東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 45

 

 

レミリア・スカーレットが霧雨魔理沙に永遠亭での出来事を話し始めたその頃、空では―――。

 

 

 

 アリスの視界の先で紅蓮の炎が吹き荒れる。

 

 やがて炎の嵐は集束し、また無傷となった藤原妹紅が現れる。

 

 この弾幕ごっこでもう何度も見た光景にアリスは吐きそうになった溜息をグッと飲み込む。

 

 ここで溜息を吐くわけにはいかない。

 ここで弱音を吐いてはいけない。

 

 溜息を吐いてしまえば、弱音を吐いてしまえば気持ち(テンション)が一気に下がってしまい、その心の力の分で押し切られてしまうだろう。

 

 ―――上海人形と蓬莱人形による分身とアリス自身の()()()()()によるパワーアップをもってしても、

藤原妹紅を落とし切れていなかった。

 

 手数では負けてない。

 弾幕の密度でも負けてはいない。

 むしろ分身2体の分、アリスの方が優勢ですらある。

 

 それなのに、だ。

 

(やれやれだわ)

 

 内心毒づくアリス。

 グッと飲み込んだ息を、静かに吐き出す。

 

 その顔にあるのは諦念では無い。自嘲気味の笑みだった。

 

 これだけアリスが藤原妹紅を捉えていても落とし切れないその理由に、アリス自身薄々気付いていた。

 

 アリス(自分)藤原妹紅(相手)の間にある大きな違い、それは―――、

 

 火力(一撃の重さ)だった。

 

 

 残念ながらアリスには相対する藤原妹紅のような高火力スペルカードや魔理沙のような高集束スペルカードを持ち合わせていない。

 

 持ち合わせていないだけで実際のところ、使えないわけでは無い。使()()()()()()

 

 

 ―――こればっかりは性格(好み)の問題かしらね。

 

 

 アリスが好むのは多種多様な魔力、色鮮やかな弾幕。藤原妹紅や魔理沙、レミリア・スカーレットたちが操る高集束或いは高火力なスペルカードを、仮にアリスが編み出したとしても、そもそもにおいて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 競っても勝てないのが(わか)っている勝負は好きではない。

 

 否、()()()()()()()()

 

 だからアリスは己を嘲るように笑う。

 

「―――もっと真面目に研鑽すれば良かったわね」

 

 思いが口を衝いて出た。

 

 ならば、

 今ここで、

 追い詰められた自分が、

 隠していた力を解き放った自分が、

 新たなスペルカードをこの土壇場で―――。

 

 いいや、そんな都合の良い話は無い。

 

 もしあるとしたらそれはご都合主義の演劇の話だ。

 

 それがわかっているからこそ、手を変え品を変え、持ち得るアリスの全てを藤原妹紅へとぶつけた。が、駄目だった。

 

 弾幕ごっこの性質(ルール)上、例え不死の吸血皇女(レミリア・スカーレット)も、不咲の亡霊姫(西行寺幽々子)も、弾幕ごっこという縛りの内ではその不死性は発揮しない。

 

 だが、目の前の不死鳥の少女はどうだ。

 

 弾幕が藤原妹紅を何度捉えたとしても、藤原妹紅はその度に炎の中から蘇る。そう、何度でも、だ。

 

 その姿の如く、不死鳥のように。

 

 アリスは内心舌打ちをする。

 

「なんかズルいわね……。回数制限とか無いのかしら……?」

 

 思わず溢したアリスの呟きに、腕を組んでこちらを真っ直ぐ見つめていた藤原妹紅が答えた。

 

「私はな、死ねないのだよ―――」 

 

「え?」

 

「不死身。所謂それのさ」

 

「……それが貴方の能力、ってことね?」

 

 組んでいた腕を解き藤原妹紅は両手をポケットに突っ込む。おもむろに右手だけポケットから出すと、その人差し指と中指で挟むように持った10センチ程の紙巻きの棒を取り出す。それを口の端へと持っていき、唇で軽く咥えた。

