東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜 作:赤井せりか
上白沢慧音が、霧雨魔理沙が、八雲藍が、それぞれが覚悟を決めた中、
(さて―――)
それらを傍観していたレミリアは心のなかで独りごちた。
(
いい加減、眠くなってきた。夜が明けなくなってからというもの、誰も彼もが眠ってなどいない。それはこのレミリアもまた同じであった。
夜が明け、朝が来れば床につく。それは当然の事だ。
ふわあ、と大きく口を開けて欠伸をする。
(実際のところ、なかなかどうしてそれも
背後に控えるメイドの気配が強くなった気がするが無視。どうせきっと『もっとカリスマというものをですね……』と小言を言うに決まっている。
だが、
今となるとあれだけ忌々しかった太陽の陽光が、今では恋しい程ですらある。
―――
レミリアは自ら呆れたように息を吐く。
「恐ろしいな……。偽月の呪い、狂気などこの私には何も無いと思っていたが……」
思わずこぼした言葉に、霧雨魔理沙が振り向く。
「ん? なんか言ったか?」
「いいや―――」
地獄耳め。
レミリアは首を横に背け、何も無かったかのように取り繕いながらヒラヒラと手を振る。
(狂気などこの私には何も影響は無いと思っていたが……少なからず、いうことか)
今まで
霧雨魔理沙やアリス・マーガトロイドたち魔法使いのように狂気耐性持ちであるならば。偽月の光がもたらす狂気に長時間耐える事が可能である。だが、
レミリアは当初、今回の件で可怪しくなるのは人間や弱い妖怪たちだけで、何ならずっと夜が続くなんて最高じゃあないか、などと、
だが、それをもたらしたのが自分ではなく
否、それ以上に気に食わなかったのは―――、
空に浮かぶ月が、
だからレミリアは咲夜を連れて八意永琳を強襲したのだが―――。
(―――だが、
偽月を喚び出したのは確かに蓬莱人どもであったが、夜を止めているのは
突き止めていけば偽月を空に固定し夜を明けない永遠へと仕立てたのは、誰であろう。―――レミリア本人がその一端を担っていると言うではないか。しかも亡霊姫や人形遣いの小娘などと併せてその計画に利用されていようとは。
(この、私が)
奥歯を噛み締める。ギリ、と小さく軋む音。咲夜には聴こえたかも知れない。だが彼女は非常に優れた、出来た従者だ。何も言わずにただ控えて―――、
「―――お嬢様」
「……わかったわかった。歯軋りなど王たる私に品が無いと言いたいのであろう?」
「いえ」
と、首を振る咲夜。てっきりマナーについて小言を言われるかと思ったレミリアは怪訝そうに咲夜を見やった。
「む? 違うのか?」
「いえ、
八意永琳に撃墜されてからのレミリアは、多少のイザコザはあったものの永遠亭でずっと紅茶を啜っているだけだ。もしかして我が主は今回の異変からは離脱してしまったのか。心配そうに、だが、真剣な眼差しで咲夜が見つめてくる。レミリアは小さく息を吐くと、
「―――今の私はそんなに暢気に見えるか?」
そう言って悪戯っぽく笑うと、口の端に吸血姫の証したる牙がチラリと光った。
その表情を見て咲夜は己の問いが如何に愚かであったかを思い知らされた。
「失礼致しました……」
「まあな、確かに最近の私は以前に比べて暢気かも知れないがな。それでも―――、
だがそれは今では無い。
最後は言葉にはしなかった。だが咲夜の表情を見ればわかる。この瀟洒な従者は主であるレミリアの思惑を、完璧に理解していると。
咲夜はそれ以上何も言わずに一礼すると、レミリアに新たな紅茶を注いだ。
レミリアもまたそれ以上何も言わずにカップに口を付ける。
(役者が揃いつつある。舞台もまた―――整いつつある、な)
真なる月からの逃亡姫、その共犯者たち。人形遣いと蓬莱人形、深淵の賢者。
そして、変わることなく空に揺蕩う、歪んだ偽りの満月。
「―――」
夜の支配者たるレミリア・スカーレットは奇妙な点に気付いた。―――否、気付いていた。
レミリアと咲夜が八意永琳と戦い、そして撃墜された時。
レミリアが、亡霊姫が、人形遣いが、そして八雲の女狐が、それぞれが永夜を願い、その願いから八雲の女狐が永夜を創り出したこの異変。その一端であるレミリアが撃墜された事で永夜が崩れ始めたのは確かだった。
しかし今、空にある偽月は全く傾いてはいなかった。
傾いたことすら、皆忘れているかも知れない。それを認識しているのがレミリアだけかも知れない。
まあ仮にそれがレミリアの勘違いだったとして。
そこから、蓬莱山輝夜が八雲の女狐の絡繰を見抜き、それぞれから月の欠片を回収して永夜を終わらせようとしていることは間違いなく確かだ。
そこに何もおかしいところはない。
全ては異変の解決に向かっている筈。
だが今はどうだ、相変わらず夜は明けないし、偽月も傾くことはない。
そこがレミリアが気に入らない点だった。
蓬莱山輝夜は
レミリアは確信していた。
―――八雲紫はまだ何か隠している。
だとしたら。
「咲夜」
「はい、お嬢様」
「美鈴に伝えておけ。フランを起こせ、と」
◇
―――空の上はすっかりと風が強くなっている。
はためく髪とスカートを押さえながら、蓬莱山輝夜は全てを見下ろしていた。否、見極めようとしていた。
レミリア・スカーレットの予想通り、輝夜もまた八雲紫が何かを隠していることまでは分かっていたが、それが何なのかまでは見抜けていなかった。
『夜を終わらせるわよ』
何度、この言葉を口にしただろうか。
―――実際のところ、月の欠片が揃わずともそれは彼女にとって容易いことだった。
たとえ八雲紫が策を弄すとも、その能力をもってすれば。
―――だが本当にそれで良いのか?
『夜を終わらせる』
そう口にする度に輝夜の中に芽生えた違和感は大きくなっていく。
―――もし、
それすらも八雲紫の策のうちであったならば―――?
だとしたら、その先に起こる事態に輝夜は確信を持つことが出来ていない。出来ていないのだが―――、
しかし彼女の勘は告げていた。
果たしてそれは―――、
あの偽月を永く空に留めておく事による狂気の降積と、
あの偽月を永き夜ととともに地平の果てへと没する事により起きるかも知れぬ
(どうする……どうしたらいいの、永琳―――)
いつもなら助言をくれる八意永琳も、今は八雲紫と対峙していてとても話しかけられる雰囲気ではないのは明らかだ。
もし声などかけようものなら、
そうなったら、今の拮抗した状況が一気にひっくり返されてしまうかも知れない。
(それは出来ない……)
小さく奥歯を噛む輝夜。
その時だった。
輝夜の直下、
もうひとつの拮抗した場。
アリスと妹紅の弾幕ごっこに、動きが――――。
続。