東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 44

 

 

「さてと、そうなるとこんな竹林の中じゃあダメだな」

 

 呟く魔理沙。ポリポリと額を掻きながら靴の踵と踵を数度、コンコン、と打つ。すると、それまで地面に倒れていた箒がまるで命が吹き込まれたように立ち上がると、音も無く魔理沙のすぐ脇へと飛来した。

 主を乗せるため。まるで頭を垂れる様に。魔理沙が腰掛けやすい高さに、調節するまでもなくビタッと停止し留まる。

 

 銘のある特別な箒では無い。付喪神化しているわけでもない。言ってしまえばどこにでもある普通の竹箒だ。それがまるで命でも吹き込まれたかのように自在に動くのは、長年魔理沙の魔力を帯び続けた結果である。

  

 そんな(相棒)の柄を優しく撫でると、魔理沙は勢いよく、だが決して重さを感じさせない動作で箒に腰掛けた。

 

 

「さあ行くぜ。

 

 駆けろ星の海を、流星の如く(シューティングスター)

 

 

 告げるが早いか、ものの数秒で竹林の上空へと魔理沙を乗せた箒は飛び上がった。

 

 魔理沙の視界が一気に開ける。

 

 眼下に広がる幻想郷。未だ明けぬ夜に包まれているが、強い偽月の光に照らされて存外に明るい。

 

 見れば、一方では銀杏の葉は黄色に、紅葉もまたその葉を紅に染め、また一方では梅や桜が好き勝手に咲いていた。

 

 いずれの葉も、花も、木も、草も、例外無くどれもがそれぞれの季節真っ盛りの状態。

 

 そこかしこで幻想郷の季節の狂いが見え、魔理沙は軽い目眩を覚えた。

 

幻想郷(ここ)が四季折々豊かに咲き乱れるとは言え、いくらなんでもこれは無節操過ぎるぜ」

 

 ため息混じりに肩を竦める。

 

 しかも、ただその繁りがただの真っ盛りというだけでは無い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔理沙は地上を薄目で眺めながら、額を人差し指で押さえる。

 

 

 ―――頭が痛いぜ。

 

 

 心の中でぼやく。

 

 比喩的な表現というだけでは無い。実際のところ魔理沙は瘴気あたりによる頭痛を起こしていた。

 

 耐性の無い者ならば、見るだけで正気を失いかねない程の瘴気だ。

 

 それは言い換えるならそう、所謂(いわゆる)ところの()()()()()()―――、と呼ばれるものだ。

 

 魔法使いである魔理沙やアリスには誘惑(チャーム)に対する抵抗力(レジスト)がある。だからふたりは偽月に長時間近付いても狂気に飲み込まれず正気を保ったままでいられるし、蓬莱山輝夜の持つ生まれ持っての誘惑(チャーム)にアリスが抵抗出来るのも、その魔法使いならではの能力(パッシブスキル)のおかげである。

 

 

「―――だが、その美しさに見惚れている場合じゃ無さそうだぜ」

 

 

 帽子を目深に被り直し、魔理沙は口元を引き締め―――、

 

「ん?」

 

 ふと、竹林の中に開けた空間がある事に気が付く。

 見れば、明かりも灯っているようだった。

 

 魔理沙は知らなかったが、永遠亭である。

 

「あんなところにあんなもんあったか?」

 

 迷いの竹林、と呼ばれるここら一帯の竹林。以前に霊夢が筍採りの際に迷ってしまい、歩いて出られなくなった霊夢が空を飛んでどうにか抜け出した、と言っていた。

 その時の話では「不思議な不気味な霧が立ち込めていたわ」と言っていたが、よくよく見回してみるとそんな不思議で不気味な霧など見当たらなかった。

 

 もしかすると、何かあるかもしれないぜ。気になった魔理沙は迷うことなくそちらへと箒を向かわせた。

 

 

 

 

 レミリア・スカーレットは紅茶を飲みながら空を見上げていた。

 ここへ来てから一体何杯目だろうか、そんな事をボンヤリと考えていると、

 

「8杯目に御座います」

 

 律儀に答える瀟洒なメイドに「わかったわかった」とヒラヒラ手を振り小さく息を吐くと、吸血皇女の隣に座っていたワーハクタクの少女は肩をビクッと震わせる。

 

 さらにワーハクタクの少女の対面には、八雲藍が()()()()()()()()()()()をあやしながら困り顔で座っていた。

 

 そんな奇妙な面々の茶会を眺めながら、因幡てゐは内心ニヤニヤと笑っていた。

 

 ―――この狂った夜に狂った面々、ああなんと面白い夜だろうか。

 

 内心どころの話ではない。因幡てゐは自分の頬が笑みの形に緩んでいることに気が付き、顔を引き締める。

 

 と、

 

「おや?」

 

 気配を感じ空を見上げると、ひとすじの流星がこちらへ向かって流れてくるのが見えた。

 

「あれは……」

 

 その流れ星に因幡てゐは見覚えがあった。

 確か永遠亭の回廊で八意永琳(師匠)の元へと導いた魔法使いだ。

 

「今頃、空の上でなんやかんややっているかと思ったけれども。何でこっちに来るんだ?」

 

