東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜   作:赤井せりか

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 Unrequited feelings 〜異聞永夜抄〜 4

 

 

「――このまま月までランデブーと洒落込もうぜ?」

 

 魔理沙のキラキラした笑顔に、アリスは掠れた声を出す。

 

「こ、このまま?」

 

 二人を乗せた箒星は最初の頃の勢いこそはないが、いまだ上昇を続けている。

 

 アリスの問いには答えず、魔理沙は体勢を変える。

 右手で箒を掴み、左手でアリスを抱えていたがーー、その右手を箒から完全に手離した。

 しかしふたりは空に放り出されること無く、上昇を続ける。

 

「よいしょっとーーほれ」

 

 魔理沙が最初に箒に跨り、続いてアリスの腰をぐっと持ち上げる。

 

 あわあわ、と慣れない感覚にアリスは多少体をばたつかせるが、うまいこと魔理沙の後ろに跨ることに成功した。

 そのまま、魔理沙の背中に抱きつくアリス。思いの外その乗り心地は悪くなかった。

 

()()()って案外と自由が利くのね)

 

 考えてみればそうだ、物理的に箒に乗った少女ふたりが発射されたわけではない。魔理沙のスペルカード、つまりは魔法の力によって飛んでいるのだ、輝く魔力の結界で覆われた中心にふたりと箒。風の抵抗や重力といった物理法則など無視している。

 その()()()()だ、さっきのような芸当も可能なのだ。

 恐らく、魔理沙にしがみつかなくともアリスの体は箒から振り落とされて地上へと落下することは無いだろう。ーー無い、とはいえガッシリと魔理沙に抱きつきたくなるのは気分の問題もあるし、なにより()()()()()()()にアリスは何らメリットが無いのだ。

 

(けど、スカートや髪は風にはためくのね)

 

などと変なところに気がついた。考えてみれば不思議なものだ。何ならこの結界内は風の影響などうけないはず。この件を魔理沙に問い詰めてみようか。

 

 そんな事を数瞬の間に考えていたが、それよりも前に最初のアリスの質問に魔理沙は答えた。

 

「このままーー、ああ、言葉通りこのままだぜ」

 

 肩越しにアリスを見つめる真っ直ぐな魔理沙の目。そんな魔理沙の視線にアリスは照れていることを気づかれないように魔理沙の背中目掛けて大袈裟にため息をついた。

 

「ハァ……そんなの可能なの?」

 

「足らない推力はマスタースパークを時間差で発動させる、理論上は可能だぜ?」

 

「理論上って……あなた、何のナニ理論をもってしてそんなことを言ってるのよ?」

 

「んー? ……てへ☆」 

 

 振り向いたままペロッと舌を出す魔理沙にアリスは、

 

(ナニソレかわいいじゃないの!!)

「ナニソレ思いつきじゃないの!!」

 

と、心と口で異なるツッコミを入れた。

 

 フフッと笑う魔理沙にアリスは何度目かの盛大な溜息をつく。

 黒白の少女は真っ直ぐな瞳で天をーー、その先に在る月を見据えた。

 

「まあ……人生なんとかなるもんだぜ?」

 

「なるようにしかならないって言わない?ソレ」

 

 自信満々の魔理沙に対して、呆れ声のアリス。 お互いに食い気味に言葉をぶつけ合う。

 

「為せば成る、だぜ」

 

「成り行き任せよね……」

 

「成る程、うまいこと言うな」

 

「うまいとかまずいの話じゃないでしょ!」

 

「ま、私とアリス、ウマが合うってやつだぜ」

 

「――っ!!?」

 

 アリスの頬がポッ、と紅潮する。

 魔理沙の背中に向かって何言か、モニョモニョと呟くアリス。

 その言葉が聞こえたかどうかはわからないが、口の端をにっ、と釣り上げる魔理沙。

 

「ま、それはそれとして――、それじゃあいっちょ行くか……!」

 

 懐からスペルカードと、ミニ八卦炉を取り出す魔理沙。

 

 次の瞬間。

 

 

 爆発的に推力が増し、二人は文字通り流星のように空を駆け上っていく。

 

 その行く手には分厚い雲の塊があった。

 

