東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜 作:赤井せりか
「アリス、お前、意外と面白い奴なんだな」
笑顔とともに口をついて出たその言葉は、藤原妹紅の本音であり、彼女なりの最高の賛辞でもあった。
藤原妹紅はアリスを見つめる。
はじめはちっぽけな人形遣いだと思っていた。己の覚悟すら決め切れない、
あのまま戦っていたならば、だったろうか―――。
「あのままだったら、或いは―――」
呟き、頭を振る藤原妹紅。
仮定ではあるが、
しかもだ。そんな戦況だったにも関わらず、そのせっかくのパワーアップを解除したじゃあないか。
全く意味がわかんねぇ。
そんな意味不明な状態で、永き時を揺蕩ってきたこの私に、この目の前のアリス・マーガトロイドは、真っ向から意見し、全力でぶつかってきたのだ。
全力でぶつかられ、見透かされ―――、藤原妹紅はすっかり言い負かされてしまっていた。認めていた。気に入っていた。
今や藤原妹紅にとってアリス・マーガトロイドは
しかし今は弾幕ごっこの最中。
認めた相手だからこそ。
気に入った相手だからこそ。
全力で立ち向かわなければならない。
そうなるとここから先は今までのように単なる霊力や魔力の勝負では終わらない。これは、そう、弾幕ごっこなのだ。
より気持ちの強いほうが、勝つ。
藤原妹紅はそう感じていた。
だから―――。
◇
「―――さて、随分と長く話し込んだな」
夜風に暴れる白髪を押さえながら藤原妹紅は口の端を上げた。
その表情には敵意は感じられない。
アリスもまたすっかりとまるで藤原妹紅が長年の知り合いのような気になっていて、
「……そうね。いつもだったらとっくに月が傾いていたでしょうね」
そう軽口を返していた。
そんな反応が藤原妹紅も何故だが嬉しくて、
「違いない。だが今夜は特別な夜だぜ」
呟き、空を見上げた。
夜空には星々と、いつまでもそこにある偽月、そして―――、此方を見下ろしてくる蓬莱山輝夜の姿があった。
先程までは狂おしいばかりの憎悪に駆られていたが、不思議と今は落ち着いている。
今の相手はアリス・マーガトロイドだ。ただの人形遣いではない。今まで藤原妹紅が出会ってきた魔法使いの中でも特別に格別な、
きっとアリスもまた自分と同じくこの弾幕ごっこに高揚していることだろう。ああ、高揚していない筈はない。だってこんなにも楽しい、心弾む弾幕ごっこなのだから!
しかし。
藤原妹紅の想いとは裏腹に、
「―――
驚いた。
あろうことかこの
飲まれていないのだ、今回のこの異変に。
誰も彼もが可怪しくなっている、この狂った夜に。
可笑しいまでに馬鹿馬鹿しい、偽りの永遠に。
ますますもって気に入った。
この瞬間、
それは―――、
―――藤原妹紅の心境の
己の異変に気付かないまま、藤原妹紅は言葉を続ける。
「フフ、面白いやつだ。面白い上に強いと来た。アリス、お前と出会えただけでもこの夜に価値があったというものだよ」
「……そりゃどーも。やめてよね? 夜ごと弾幕ごっこを仕掛けてくるのは」
「はは、私はそんなに戦闘狂ではないさ。これでも平和と静謐を愛するか弱い少女なんだぞ?」
そう言って藤原妹紅がポケットから取り出したのは―――、煙草ではなくスペルカードだった。
アリスもまた警戒をしながら周囲に複数体の人形を召喚する。先程までは
藤原妹紅の炎気が弱まった? 違う。 アリスの覚悟が藤原妹紅の
弾幕ごっこの再開、否、ここからが弾幕ごっこのはじまりなのだ。
ただ惜しむらくは、八雲紫がここにいること―――。
◇
スペルカードを展開し、白髪炎翼の少女が嗤う。
「楽しい夜だった。そして」
藤原妹紅の背負う炎翼が一際燃え上がり、大きくはばたいてみせた
「こいつで終いだ」
燃え上がり輝くスペルカード。
「ここまで見せるのは―――、いつぐらいぶりだろうか」
ただ一言。
厳かに。
「 蓬莱人形 」
◇
「―――蓬莱人形!?」
告げられたスペルカードに思わず驚きの声を上げ、アリスは周囲に配置した人形に視線を向ける。
―――それは偶然。
藤原妹紅が放つスペルカードの名と、アリスが操る人形の名と、そのふたつが同じ呼名であったことはただの偶然だった。
しかし。
「なるほどね―――」
アリスは独り言ちる。
「―――私と
発動する藤原妹紅のスペルカード『蓬莱人形』。
アリスを囲むように円形の魔法陣が展開し、その枠外に赤と青の弾幕が配置される。
魔法陣が高速回転すると同時に、赤と青の弾幕は互いに交差するように、ゆるやかに回転するように、アリスを包むように飛来する。
「―――案外と、運命だったのかも知れないわね」
断続的に襲いかかる弾幕は予想よりも穏やかで拍子抜けするほど―――、などと感じたのは僅かの間。
右へ左へ、前へ後ろへ。
アリスは宙を刻むように細かくステップする。
弾幕を躱しながら、或いは人形たちで相殺しながら。アリスは冷静に周囲を伺い、状況を分析する。
「―――弾幕の密度が上がっているわね」
それだけではない。
回転する円形の魔法陣が、徐々にその範囲を狭めている事に気付く。
同時に、魔法陣の範囲が狭まる程に、周囲に配置される藤原妹紅の魔力が、赤と青の霊撃弾となってアリスの逃げ道を塞いでいく。
時間が経てば経つほど、追い込まれていく事にアリスは若干の焦りを覚えた。
「躱しているだけでは埒が明かないわね」
更に、藤原妹紅から熱線が放たれる。幸いスピードは然程速くはないので熱線を躱すこと自体は難しくない。しかし、襲い来る二重の弾幕と熱線を躱した先にある配置された赤と青の霊撃弾が、アリスの行動範囲を大きく阻害するのだ。
今まで以上に細かくステップを踏むアリス。
藤原妹紅が放つ弾幕が、髪を、スカートを、チリチリと焦がす。
しかし。
どれだけ密度が濃くなろうと、弾幕がアリスを捉えることは無かった。
◇
上空から弾幕ごっこを見守る蓬莱山輝夜は息を呑み、目を見張った。
藤原妹紅の『蓬莱人形』は彼女自身、過去に味わった事がある。が、その時の自分はここまで完璧に弾幕を見切っていて躱していただろうか?
否。
確かに躱しはしたが、それも
『蓬莱人形』と同等かそれ以上の火力を以てして、弾幕を破っている。
しかし今のアリスはどうだ。
襲い来る弾幕の全てを、踊るように見切っているではないか。
蓬莱山輝夜は己の頬を流れる汗に気付いた。
「―――神懸っているわ」
果たしてアリスと対峙しているのが自分だったとしたら。
「ああ、なんと―――」
その言葉の続きを、蓬莱山輝夜は飲み込む。
その想像の続きは、この夜には永遠に訪れない。
ああ、それは叶わぬ夢。
永遠を、全てを手に入れた筈の月の姫が。
この偽りの永夜に今、届かぬ夢を見ていた。
続。