 辿り着いたその先で、今ここでお茶を呑気に飲んでいるレミリア・スカーレットとその従者である十六夜咲夜達と弾幕ごっこを繰り広げた事を、そしてそのふたりが八意永琳と霧雨魔理沙に負けた事を、更に霧雨魔理沙が博麗霊夢と藤原妹紅に撃墜され地上へと堕ちてきた事を、それらの詳しい内容を因幡てゐは知らない。……レミリア・スカーレットが自分が負けた事(その部分)を多くは語ってはいなかったのもあるが。

 

 果たして箒に跨った魔法使いはその場の全員(泣きじゃくっている猫耳の少女を除いて)が注目する中、永遠亭の庭園へと降り立ち、そして開口一番。

 

 

「―――このメンツはいったいぜんたいどういうことなんだぜ?」

 

 

 

 

 確かにな、とレミリア・スカーレットは自嘲気味に呟いた。更に言えばつい先程まで八雲紫、西行寺幽々子、蓬莱山輝夜、魂魄妖夢、アリス・マーガトロイドといった面々が顔を突き合わせていたのだ。

 

 そんな、いわば幻想郷における頂点とも言える連中がこの月下の庭園で深夜のお茶会を繰り広げていたなどと、はても何とも奇妙で滑稽な話だ。

 

 それでいて別にこの場で幻想郷の覇権や行末を話していたわけでも無い。

 ただただ偽月の光に導かれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

「ふん。これも何か数奇な巡り合わせというものよ」

 

 紅い瞳を光らせながら口の端を釣り上げる。迫力ある笑みとともに全身から紅い魔力を滾らせるレミリア・スカーレットに魔理沙はシュタッと手を上げると、

 

「おっ、レミリア元気か? さっきは見事に撃ち落とされてたみたいだけど」

 

「だーっ!! 貴様!!!」

 

 ケラケラと笑う魔理沙に、カリスマも何も忘れて声を荒げるレミリア。視界の端で因幡てゐが笑っている。あれは後で粛清だ。あと気のせいか咲夜も笑っているような気配があるのは何故だろうか。

 

「さっきのは! アレは! ノーカウント! ノーコンテストだっっっ!!」

 

 ムキになってまくし立てる。

 

「だいたいにおいて! 被弾したくせに瞬間回復とかズルいだろ!! この私だってあんな裏技使ったりはせんわっ!!!」

 

「とは言えお嬢様もかなり本気だったような……」

 

「うるさい咲夜! お前はどっちの味方なんだ!!」

 

「あっはは! そうカッカすんなって。さすがの私もスペルカードをブレイクされた瞬間は肝を冷やしたぜ? 八意永琳と相対しながらあのタイミングでのスペルブレイク狙い、流石はレミリア・スカーレット様ってやつだ。タイマンであれをやられたら降参だぜ」

 

 屈託の無い笑顔で両手を上げる魔理沙に、レミリアは鼻白む。

 

 そっぽを向きながら、

 

「む……、ま、まあ、べ、別に本気でも無かったがな……」

 

と、しかし満更でも無さげにモゴモゴと口のなかで何事か呟く。

 

 そんな吸血皇女に瀟洒なメイドはそっと耳打ちする。

 

「お嬢様、そういう時は素直に喜んでもよろしいのですよ。ほら、せっかく霧雨魔理沙に褒められたのですから。あんまりそういう態度を取っていると今度は『おっ、ツンデレってやつか?』と茶化されてしまいます」

 

 耳打ちしているのだが声は普通のボリュームなので何を言ったかは魔理沙からも丸聞こえだった。苦笑いの魔理沙。

 

 顔を真っ赤にしてレミリアは立ち上がった。

 

「だあーーっ!! 咲夜も咲夜でさっきから何だ!! 反抗期か!?」

 

 頭から湯気でも出そうな勢いのレミリアとは対照的に咲夜は至って冷静に、

 

「いえ、恐らくはホラ、月の狂気の影響かと。あら不思議、普段ならレミリアお嬢様にこんな事を言うなど嗚呼畏れ多い事ですホント」

 

「澄ました顔して………!! ぬぅ、本気か狂気か、分かりづらい………」

 

「ホラホラお嬢様、話が逸れてますわよ」

 

「くっ……後で覚えておけよ……」

 

 キッと咲夜をひと睨みし、レミリアは椅子に腰掛け直した。

 両目を閉じ、大きく深呼吸してから紅茶を一口飲むと、自分を落ち着かせるようにカップをゆっくりと置いた。

 

 りん、とカップとソーサーが鈴の様な音を立てる。

 

 

「―――さて、霧雨魔理沙よ―――」

 

 

 左目を開き、ニッと嗤う。

 

 そこにはいつもの吸血皇女レミリア・スカーレットがいた。

 

 

「―――この狂った夜に、

 

 あの偽物の月。

 

 幻想郷に振り積もる狂気。

 

 貴様は―――どうする?」

 

 

 しかし。

 

 

「………レミリアお前………」

 

 

 わなわなと震えながら掠れた声の魔理沙。

 

 

「………お前」

 

「ん?」

 

「やってて恥ずかしくないのか?」

 

「言うなっ!!」

 

「ハハッ! まあ冗談はこれくらいにしておいて、だぜ―――」

 

 

 ピン、と帽子を跳ね上げる魔理沙。

 

 その表情からは先程までのおちゃらけた雰囲気は消え、その双眸には真剣な光が宿っていた。

 

 

「まずはこの庭園で()()()()()()

 

 そこから教えてもらおうか―――」

 

 

 

 

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