「雲に突っ込むぜ!」

 

「うん!」

 

「あれを抜ければ――じきに宇宙だぜ!」

 

「うん!!」

 

(怖くない。魔理沙と一緒なら――)

 

 そうして、二人はぶ厚い雲へと飛び込んだ。

 

 

 

 湖の畔、薄い紅い霧の中にそびえ立つ大きな深紅の洋館があった。

 

 紅魔館。

 

 

 かつて幻想郷が紅い霧に包まれた異変が起きた。

 

 ――紅霧事件。

 

 その黒幕でもある永遠に紅い月、レミリア・スカーレットが棲まう、幻想郷でも数ある有名な場所のひとつでもある

 

 その紅魔館のテラスにある豪華なチェアに腰掛け、同じように豪華なテーブルに肘をついて物憂げな表情を浮かべるひとりの少女がいた。

 

 赤いリボンをあしらった白の強いピンク色のドレスを身に纏い、頭には同じデザインのナイトキャップ。ナイトキャップから覗くのは青みがかった銀髪。

 少女の瞳は――血のように紅い。

 そして躰よりも大きな悪魔の翼。

 

 この少女こそが、レミリア・スカーレットであった。

 

 カチリ。

 

 時計の音。

 

 先程まで何もなかったテーブルの上にティーカップとポットといったアフタヌーン・ティーの一式が現れた。

 

「レミリアお嬢様、紅茶が入りました」

 

 いつからそこに居たのであろうか。音もなく現れた、銀髪のメイドの少女、十六夜咲夜。

 

「ありがとう、咲夜」

 

「恐れ入ります」

 

 アフタヌーン・ティーと言ったら全く時間が見当外れな筈だが、その件に関しては全く触れられる事はない。

 そもそも、このやり取りもすでに数回繰り返されていたのであった。

 

「――全く、夜が永いのは喜ばしい事だけれども。フランはもう寝たのかしら?」

 

「はい。最初はずっと遊んでいられると美鈴と戯れていましたが」

 

 くすくすと笑う、幼きヴァンパイアロード、レミリア・スカーレット。

 

「相変わらずね。ところで――、あら?」

 

 視線の先は夜空の月。それと――、白く尾を引く流れ星。

 

 その魔力反応に憶えがある。黒と白、陰と陽を併せ持つ魔力。

 

(あの娘ね)

 

 レミリアの視線の先、地上から流れる光の筋は雲海へと突入し――、

 

 消えた。

 

 雲の上から飛び出すこともなく、その魔力の痕跡ごと霧散していた。

 

「――成る程ね」

 

 幼きヴァンパイアロードは背中の羽根をバサリと震わせると、視線をテーブルへと落としてカップを手に取る。

 

「成る程、ああ、成る程ね――」

 

 繰り返し独りごちるその声色は、どこか愉快そうな響きがあった。

 

 瀟洒なメイド長の入れた血の色のように真っ赤な紅茶に口をつけ、ひとしきりその香りと味を堪能すると、

 

「ご馳走様、今日も最高だったわ」

 

 冷たく言い放つ。

 しかしメイドは深々と頭を垂れ、

 

「感謝の極みに御座います」

 

と答えた。

 

 それが主からのこれ以上なく最高の賛辞である事を、メイドもまた深く理解をしている。

 そして、主がこれから何をするかもまた、理解をしていた。

 

 カチリ。

 

 時計の音。

 

「出発の準備が整いました」

 

「宜しい」

 

と短い返答。

 

 吸血姫が翼を出しても邪魔にならないデザインの外套がいつの間にか着せられている。

 付き従う咲夜は、いつもと変わらぬ出で立ちであった。

 

 変わらないふたり。それは幾度となく繰り返される日常。

 

 レミリアが悪魔の翼をぴんと広げた。

 

「では、向かうわよ」

 

 何処へ?とは訊かない。主が何処へ行こうとも付き従うのが彼女の役目であるから。

 

「何処となりと――仰せのままに」

 

 恭しく会釈をする最高のメイドの姿を見て、幼きヴァンパイアロードは満足そうに微笑んだ。

 

 

 

続く。

 

 

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