 

自動蘇生復活(リーインカーネーション)。それが私の能力さ」

 

 咥えた側と反対側を笑みの形に吊り上げると、右手の指をパチンと弾いた。

 

 ―――シュボッ。

 

 咥えた紙巻きの棒―――つまり煙草だ―――の先に赤い火が灯る。

 

「ああ、ただ不死身だと言っても、被弾をすれば痛い。それこそ死ぬほど痛いさ。けれどもこの呪われた体は死という安らぎすら与えてくれない」

 

 そこで一旦言葉を切ると、指で煙草を挟み、煙を深く吸い込む。

 

 目を細め、煙草を唇から離すと、更にすーっと息を吸い込む。

 

 右手をゆっくりと降ろすと、その動きに合わせて紫煙がゆっくりと立ち昇っていく。

 

 半目でそれを眺めながら藤原妹紅は煙を燻らせ、笑った。

 

「そう、私が望むと望まざると関係なく、生き返ってしまう。そのせいか、弾幕ごっこをやると―――」

 

 さらに一服、煙草を呑むと、

 

被弾しても(死んでも)―――、勝手に復活しちまう(死ねない)のさ」

 

 

 

 

「よく魔法使いや魔術師、錬金術師といった輩が不死を追い求めたりするだろう? けどな? 実際に()()なった身からすると不便なもんさ?」

 

 幻想郷の妖怪や魔法使いはみなとんでもなく長寿だったりでそういう意味では不死身に近いし、弾幕ごっこというルールのある戦いにおいては命のやり取りが起こり得ない。

 

 だから幻想郷の魔法使い達は(アリスも魔理沙も)不死身や不老不死の研究はあまり興味が沸かない。

 

 興味は沸かないが、興味が無いわけではない。

 興味が無いわけではないのだが、実用性が見出せなかったのだ。

 

 そんなものを追い求めても意味がないことに気づいたから、やめたのだ。

 

 何も言えずただただ黙るアリスだったが、

 

「昔の、遠い昔の話さ」

 

 それに構わず藤原妹紅は煙草を燻らせながら言葉を続けた。

 

「―――むかしむかし、ある愚かな女が、つまらない復讐を誓った。その復讐を果たすために下らない薬を口にした。

 

 愚かな女は不死身を願ったのだ。

 

 ()まで届け、不死の煙よ、と。

 

 それはまるで富士の頂から月へと立ち昇る煙のように―――。

 

 或いは今、ここで立ち昇る紫煙のように。

 

 何処までも何処までも続いていく。

 

 断ち切れることのない生命はまるで煙のように棚引いていく」

 

 言って、藤原妹紅は偽月へと立ち昇っていく紫煙を見追い、顔を上げた。つられてその視線を追うアリス。

 

「―――」 

 

 藤原妹紅が見る、視線の先。アリスもまたそこへと視線を合わせて―――、「ああ」とだけ息を漏らした。

 

 そうして、煙が風に溶けて全く消えるまでの間、アリスと藤原妹紅は言葉を発することなく、ただ夜風に身を任せていた。

 

 やがて、

 

 ぱちん。

 

 藤原妹紅はもう一度指を弾くと、吸いかけの煙草全体がが炎に包まれ、火の粉となり、灰となって風に溶ける。

 

 再びふたりの視線が絡み合う。

 

「昔の話さ―――」

 

 語り終えた藤原妹紅は、寂しげに笑った。

 

「普段の弾幕ごっこなら、こんな話をする前に片がつくもんだ。勿論、私の勝利でな。けどまあ、今回は特別だ。ここまで私と永く戦ったのは―――、()()()以外で久々だったからな」

 

 藤原妹紅は風に暴れる前髪を掻き上げると、

 

「どうだ? 納得したか?」

 

 そうアリスに問い掛ける。

 

 しかし。

 

