東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Under the fake moon 〜異聞永夜抄〜 47

 

 空へと駆け上がってゆく上白沢慧音を見送る魔理沙。呆れたようにヒョイと肩を竦める。

 

「アイツ―――全然要領を得ない説明だったな」

 

「貴様は良いのか魔法使い」

 

「ん?」

 

 振り向く魔理沙。

 

 吸血皇女 (レミリア・スカーレット)がテーブルに頬杖を付き、ニヤニヤと意地の悪い笑みを見せている。

 

 しかし魔理沙は小首を傾げて笑い返す。

 

「別に?」

 

「―――ほう?」

 

「アリスなら心配ない、さ」

 

「心配ない、か。相手は蓬莱人、永遠の命を纏うものだぞ? しかも、貴様ですら撃墜させられた相手ではないか。あの人形遣い如きでどうとなるとでも?」

 

 魔理沙は人差し指を立て悪戯っぽく唇に当てると、レミリア・スカーレットの探るような視線から背を向けた。

 

 そうして、

 

「アイツは強いぜ?」

 

 再び空を見上げた。

 

 遠見の魔法を使わずとも魔理沙にはわかる。

 

 アリスは―――、アリスなら負けないと。

 

 そんな魔理沙の反応に、レミリア・スカーレットもまたふっと笑うと椅子に深く座り直した。

 

 

「ふむ―――。空で弾ける魔力の残滓から見るに、あの小娘の急激な魔力変化はそういう事だったか。

 

 此処で座していても解る。アレは只事ではない。

 

 ア(・)レ(・)は貴様の差し金か。

 

 何(・)か(・)よ(・)か(・)ら(・)ぬ(・)モ(・)ノ(・)を(・)渡(・)し(・)た(・)な(・)?」 

 

「やっぱり解るか?」

 

「それはそうよ。ただの魔力の底上げ(パワーアップ)などという単純な話ではない。魔力の本質、根本からそれまでと異なる。あの小娘が纏った魔力、あれはどちらかと言うと我々に近いものがあるぞ。

 

 魔力―――? 否、あれは、

 

 魔(・)、そのものだ」

 

 相変わらずレミリア・スカーレットには背中を向けたまま、

 

「アリス(アイツ)には借(・)り(・)て(・)た(・)も(・)の(・)を(・)一(・)時(・)返(・)却(・)し(・)た(・)のさ」

 

 魔理沙が精製しそれとなくアリスに渡しておいた魔法の指輪(リング・オブ・プロテクト)。そこに隠すようにアリスから長期借用(借りパク)していた魔導書を封印、指輪の魔力の解放と同時(アリスの身に危機が迫った時)に魔導書(それ)を自動的にアリスの精神の部屋(インベントリ)へと転送されるように細工してあったのだ。

 

 

「けどまあアリスは―――、いや、今のアリスならばそれに頼り切るようなことは……、

 

 恐らくはし(・)な(・)い(・)、かな」

 

「ほう?!」

 

「言ったろ? アリスは強いって。私なんかよりもずっと強いさ。だから―――、

 

私(・)み(・)た(・)い(・)に(・)そ(・)ん(・)な(・)力(・)を(・)行(・)使(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)良(・)し(・)と(・)し(・)な(・)い(・)の(・)さ(・)」

 

 魔理沙は自分の赤く染まった髪をくるくると弄ぶ。

 

「私は弱いからな」

 

 その一言にそれまで沈黙を続けていた十六夜咲夜が口を開いた。

 

「―――貴方が弱いと言うならば、

 

 貴方に負けた私達の立場はどうなるというの?」

 

 最もな話だ。

 

 幻想郷が紅い霧に包まれたあの時も、幻想郷から春が奪われた時も、霊夢と魔理沙が根源と黒幕を打倒している。霊夢だけの力では無い。魔理沙の存在はこの二つの事件においても大きなウェイトを占めている。

 

 言ってしまえばこの場にいる全員が、魔理沙と戦い、そして敗北しているようなものだ。

 

 そんな状況において、魔理沙の発言は勝者のものとしては、敗者側からすれば納得のいかない発言であった。

 

 だが、

 

「私からすればこの場にいる私以外の全員は、皆、私よりも強いさ」

 

「それならば―――!」

 

「勝負となれば―――。

 

 否、生(・)命(・)の(・)遣(・)り(・)取(・)り(・)と(・)な(・)れ(・)ば(・)そ(・)う(・)だ(・)ろ(・)う(・)ぜ(・)。

 

 生も死も踏倒した真なる夜の王。

 

 その王に仕える完璧で瀟洒な従者。

 

