東方二次SS ふたつのいろ Lyric restriction 〜永〜 作:赤井せりか
―――レミリア・スカーレットの座している永遠亭の庭園から遥か上空、偽りの月の下。
藤原妹紅の発動させたスペルカード『蓬莱人形』の弾幕を、軽やかなステップで避け続ける
レミリア・スカーレットはその弾幕ごっこを遠見の能力で視ながら眉を顰めた。
……
これが
あのまま弾幕ごっこを続けていれば。その力を放棄せずにあのまま弾幕ごっこを続けていれば、勝ちの目は確実にあったはずだ。
それなのに。
―――
遠見の能力―――、全方位から襲い来る
その状況を、パッと視ただけでも理解る。
面白くない話だが、
『
空上で繰り広げられている弾幕ごっこは、同じように空を見上げる
これが
古の魔の力など無くても、
レミリア・スカーレットは思案する。
元々、
だからこそ。
弾幕ごっこの強さとはそれだけではないと、
いや、待てよ?
五分割? 七分割?
顎に手を当てるレミリア・スカーレット。
そんな姿を、
「何か勘付いた顔をしているな。レミリア・スカーレット」
いつの間にかこちらを悪戯っぽい笑顔で魔理沙が見ていた。
「アイツは強い。私の言った通りだろ?」
にひひ、と笑う黒白の魔女。―――まるでこの私が見透かされてるかのようでまったく癇に障ることこの上ない。
腕を組み、椅子の背にもたれるレミリア・スカーレット。
「……フン。結局はあの人形遣いが小物と言うことではないか」
「お前なぁ……もう少し言い方ってものがあるだろう?」
「下らない。ただ単に力の使い方が……器用過ぎるだけの話。所謂、器用貧乏ということよ」
「まあ、そういうことなんだよな」
夜空を見上げる魔理沙。
「アリスの魔力量は決して少なくない。魔力容量も決して小さくない。それなのに弾幕ごっこでアイツはいつも勝てない。アイツが実力相応の結果を出せてないのは―――」
「常に魔力を七つに分散して戦っている、ということだな」
レミリア・スカーレットの言葉にちょっと困ったように笑う霧雨魔理沙。
「そう。分散させて分割してコントロールしている魔力を、そのまま出力している。つまりはそういうことなんだよな。それはアリスの矜持というか癖というかみたいなもんなのかな」
頭の後ろで両手を組んで、魔理沙は笑う。
「私がそれをどうこういう筋合じゃあないんだけどな。けれども、
魔導書をアリスへと返した。あれは、
「だが、あの人形遣いはその力を放棄したではないか?」
「そりゃそうさ。昔は昔、今は今だぜ。
言ったろ? アリスは
「何を言っているかサッパリだ、力を放棄することをわかっていて魔導書を返した? 全くの無意味、行動が矛盾していないか?」
「いいや? 決して矛盾などしていないんだぜ?」
言って、ニヤリと笑う魔理沙。
「―――私はアリスのように器用じゃあないからな、アリスみたいに七つもの系統の魔力を同時に操作なんかしないし、出来ないんだぜ」
「急に何を言っている? 私だって多色の魔力を勿論使う事が出来るが、同時に全ての系統を―――」
「そこなんだぜ。アリスはそれを無意識にやってしまう。すると1系統あたりの出力が制限される。―――じゃあ何故幼女化したアリスの火力が高かったか。魔導書の底上げも確かにある。分割数が減ったから、それもある。けれども最も大きな要因は、
「……」
「癖か矜持かは知らないが、無意識に抑えているアリスの本気を―――、思い出させてやっただけ、だぜ」
「ちょっと待て。それならば」
レミリア・スカーレットは馬鹿馬鹿しい、といった風に息を吐くと、
「今の
「ああ、そういうことになるな」
「今まで、
「手を抜いてるって言い方はどうかと思うけど……、まあ、見る奴が見ればそう感じるかもな」
「―――」
「けどまあ……」
言って空を見上げる魔理沙。レミリア・スカーレットも釣られて視線を上げる。
「……アリスは今、どう感じているのかな。今の力がただ単に
