、底知らずの魔力容量ね。

 

 

 埒外の存在。

 

 今、アリスが相対している藤原妹紅が、全く埒外であるという事を今更ながらに痛感していた。

 

 

 ―――勝てるかしら。

 

 

 弱気の思い。しかし、すぐにその考えは霧散する。

 

  

 ―――いいえ、勝つわ!

 

 

 アリスの覚悟を受け、藤原妹紅も凄絶な笑みを浮かべた。

 

 

「―――天をも焦がす不死の炎。

 

 気ぃ抜いたら一瞬で消し炭だ、

 

 ()()()()()()()()!!!」

 

 

 

「妹紅が本気を出したわね」

 

 戦況を見守る蓬莱山輝夜が溜息混じりで呟いた。

 

「けれど、アリスも負けていない」

 

 二体の分身と完璧な連携のもと藤原妹紅を追い詰めていくアリス。しかし、絶対的な火力でアリスたち包囲をぶち破り、押し返していく藤原妹紅。

 

 自分や永琳との戦い以外で両手を使っている妹紅に、輝夜は覚えが無かった。

 

 初めて見たかもしれない。

 

 つまり、今のアリスは()()()()()()だという事だ。

 

 ブルッ、と身震いする輝夜。

 

 ―――自分たち以外で、妹紅の真の力を引き出すとは。

 

「ふふ、少し妬けるわね」

 

「……何を言ってるのかしらぁ?」

 

と、八雲紫。その声に、少し苛ついた響きが混じる。

  

 

「決着が近い、そう言ったのよ―――」

 

 

 くるり。

 

 

 振り返りながら、腰までの長い髪を揺らしながら、輝夜が答える。

 

 

「この狂った夜の終わりも近い。

 

 そう、八雲紫、貴方もね―――」 

 

 

 何を。そう言いかけた八雲紫。

 

 しかし。

 

 その言葉が口をついて出るよりも疾く。

 

 

 虚空より飛来した銀の矢が八雲紫の胸を貫いていた。

 

 

 

続。

 

 

 

 

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