 式にして金毛九尾を持つ大妖狐。

 

 お前達は全て全く完全に強大にして強力な者たちだ。

 

 無限の生命、時の支配、傾国の大妖力―――。

 

 それに対して私はたがか普(・)通(・)の(・)魔(・)法(・)使(・)い(・)だぜ。

 

 普通の魔法使いでしか無い私の勝ちなど万に一つ、億に一つもあり得なかっただろう。

 

 だが、しかしだ。

 

 幻想郷において全ての理は、生命の遣り取りそのもの(ここではそれはそう)では無い。

 

 あくまで―――」

 

 

 一枚のスペルカードを取り出すと、肩の上でヒラヒラと揺らした。

 

 

「―――弾幕ごっこ(こういうこと)だぜ。

 

 ……アリスの魔導書に記されているモノ、それは確かに埒外の力だ。アレを使えば―――、ああ、もうアリスの実力(チカラ)は今の私なぞ置いてけぼりだろうさ。今戦っている埒外の相手とも渡り合えるに足るモノを得るだろう。けれども、けれどもだ。そうさ、大事なのはそこじゃあないんだ。

 

 こ(・)こ(・)で(・)の(・)戦(・)い(・)の(・)本(・)質(・)は(・)チ(・)カ(・)ラ(・)で(・)は(・)無(・)い(・)」

 

「……成程な」

 

 レミリア・スカーレットが溜息を混ぜた言葉を吐き出した。

 

「忌々しいが、納得だ。我らも幻想郷の住人である以上はそ(・)の(・)ル(・)ー(・)ル(・)に(・)則るしかないわけだ」

 

 魔理沙が言外に置いた真意を、レミリア・スカーレットは正確に汲み取っていると思われる。だから魔理沙も、

 

「それが一番だぜ?」

 

とだけ答えた。

 

 魔理沙の回答に対してレミリア・スカーレットはそれだけに留まらず、人差し指をピッと立て、その指先を魔理沙へと突き付けて笑った。

 

「そしてもうひとつ。これも解った。貴様はそのルールを誰よりも理解している、という事も、な」

 

「……そうかな?」

 

「ああ。貴様が此処にいる我らを打ち負かしている事、それこそがその答えだ。だからこそ我らを一時転身せしめたあの月の天才にも勝てたということなのだな。と、なると気になるのはその後に……あの蓬莱人の一撃を何故耐えられなかったのか。……最もあの時は博麗の巫女との同時攻撃でもあったからというのもあるだろうが」

 

 恐らくは藤原妹紅と霊夢との同時攻撃を受(・)け(・)切(・)れ(・)ず(・)に(・)撃墜された事を指しているのだろう。

 

「……いや、そう考えれば辻褄が合う。あれは弾幕ごっこですらない、ただの不意打ちの一撃だったからだな?」

 

「……」

 

 しかし魔理沙それには答えずに、彼女にしては珍しく薄い笑みを浮かべただけだった。

 

 その表情をどう読み取ったか。

 

 レミリア・スカーレットもまたそれ以上の追求はせずに、傍らに控える従者に紅茶のおかわりを促した。

 

 主がそういう態度を示したため、従者たる十六夜咲夜もそれ以上は何も言及せずに己の本分、主の為に仕える立場と立ち位置へと一歩下がった。

 

 

◇

 

 

 そんな霧雨魔理沙と紅魔館組のやり取りを何も言わずに見つめていた八雲藍は、いまだ幸せそうな寝息を立てている橙の頭を撫でながら魔理沙の言葉に「成程」と小さく呟いた。何故、あ(・)の(・)時(・)に(・)負(・)け(・)た(・)の(・)か(・)。

 

 紫様や、幽々子様、或いはレミリア・スカーレットの様な存在に比べれば私なぞまだまだではあるが、それでも幻想郷の中でも自分の実力は上澄みであると、八雲藍は自負していた。

 

 それなのに。

 

 幻想郷から春が失われた春に、自分はこの普通の魔法使いに討ち倒されている。

 

 自分の想像以上に、霧雨魔理沙は強かった。だが、その勝負にはほんの僅かに納得のいかない違和感があった。ただその違和感が何なのか今まで明確に出来なかったが、先程の霧雨魔理沙の言葉でようやく理解が出来た。

 

 幻想郷で繰り広げられている勝負、弾幕ごっこにはスペルカードに代表されるルールがあるのは知っていた。

 そして霧雨魔理沙が語り、レミリア・スカーレットが気付いた、それ以外の隠(・)れ(・)た(・)ル(・)ー(・)ル(・)。ここが重要だったのだ。

 

 だが八雲藍の気付きはまだ仮説に過ぎない。だからこそ、

 

(それならば今空で戦っているあの人形遣いと蓬莱人の弾幕ごっこがどういう結末を迎えるかで、私の仮説も証明されるということだな)

 

 自分の中に燻っていた疑問が、ひとつ晴れた。そうして己の未熟さを痛感するのと同時に、代わりに別の疑問が湧いて出た。

 

(―――この小さな魔法使いの語る言葉が真に理(ことわり)なのだとしたら。我が主、紫様はどうなるのだ?)