◇
◇
―――神懸っている。蓬莱山輝夜にそう思わしめる程に、アリスの動きは完全に藤原妹紅の弾幕を見切っていた。
その集中は限界を突破―――否、集中だけではない。それは極限まで高められた魔力と研ぎ澄まされた精神と、そして―――、死を覚悟した精神のなせる業。
アリスの動きを遠目から見ていた八雲紫もまた、
(これはちょっと驚きね)
と、内心声を上げた。
そんな八雲紫を、矢を番えた体勢のまま八意永琳が訝しげに睨む。
「―――あれ
直接見ずとも解る。アリスのパワーアップ、それと今は元に戻ったはずのアリスの動きが尋常なものでは無い。
だが、
「いいえ―――」
「
口元に薄ら笑いを浮かべたまま。
その表情を見やり、八意永琳は思案げに唇を噛んだ。そうして再び口を開くと、
「―――あれ
と、言って小さく嘆息した。
「ならば」
言葉を続ける。
「
「あらぁ?」
八意永琳の問いに、八雲紫は胸を押さえたまま小首を傾げた。
「
口の端を歪める。
それは邪悪な笑み。
それは人を小馬鹿にしたような嘲笑い。
必殺の矢を胸に受け、次の一矢をまさに撃ち込まれんとしているこの期に及んで八雲紫は嗤った。
「―――でも答えてあげちゃう。だって
すうっと目を細める八雲紫。
「私が―――、何を企んでいるかを、ね」
◇
藤原妹紅もまたアリスの動きに内心で称賛の声を上げていた。
―――はじめは、自分の足元にも及ばない、人形遣いなどという小手先の業を使うつまらない存在だと思っていた。
本気を出すまでもない。ほんの僅かに力を出して脅かせば、いつものようにすぐに私の前から逃げ出す。そうやってきた。
しかし、途中から話が変わった。
アリスが幼女の姿に変身した途端、話が変わった。
自分に比肩しうる霊力、魔力、そして―――
なのに、だ。
何故かは知らないがその変身を解いた。
諦めたのかと思った。いつものように、アリスもまた私の前から消える。そう思った。
だが、アリスは違った。
今度は、
弾幕でもスペルカードでもない、シンプルな言葉で。
今で永い時を過ごしてきて、こんな事があっただろうか?
この私と正面から向き合った存在は数知れない。同じように不死である蓬莱山輝夜ともうひとり。
「慧音……」
ポツリその名を呼ぶ。藤原妹紅を心配し、永遠亭へと単身乗り込み、偽物とはいえ八雲紫へとその刃を向けた上白沢慧音の名を。
―――彼女の心配そうな表情がチラと脳裏を掠めるが、すぐにそれを頭から追いやる。
そんな半端な事をしていては、目の前の偉大な魔法使いに対して失礼である。
集中しろ。
相手の反応に、相手の動きに。
今はまだ避け続けているだけのアリスだが、コイツは必ず―――、反撃してくるはずだ。
そう考えると自然と口角が上がる。
かつてない強敵に興奮の炎が燃え上がる。
しかし藤原妹紅はその炎に自らを焼かれないよう、努めて冷静さを呼び起こす。
舞うように『蓬莱人形』を避け続けるアリスを視界に捉え、弾幕のコントロールを一層強めた。
◇
(不思議―――、まるで全てがスローモーションに見えるわ)
アリスを囲む弾幕の結界は、徐々に密度を増していく。
初見で避ける事など不可能に近い弾幕は、しかし、というか、やはり、というか。アリスを捉える事は無かった。
或いは避け、或いはやり過ごす。それを細かく繰り返すアリス。
自分を狙う弾と、自分を狙っていない弾。
どれだけ複雑な弾幕に見えても、弾幕の理とはつまるところそのふたつに帰結する。
だから、自分を狙う弾は避け、狙っていない弾はそのままやり過ごす、それの連続。言ってしまえば極めて単純なのである。
単純とはいえ、だ。
理を言葉にするのは簡単だが、それを実際に実行するのはまた別の話である。別の話であるはずなのだが―――、
(当たる気がしない)
アリスは
(―――躱せるのならば)
藤原妹紅の最大のスペルカードを躱せるのならば。
反撃に撃って出るのは、今だ。
続。