 アリスから返ってきた答は藤原妹紅の予想とは異なっていた。

 

 

「―――バカじゃないの? アンタ」

 

 

 

 

 アリスはヤレヤレと首を振ると、額を指で押さえながらため息混じりに吐き捨てた。

 

 

「―――勝手に一服ついて、なーに良い感じで良い空気吸ってんのよ」

 

「なっ……!?」

 

 たじろぐ藤原妹紅に、アリスはビシッと指を突き付けると、

 

「いい? アンタの過去なんて私には関係ないのよ。死ねない? 望まざると? バカじゃないの? アンタ死ねない身体になったって自慢げに話してるけど、私、全ッ然そんなものに興味なんて無いんだから! 勝手に復活する? ハァ? 単に打たれ強いだけと勘違いしてるんじゃないの? それを炎に包まれたり演出してカッコつけちゃって、自分に酔ってるんじゃないわよ!」

 

と、一気にまくし立てた。

 

 一方の藤原妹紅はアリスの予想外の反応にあんぐりと口を開けて言葉を失っていたが、ハッと我に返ると、

 

「ハァ!? 誰が馬鹿だって?」

 

 言い返すがそれ以上の勢いでアリスが絶叫する。

 

「アンタよ、ア ン タ !!」

 

「私のどこが馬鹿なんだ!」

 

 負けじと藤原妹紅も返すがアリスの勢いは止まらない。

 

「全てよ全て。全部。アンタがとれだけのモノを背負ってるかなんて知ったこっちゃないわ。けどね、これだけは解るわ。アンタは逃げてんのよ―――」

 

「なっ……!? 私は、逃げてなんか……」

 

「よくわかんないけどさ、人の生を捨ててまで追いかけたい相手がいるんでしょ? だったら何処までも追えば良いじゃない! それが叶わないから何だかんだ理屈をこねて理由をつけて、なに? 悲劇のヒロインでも気取ってるの?」

 

「……!」

 

「永遠の命があるんでしょ? 死なないんでしょ? だったら何処までも追いかけなさいよ!」

 

「それは…………いや、待て、お前に私の何がわかるっていうんだ!!」

 

「わかんないわよ! けど、()()()()()! ()()()()()()()()()()()()!!」

 

「―――えっ」

 

 そう。アリスは気付いていた。

 

 この弾幕ごっこの間も、藤原妹紅が見ていたのは、目で追っていたのは、目に映っていたのは、(アリス)では無いことに。

 

 ずっと、藤原妹紅は見つめているのだ、蓬莱山輝夜の事を。

 

 ふたりの間にどんな事情があるのかは知らない。どのような逢瀬を重ねてきたのかも知らない。どういった殺し合いをしてきたのかも知らない。

 

 けれどもアリスには痛いほどわかるのだ。何故なら―――、

 

「いつもそう、アイツが見てるのは私じゃない、あの二色巫女。そんなの知ってるわよ。知ってるけどね、私にだって私の想いがあんのよ! 私がどれだけ想ってるかなんて、魔理沙は気付いている癖に!」

 

 自分と同じだから。

 

「お、おい?」

 

「今回の事だってそう! せっかく魔理沙とふたりで夜の闇へと飛び立ったっていうのに! 結局、魔理沙はアイツのことばっかり! 魔理沙の、魔理沙の、魔理沙の馬鹿ぁっ!!!」

 

 ようやく言葉を吐き出し切ったのかアリスは大きく肩で息をつくと、ふと我に返った。

 

 頬を汗が滑り落ちる。

 

 

 ―――何か私、言わなくても良いことまで言った気がする―――!!