 

 幻想郷の智慧。境界の妖怪。そして―――創(・)成(・)の(・)大(・)賢(・)者(・)、八雲紫。

 

(詳しくは教えてくださらなかったが、紫様がこの幻想郷の創成に関わっているのは確かだ。恐らくは弾幕ごっこというルールに関しても。だとしたら、創成主(ゲームマスター)である紫様ならば―――勝敗の操作など雑作もないはず……)

 

 そこまで思案して八雲藍は頭を振った。

 

(いや、これ以上考えるのはやめよう。あまりにも不敬過ぎる。我が主には我が主の考えがあるのだ)

 

 普段から何を考えているかを悟らせない自分の主だったが、今回の事件においては何時も以上にその真意が読めない。

 

 紫様は何を企んでいるのか。

 

 私は何をすれば良いのか。

 

 このままここで座って待っていれば良いのか?

 

 空を見上げ、息を吐く。

 

(―――勝手に動くのはよそう。橙もまだこの状態だしな。いずれ、動く時が来たならば、それはその時だ)

 

 自分はあくまでも式だ。

 

 主の命に従い、その身を捧げる。

 

 今はまだ主からは何も無い。それならば今はまだ動く時では無いのだ。

 

 八雲紫の式、八雲藍は静かにその時を待つ事にした。

 

 

◇

 

 

 レミリア・スカーレットの問いには答えずに薄い笑みを浮かべた魔理沙だったが、自分で語っているうちに魔理沙もひとつの疑問が浮かんできた。

 

 それは先程の霊夢との弾(・)幕(・)ご(・)っ(・)こ(・)についてだ。

 

 よくよく考えてみれば弾幕ごっこのルール上、多少の怪我をする事はあっても生命の遣り取りはそうそう無い。当たりどころが悪ければまあ、それなりに―――だが。

 

 あの時、私と霊夢は冥界送りになった(死に損なった)。

 

 確かに当たりどころが悪かったのかも知れない。アースライトレイも未調整だったし。

 

 けれども、そ(・)う(・)で(・)は(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)。

 

(なるほどなぁ……)

 

 ポリポリと頭を掻く。

 

 あの時の霊夢の言葉を思い出す。

 

 

『だから、もう魔理沙をどこへも行かせない。ずっと、ここで私と―――』

 

 

 それは、真に霊夢の本(・)音(・)だったのだ。

 

 弾幕ご(・)っ(・)こ(・)などではない。霊夢は本(・)気(・)で(・)私とあの結界の中で―――。

 

 弾幕ご(・)っ(・)こ(・)を放棄した霊夢を相手にしていたからこそ、私のアースライトレイはその計算外の威力(調整ミス)で私と霊夢を灼き祓ったったわけで、その結果が冥界送りだったということだ。

 

(……やれやれだぜ)

 

 魔理沙はようやく気付いた。魔理沙が思っていた以上に霊夢の想いは強かった事に。霊夢もまた、生命を賭してその想いをぶつけてきていた事に。

 

 嬉しいぜ? 霊夢。

 

 ああ、こうなったら何が何でもこの異変を解決しなければならないな。

 

 永夜の異変を。

 

 そうして夜が明けた時にまた博麗神社へ行こう。

 

 そうしてまた、話し合えば良い。

 

 茶でも酒でも酌み交わしながら。

 

 

「その前にどーにかしなきゃなんないのは、

 

 あの偽月(つき)だな」

 

 

 ―――帽子の鍔を指で弾き上げる。

 

 

 空を見上げる。

 

 空にはアリス達の魔力反応。

 

 それと、

 

 空に浮かぶ歪んだ満月(偽月)。

 

 

「―――ははっ」

 

 

 笑った。笑ってやった。

 何時も通り、あっけらかんと。

 その顔には気負いも緊張も無い。

 その声には恐れも不安も無い。

 

 

 ただやる事は解っている。

 

 

 ―――そ(・)の(・)時(・)が(・)来(・)た(・)ら(・)、全(・)力(・)で(・)、撃(・)ち(・)込(・)む(・)だ(・)け(・)だ(・)と(・)。

 

 

 

続。 

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