 

 

 恥ずかしそうに目を上げ、相対する不死鳥の少女を見ると、何とも言えない表情の藤原妹紅がアリスを見つめていた。

 

 

 藤原妹紅はポケットから煙草を一本取り出すと「吸うか?」とアリスに差し出すが、それを丁重に断るアリス。「そうか」と自分で咥え火をつける。

 

 大きく吸い込むと、ゆっくりと煙を吐き出す。

 

「……なんかわからんが、苦労してるんだな、お前も」

 

「……だから言ったでしょ、わかんないけどわかる、って」

 

「なるほどな」

 

「そういう事よ」

 

「……」

 

「……」

 

 そして暫しふたりは無言で見つめ合い、やがて、

 

「それじゃあそろそろ終わりにするか」

 

 藤原妹紅は言った。

 

「まあ、なんだ、いろいろと悪かったな。私も何でか苛ついていてさ、で、なし崩し的にアリス、お前と弾幕ごっこを始めちまっただけで、別にお前と闘う必要は無いんだよな」

 

 遠い目で空を見上げながら煙を吐き出す。

 

 藤原妹紅に纏わりいていた狂気と怒気は、憑き物が落ちたようにいつの間にかすっかりと消えている。

 

 もしかしたら今は引き時なのかもしれないわね。 

 

 アリスもまたそう感じてはいたが、口を衝いて出た言葉は違った。

 

 

「―――何言ってんのよ。最後くらいアンタの全力見せてみなさいよ」

 

 

 アリスの出した答えは―――、弾幕ごっこ続行であった。

 

 

「大体において、アナタは嘘をついてるわね」

 

「嘘?」

 

「そう、嘘」

 

 アリスも空を見上げる。

 

 藤原妹紅からゆらゆら立ち昇る煙を目で追う。

 

「アナタは天まで届くその煙のように、終わらない不死を願ったと言った。けど、その言葉違うわね」

 

 そう言い放つと、視線を外しているので見ることは出来ないが、あからさまに動揺した気配を藤原妹紅から感じた。

 

 やっぱりね、とアリスは胸の内で自嘲気味に笑った。

 

「恐らく、人の生を棄ててまで望んだ復讐だったのに、結局はそれを叶えられなかった。敵わなかった」

 

 アリスは別に誰かに復讐を願ったわけではなかった。ただ、ひとつ強く願った事はあった。

 

 ()()()()()()()()()()、と。

 

 しかしわかっている。魔理沙が見ているのは、博麗霊夢だということも。

 

 

「―――けど、それを認めたくない、認められたくない。そうなってしまったら、もう彼女から特別に見られなくなるから。永い時を生きる彼女にとって、過ぎ去っていく風景の一部になってしまう」

 

 

 魔理沙が出会ってきた妖怪の、魔法使いの、そういっまただのひとりに成り下がってしまう。

 

 それは嫌だった。

 

 だから魔理沙とは正反対の魔法を追求した。魔理沙とは別の系統を歩んだ。

 

 

「だからアナタはこうやって己の力を示威する。何時だってお前を狙って居るんだ、それだけの力が有るんだ、とね。でも肝心の復讐そのものは諦めてしまっている。その根幹たる想いを、そう、おとぎ話であるように、かぐや姫への思いを諦めた帝が不死の薬を火口に投げ入れて焼き棄てたように。

 

 輝夜にアナタが自分は此処にいるんだ、と見せつけるように」

 

 

 そんな感情を抱いてきたアリスだから、藤原妹紅の想いも諦念も、痛いほどわかるのだ。

 

 視線を空に浮かぶ蓬莱山輝夜から藤原妹紅へと戻すと、アリスは笑った。

 

 

「―――せめて立ち昇るの煙が、月からも見えるようにと。

 

 ()()()()()()()()()よ、とね」

 

 

 次の瞬間、アリスの体が七色の光に包まれたかと思うと、その姿は元通りいつものアリスの姿に戻っていた。ふたりの分身も、元の人形の姿に戻っている。

 

 アリスは己の中で答えを出した。

 どんなに難しい道であっても、自分の信じた道を違えてはならないと。

 

 そう、この姿でなければ、魔理沙に認められる意味が無いのだ。

 

 

 

続。

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